第46話:それでも
*不定期更新です。基本13時に更新してます。
「虚...!」
「実...!」
拮抗した状態のまま、互いの目線が交差する。
最悪な事態だ。信じたくなかった。でも、状況から察して信じるしかない。
しかし、意外にも頭の中は冷静だった。もっと困惑して焦ると思っていた。
とにかくこの状況をなんとかしないといけないという感情が、逆に冷静さを生んだのかもしれない。
「どう、して、ここに...?」
「仲間を助けるために来た」
真っ直ぐと見つめて告げる虚を見て、実は視線を落とした。
「何で裏切ったの?」
問うが、実は口をつぐんで答えようとしない。
「全て嘘だったの?全部あなたの計画?」
「それはっ...!」
反応からして違うらしい。
ならば何故言わないのか。以前、盗聴されている可能性があると言っていた気がする。下手なことを言うと、自分の立場が危うくなってしまうから、言わないのかもしれない。
「...わかった。じゃあ今でも実は私たちの元へ戻る気は無い?」
「...ごめん」
「そっか」
私はそう言うと、掴んでいた手を離した。
「私、は」
震えた声が聞こえる。
「私は、戻れない。私のために。お父さんのために。だから、ごめん」
お父さんの...?発言からして、心から裏切った訳じゃなさそうだ。
「理由は言えない?」
「...言えない」
「じゃあ、大斗はまだ殺すつもり?」
その問いかけに対して、実は下を向いたまま暫く答えなかった。
そして、意を決したように顔を上げ、口を開いた。
「私のために、大斗には死んでもらう」
「...わかった」
そう言った瞬間、私は再び銃弾を放った。
「ぐっ!?」
2発が左右の太腿に直撃する。
「大斗を早く病院に送らないといけない。だから、卑怯とか無し」
「...そうだね虚。久しぶりだったから、そういうの忘れてたよ」
ふらふらと立ち上がる実に、照準を合わせる。恐らく、あの状態ならまともに動けない。しかし、もしかしたらまだ動けるかもしれない。殺さなくていい。あくまで無力化を考える。
なら、銃はダメだ。首を絞めて意識を落とすか。
そう思い、銃をしまう。そして再び目線を上げたとき。
「え」
目の前にいなかった。
「ごめんね」
「!?」
なんとか避けることができたが、頬が切れてしまった。
いつの間にこんな近くに...!
「虚を殺したくないよ。だから、大斗はもう諦めて...!」
「嫌だ!私は仲間を見捨てない!」
銃を構える。しかし、一瞬にして距離を詰められてしまい、撃てない。
「嘘...」
早い。早すぎる。目で追えないという次元ではない。この強さは、火花に匹敵するほどかもしれない。
実は悲壮な表情を浮かべながら、あらゆるところを切り裂いた。
「わかったでしょ?もうやめて」
「見捨てることはできない!」
「虚も死んじゃうよ?」
「それでも...!」
瞬間、私のナイフが実のナイフの動きを止めた。
「それでも、私は見捨てない!だから...」
パキンという音と共に、私のナイフが宙へ撥ねた。
「......っ!」
再びナイフの連撃が始まる。避けようとするも、それを読まれて避けられない。弾こうにも、手元にナイフがない。
全身が切り刻まれ、顔面に血がまとわりつく。圧倒的な実力差がそこにあった。
それでも退かない。
「どうして...?」
連撃が収まり、実の声が震える。
「実が本気のように、私だって本気なんだよ。だから、大斗を助けるために、退かない」
「私だって退けないっっっ!!!」
慟哭が響き、実の凶刃が襲い掛かる。
私はそれを避けなかった。
「何で...」
避けずにただ、抱きしめた。
実の震える体を強く抱きしめる。刃は肩を深く切り裂いているが、そんなことはどうでもいい。
私は実のことを知らない。昔も今も、それは変わらない。ただ、1つわかっていることがある。
実は言動からして、裏切りたくて裏切ったわけじゃない。
大斗を撃つときだって、躊躇っていた。私と戦っていた時も、こんなに実力差があるのに、決定打となる攻撃はしてこなかった。現に今も、血塗れではあるが、意識は明瞭に保たれている。最後の攻撃も、本意じゃないと思う。私が避けるだろうと思っていたから、予想外の深傷に対して動揺しているのだろう。
今だって、こんなに隙があるのに、私を攻撃しようとしていない。
実は恐らく、羽に何らかの条件を出された。その条件が私たちを裏切るに足るほど、魅力的なものであったため、苦渋の決断で裏切った。そう考えられる。
希望的かもしれない。でも、私はそう思う。そう思いたい。ただの勘だ。希望論だ。でも、信じる。
そして、私にはその魅力的な条件の見当がついている。
私たちを裏切るほどに、欲しかったもの。それは。
「『自由』だよね?」
瞬間、実の体がピクリと跳ね上がった。
「さっき、自分のためだけじゃなく、お父さんのためとも言っていた。健太郎さんは自由を望んで、実と2人で山奥に住むことを決めていた。でも、それは叶わなかった。そして、亡くなる前に、あなたにその意思を託した。ずっとクロウに追われていたあなたが欲していた『自由』を。そして...」
「......そして私は羽から条件を出された」
覚悟がついたのか、実は私の体を離すと、淡々と喋り出した。盗聴されているなら、危険が伴う行為だ。でも、堰を切ったかのように、言葉が流れ出していた。
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