第55話:狂人
*不定期更新です。基本13時に更新してます。
巡回の最中、大きな銃声が下の階から聞こえた。
とうとう来たらしい。後手に回るのは不快だけど、仕方ないことだ。
程なくして、虚からメッセージが届いた。案の定、襲撃が来たと。
奴らはバラけて行動している。そこから推察するに、病室がどこにあるかはわかっていないようだ。
大斗くんの病室は、隠していない。なるべく見つけにくい、隔離されたエリアではあるけど、立ち入ることはできる。それに、隔離する扉の鍵は空いてる。今から締めに行かないといけない。
数人の信用できる看護師と、院長、そして私たちしか病室の在処はわかっていない。見つかるまでは時間がかるだろう。
それを想定して、数でゴリ押しているのだろう。厄介だ。
この病院は大病院と言っても、そこまで大きくない。全部で4階しかない。比較的大きいというだけだ。
時間がかかるとはいえ、もって数十分。
早く戻らないと。巡回中のサンドラさんも、急いでいるだろう。
急いで走る。そしてその足は、すぐに止まった。
「全員死ね!!!」
マシンガンを発砲する半グレ。半グレ2人に、正規が1人。民間人を惨殺している。
幸い、私には気づいていない。ただ、急がないと。
「何やってるんだよ...!」
遠目から銃を3発、きっちり脳天に当てた。奴らは当然動かなくなった。
「大丈夫ですか!?」
近寄る。そこには、10余人程固まって集められていた。いや、もっといる。30はいるだろう。しかし、みんな死んでいた。
「なんでこんなこと!?」
怒りの感情が湧き出る。が、それを首を振ることで振り落とした。
違う。わかってる。あいつらはこういうことを平気でやる組織。だから私たちは戦ってるんだ。激情に身を任せるな。
そうやって憎悪で頭の中を満たすから、あの時みたいになるんだ。
あの時、虚に言った失言。ずっと心残りで、謝りたいこと。言ってはいけないことを言った。あの時は、ただ激情に任せてしまったばっかりに、虚を傷つけた。
憎悪を抱いているのは私だけじゃない。着いて来てくれるのが何よりの証拠だ。
もっと冷静になれ。
「冷静に...」
「冷静に、何ですか?」
その声を聞いた瞬間、全身の毛が逆立つような感覚を覚えた。
妙に柔和で優しく、そして不気味な声。
「五十嵐...!」
睨みつけると、奴は微笑みながらロングナイフを抜いた。
「そんなに睨まないでくださいよ。冷静に、じゃないんですか?」
腹が立つけど、こいつの言う通りだ。危ない。さっき自分で言ったじゃないか。
「朝霧さんに重傷を与え、仲間を傷つけ、挙句実さんを操り人形にした私が憎いのはわかりますが、冷静にしないと過ちを犯しますよ...?」
「!」
落ち着け、乗るな。こいつらはこういう奴らだ。どんな手を使ってでも勝ちにくるような奴らだ。きっと、私を怒らせて判断を鈍らせようとしているんだろう。
「なんとでも言えば良い。ただ、その煽り文句、いつまで続くかな...!」
踏み込む。
ここは大斗くんの病室に程近い。それに、後方には民間人がいる。こいつだけは行かせてはならない。ここで殺す...!
「ふふ。早いですが、何度も戦っているので、そろそろ慣れてきましたよ」
口だけじゃなさそうだ。本当に受けきってくる。それに、都度反撃もしてきている。
厄介極まりない。
でも、そんなので私にしてやったと思わないでほしい。
それくらいで私は越えられない...!
ナイフによる攻撃を避け続けるなら!
「これは避けられる?」
ナイフを振った後、銃を直ぐ様に撃った。
その銃弾は五十嵐の脇腹を抉る。
ナイフで攻防を繰り広げる程の距離感での発砲。どんなに反応が良くても避けられない。
「やりますね。流石に強い。ですが、まだまだです」
そう言うと、再びレンジを詰めてくる。痛みを恐怖として感じていないから、致命傷を与えないと動きが止まらない。もはやゾンビだ。
しかも。
「早い!?」
前よりも格段にスピードとパワーが増している。
「はははは!私だってただ死ぬわけにはいかないのです!神に選ばれるためには、慢心せず、修行を積み重ねることも大切!神のために!私はあなたと戦って経験して!そして!強くなったんですよ!!!」
「グッ!?」
こんな短期間でこんなに強くなったの!?
でも、まだ私だってやれる...!
ナイフを硬く持ち直し、再び攻めの姿勢に入る。
「ふふふふ!楽しいですね!今回は本当に神に選ばれるものが決まるかも知れませんよ!」
ロングナイフを顔面めがけて横なぎする。それを私はナイフで防ぐと、そのまま体を前進させた。素早く、低く、そして静かに。
「それは私だよ」
「あら...?」
遅い。気づいた時には、既に背後にいる。手遅れだ。
「死んで」
ゲームで言うと、バックスタブのように、すれ違いざまにナイフを背中に打ち込んだ。
深く刺さった。これは致命傷だ。
五十嵐は血を吐いて、倒れようとした。
しかし、奴はそれでも尚、微笑んでいた。
「死んじゃいますよ!これじゃあ私が死んじゃいます!ははは!死にますよ!」
「なっ!?」
奴は倒れなかった。それどころか、ナイフを持っている私の腕をがっしりと掴んで、振り返ったのだ。
「嘘!?もう動けないはず...!」
「嘘かどうか、確かめてみますか?」
私を掴む手とは逆の手で何かを構えている。
拳銃。これはまずい!!!
避けられないし、手も解けない。なら、絶命させるか銃を落とさせるしかない...!
私もすぐさま、左手の拳銃を構えた。
「私が神に選ばれます...!」
「間に合え...!」
2発分の銃声が鳴り響く。
結果は相打ち。
どちらも大きく後退し、跪いた。
「グッ...ハァッッ!!!」
口から激しく血が噴き出る。
それは向かいの五十嵐も同じ。
これは...。撃たれた場所は右胸。こっちが撃ったのは背中の左側。
どちらも肺をやられた。
初めてだ。こんな怪我を負ったのは、生まれて初めてだ。
そして、死が近づいてくる恐怖感を知ったのも、初めてだ。
「ガハッッ!!!」
「ふ...ゲホッ...ふふ、まだ戦えますよ...?」
私だってまだ戦える。戦わないといけない。
銃を構えてトリガーに指をかける。しかし、相手はふらふらなのに、照準が定まらない。
「くっ!」
私は銃を捨て、ナイフを構えた。
「やはり...あなたは狂人だ」
「!」
あの日の言葉が脳に反響する。
「人のために...命を賭す。または...グッ...自分の信念のために命を賭す。邪魔者は誰でも殺すし、明確な敵であると判断すれば......冷静に躊躇なく殺す」
「な、にが...言いたい...!」
「おかしいですよ...そんなので、人を平気で殺すなんて.......狂ってるとしか言えません。あなたも、あなたのお父さんも」
「......!」
怒りと憎悪が頭に満ちる。狂ってるわけない...!お父さんが...狂ってるだなんて言わせない...!
「そうやって怒るということは...図星ですね?因みに、怒りと憎悪に身を...任せて...無感情で人を殺しに行くところも、狂ってますよ?」
その時、私は理解した。
何かを超えた先、憎悪のその向こうにあるもの。深い負の感情が生んだ産物。
「ハアアアアアアアアアア!!!」
力を振り絞って前に出る。
胸からも口からも血が噴き出る。
私はこの瞬間、こいつの気持ちを理解したのだ。
深い負の感情を乗り越えた先には、恐怖が無いんだ。死への恐怖も痛みへの恐怖も無い。
そしてそれは感覚を鈍らせ、今みたいに痛みすら消す。
今の私は、狂人だ。
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