第47話:急転直下
*不定期更新です。基本13時に更新してます。
朝、怪文書が届いた。その文章は、ハデスに所属していたとき使っていた暗号だった。読み解くと『自由が欲しいか?』と書いてあるのがわかった。続いて場所と時刻の指定があった。
悪戯ではないことは明らかだった。ハデスの暗号を扱うものがいるなら、クロウや、その周辺組織から送られてきたものであることは明白だ。ずっと追われてきたクロウから、喉から手が出るほどに欲したものを出されたのだ。
私は当時「みんなに迷惑をかけているし、自分で解決できるならしたい」と思っていた。だから、指定された場所に行ってしまった。
今思えば、馬鹿なことをした。でも、追い込まれていた私は、危険なんてものを考える余裕がなかった。
指定された廃ビルに着くと、大勢の柄の悪い人たちがいた。
その人たちを避けながら、待ち合わせの3階まで行くと、見覚えのある2人が立っていた。
「久しぶりだな。海堂、いや、今は名取か」
「野上、先輩...?」
「お元気でしたか?名取実さん」
「五十嵐先輩...」
2人は、多数の側近を従えて座っていた。
2人とも、ハデスにいた頃の先輩だった。恐らく、あの暗号を送ったのも、この2人のうちのどちらかだ。
昔馴染みとの再会。虚と出会った時は、嘘というか、騙していたため、複雑な気持ちではあったけど、嬉しかった。
でも、この2人と再会しても嬉しくはなかった。あの手紙を送ったということは、追手である忌むべき相手、クロウの元にいるということだ。嬉しいわけがない。
しかしそれよりも、この2人の変容ぶりが、嬉しくない一番の要因であった。
昔はとても良い先輩で、もっと明るかった。それなのに、今は人が変わったかのようだった。
「人が変わった、そう思ったか?」
野上先輩はタバコを蒸しながらそう言った。
「...はい。正直」
「ハハ、そうだな、変わったな。でも、お前も覚えあるだろ?人が変わっちまうってのはよ」
「......」
「人が変わるときは、その環境に順応する時だ。近縁種の動物でも、寒冷地域と温暖地域じゃ、姿形がその環境に応じるように変わるだろ?毛伸ばさないと凍え死ぬし、短くしないと暑くてぶっ倒れるからな。人間も、それと同じだ。絶望に追い込まれれば、明るいやつでも狂っていくし」
タバコの灰を落とす。
「誰かに好かれ無いといけないときは、暗いやつでも明るく振る舞う」
「!?」
私と同じだ。
「お前、ずっとクロウに追い回されてるんだよな。そのせいで親父も死んだし、最悪だよな。今は隠れ蓑があるけどよ、クロウはそれでもお前を捕らえるぜ?死ぬまで一生追い回される。なんで分かるかって?」
野上先輩が私の頭を掴んで、顔を近づけた。
「その慣れ果てが、俺らだからだよ」
怖い。生きているのに、まるで死んでいるかのような顔だった。
「でもよ、ある条件を飲めば、そのクロウから解放されるってんだから、驚きだよな。それをこなせば、手紙に書いてあった通り『自由』ってもんが手に入る。俺らでさえ手に入れることができなかった高級品を、お前は手に入れることができるんだぜ?すげえだろ」
わからない。この2人は、いや、ここにいる人たちは全員、クロウの息がかかってる人たちだろう。クロウは私をしつこく追っていた。なのに何で、今更こんなことを...。
そんなことを思っていたが、次の言葉で吹き飛んだ。
「その条件ってのが、朝霧大斗を殺害するために協力しろってやつだ」
「!?」
震える。
どういうことかイマイチわからない。
「俺たちに協力して、朝霧大斗の殺害が成功すれば、お望み通り『自由』が手に入る。どうだ?」
「どうだ...って」
頭の中がぐわんぐわんして、考えがまとまらない。
だ、だって、それって...。
「裏切れってことですか...?」
「裏切れ、ねぇ。まあそうだな」
「そ、そんなの無理です!私の命の恩人たちを、裏切ることなんてできない...!」
「あー、確かにそうか。でもよ。あいつらの元に居続けても、本当に自由が手に入ると思うか?戦闘用員が10にも満たない程の弱小組織だぞ?対するクロウは、俺たちでも把握しきれないほどだ。勝ち目あると思うか?結局潰されて、また捕まって、最悪反抗勢力として見做されて死ぬかも知れねえぞ?」
「そ、それは...」
だからと言ってあの人たちを裏切るような真似は出来ない。
私は再び意志を固めると、首を横に振ろうとした。
「断ったら、どうなるかわかりますか?」
すると、しばらく黙っていた五十嵐先輩が声を出した。
その脅しのような発言に、思わず「え?」と聞き返す。
「私たちが、あなたの怨敵であるクロウの仲間だと知っていて、わざわざここに足を運んだんですよね?なら、相応の覚悟は決めてきているはずですが...」
微笑みながら言う五十嵐先輩に、恐怖を覚える。
「な、何を言って...」
「断れば、今ここに居る全員があなたの敵になると言うことです。後は...何を言いたいかわかりますね?」
怖い。
その感情の後に、自責の念が込み上げた。こんなことになるということはわかっていたはずだ。どうして来てしまったんだ。
了承しなければ戦闘になる。私は昔、ハデスで好成績を収めていた。しかし、この人数相手は無理だ。ましてや、五十嵐先輩も野上先輩もいる。勝ち目は無い。
かといって、了承なんて...。
「まあ、お前が承諾すればそんな怖い目には遭わねえんだ。そもそも、断る理由があんまねえだろ?だってお前にとっても好条件なはずなんだから」
野上先輩はそう言うと、私の瞳を見つめた。その瞳には、生気も正気も無かった。
「いや...です...そんなのできn」
瞬間、喉元に刃が当てられ、周りにいる人たちが一斉に銃口を向けた。
「......」
恐怖と不甲斐なさで涙が出てしまう。
どうして、いつもこうなるの...!私はただ、普通に生きたいだけなのに...!
「うっ...ひっく......わかり、ました」
「それが聞けてよかった」
野上先輩は微笑むと、ナイフを納め、他の人たちの銃も納めさせた。
「じゃあ、これから頑張ってくれ。お前の上に立つのは灑鳥だから、後のことは灑鳥に聞いてくれ。あ、それと」
野上先輩は私の髪を掴んで、顔を近づけた。
「裏切ったり、まともに仕事しなかったりしたら、普通に殺すからな?わかったらちゃんと仕事しろよ?お前のために言ってるんだからな」
言い終えると、私の髪を離して、何処かへ消えていった。
それから、私の心が死んでいった。しかし同時に、圧倒的な戦力を前に、協力すれば、本当に自由が手に入るかもしれないと思うようになった。
言いなりになるしかなかった。
まず、被害者のふりをして、私を救いに来る美月たちを騙せと言われた。後は、そのまま相手の懐の潜入し、都度連絡を入れろ。そして、警備が手薄な頃合いを見計らって襲撃を実行し、私は怪我人のふりをして大斗を殺害しろ。
そう命令され、そのまま動いた。
自由というたった1つを、唯一のモチベーションにして。
「だから、これまでのは全て作戦のうちなの」
「実...」
「私はもう逆らえない。地獄の道を選んでしまった。地獄の道を選んだからには、せめてその道の果てまで行かないと報われない。自由を手に入れるために堕ちたのなら、最後までそれを貫く。だから」
虚の腹部に拳がめり込む。
「...ガッ、ハッ」
虚は倒れ込み、その場に崩れた。
薄れゆく意識の中、実の姿が薄く映る。
実は銃口を倒れている大斗に向けた。
「実いいいいいい!!!」
その時、反対方面から、複数名の足音と実を呼ぶ叫び声が聞こえてきた。
「!?」
実はそれに気づくと、引き金を引くことなく走り去っていった。駆けつけてきたのは美月たちだった。
「虚!大丈夫?」
「わた、しは大丈夫...大斗を...」
そう言って、虚は意識を失った。
「大斗くん!大斗くん!」
美月が呼びかけるも、大斗は反応しない。
出血が多い。息もしていない。脈も止まっている。
「いつからこの状態が続いていたかによるな」
サンドラが険しい顔で心肺蘇生に入る。
「私、結花連れてくる!他の人は救急車呼んで!」
美月と5人の傭兵たちは走った。
結花のいる病院はその場から近い。
辿り着くと、結花は準備を既に整えていた。テレビを見て、早急に支度をしていたのだろう。
「サンドラさん!結花連れてきました!」
「私がやります」
そう言うと、サンドラに代わって心肺蘇生に入った。
しかし、結花の顔は優れず、ずっと暗い顔をしたまま。
「わ、私も手伝う」
「私1人でやるから、タオル持ってとにかく止血お願い」
「...わかった」
そうして、10分後、救急車が到着した。
ストレッチャーに担がれ運ばれる大斗。意識の無い虚も共に運び込まれる。美月たちもついていくこととなった。
冨岡町にある大病院に着くと、大斗は手術室へと運ばれていく。虚も同じように運ばれる。
ただ、祈るしかなかった。いや、そのときの美月の心情は、無に等しかった。
全ての感情が入り混じって相殺され、結果、何も考えることができなくなっていた。放心状態という言葉が当てはまるほど、魂が飛んで行ったかのように無表情だった。
皆、時間を忘れ祈っていると、青色の手術着を着た人が皆の前に立った。
神妙な面持ちをしている。
「ご家族の方は居ますか?もしくは知り合いの方」
「はい」
美月が立ち上がる。
「まず、虚さんは意識を失っているだけで、命の別状はありません。切り傷も多いですが、深い傷は肩の一箇所のみで、内臓の損傷もないため、安全でしょう。直に意識も戻ると思います」
「そう、ですか。良かった。だ、大斗くんは...?」
聞くと、医師は心無しか暗い表情を浮かべ「覚悟して聞いてください」と意味深なことを言った。
「心肺機能は回復しました」
「よかっt」
「ですが、しばらく心肺停止状態だったようで、脳がダメージを受けており、脳機能が停止してしまっている状態です」
その発言に、美月は「え?」と言ってフラフラと座り込んだ。
「そ、れって」
医師はしばらく黙った後、口を開いた。
「植物状態です」
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もしかしたら、投稿が遅くなるかもしれないです。




