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ブラック&ホワイト  作者: 芋太郎
第1章:虚実編
48/80

第48話:取捨選択

*不定期更新です。基本13時に更新してます。

 薄暗い廊下を歩く。


 死んだ瞳で時計に目をやると、もう時刻は午前3時を回っていた。


 あれから、私とサンドラさんは詳しい事情を聞いた。その後、一ノ瀬亮吉組長と連絡をとり、情報を集めた。そしてそのまま帰る手筈となった。


 結花は院長と面識があり、話があると言って途中から別れた。


 虚は無事。火花はまだわからない状況らしい。そして大斗くんは...。


 どうしてこうなってしまうのか。何故、あんなことをするのか。


 激しい憎しみが湧き出る。


 その時、あの声が脳内に響いた。


『あなたは既に十分狂ってますよ...?』


 うるさい。


「...っ!」


「おい」


 歯噛みしていると、隣を歩くサンドラさんに呼び止められた。


 ゆっくりとその方向を見ると、前方に指を指しているのがわかる。


「あ」


 前を見ると、日暮と裕樹が心配そうな顔をして立っていた。


「どう、だった?」


 日暮が恐る恐る聞いてくる。


 答えたくない。でも、答えないといけない。


 私はゆっくりと、沈みそうな声で事の顛末を話した。


「嘘…だろ?」


「そんな、大斗が...?」


 裕樹は呆然と立ちすくみ、日暮は目眩を感じたのか、よろけながら手すりに手をつけた。


「俺たちが行っていれば」


 違う。


「それは違うよ」


 はっきりと言い張る。


 それは違う。キミたちが来ていても、現状は変わらなかった。あれが最善の策だったんだ。


 ...そう思わないとどうにかなってしまいそうだ。


「実も向こうに行ってしまったんでしょ?」


「そうだね」


「居場所は...?」


「わからない」


 答えると、日暮は俯いてゆっくりと口を開いた。


「...実はやっぱり、裏切ったんだね」


 実が何故裏切ったのか。


 クロウから追われていたことは嘘ではないはずだ。一瞬でも、私たちの仲間であったことも事実だ。仲間だと思ってもくれていただろう。


 恐らく、何かを出汁にいいように使われてしまったのだ。それによって、裏切らざるを得なかった。苦渋の決断で、向こうを選んだ。


 理解はできる。情状酌量の余地もある。虚だって実のことを想っていたし、私たちも想っていた。助けられるなら助けたいという気持ちも、本気で持っていた。


 でも、やったことは変わらない。


 実は私たちを信頼せず、結果、仲間である大斗くんをこんな状態まで追い詰め、クロウの利益を産んでしまった。


 その事実は変わらないのだ。


 果たして、助ける義理はあるのか。助けると意気込みはした。しかし、こうなってしまったら話は別じゃないだろうか。


 そんなことを思っていると、裕樹が私の肩を叩いた。


 呆けていた私は、気づいて顔を上げる。


「これからどうする」


「これから...」


 これから、か。正直、こんなことが起きた後だから、話す気力がない。話すにせよ、虚が目を覚ましてしてから話したい。


 でも...。


 虚なら実のことを優先しそうだ。話し合いになったら、虚の言い分も聞かないといけない。


 正直、今の私は実のことなんてどうでもいい。憎いまである。


 だから、極力実を助けに行くと言う話はしたくない。


 わかってる。自分が何やろうとしているのか。相当酷いことだ。


「今、決めるぞ」


 サンドラさんだ。


「あ、あの、お久しぶりです」


 日暮が恐る恐る、言った。挨拶するタイミングを見計らっていたのだろう。裕樹もそれに乗じて、声を上げた。


「挨拶なんてどうでもいいだろ。今優先すべきは今後のことだ。こうなってしまった以上、急を有する。一分一秒でも早く今後のことを話し合うのが先決だ」


 言い放つサンドラさんに、感心してしまった。


 流石だ。こんなことが起きたのにも関わらず、毅然としている。


「お前らの役割は仲間を守ることではなく、クロウを殲滅することだろ?クロウの被害者を減らすことだろ?言っておくがな、クロウはお前らが落ち込んでいても構いなしで何でもする組織だ。落ち込んでいる暇なんてないんだよ。ましてやリーダーのお前がそんなんでどうする」


「は、はい」


「わかったら、さっさと話し合い始めるぞ。手短にな」


「はい」


 話し合い、と言っても私は今後の展望がある。


「いい、かな」


「言え」


「...大斗くんを狙っている羽は、確かに戦力は低い。でも、羽のバックにはクロウがいるから、いつでも戦力を補給することができる。今回も、火花を意識不明まで追い込んだ奴がいた。あいつは多分、クロウから送られた戦力の1人。他にも10人ほど送られてきていた。だから、羽だけでなく、クロウの戦力も込みで考えないといけない。となると、今は結構厳しいんだよ」


「戦力が希薄な状況だからな...。俺らはもうすぐ復帰できるが」


「裕樹たちじゃ足りないかな。サンドラさんの傭兵団を借りないといけないくらい」


「使える奴らは戦地に行っている。阿修羅のバカも向こうにいっちまったしな」


「...やっぱり、難しいね」


「じゃあ、どうするの?」


 日暮の問いかけに、頭を巡らせる。

 私の中ではもう結論がついている。


「最優先は大斗くんの防衛。大斗くんの周りに私たちがいれば、何とかなるかも」


「植物状態の人間を狙うか?」


 裕樹は怪訝そうな顔で問いかけた。


「あいつらは確実性を重視してるし、何より用意周到。多分まだ狙ってくると思うよ」


「でも、そしたら実は...?」


「実は...保留だね。虚の状態から、実も結構な実力者だと思う。それに、私たちから実を救助しにいかなくても、向こうから来ると思うし」


「確かに、そうかもしれないけど...」


 俯いて手を固く握る日暮。日暮たちの気持ちはわかる。でも優先度もあるし、それに...。


「うん、思うことはあるよね。でも、私たちの優先すべきことは、あくまで大斗くんだよ」


「...そう、か。そうだな。でも、どうやって虚に伝える」


「嘘を吐くか誤魔化すか。それぐらいしてもあの子は止まらないかもしれないから、一応虚にも目を向けないといけないね」


「わかった」


「一先ず、専念するのは大斗くんの護衛。キミたちもまだ動けそうにないし、実の救出は二の次に考えよう」


 そう言って、私たちは別れた。


 その後のことは、何か動きがあり次第柔軟に対応するという形をとる。こうなってしまった以上、後手に回ってしまうが、仕方ないことだろう。


 ただ、歯痒い。


「美月」


 隣を歩くサンドラさんが呼ぶ。

 私が「何ですか?」と言うと、前を向いたまま口を開いた。


「お前、前に実を助けるって言ってなかったか?なのに、実を捨てるような選択を選ぶなんてらしくないじゃないか」


「捨てるわけじゃありません。あくまで保留ですよ。実と大斗くん、双方の優先順位を考えた結果です」


「前のお前なら、両方助ける算段を考えていただろうが」


「流石にそれは無理ですよ」


「そうか」


 出口から出ると、冷たい北風が私の髪を揺らした。


「お前、父親に似たな」


 その言葉に、心が凍てつく。

 そして、あの時のあいつの言葉を思い出してしまう。


「お前にはそうなって欲しくなかったんだがな」


「......」


 もはや何も言い返すことはできなかった。


 どうして皆、お父さんのことを悪く言うのかわからない。


 悔しさと悲しみが、自然と私の拳を握らせる。


「まあいい。美月」


「はい...」


「私を殴れ。2発だ」


「え?」


 言われた言葉を理解するのに時間を有した。


 なんでいきなり...?


「私の任務は、名取実と朝霧大斗の護衛だ。しかし、両方とも失敗した。お前に説教した手前、こんな体たらくになってしまった自分が恥ずかしくて腹立たしい。ケジメとして、本気で殴れ。今のお前なら、躊躇なく私を殴れるはずだ」


 そういうことか。


『今のお前なら躊躇なく殴れる』


 私の握り拳を見てそう言ったのだろう。


「わかりました」


 そう言って、私は構える。


「来い」


 腕を広げるサンドラさんに、ストレートを2発、躊躇なく腹部に叩き込んだ。


 サンドラさんは何も言わずに、顔を上げる。


「あの...」


「大丈夫だ。それより、良いパンチだった。これで私も気合いが入る」


「はぁ...」


 その後、何も言葉を交わすことなく、別れることとなった。


 自宅に戻る際、私はあの時のサンドラさんの顔を思い出していた。


 殴られた後のサンドラさんの顔は、前よりも凛として見えた。


 一方、私はどうだろうか。


 シルバーのリーダーとして、風格のある表情を浮かべられるだろうか。サンドラさんみたいに、前向きに考えているだろうか。


 ...そんなの考えなくてもわかってる。できてない。無理だ。

 混乱と焦燥と憎悪で、そんなの出来るわけがない。


 私はリーダー失格だ。


「お父さん、私、どうすればいい...?」


 問いかけは、寒空へ消えていった。









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