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ブラック&ホワイト  作者: 芋太郎
第1章:虚実編
53/80

第53話:届かぬ願い

*不定期更新です。基本13時に更新してます。

 11月の夜は、薄着の私にとっては寒かった。


 しかし、その寒さもどうでも良くなる程、今の私は焦っていた。


 GPSにある位置情報では、実はすぐそこの路地裏にいる。


 近づくにつれ、焦燥感と不安感が強くなっていく。


 そしてその不安は、杞憂ではなかった。


「これは...」


 位置情報の場所に着いた頃には、辺りが血の海になっていた。そして、足元に3人の亡骸が転がっている。


 前方に目をやると、2人の人影が薄暗い電灯の元にいることがわかる。


 その内の1人には見覚えがある。私が一番会いたかった人物だ。


「実ッ!!!」


 声を聞いて、2人は振り返る。


「あれ、虚...?」


 実の顔と手には血がついており、実本人はそれを気にしていない様子だった。


「おっと、招かれざる客人が来ちまったか」


 もう1人の外国人は、愉快そうにしている。こいつは多分、ジョンだろう。1人だけ...?だったら、まだいけるかも。


 しかし、そんな気持ちも、実の姿と表情を見るだけで吹き飛んだ。


 おかしい。ずっと穏やかだ。恐らく、この殺人を犯したのは実だ。そして、ニュースにあった現場と、これまでの位置情報から察するに、一連の殺人事件の犯人も実で間違いない。


 実は羽から指示があって、嫌々やっていたに違いない。そのはずだ。


 それなのに、実の表情はやけに穏やかで、平然としている。目に光も感じないし、私を見ても何も思っていなさそうだ。


「実に何をした!!!」


 怒声をジョンに浴びせると、またも愉快そうに笑った後、ゆっくりと口を開いた。


「薬だよ。実は強いけど、意志薄弱なところがある。上手く使うためには、薬を使って徐々に判断を鈍らせていき、自我を失わせるほかないんだよ」


 その言葉を聞いた瞬間心を支配するのは、真っ黒な憎悪だった。


「そのお陰でよ、お前のことすら上手く理解してねえみたいだぜ?姿と名前がわかっても、お前がこいつにとってどんな存在だったかがわかってねえんだ。だからほら、お前を見ても何も思ってねえんだよ」


「この...!!!」


「おっとやる気か?まあ俺もお前みたいな強者と戦ってみたいけど、今回はパスだ。代わりに」


 そう言うと奴は、実の背中を押して前に出した。


「良い機会だし、こいつにやってもらおう。これでこいつがお前を殺すことができたら、俺たちの作戦は大成功だ」


 実の心を殺し、私たちを殺すための兵器にする。それがこいつの企みだろう。


 私は男を睨みつける。


 実にこれ以上、この先に行って欲しくない。実の心を取り戻さないと...!


「実、あのね?」


「やれ」


 男が指示を出した瞬間、私の目の前に実が飛び込んできた。


 実は表情を何一つ変えず、ナイフを振っている。


「実、やめて!私の話を聞いて...!」


「...?」


 私の声に返ってきたのは、不思議そうに呆けている表情だった。


 実は何をしているのか、誰と戦っているのか、明確にわかっていないまま戦っているのだろう。


 夢現の状態で戦っているのだ。それなのに...。


「...」


「ッ!」


 早い。前よりも動きが早く、キレがいい。朦朧としているとは思えないくらいだ。


「薬の効果で、タガが外れてるんだよ!!!」


 やはりそういうことか...!


「実!お願い!私の話を聞いて!」


 ボロボロになりながらも必死に呼びかける。しかし、実からの返事はなく、ただただジョンの笑い声が響くだけ。


「ハッハッハ!意味ねえよ!薬で誰かもわかってねえんだからよ!精神論でなんとかなるもんじゃねえんだ!」


 まずい。


 私は伝えなきゃいけないのに...!どうしてこんなに、実は遠ざかってしまうの!?


 昔からそうだ。近くにいるはずなのに、いつも実だけどこか遠くにいる。そう感じる。


 実はいつもいつも、自分のことは他人に隠して1人で背負い込んで、それなのに、誰かのことは助けようとする。


 自分の気持ちに、そして、他人に対して嘘を吐いてまで。


「実!気づいてよぉ!」


 前ですら完敗だったのだ。前よりもボロボロになりながらも、そこにいるであろう実に声をかける。


 何度も何度も何度も。


 それでも実は目覚めない。ただ私を殺さんと、急所を狙って凶刃を振るだけ。


 実に伝えたいことがある。でも、今言ったとしても実には伝わらない。意味がない。


「実ぃ!!!」


 どれだけ叫んでも、帰ってこない。


 実。どうしてあなたはいつも背負い込むの...?どうして自分を犠牲にしてまで助けようとするの...?


 いっつもいっつも、嘘を吐いて、人を騙して。


 傷つくのは、自分なのに...!!!


「!?」


 瞬間、ついに私の体が限界を迎え、足がもつれてしまった。


「おお!!!そのまま行け...!」


 ジョンの言葉通り、見逃すまいと、血に染まった紅の刃が喉に向けられる。


「...嘘吐き」


 諦めた途端、自然とそんな言葉が漏れた。


 そしてその言葉は、実の動きをピタリと止めた。


 目に殺意は灯っている。しかし、腕が動いていない。


 倒れる私にのしかかるように実はマウンティングをした。いつでも私にトドメを刺すことが可能だ。それなのに、実はナイフを振り下ろそうとしない。


「虚...?あれ、私は...?なん...で...」


 実は腕を震わせながら、浅い呼吸を繰り返していた。気が動転している。


「私は、虚を殺さないと...でも、あれ...?殺さないといけないの...?ころ...あ...れ......?私は...」


「実、しっかりして。私は実に伝えたいことがあるんだ。それは...」


 言いかけたところで、実の背後に大きな影が映った。


「ちょっとすまんな。こいつはもう戦えんわ」


 ジョンはそう言うと、実の服を掴んで強引に引き剥がした。


「実!」


「やっぱまだまだ足りねえな...。嬢ちゃん、申し訳ねえけど、俺に殺されてくれ」


「!?」


 容赦なく拳が振り下ろされる。


 間一髪のところで避けたが、もう私は戦える状態にない。満身創痍だ。


 この男と戦えば、十中八九、私は死ぬだろう。


 でも、ここまで来たんだ。引き下がれない。死んでも良い。犠牲になってでも、実は助け出したい。実が今までそうしてきたように...!


「実、待ってて」


 後ろで呆然と佇む実に、そっと呼びかけた。


「んじゃま、始末しちゃいますぜ...!」


「こっちのセリフ...!」


 走って近づくジョンに、銃口を構える。


 しかし、現実は非常だった。


 先までの戦闘で負ったダメージと、以前の肋骨の骨折のせいで、体が悲鳴を上げ、一瞬だけ行動と判断が遅くなってしまったのだ。


 その一瞬が、命取りだった。


 もう既に、ジョンの体はその隙をついて私のところまで来ていたのだ。


 今から撃っても遅い。当たったとしても、このメリケンサックが私の頭蓋を砕くだろう。


 それでも、私はトリガーを引く。


「終わりだよ!!!」


「...!」


 覚悟を決める。目は離さない。弾を当てるんだ。少しでもダメージを負わせるんだ。


 メリケンサックがこめかみに迫っている。


 ごめんね、実。私じゃダメだった。実力が足りなかった。そのせいで実を助けることができなかった。


 でも、安心して。みんなが助けてくれる。


 だから...。


「ッ!!!」


 1発分の銃声が鳴った。


 しかしそれは、私が撃鉄を引くよりも前に鳴ったものであり、私の後ろから放たれていた。


「グッ!?誰だ!!!」


 銃弾は見事に私を掠め、男の肩に当たっており、そのお陰で私はまだ助かっている。


「離れろ、メリケンサック野郎」


 その言葉と同時に、銃弾を放った主が後ろから現れる。


 その姿を見たジョンは、愉快そうに笑った。


「ハッハッハ!会いたかったぞ!」


 私はその声の方向に振り返った。


 壮年の女性だ。タバコを咥えている。


「サンドラさん!?」


「...一旦引くぞ。今のままじゃどうにもならん」


「でも...!」


「バカか。今戦ってもお前は死ぬだけだ。私は死にかけのお前のお守りをしながら戦うつもりはない」


 言う通りだ。ただの足手まとい。私がいても意味がない。


「ということだ。ここは一旦引かせてもらう。安心しろ。また後日殺しに来てやる」


 そう言いながら、サンドラさんは私を抱えて去って行った。


「ハッハッハ!!!こりゃ楽しみだぜ!!!」


 愉快そうな声が、後ろから聞こえてきた。


 しかし暫く経てば、そんな声も聞こえなくなり、姿も見えなくなる。


 私はサンドラさんの腕の中で、後悔を噛み締めていた。


「すみません、サンドラさん」


「世話が焼けるクソガキだ。ぶん殴ってやりたいところだが、今は気分じゃない。それに、お前の気持ちも少しはわかるからな」


「え?」


「あたしも責任を感じてるんだよ。こうなっちまったのは、託された任務を失敗した私たちのせいだからな。だから、今度は失敗しない」


 その瞳は、燃えたぎる炎のようだった。


「私もお前に協力する。それだけじゃない。朝霧大斗も守ってみせる。あのガキができないとほざいていた「同時に助ける」ってやつをやってやる」


 そうだ。弱気になるな。


 この人は失敗しても前を向いている。出来ることがあるんだ。まだ諦めちゃいけない。


「はい...!私も頑張ります...!」


 涙ぐんだその声は、秋空に消えていった。




 その日がやって来た。


 朝霧大斗を殺害するための戦力が全員集まったのだ。それだけでなく、クロウから構成員が追加で10人ほど送られてきた。


 そして、主な追加戦力。それは、目の前に並ぶ3人のことだ。


 1人はギャルの女の子。1人はガタイのいい怖そうな男の人。

 そしてもう1人は、仮面を被っている女の人。


「はー、やっと殺せるし。ダルいけど頑張るかー」


「お前ら!久しぶりにバカやるぞ!」


 岸部美波と、天宮阿修羅。確かそんな名前だった。


 そしてもう1人は、コードネーム、ルナ。ランク5の実力者であり、先のソリスよりも格段に強いと聞いた。


 わかる。仮面で顔も見えないし、ただ立っているだけなのに鳥肌が立ってくる。


 ともあれ、これで全て揃った。今からこのメンバーで戦いに行く。


「さあ、始めましょうか!」


 狂気的な声と共に、戦の火蓋が落とされた。





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