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ブラック&ホワイト  作者: 芋太郎
第0章:プロローグ
5/80

第5話:鶏と鷹

*不定期更新です。基本13時に更新してます。

2102年、東京都新古町(しんこちょう)


 ここは日本でも有数の治安の悪い町として知られている。

 科学技術やAIの発展により失業者が激増し、経済格差が悪化。そうして、こういった場所がちらほらと出来上がってしまったわけだ。


 その中の1つがここなのである。


 そして俺は今、そんな治安の悪い新古町の道のど真ん中に立っている。


「こえぇぇぇ」


 震えながら小声を漏らす。


 この辺は大学の帰りに少し寄ったことがあったが、やはり怖い。

 ほとんどの店がやっておらず、シャッター街と化しており、そのシャッターには蹴った跡や、落書きが必ずと言っていいほどある。

 さらには、すれ違う人の5人に1人くらいは、柄の悪い人が通り過ぎる。


 正直、夏の18時周辺は明るいとはいえ、1人で突っ立ってんのは怖い...。


「あ、いたいた!おーい!」


 明るい声が静かな街に響く。


 驚いてその声の方を見ると、男と女のシルエットが見える。


 あれが噂の...。


「あー、どうも」


 段々と近づく影を凝視しながら、手を挙げる。


 1人はパーマがかった金髪で、結構すらっとした体型の男。もう1人は、短い黒髪をした女だ。よく見ると、左側頭の辺りからちょこんと髪が出ている。サイドテールってやつか?


 ていうかちっちゃいな、あの子。隣の男が中々に身長が高いっていうのもあるだろうが、それでも小さい。


 そんなことを思っていると、金髪がこっちに寄って来た。


「お、お前が新人かー。普通だな!」


「あ、はい」


 それが挨拶とは、なかなか...いや、ややこしくなるからいいか。


「とりあえず自己紹介」


「痛い痛いよ」


 隣にいる女の子が、男の金髪を引っ張って言った。


「私は天海虚(あまみうつろ)。呼ぶ時は虚でいいよ。コードネームはホーク。よろしく」


 そう言うと、虚を名乗る女の子は両手でVを作った。


 うん、明らかに子供だろ。こういう仕事をするのはまだ早いのでは?


「良いんですか?この子、子供ですよね」


 金髪に耳打ちをする。


「大丈夫だよ。こいつはチビだけど高校生だから」


「そ、そうなんですか」


 まあ、そう言われると確かに高校生、かな?

 いや、やっぱ中学生に見えるんだけど...。ていうか、高校生でもアウトだろ、こんな危ない仕事。


「俺は安藤裕樹(あんどうゆうき)。コードネームはクール。趣味は彼女とデート、かな?どうぞ裕樹先輩って呼んでくれ」


「は、はぁ」


 虚も変な子だと思ったが、この人も変らしい。

 大丈夫か?この仕事。


 少し戦慄していると、虚がちょぼちょぼと近づいてから、裕樹先輩の髪を引っ張った。


「いでででで」


「嘘。裕樹のコードネームはチキン。臆病者だからチキン」


「あ、あー」


 なるほど。この人もコードネームを適当につけられて悲しい思いをしてるんだな。


 チキンもとい裕樹先輩は少し項垂れている。仕方ない、励ますか。


「俺の名前は朝霧大斗です。趣味は特にないです。安心してください先輩、俺のコードネームはルークです。ルーキーから取ってルーク」


 そう言うと、裕樹先輩はいきなり嬉々とした表情でこちらを向いた。


「お、そーかそーか!お前も同類か!後輩!」


「は、はい。ですので」


「じゃ、行くぞ!我らが新古町の平和を守りに!」


 大股で歩いていく先輩。


 その姿を俺たちは呆れた顔で見つめていた。


「い、行きますか」


「そだね」


 まあ、なんやかんやで全員との自己紹介も終わったし、全員のキャラがなんとなく分かった気がする。裕樹はウザくて痛いチキン。虚は不思議な子って感じだ。

 ...この人たち本当に大丈夫なのか?


「後輩!なんか質問とかあるか!」


 上機嫌なチキンが振り向いて先輩風を吹かしてきた。

 めんどくさい、という気持ちを抑えつつ、俺は疑問を述べる。


「この仕事って何するんですか?」


「見回りだよ。最近噂の暴徒どもをとっ捕まえるための」


「いや、普段の仕事のことです。何してるんですか?」


 純粋で単純な疑問を投げかけたのだが、先輩は頭を抱えていた。


「言ってなかったのかよ美月......えー、依頼をこなす仕事だな。基本的になんでも」


「基本的って?」


「それはリーダーに聞いてくれ。俺らはこなすだけだ」


「なるほど...では例えばどんな仕事を?」


 問うと、何故だか答えに詰まっていた。

 答えない先輩の代わりに、虚が前に出て口を開く。


「ほとんどが巡回とか警備。あとは、粛清の手伝い、とか」


「粛清の手伝いって」


 言いかけたところで、先輩が手で行く手を阻んだ。


「どうしたんですか?」


 問いかけると、裕樹先輩はゆっくりとこっちを見た。


「恐喝だ。しかも結構な人数がいやがる。早くも見つけちまったな」


 そう言われて、俺と虚は角からそーっと覗く。

 すると、薄暗い裏路地の上で、10人以上いるガラの悪い連中が、1人の男性を囲っていた。


「ひぃぃ」


 怖い怖い怖い!

 ヤバいだろあいつら!


 耳を澄ますと恐喝じみた発言が聞こえる。


「おいテメエ!痛い目見たくなかったら金を出せ」


「俺たちの人数、わかるよね?大人しく従ったほうがいいよ」


「か、勘弁して下さいぃぃ!!!」


 こんなのが聞こえてくる。


「後輩。お前はここにいろ」


 縮こまった俺を見て、裕樹先輩は待機命令を下す。


 無謀すぎる!流石にこの人数は勝てないでしょ!絶対にダメだ。止めないと!


「ダメです...!これは」


 止めようとするが、虚が「大丈夫」と言って飛び出してしまった。それに先輩も続く。


「よーく見てろよ。これが俺たちの仕事だ」


 そう言い残して出ていった。


 2人の存在に気づいたヤンキーたちは、一斉に振り返り、ガンを飛ばす。


 俺はその光景を見て頭を抱えたと同時に、鼓動が早くなった。


 マズイって!どう考えてもこれは...!


 俺の心配をよそに、今喧嘩が勃発しようとしている。


「今すぐその人から離れるんだ。ついでにお前らが有金全部渡せ」


爽やかなスマイルを浮かべながらそう言うと、ヤンキーたちは更に睨みつけた。


「ああ?2人だけで何かと思えば。救世主気取りか!笑わせんじゃねえよ!」


「んじゃ、てめえらからやっちまうぜ!ついでにそこの女は拐っちまうぜ!」


 大声と共に一斉に2人に襲い掛かる。


 マジでヤバい!そう思った瞬間。


「それはあんまりおすすめしないな」


「な!?」


 誰の攻撃も2人に当たることはなく、空を切った。

 そして、裕樹先輩と虚は互いに、眼前の敵を薙ぎ倒していく。

 2人ともナイフ1本を片手に持っているだけだ。それなのに、奴らが勝てる気がしない。


 ナイフもメリケンサックも、何にも当たらない。

 裕樹先輩は受け流し、虚は身長を活かしてかわしている。


「は、早い!」


 どいつもこいつも、そんなことを言いながら倒れていく。


 あっという間に1人だけになってしまった。


「さて、あとはお前だけだ。有金全部渡してもらおうか」


「く、来るな!」


 怯えた様子で奥のフェンスに寄りかかる。


 その瞬間、何故だか2人は勢いよく走り、残った1人を拘束した。


 裕樹先輩が奴の手を掴み、強引に引っ張るとそこには銃が握られている。


「無駄だよ。俺たちにそんなドッキリは通用しない」


「くっ」


 男は諦めた様に苦い顔をすると、悔しそうに下を見つめた。そして、裕樹先輩がトドメを刺すかの如く、腹パンを食らわせる。


 す、すごい!

 一連の流れも、戦い方も何もかも桁が違う。


 それに隠し持っていた銃を見抜いた。全然気づかなかったぞ...!


 肝を抜かれていると、裕樹先輩が後ろを振り返ってこっちを見た。


「来ていいぞ」


 急いで駆け寄る。


「これは...すごいです」


「だろ?」


 誇らしげに言うと、虚が裕樹の髪を引っ張る。


「格下相手にはイキってるからチキンって呼ばれるんだよ」


「それは言わないで...」


「はは...」


 乾いた笑いが出た。


 ともあれ、この人たちの凄さがわかった。

 正真正銘のヤバい人たちだというのも。


 この人たちが俺を匿ってくれるなら、心強い。まあ、まだ信じてないけどな。


「どうだ。これが俺たちの仕事だ」


 正直、かっこいいと思ってしまった。


 だが、俺はまだ知らなかった。

 この時、意識のある1人が俺の写真を撮っていたことを。そしてその写真が、()()を動かしてしまったことを。















*面白いと思ったら、高評価していってくれると嬉しいです。

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