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ブラック&ホワイト  作者: 芋太郎
第1章:虚実編
47/80

第47話:急転直下

*不定期更新です。基本13時に更新してます。

 朝、怪文書が届いた。その文章は、ハデスに所属していたとき使っていた暗号だった。読み解くと『自由が欲しいか?』と書いてあるのがわかった。続いて場所と時刻の指定があった。


 悪戯ではないことは明らかだった。ハデスの暗号を扱うものがいるなら、クロウや、その周辺組織から送られてきたものであることは明白だ。ずっと追われてきたクロウから、喉から手が出るほどに欲したものを出されたのだ。


 私は当時「みんなに迷惑をかけているし、自分で解決できるならしたい」と思っていた。だから、指定された場所に行ってしまった。


 今思えば、馬鹿なことをした。でも、追い込まれていた私は、危険なんてものを考える余裕がなかった。


 指定された廃ビルに着くと、大勢の柄の悪い人たちがいた。


 その人たちを避けながら、待ち合わせの3階まで行くと、見覚えのある2人が立っていた。


「久しぶりだな。海堂、いや、今は名取か」


「野上、先輩...?」


「お元気でしたか?名取実さん」


「五十嵐先輩...」


 2人は、多数の側近を従えて座っていた。


 2人とも、ハデスにいた頃の先輩だった。恐らく、あの暗号を送ったのも、この2人のうちのどちらかだ。


 昔馴染みとの再会。虚と出会った時は、嘘というか、騙していたため、複雑な気持ちではあったけど、嬉しかった。


 でも、この2人と再会しても嬉しくはなかった。あの手紙を送ったということは、追手である忌むべき相手、クロウの元にいるということだ。嬉しいわけがない。


 しかしそれよりも、この2人の変容ぶりが、嬉しくない一番の要因であった。


 昔はとても良い先輩で、もっと明るかった。それなのに、今は人が変わったかのようだった。


「人が変わった、そう思ったか?」


 野上先輩はタバコを蒸しながらそう言った。


「...はい。正直」


「ハハ、そうだな、変わったな。でも、お前も覚えあるだろ?人が変わっちまうってのはよ」


「......」


「人が変わるときは、その環境に順応する時だ。近縁種の動物でも、寒冷地域と温暖地域じゃ、姿形がその環境に応じるように変わるだろ?毛伸ばさないと凍え死ぬし、短くしないと暑くてぶっ倒れるからな。人間も、それと同じだ。絶望に追い込まれれば、明るいやつでも狂っていくし」


 タバコの灰を落とす。


「誰かに好かれ無いといけないときは、暗いやつでも明るく振る舞う」


「!?」


 私と同じだ。


「お前、ずっとクロウに追い回されてるんだよな。そのせいで親父も死んだし、最悪だよな。今は隠れ蓑があるけどよ、クロウはそれでもお前を捕らえるぜ?死ぬまで一生追い回される。なんで分かるかって?」


 野上先輩が私の頭を掴んで、顔を近づけた。


「その慣れ果てが、俺らだからだよ」


 怖い。生きているのに、まるで死んでいるかのような顔だった。


「でもよ、ある条件を飲めば、そのクロウから解放されるってんだから、驚きだよな。それをこなせば、手紙に書いてあった通り『自由』ってもんが手に入る。俺らでさえ手に入れることができなかった高級品を、お前は手に入れることができるんだぜ?すげえだろ」


 わからない。この2人は、いや、ここにいる人たちは全員、クロウの息がかかってる人たちだろう。クロウは私をしつこく追っていた。なのに何で、今更こんなことを...。


 そんなことを思っていたが、次の言葉で吹き飛んだ。


「その条件ってのが、朝霧大斗を殺害するために協力しろってやつだ」


「!?」


 震える。


 どういうことかイマイチわからない。


「俺たちに協力して、朝霧大斗の殺害が成功すれば、お望み通り『自由』が手に入る。どうだ?」


「どうだ...って」


 頭の中がぐわんぐわんして、考えがまとまらない。


 だ、だって、それって...。


「裏切れってことですか...?」


「裏切れ、ねぇ。まあそうだな」


「そ、そんなの無理です!私の命の恩人たちを、裏切ることなんてできない...!」


「あー、確かにそうか。でもよ。あいつらの元に居続けても、本当に自由が手に入ると思うか?戦闘用員が10にも満たない程の弱小組織だぞ?対するクロウは、俺たちでも把握しきれないほどだ。勝ち目あると思うか?結局潰されて、また捕まって、最悪反抗勢力として見做されて死ぬかも知れねえぞ?」


「そ、それは...」


 だからと言ってあの人たちを裏切るような真似は出来ない。


 私は再び意志を固めると、首を横に振ろうとした。


「断ったら、どうなるかわかりますか?」


 すると、しばらく黙っていた五十嵐先輩が声を出した。


 その脅しのような発言に、思わず「え?」と聞き返す。


「私たちが、あなたの怨敵であるクロウの仲間だと知っていて、わざわざここに足を運んだんですよね?なら、相応の覚悟は決めてきているはずですが...」


 微笑みながら言う五十嵐先輩に、恐怖を覚える。


「な、何を言って...」


「断れば、今ここに居る全員があなたの敵になると言うことです。後は...何を言いたいかわかりますね?」


 怖い。


 その感情の後に、自責の念が込み上げた。こんなことになるということはわかっていたはずだ。どうして来てしまったんだ。


 了承しなければ戦闘になる。私は昔、ハデスで好成績を収めていた。しかし、この人数相手は無理だ。ましてや、五十嵐先輩も野上先輩もいる。勝ち目は無い。


 かといって、了承なんて...。


「まあ、お前が承諾すればそんな怖い目には遭わねえんだ。そもそも、断る理由があんまねえだろ?だってお前にとっても好条件なはずなんだから」


 野上先輩はそう言うと、私の瞳を見つめた。その瞳には、生気も正気も無かった。


「いや...です...そんなのできn」


 瞬間、喉元に刃が当てられ、周りにいる人たちが一斉に銃口を向けた。


「......」


 恐怖と不甲斐なさで涙が出てしまう。


 どうして、いつもこうなるの...!私はただ、普通に生きたいだけなのに...!


「うっ...ひっく......わかり、ました」


「それが聞けてよかった」


 野上先輩は微笑むと、ナイフを納め、他の人たちの銃も納めさせた。


「じゃあ、これから頑張ってくれ。お前の上に立つのは灑鳥だから、後のことは灑鳥に聞いてくれ。あ、それと」


 野上先輩は私の髪を掴んで、顔を近づけた。


「裏切ったり、まともに仕事しなかったりしたら、普通に殺すからな?わかったらちゃんと仕事しろよ?お前のために言ってるんだからな」


 言い終えると、私の髪を離して、何処かへ消えていった。


 それから、私の心が死んでいった。しかし同時に、圧倒的な戦力を前に、協力すれば、本当に自由が手に入るかもしれないと思うようになった。


 言いなりになるしかなかった。


 まず、被害者のふりをして、私を救いに来る美月たちを騙せと言われた。後は、そのまま相手の懐の潜入し、都度連絡を入れろ。そして、警備が手薄な頃合いを見計らって襲撃を実行し、私は怪我人のふりをして大斗を殺害しろ。


 そう命令され、そのまま動いた。


 自由というたった1つを、唯一のモチベーションにして。




「だから、これまでのは全て作戦のうちなの」


「実...」


「私はもう逆らえない。地獄の道を選んでしまった。地獄の道を選んだからには、せめてその道の果てまで行かないと報われない。自由を手に入れるために堕ちたのなら、最後までそれを貫く。だから」


 虚の腹部に拳がめり込む。


「...ガッ、ハッ」


 虚は倒れ込み、その場に崩れた。


 薄れゆく意識の中、実の姿が薄く映る。

 実は銃口を倒れている大斗に向けた。


「実いいいいいい!!!」


 その時、反対方面から、複数名の足音と実を呼ぶ叫び声が聞こえてきた。


「!?」


 実はそれに気づくと、引き金を引くことなく走り去っていった。駆けつけてきたのは美月たちだった。


「虚!大丈夫?」


「わた、しは大丈夫...大斗を...」


 そう言って、虚は意識を失った。


「大斗くん!大斗くん!」


 美月が呼びかけるも、大斗は反応しない。


 出血が多い。息もしていない。脈も止まっている。


「いつからこの状態が続いていたかによるな」


 サンドラが険しい顔で心肺蘇生に入る。


「私、結花連れてくる!他の人は救急車呼んで!」


 美月と5人の傭兵たちは走った。


 結花のいる病院はその場から近い。


 辿り着くと、結花は準備を既に整えていた。テレビを見て、早急に支度をしていたのだろう。


「サンドラさん!結花連れてきました!」


「私がやります」


 そう言うと、サンドラに代わって心肺蘇生に入った。


 しかし、結花の顔は優れず、ずっと暗い顔をしたまま。


「わ、私も手伝う」


「私1人でやるから、タオル持ってとにかく止血お願い」


「...わかった」


 そうして、10分後、救急車が到着した。


 ストレッチャーに担がれ運ばれる大斗。意識の無い虚も共に運び込まれる。美月たちもついていくこととなった。


 冨岡町にある大病院に着くと、大斗は手術室へと運ばれていく。虚も同じように運ばれる。


 ただ、祈るしかなかった。いや、そのときの美月の心情は、無に等しかった。


 全ての感情が入り混じって相殺され、結果、何も考えることができなくなっていた。放心状態という言葉が当てはまるほど、魂が飛んで行ったかのように無表情だった。


 皆、時間を忘れ祈っていると、青色の手術着を着た人が皆の前に立った。


 神妙な面持ちをしている。


「ご家族の方は居ますか?もしくは知り合いの方」


「はい」


 美月が立ち上がる。


「まず、虚さんは意識を失っているだけで、命の別状はありません。切り傷も多いですが、深い傷は肩の一箇所のみで、内臓の損傷もないため、安全でしょう。直に意識も戻ると思います」


「そう、ですか。良かった。だ、大斗くんは...?」


 聞くと、医師は心無しか暗い表情を浮かべ「覚悟して聞いてください」と意味深なことを言った。


「心肺機能は回復しました」


「よかっt」


「ですが、しばらく心肺停止状態だったようで、脳がダメージを受けており、脳機能が停止してしまっている状態です」


 その発言に、美月は「え?」と言ってフラフラと座り込んだ。


「そ、れって」


 医師はしばらく黙った後、口を開いた。


「植物状態です」


*面白いと思ったら、高評価していってくれると嬉しいです。


もしかしたら、投稿が遅くなるかもしれないです。


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