第45話:狂気の片鱗
*不定期更新です。基本13時に更新してます。
目の前の女と対峙するのは2回目だ。ただ、全然慣れない。
これまで戦ってきた奴らとは比べ物にならないほど異様で、底が知れない。
五十嵐灑鳥。ここまで戦いたくない相手は初めてだ。
「大斗くんの元には行かせないよ」
「そうですね。あなたと戦うことになれば、大斗さんに追いつけないでしょう」
「私の実力はキミもわかってるはず。戦わない方が良いと思うけど。戦っても無駄だってわかってるなら尚更」
「私が大斗さんを追うなら、戦うことは無意味になります。ただ、あなたが加勢しに行くと考えると、戦うことは果たして無意味になるでしょうか?」
「大斗くんがあんな5人にやられるわけない。私がキミに足止めされても、大斗くんは死なない」
「確かに、5人なら仕留められないでしょう」
含みのある発言に「どういうこと?」と聞き返す。
嫌な考えが頭をよぎる。外れていて欲しい。
「あなた方も既に考えていたはずですよ?一体いつから敵が5人だと思ってるんですか?」
その発言に、私の中の何かが切れる。
「お前...!」
「ハッキリ言いますね。私があなたに足止めされてるわけじゃない。あなたが私に足止めされてるんですよ」
言い終わった瞬間、私は容赦なく銃弾を放った。装填数分を全て撃ち切る勢いだ。
しかし、奴は電柱の裏に隠れてやり過ごした。
装填しようとするが、流石にそれは通されない。五十嵐が電柱の影から微笑みを浮かべながら突っ込んできた。
焦っちゃダメだ。感情的になっちゃダメだ。ダメだ。ダメだ。
抑えろ。
心臓に手を当て、念じる。
そして、すぐに金切り音が鳴り響いた。
五十嵐の得物はロングナイフだ。リーチがナイフや刀と違って、中途半端でやりにくいと感じていたが、もう慣れた。
「神の選択次第では、どちらかここで死んでしまいますね!!!」
「キミの方だよ、五十嵐...!」
体術、そしてナイフ捌き共に私の方が上だ。しかし、五十嵐は一歩も引かない。
おかしい。深い傷もそれなりに負っているはずだ。
「ふふふ」
「くっ...!」
異様な雰囲気にペースが崩れそうになる。このままじゃ攻撃が当たってしまう。一旦距離を取らねば。
引き剥がすために、上段に蹴りを当てる。
しかし。
「痛いですね」
「!?」
動じない。そして、太ももが少し切られてしまった。
「やっぱり狂ってるよ、キミ」
「良く言われますが、一体何が狂ってるんですか?」
顔を見ればわかる。これは痩せ我慢じゃない。純粋な質問だ。自分が狂ってないと、本気で思っている。
「私に勝てないってわからないの?」
「勝てるか勝てないかは神が決めることだと、以前言ったはずですよ?」
「キミ、怖くないの?」
わかってる。この人が死を恐怖対象だと感じていないのは、前回の戦いでわかっていることだ。
しかし、聞いてみないと気が済まない。
「何がですか?」
「私と戦って、結果死ぬかもしれないということに、恐怖を感じていないの?」
聞くと、五十嵐は少し考える素振りを見せた。
「死ぬのが怖い...。昔は臆病だったので、思ってましたよ。ただ、死を恐怖してると、神に認められないのですよ。怖いと思いながら戦ってたら、望む未来がやって来てくれない。神に選ばれるためには、恐怖心など要らないのです」
微笑みながら言い放つ五十嵐を見て、私は深いため息を吐いた。
ダメだ。救えない。
今度は大きく吸うと、ナイフを両手に持って前に構えた。
「わかったよ」
走り出す。
もういい。手加減なんて必要ない。この女は危険すぎる。
全力を出す。
私は再び攻撃を始めた。先までとは違い、速度も火力も上がり、ナイフ以外の攻撃も交える。時には空中から、時には真下から、時にはアクロバティックに。
「強いですね。先程より格段に早くなってるし、攻撃もt」
「黙って」
五十嵐の額が切れる。もっと下だったか。
もっと正確に狙わないと。
「このままだと、私死んじゃいますね」
そう思っているなら普通冷静ではいられない。
早くこの狂人を殺さねば。
そう思いながら、多彩な攻撃を打ち続けると、五十嵐はそっと口を開けた。
「あなたのお仲間さんが、相当わたしたちについて調べていたようですね。なら、私が元々ハデスという暗殺者養成組織に居たのは存じていますね?そして、その組織が何者かによって破壊されたことも」
「それが何?今関係ある?」
「あなたに関係することですよ。その組織を1日で崩壊させた人物は4人いるんですが、中でも1番強かった人がいたんですよ。私を含め、見逃してもらえた人もいましたが、歯向かった者はその人に全員殺されました。子供も大人も、男女問わず。無慈悲に冷淡に」
「それが私と何の関係があるの」
そう言うと、五十嵐は「ふふふ」と笑った後、口を開いた。
「その狂人の名は白井充。あなたの父親ですよ」
「......」
「先程のあなたの瞳、表情。あの時の白井充さんに酷似していました。そして、今私を無慈悲に切り付けている顔も、そっくりです」
耳を貸すな。
ただ殺すことだけを考えろ。
「ところで、あなたは以前、私に対して狂っているとおっしゃっていましたね」
「うるさい」
「分かっていないようなので、言っておきますが」
「うるさい...!」
「あなたは既に」
「うるさい!!!」
「十分狂っていますよ...?」
「黙れ!!!!!!」
水平に切り裂く。しかし、それが五十嵐に当たることは無かった。
五十嵐はバックステップで距離を取ると、静かに笑いながら満足そうな顔を浮かべた。
「狂ってはいますが、白井充さんほどでは無いですね。しかし、片鱗はあります」
「......違う。お父さんは狂ってない...!ただ、お母さんの無念を晴らすために戦っただけだ!身寄りのない日暮や虚だって助けた...!そんなお父さんが狂人なわけない!私が憧れてる人が、狂ってるはず無い...!」
「憧れ、ですか。良かったですね。憧れの存在はすぐそこですよ。しかし、哀れですね。憧れは人を盲目にさせるようです」
「......!」
再び攻撃しようと踏み切るも、安易とかわされてしまう。
「もう良いですよ。十分です。神は勝敗をつけませんでした。なので、私はここで退くことにします。あなたの仲間もそろそろ来そうですしね」
「待て!!!」
「良いんですか?朝霧大斗さんの身が危ないですよ」
「くっ...!」
追いたい気持ちはある。しかし、確かにこいつの言う通り、感情任せに追ってしまえば、大斗くんが危ない。
五十嵐の背中を見つめながら唇を噛み締め、拳を握り締める。
今は、大斗くんのことを考えるべきだ。敵は5人じゃないと言っていた。恐らくは実が...。
足早にその場を去り、大斗くんの元へ急ぐ。
その時の手のひらは、自分の血で赤く染まっていた。
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