第54話:虚虚実実
*不定期更新です。基本13時に更新してます。
美月とサンドラさん以外は皆、待合室に集まっていた。その後の一之瀬組の顛末と、その他外界の情報を知るためだ。2人は、大斗の居る3階を巡回している。
「いったぁ...」
胸をさする。
あれから1週間くらい傷は痛んだ。実との戦いで受けた傷はあまり深くなく、後に引きずるようなものではなかった。
しかし、折れた肋骨にまたヒビが入ってしまったらしい。
更には、こっぴどく怒られた。当たり前の話だ。
結果的に私がやったことは美月には伝わっていない。ただ、他のみんなには伝わった。GPSの存在もちゃんと話した。
当然責められた。これも当たり前の話だ。
それからGPSを使って何とか対応しようという話になったが、あの夜の後、GPSの反応は無くなった。概ね気づかれたんだと思う。
その後は2人が退院した。しかし、以前として大斗は起きないし、同じ病院に入院している火花も起きない。
まだ護衛はする必要があった。
そして、今に至る。
未だに私と美月との間に確執は存在しており、想いも互いに変わっていない。
そんな時だった。
ニュースで速報が流れた。
「お、おい、これ」
裕樹が待合室にあるテレビを指した。
そこに私と日暮は目を合わせる。
そこには俯瞰から見た爆発の現場が映されていた。これは富岡町だ。
そして、続け様に富岡町、新古町で爆発事件が起きたと報道がされていた。
「これって...」
「連続爆破テロ...。同時多発的に行われている」
そしてその瞬間、入り口から何人もの人が流れ込んできた。
その中には、見覚えのある人物がいた。
「う、嘘...」
戦慄の声が漏れる。
その瞬間、大きな音が聞こえた。
「まずい」
日暮は焦った様子でそう言った。
銃声だ。中に入ってきた20人以上いる人物の誰かが、実弾を放った。
何が起きたのか理解した誰かが悲鳴をあげる。それに輪唱するかのように、悲鳴が辺り一帯に響き渡った。
逃げ惑う人々の波が襲いかかる。
「朝霧大斗を引き渡してもらいます。要求を飲まなければ、ここにいる全員を皆殺しにします」
前に出てそう言ったのは、見覚えのある女だった。
五十嵐...!
五十嵐だけじゃない。奴らの中には、見覚えのある人間もいた。後は、半分が半グレで、半分が正規のメンバーだろう。そして、その見覚えのある人物の中には、実もいる。
「あら、美月さんは居ないのですね」
そう言うと、微笑みながら、五十嵐は一歩一歩と距離を縮める。
「お前...!大斗は渡さない!」
日暮が前に出て、怒声を上げた。
「良いんですか?今回は私たちもキチンと戦力を整えて来ました。さっき言ったことは冗談じゃないんですよ?」
「だとしても...!」
「そうですか、では」
パンと大きな音が鳴った瞬間、弾丸が後ろへ飛んでいった。そしてそれは、1人の女の人に当たった。
「だ、大丈夫ですか!?」
裕樹が駆け寄る。
胸から血を流してる。当たりどころが悪い。いや、違う。わざと狙ったんだ。
「五十嵐ッ!!!」
日暮も即座に銃を撃ち返すが、五十嵐はそれをやすやすとかわした。
「あなたの銃弾は素直でわかりやすいですね。で、今ので分かったと思いますが、私たちは市民を平気で殺傷します。朝霧大斗を渡さないということは、市民が何人も死ぬということ。わかりますね?」
近くで怯えるナースに目線を送った。怯え切っている。
「院長さんに伝えといて下さいね」
それを聞いたナースは怯えたまま何処かへ去った。
どこまで鬼畜なのか。市民を平気で人質に取るなんて...!
「そういうわけなので、あなた達も何処かへ去ってもらえれば良いのですが」
「通さない!!!」
「はあ、では仕方ないですね」
五十嵐が手を上げる。それと同時に、20人中、10人もの人間が一斉に銃口をこちらに向けた。
「やっばい伏せて!!!!!!」
その声と被るように、銃弾の嵐が降り注いだ。
あれは、マシンガンだ。
幸いソファがあったため何とかなった。しかし、前に出ることは愚か、顔を出すことすらできない。
更に、撃っていない10人は、横の階段から別々のルートを行っている。まずい。先に行かれた。
でも、別々のルートということは、大斗の病室がわかっていないということだ。時間はあるか...?
もどかしい。今すぐにでもあいつらを撃ちたい...!
「どうする!?このままじゃ死ぬだけだぞ!」
「一斉に撃ち始めたから、弾切れも同時に起きる。その瞬間に下がろう」
日暮はそう言うと、じっとソファで待った。
そして、弾幕が切れた。
「後ろ!早く下がって!!!大斗のとこ行って!!!」
弾幕の切間を利用して、廊下まで走ろうと姿を出した。その時。
「わかってますよ」
不気味な声と同時に、数発の弾丸が襲ってきた。
まずい。読まれてた。このままじゃ当たる...!
そう思っていたが、銃弾は私たちの元へ来なかった。
日暮がソファを蹴り上げて防いだのだ。
「おっと、あなたも中々神に愛されているようで。やはり、あなたたちは侮れないですね」
「お前だけは行かせない...!」
「わかりました。と言いたいところですが、ここであなたと戦っても意味がないので」
そう言うと、後ろから見覚えのない、仮面を被った女が出てきた。
「この方が相手をしてくれます。さ、私たちは朝霧大斗を探しますよ。邪魔になる方は全員始末しても良いです。民間人もやっちゃってください」
その言葉に応じるように、五十嵐たちは先に先にとバラけていく。そのうちの何人かは、私たちの方へ来ていた。遠かったこともあり、素性や人数ははっきりとわからない。
「待て!!!」
日暮が銃を構え、銃口を五十嵐に合わせる。
しかし、その銃弾は、何かによって防がれた。
「させないから」
仮面の女だ。なんと、日暮が撃った数発を、全部そのナイフで防いだのだ。
その離れ業を最後に、見えなくなった。
こっちの後ろには奴らがいる。早くしないとまずい。
「くそ!どうする!?」
走りながら、裕樹が焦った声を出す。
状況は良くない。しかし、相手は大斗がいる病室を把握していない様子だ。なら、まだ出来ることはあるはずだ。
「大斗の病室まで先回りするっていうのは?」
提案すると、思考の時間に入る。
「相手は大斗の場所が分かってない。だからこそ、今の状況はまだ良い方だ。俺たちの背後には追ってきてる奴がいる。多分、強い奴もいるだろ。直で行っちまうと、そこにいるっていうのを知らせることになっちまう」
「じゃあどうすれば...」
またも思考の時間に入ろうとしたところ、裕樹が口を開いた。
「大斗の病室には、追手を撒いてから行く」
「奇襲で返り討ちにするのは...?」
「追手以外に、先に探し始めてる奴らもいる。奇襲タイミングを待ってる間に、そいつらに襲われたら死ぬ。それに、奇襲どうこうでどうにかなる相手が追ってきてるとは思えねえ」
そう言うと、裕樹は銃を握りしめた。その手は震えている。
「今の要は俺たちだ。警察が来るまでの間、持ち堪えねえとな...でも、民間人は...」
尚も拳が震えている。
違う、裕樹。それは違う。
「救える人は救う。それがシルバーでしょ?」
私はそう言うと、銃を構えて、曲がり角に手をついた。
曲がり角の向こうには、血塗れの床の上で怯える親子と、拳銃を構える男がいた。服装から、多分正規の構成員だ。
シルバーはクロウの被害に遭った人たちを救う組織。このテロも例外じゃない。
いくら大斗を守るとはいえ、それを蔑ろに出来るはずがない。まずは、目の前にいる人たちからだ...!
「早く助けないと...!」
私は飛び出て、背後から迅速にその構成員の喉元を切った。
「怪我はありませんか?」
「あ、あああありがとうございます...で、でもその...」
「まずは」
安全な場所を考える。正直、安全と言える場所は無い。出口みも居るだろうし、非常口もマークされてるだろう。出るためには、その危険性を加味しなければならない。
つまり、民間人を安全に出口まで避難させるためには、この中の誰かが避難誘導に徹しなければならないということ。それは、戦力外になるということでもある。
「裕樹が案内して」
「で、でも、俺が離れたら...」
「誰か1人が民間人を守る必要がある。それも大事な役割。わかってるでしょ?」
「ああ、それは十分わかってる」
「裕樹の実力と状況判断能力があれば、大勢の民間人を助けることができる。だから」
「だからって...これ以上役に立てないのは、俺自身が許せねえよ...!」
悔しさの混じった声を吐露する。それに対して、私は一つ息を吐き、裕樹の肩に手を置いた。
「リーダーいないから私が言うけど、これは任務だから。民間人を守るのは任務。裕樹が敵役で、裕樹にしか任せられない。ここにいる大勢の民間人を、その手で掴める分だけで良いから、救って見せて。これは大役だよ」
私の顔は、どうなっていただろうか。優しくしたつもりだけど、仏頂面だったかもしれない。
「...わかった。後は任せる。終わったらすぐに戻るから、待ってろ」
そう言うと、裕樹は親子を連れて何処かへ行った。
さて、ここからが課題だ。
大斗の入る3階には、サンドラさんと美月がいる。この騒動のことは、さっき走るついでの連絡をしておいたため、わかっているだろう。恐らく、大斗の元へ行っているはずだ。
間に合っているかわからない。相手はバラバラに動いていた。エレベーターを使われたら、美月たちの立ち位置にもよるが、間に合わない可能性がある。
いや、可能性の話は考えるな。信じよう。信頼することが、一番大事だ。
行こう。大斗を守りに。
「行こ...」
その瞬間、背筋が凍るような感覚が体を襲った。
「死ねやあああ!!!」
後だ。後ろにいる。まずい、頭下げないと...!
「ッ!!!」
何とか反応して病室前のソファに身を託した。その瞬間、後ろから凄まじい弾幕が飛んできた。
相手は1人。
弾切れ。行ける。
「さようなら」
「ガハッ」
銃弾が頭にめり込む。
危なかった。10人くらいいた半グレだったからまだ良かった。構成員や、他の主要戦力、半グレでも複数人いたら死んでた。
そうだ。相手はマシンガンを所持している。迂闊に動いたら死ぬ。慎重に行動して、敵がいたとしたら、撃たれる前に殺さないとダメだ。
神経を研ぎ澄ませ...!
「!?」
そして再び進もうとした瞬間、1発の銃弾が頭を掠めた。
ソファの影から見る。
姿を見た瞬間、息を呑んでしまった。
赤みがかったショートヘアは、ボサボサのミディアムヘアになっており、元気そうな瞳は、既に生気はない。しかし、どれだけ変貌しても見覚えのある姿。
私はそっと、確かめるように呟いた。
「実」
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虚虚実実とは、全て使って戦うことです。




