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ブラック&ホワイト  作者: 芋太郎
第1章:虚実編
55/80

第55話:狂人

*不定期更新です。基本13時に更新してます。

 巡回の最中、大きな銃声が下の階から聞こえた。


 とうとう来たらしい。後手に回るのは不快だけど、仕方ないことだ。


 程なくして、虚からメッセージが届いた。案の定、襲撃が来たと。


 奴らはバラけて行動している。そこから推察するに、病室がどこにあるかはわかっていないようだ。


 大斗くんの病室は、隠していない。なるべく見つけにくい、隔離されたエリアではあるけど、立ち入ることはできる。それに、隔離する扉の鍵は空いてる。今から締めに行かないといけない。


 数人の信用できる看護師と、院長、そして私たちしか病室の在処はわかっていない。見つかるまでは時間がかるだろう。


 それを想定して、数でゴリ押しているのだろう。厄介だ。


 この病院は大病院と言っても、そこまで大きくない。全部で4階しかない。比較的大きいというだけだ。


 時間がかかるとはいえ、もって数十分。


 早く戻らないと。巡回中のサンドラさんも、急いでいるだろう。


 急いで走る。そしてその足は、すぐに止まった。


「全員死ね!!!」


 マシンガンを発砲する半グレ。半グレ2人に、正規が1人。民間人を惨殺している。


 幸い、私には気づいていない。ただ、急がないと。


「何やってるんだよ...!」


 遠目から銃を3発、きっちり脳天に当てた。奴らは当然動かなくなった。


「大丈夫ですか!?」


 近寄る。そこには、10余人程固まって集められていた。いや、もっといる。30はいるだろう。しかし、みんな死んでいた。


「なんでこんなこと!?」


 怒りの感情が湧き出る。が、それを首を振ることで振り落とした。


 違う。わかってる。あいつらはこういうことを平気でやる組織。だから私たちは戦ってるんだ。激情に身を任せるな。


 そうやって憎悪で頭の中を満たすから、あの時みたいになるんだ。


 あの時、虚に言った失言。ずっと心残りで、謝りたいこと。言ってはいけないことを言った。あの時は、ただ激情に任せてしまったばっかりに、虚を傷つけた。


 憎悪を抱いているのは私だけじゃない。着いて来てくれるのが何よりの証拠だ。


 もっと冷静になれ。


「冷静に...」


「冷静に、何ですか?」


 その声を聞いた瞬間、全身の毛が逆立つような感覚を覚えた。


 妙に柔和で優しく、そして不気味な声。


「五十嵐...!」


 睨みつけると、奴は微笑みながらロングナイフを抜いた。


「そんなに睨まないでくださいよ。冷静に、じゃないんですか?」


 腹が立つけど、こいつの言う通りだ。危ない。さっき自分で言ったじゃないか。


「朝霧さんに重傷を与え、仲間を傷つけ、挙句実さんを操り人形にした私が憎いのはわかりますが、冷静にしないと過ちを犯しますよ...?」


「!」


 落ち着け、乗るな。こいつらはこういう奴らだ。どんな手を使ってでも勝ちにくるような奴らだ。きっと、私を怒らせて判断を鈍らせようとしているんだろう。


「なんとでも言えば良い。ただ、その煽り文句、いつまで続くかな...!」


 踏み込む。


 ここは大斗くんの病室に程近い。それに、後方には民間人がいる。こいつだけは行かせてはならない。ここで殺す...!


「ふふ。早いですが、何度も戦っているので、そろそろ慣れてきましたよ」


 口だけじゃなさそうだ。本当に受けきってくる。それに、都度反撃もしてきている。


 厄介極まりない。


 でも、そんなので私にしてやったと思わないでほしい。


 それくらいで私は越えられない...!


 ナイフによる攻撃を避け続けるなら!


「これは避けられる?」


 ナイフを振った後、銃を直ぐ様に撃った。


 その銃弾は五十嵐の脇腹を抉る。


 ナイフで攻防を繰り広げる程の距離感での発砲。どんなに反応が良くても避けられない。


「やりますね。流石に強い。ですが、まだまだです」


 そう言うと、再びレンジを詰めてくる。痛みを恐怖として感じていないから、致命傷を与えないと動きが止まらない。もはやゾンビだ。


 しかも。


「早い!?」


 前よりも格段にスピードとパワーが増している。


「はははは!私だってただ死ぬわけにはいかないのです!神に選ばれるためには、慢心せず、修行を積み重ねることも大切!神のために!私はあなたと戦って経験して!そして!強くなったんですよ!!!」


「グッ!?」


 こんな短期間でこんなに強くなったの!?


 でも、まだ私だってやれる...!


 ナイフを硬く持ち直し、再び攻めの姿勢に入る。


「ふふふふ!楽しいですね!今回は本当に神に選ばれるものが決まるかも知れませんよ!」


 ロングナイフを顔面めがけて横なぎする。それを私はナイフで防ぐと、そのまま体を前進させた。素早く、低く、そして静かに。


「それは私だよ」


「あら...?」


 遅い。気づいた時には、既に背後にいる。手遅れだ。


「死んで」


 ゲームで言うと、バックスタブのように、すれ違いざまにナイフを背中に打ち込んだ。


 深く刺さった。これは致命傷だ。


 五十嵐は血を吐いて、倒れようとした。


 しかし、奴はそれでも尚、微笑んでいた。


「死んじゃいますよ!これじゃあ私が死んじゃいます!ははは!死にますよ!」


「なっ!?」


 奴は倒れなかった。それどころか、ナイフを持っている私の腕をがっしりと掴んで、振り返ったのだ。


「嘘!?もう動けないはず...!」


「嘘かどうか、確かめてみますか?」


 私を掴む手とは逆の手で何かを構えている。


 拳銃。これはまずい!!!


 避けられないし、手も解けない。なら、絶命させるか銃を落とさせるしかない...!


 私もすぐさま、左手の拳銃を構えた。


「私が神に選ばれます...!」


「間に合え...!」


 2発分の銃声が鳴り響く。


 結果は相打ち。

 どちらも大きく後退し、跪いた。


「グッ...ハァッッ!!!」


 口から激しく血が噴き出る。

 それは向かいの五十嵐も同じ。


 これは...。撃たれた場所は右胸。こっちが撃ったのは背中の左側。


 どちらも肺をやられた。


 初めてだ。こんな怪我を負ったのは、生まれて初めてだ。


 そして、死が近づいてくる恐怖感を知ったのも、初めてだ。


「ガハッッ!!!」


「ふ...ゲホッ...ふふ、まだ戦えますよ...?」


 私だってまだ戦える。戦わないといけない。


 銃を構えてトリガーに指をかける。しかし、相手はふらふらなのに、照準が定まらない。


「くっ!」


 私は銃を捨て、ナイフを構えた。


「やはり...あなたは狂人だ」


「!」


 あの日の言葉が脳に反響する。


「人のために...命を賭す。または...グッ...自分の信念のために命を賭す。邪魔者は誰でも殺すし、明確な敵であると判断すれば......冷静に躊躇なく殺す」


「な、にが...言いたい...!」


「おかしいですよ...そんなので、人を平気で殺すなんて.......狂ってるとしか言えません。あなたも、あなたのお父さんも」


「......!」


 怒りと憎悪が頭に満ちる。狂ってるわけない...!お父さんが...狂ってるだなんて言わせない...!


「そうやって怒るということは...図星ですね?因みに、怒りと憎悪に身を...任せて...無感情で人を殺しに行くところも、狂ってますよ?」


 その時、私は理解した。


 何かを超えた先、憎悪のその向こうにあるもの。深い負の感情が生んだ産物。


「ハアアアアアアアアアア!!!」


 力を振り絞って前に出る。


 胸からも口からも血が噴き出る。


 私はこの瞬間、こいつの気持ちを理解したのだ。


 深い負の感情を乗り越えた先には、恐怖が無いんだ。死への恐怖も痛みへの恐怖も無い。


 そしてそれは感覚を鈍らせ、今みたいに痛みすら消す。


 今の私は、狂人だ。


*面白いと思ったら、高評価していってくれると嬉しいです。

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