第5話:鶏と鷹
*不定期更新です。基本13時に更新してます。
2102年、東京都新古町。
ここは日本でも有数の治安の悪い町として知られている。
科学技術やAIの発展により失業者が激増し、経済格差が悪化。そうして、こういった場所がちらほらと出来上がってしまったわけだ。
その中の1つがここなのである。
そして俺は今、そんな治安の悪い新古町の道のど真ん中に立っている。
「こえぇぇぇ」
震えながら小声を漏らす。
この辺は大学の帰りに少し寄ったことがあったが、やはり怖い。
ほとんどの店がやっておらず、シャッター街と化しており、そのシャッターには蹴った跡や、落書きが必ずと言っていいほどある。
さらには、すれ違う人の5人に1人くらいは、柄の悪い人が通り過ぎる。
正直、夏の18時周辺は明るいとはいえ、1人で突っ立ってんのは怖い...。
「あ、いたいた!おーい!」
明るい声が静かな街に響く。
驚いてその声の方を見ると、男と女のシルエットが見える。
あれが噂の...。
「あー、どうも」
段々と近づく影を凝視しながら、手を挙げる。
1人はパーマがかった金髪で、結構すらっとした体型の男。もう1人は、短い黒髪をした女だ。よく見ると、左側頭の辺りからちょこんと髪が出ている。サイドテールってやつか?
ていうかちっちゃいな、あの子。隣の男が中々に身長が高いっていうのもあるだろうが、それでも小さい。
そんなことを思っていると、金髪がこっちに寄って来た。
「お、お前が新人かー。普通だな!」
「あ、はい」
それが挨拶とは、なかなか...いや、ややこしくなるからいいか。
「とりあえず自己紹介」
「痛い痛いよ」
隣にいる女の子が、男の金髪を引っ張って言った。
「私は天海虚。呼ぶ時は虚でいいよ。コードネームはホーク。よろしく」
そう言うと、虚を名乗る女の子は両手でVを作った。
うん、明らかに子供だろ。こういう仕事をするのはまだ早いのでは?
「良いんですか?この子、子供ですよね」
金髪に耳打ちをする。
「大丈夫だよ。こいつはチビだけど高校生だから」
「そ、そうなんですか」
まあ、そう言われると確かに高校生、かな?
いや、やっぱ中学生に見えるんだけど...。ていうか、高校生でもアウトだろ、こんな危ない仕事。
「俺は安藤裕樹。コードネームはクール。趣味は彼女とデート、かな?どうぞ裕樹先輩って呼んでくれ」
「は、はぁ」
虚も変な子だと思ったが、この人も変らしい。
大丈夫か?この仕事。
少し戦慄していると、虚がちょぼちょぼと近づいてから、裕樹先輩の髪を引っ張った。
「いでででで」
「嘘。裕樹のコードネームはチキン。臆病者だからチキン」
「あ、あー」
なるほど。この人もコードネームを適当につけられて悲しい思いをしてるんだな。
チキンもとい裕樹先輩は少し項垂れている。仕方ない、励ますか。
「俺の名前は朝霧大斗です。趣味は特にないです。安心してください先輩、俺のコードネームはルークです。ルーキーから取ってルーク」
そう言うと、裕樹先輩はいきなり嬉々とした表情でこちらを向いた。
「お、そーかそーか!お前も同類か!後輩!」
「は、はい。ですので」
「じゃ、行くぞ!我らが新古町の平和を守りに!」
大股で歩いていく先輩。
その姿を俺たちは呆れた顔で見つめていた。
「い、行きますか」
「そだね」
まあ、なんやかんやで全員との自己紹介も終わったし、全員のキャラがなんとなく分かった気がする。裕樹はウザくて痛いチキン。虚は不思議な子って感じだ。
...この人たち本当に大丈夫なのか?
「後輩!なんか質問とかあるか!」
上機嫌なチキンが振り向いて先輩風を吹かしてきた。
めんどくさい、という気持ちを抑えつつ、俺は疑問を述べる。
「この仕事って何するんですか?」
「見回りだよ。最近噂の暴徒どもをとっ捕まえるための」
「いや、普段の仕事のことです。何してるんですか?」
純粋で単純な疑問を投げかけたのだが、先輩は頭を抱えていた。
「言ってなかったのかよ美月......えー、依頼をこなす仕事だな。基本的になんでも」
「基本的って?」
「それはリーダーに聞いてくれ。俺らはこなすだけだ」
「なるほど...では例えばどんな仕事を?」
問うと、何故だか答えに詰まっていた。
答えない先輩の代わりに、虚が前に出て口を開く。
「ほとんどが巡回とか警備。あとは、粛清の手伝い、とか」
「粛清の手伝いって」
言いかけたところで、先輩が手で行く手を阻んだ。
「どうしたんですか?」
問いかけると、裕樹先輩はゆっくりとこっちを見た。
「恐喝だ。しかも結構な人数がいやがる。早くも見つけちまったな」
そう言われて、俺と虚は角からそーっと覗く。
すると、薄暗い裏路地の上で、10人以上いるガラの悪い連中が、1人の男性を囲っていた。
「ひぃぃ」
怖い怖い怖い!
ヤバいだろあいつら!
耳を澄ますと恐喝じみた発言が聞こえる。
「おいテメエ!痛い目見たくなかったら金を出せ」
「俺たちの人数、わかるよね?大人しく従ったほうがいいよ」
「か、勘弁して下さいぃぃ!!!」
こんなのが聞こえてくる。
「後輩。お前はここにいろ」
縮こまった俺を見て、裕樹先輩は待機命令を下す。
無謀すぎる!流石にこの人数は勝てないでしょ!絶対にダメだ。止めないと!
「ダメです...!これは」
止めようとするが、虚が「大丈夫」と言って飛び出してしまった。それに先輩も続く。
「よーく見てろよ。これが俺たちの仕事だ」
そう言い残して出ていった。
2人の存在に気づいたヤンキーたちは、一斉に振り返り、ガンを飛ばす。
俺はその光景を見て頭を抱えたと同時に、鼓動が早くなった。
マズイって!どう考えてもこれは...!
俺の心配をよそに、今喧嘩が勃発しようとしている。
「今すぐその人から離れるんだ。ついでにお前らが有金全部渡せ」
爽やかなスマイルを浮かべながらそう言うと、ヤンキーたちは更に睨みつけた。
「ああ?2人だけで何かと思えば。救世主気取りか!笑わせんじゃねえよ!」
「んじゃ、てめえらからやっちまうぜ!ついでにそこの女は拐っちまうぜ!」
大声と共に一斉に2人に襲い掛かる。
マジでヤバい!そう思った瞬間。
「それはあんまりおすすめしないな」
「な!?」
誰の攻撃も2人に当たることはなく、空を切った。
そして、裕樹先輩と虚は互いに、眼前の敵を薙ぎ倒していく。
2人ともナイフ1本を片手に持っているだけだ。それなのに、奴らが勝てる気がしない。
ナイフもメリケンサックも、何にも当たらない。
裕樹先輩は受け流し、虚は身長を活かしてかわしている。
「は、早い!」
どいつもこいつも、そんなことを言いながら倒れていく。
あっという間に1人だけになってしまった。
「さて、あとはお前だけだ。有金全部渡してもらおうか」
「く、来るな!」
怯えた様子で奥のフェンスに寄りかかる。
その瞬間、何故だか2人は勢いよく走り、残った1人を拘束した。
裕樹先輩が奴の手を掴み、強引に引っ張るとそこには銃が握られている。
「無駄だよ。俺たちにそんなドッキリは通用しない」
「くっ」
男は諦めた様に苦い顔をすると、悔しそうに下を見つめた。そして、裕樹先輩がトドメを刺すかの如く、腹パンを食らわせる。
す、すごい!
一連の流れも、戦い方も何もかも桁が違う。
それに隠し持っていた銃を見抜いた。全然気づかなかったぞ...!
肝を抜かれていると、裕樹先輩が後ろを振り返ってこっちを見た。
「来ていいぞ」
急いで駆け寄る。
「これは...すごいです」
「だろ?」
誇らしげに言うと、虚が裕樹の髪を引っ張る。
「格下相手にはイキってるからチキンって呼ばれるんだよ」
「それは言わないで...」
「はは...」
乾いた笑いが出た。
ともあれ、この人たちの凄さがわかった。
正真正銘のヤバい人たちだというのも。
この人たちが俺を匿ってくれるなら、心強い。まあ、まだ信じてないけどな。
「どうだ。これが俺たちの仕事だ」
正直、かっこいいと思ってしまった。
だが、俺はまだ知らなかった。
この時、意識のある1人が俺の写真を撮っていたことを。そしてその写真が、奴らを動かしてしまったことを。
*面白いと思ったら、高評価していってくれると嬉しいです。