第52話:2人の想い
*不定期更新です。基本13時に更新してます。
その日から、大斗を護衛する日々が始まった。
大斗を護りたいのは確かだ。だから、その護衛には加わる。どんなに美月とイザコザがあったとしても、大斗には無関係だから。
護衛、と言っても、大斗の病室には入れないので、外で立っているだけだ。あと、入り口の監視カメラを見張ったり、巡回をしたりしている。
私たちは一応入院している判定なので、衣食住は大丈夫だ。美月は日暮の病室で過ごしているらしい。
こんなことができるのは、全部結花のおかげだ。結花は院長と仲が良く、話をしたところ、他の患者に迷惑がかからない限り良いと言われたらしい。
そして、そんな強力もあって、今日は日暮と共に大斗の病室の前で立っていた。
「一之瀬組の力は借りられないんだよね」
日暮が俯きがちに言った。
一之瀬組は今、大変なことになっている。警察が事務所にガサ入れを行ったり、富岡町のテロと併せて、組長が疑われていたり、そのせいで組内はバラバラで、とても頼れる状況にない。
「うん」
「組長、無事かな...。一応ガラはかわしてるらしいけど」
「わからない。疑われてるのは組長だから身代わりも使えないし、人脈を使っても今回ばかりはカバーしきれないと思う」
「だよね」
沈黙の時間が続く。
「ごめんね、虚」
唐突の謝罪に「何が?」と返す。
「こんなことになっちゃって。虚さ、本当は実の元へ行きたいでしょ?私も裕樹も思ってるよ。でも」
「わかってる。優先すべきことがあるんだよね」
「...ごめんね。本当は助けに行きたいんだけど...。いや、私が弱かったせいでこうなってるんだもんね」
「謝っても何も起きない。選んだ選択は変わらないし、過去も変えられない。それに、日暮と裕樹が助けたいと願っても、リーダーの美月が思ってない今は無駄」
「そう、だね」
日暮は後ろめたそうに俯きながら、ジーンズを握った。
美月の選択を飲み込んだ日暮と裕樹に対して、怒りの感情がないとは言い切れない。でも、この2人の気持ちもわかる。
2度も戦力になれなかったことに対して、責任を感じているのだろう。あの時自分がいれば、そう何度も思ったのだろう。だから、安全な選択肢を選ぼうとする。一挙両得ではなく、あくまで自分ができる範囲で。
慎重なのは必要だ。学習することも大事だ。
2人の気持ちはわかる。だから、責めることはできない。
「私は、2人に怒ってるわけじゃない。いや...怒ってるけど、怒ってない」
そう言うと、日暮は少しの間考えた後に「何それ」と言って笑った。
「でもありがとう。私、虚に許してもらえないんじゃないかなって思ってたんだよ。多分、裕樹も思ってた」
「2人は良いよ」
「『2人は』か」
日暮は呟いた後、私の方を向いた。
「美月はさ、きっと責任を感じて焦ってるんだよ。あいつ強くて頼りになるけど、リーダーっていう頼られる立場にいる分、人一倍責任を感じやすいんだ。しかも、まだ高校生だしね。だから、仲間で、守るべき人間が植物状態になって、自分が次何をすべきなのかわからなくなってる。自暴自棄になってるんだと思うよ」
「...そうかな」
正直、私には、そうは見えない。今でも「知ったことかよ」と言ったことを覚えている。自暴自棄になっているとはいえ、そんなことを言ってしまうのは、心のどこかで実に対してヘイトが向いているという証拠ではないのか。
...でも、私よりも長い間一緒にいる日暮が言うなら、そうなのかもしれない。単なる錯乱、焦燥、自暴。
「そうだよ。じゃないと、あんな美月らしくないこと、するはず無い」
そう言って俯く日暮の顔は、少し悲しそうだった。
「絶対に実、助けようね」
「うん」
そうして、私たちはその日の役目を終え、病室に戻った。
「実...」
GPSを確認する。
富岡町の雑居ビルにいる。ここが拠点で間違いないだろう。
「まだ、か」
GPSを数日間確認し、1つわかったことがあった。
それは、実の行動だ。ここ数日、実は夜になると、外に出て何かをしている。何をしているかはわからない。
今は雑居ビルにいるけど、あと数分もすれば、また外に出るだろう。
ただただ、むず痒い。雑居ビルから出て、外に実がいる。そう思うだけで、居ても立ってもいられなくなる。少し歩けば出会えるのだ。
しかし、冷静に考えれば、危ないということがわかる。第一に夜とはいえ、1人で出て行くわけがない。護衛や見張りがいるだろう。弱ければ良いが、五十嵐みたいな強敵だと、多分勝てない。
分かってる。ただの臆病者だ。実を助けたいと言っているのにも関わらず、我が身惜しさに、行動しないでいるのだ。
手が届く場所にいることがわかっているのに、一歩踏み出せない。
いっそ、裕樹と日暮に相談しようか。あの2人は、まだ信用できるし...。
でも、2人の傷はもう癒えてきたとはいえ、だいぶ深かった。生死を彷徨った位には重症だった。
これでもし戦闘になって、傷が開いたら、元も子もないではないか。
「......」
頭の中で、互いの選択肢がせめぎ合う。
「頼ろう」
決断して立ち上がり、日暮の病室まで行く。
その時、チラッとスマホの画面にニュースの通知が流れた。タップする。
『富岡町での連続殺人。抗争が原因か』
その文面に、不安感が増す。
実は無事なのか、そう思ってしまい、脚が自然と速くなる。
一刻も早く相談しないと。そして、助けに行かないと...!
焦る気持ちを抑えながら、日暮の病室前まで来た。中には美月も居る。美月に聞かれたら嫌だから、日暮を外に呼んで話そう。
「ひぐ...」
「ねえ美月」
そう思い、ノックと同時に呼びかけようとした時、中から声が聞こえてきた。美月と日暮が話している。
「あんたらしくないね。なんでこんな選択を選んだの?」
「日暮も言うんだね。2人同時に救うなんて出来ないからだよ」
「それでも、前のあんたは何か考えて、2人を救おうとしてた」
「幻想だよ。私はそんな超人なんかじゃない。同時になんて出来ないよ」
「出来る出来ないかはこの際いいよ。問題は、少しでも方法を考えたか。あんた、ちゃんと考えたの?」
その問いを最後に、美月の声が途切れた。
「なんかあったんじゃないの?あんたを狂わせるような何かが」
その声を聞いた美月は「実は」と言った。
「...五十嵐から聞いたんだけど、私のお父さんだったんだよ。お父さんが中心となって、ハデスの施設を壊滅させた。その際、襲いかかってくる者には、女子供関係なく、等しく殺していたんだって」
「!?」
え...?充さんが...?
「お父さんは、身寄りの無い日暮たちを匿った。育ててくれた。でも、あいつらが言うには、お父さんは狂っていたって。そして私は、そんな狂った父に似ているって、そう言われたんだ」
確かに厳しい人だったけど、私は狂気を感じることはなかった。ただ、今の美月が充さんに似ているということは、少し納得がいく。
「私はわからない。狂人なんかじゃないって言いたい。狂ってなんかいない。私はおかしくない。なのに、あいつの言葉が消えないんだ。私は十分狂っているって声が、事あるごとに聞こえてくるんだよ」
美月は、震える声で淡々と語る。
「そしてその時から、私は無性に仲間が死ぬのが、大斗くんが死ぬのが怖くなった。そして同時に、お父さんと私のことを狂っていると言い、そして、大斗くんをこんな状態まで追い詰めたクロウが憎くなった」
「だから、実を後回しにしたの?クロウに加担したから」
「...そうだよ。虚には悪いことをしたと思っている。でも、私も譲れない」
「そう」
その言葉を聞いて、私はスライドドアの取手から、手を離した。否、離れた。
力無く項垂れる。
美月はそんなことを思いながら、1人背負いながらあの選択を下した。私はそれを知らないままに、頭ごなしに否定した。
でも、私だって実を譲れない。
じゃあ、どうすれば良いの?何が正解?何が正義?
「わからないよ...」
薄暗い廊下を歩く音だけが響く。
「あれ」
それがだんだんと、不吉な塊のように、胸に蓄積していく。
違和感。なんとも言えない違和感が突然襲ってきた。
何?何なの?
「充さんは...」
充さんはハデスを襲っていたと、美月は言ってた。あれ、それって...?
鼓動が高鳴る。そして、GPSを確認するため、震える手でスマホの画面を押した。
すると、さっき見ていたニュースが見えた。
『富岡町で連続殺人。抗争が原因か』
それを閉じ、GPSを開くと、富岡町の路地に赤いピンが刺されていた。外にいる。
「いか...なきゃ...!」
理解した瞬間、私の脚は、体は、その場所へ向かっていった。
行かなきゃ!助けなきゃ!そして伝えるんだ...!
あの日言えなかったことを...!
「実...!」
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