第43話:一刀一閃
*不定期更新です。基本13時に更新してます。
叔父様と組員たちを後ろに下がらせ、しばらく刀を振っていた。
汗が頬を伝い、柄を握る力が強くなる。
相対する男の名はソリスだったか。ソリスは私の剣を何回か食らっているものの、まだ戦う姿勢をとってくる。
致命傷を与えたいところだが、流石に難しい。
私も屋敷から出る際に、浅いとは言えないほどの傷を負っているし、ソリス自体も相当な手慣れだ。
これまで会ってきた中では、上位に食い込むほどの実力者だ。
「はぁ...はぁ...」
10分は連続で切り続けていたため、流石に息が上がってきた。
「そろそろ消防車とか来そうだから、終わらせたいんだけど」
「同感ですね。直ぐにでも決着を付けたいところです」
今のところ、こちらが優勢だ。
なら、短期決着に出る...!
「ハアアアアアア...!」
「やはり早いですねぇ!」
息も吐かぬほどの連撃を浴びせる。ソリスはそれを避け切ることができていない。しかし、確実に致命傷は避けている。
攻撃は受けているのに、全然反撃してこない。この男の実力が知れない。
「反撃しないんですか」
「余地がないですよ。想像以上にあなたが強くて、勝てる気がしないですね」
真顔で言い放っている。
嘘を吐いているのか、本当に私に勝つ気が無いのかわからない。
いや、そもそも勝つ気が無いなら負けを認めて逃げるか、直ぐに切られて死ぬかの二択だろう。
そう、この男は諦めていない。
「なら、諦めて死んでください」
「それは出来ないですね。何故なら...」
瞬間、いきなり銃弾が飛んできた。予備動作も無いそれをなんとか刀で防ぐ。
しかし、再び視線を戻すと、さっきまでいた位置に、ソリスの姿は無かった。
消えた!?
「わかったからです」
「!?」
斜め後ろにソリスの姿があった。もう得物が脇腹付近まで来ている。
いつの間にそこに...!?
「くっ!」
金切り音が響いた。
何とか刺されなかったが、少し抉られてしまった。
しかし、傷を気にしている暇はない。次から次へと攻撃が飛んでくる。
そこで、この男の獲物の正体がようやくわかった。針だ。両手にある鉄針を武器として使っている。
これが小さいため、相当避けづらい。それに、戦い方が未知数だ。
「読み切っていますよ」
そう言いながら、鉄針による攻撃が早まる。
リーチはこちらの方が上だ。距離さえ取ることができれば良い。しかし、不思議と距離が取れない。どれだけ下がろうがついてくる。
「くっ...!」
「無駄ですよ。全てわかっています。あなたが次どう動くかも」
どうするのが正解だ。無理矢理にでも攻撃した方がいいか。
そう思い、刀を振り下ろす。しかし、それをなんとあの細い鉄針で受け流された。
「無駄だと言っています」
そして、瞬く間に距離を詰められる。
まずい。避けないと...!
瞬時に避ける体勢に入る。
「右」
声と共に、避けた方向から針が飛ぶ。
「左」
また避けると共に針が飛んできた。
冗談なんかじゃない。本当に全て読まれている...!
「.....っ」
そしてとうとう、針が腕に深く刺さった。
「先程までの攻撃で、あなたの行動パターンは全て熟知しました。先は勝ち目が無いと言いましたが、それを訂正しましょう」
ソリスはそう言うと、腕から針を素早く抜き、そしてまた、消えた。
「今は、あなたに勝ち目が無い」
「なっ!?」
また現れた。そして、反応が遅れる。
「何度も言うようですが、あなたの動向、弱点は全て見抜けています。いい加減、死んじゃってください」
鉄針が次から次へと飛んでくる。早いし変則的だ。それに、何故だか避けにくい。変則的だから、というわけではなく、根本的な避けにくさがある。そのせいで、脇腹や腕が度々刺される。
どうしてここまで読まれているのか。
...癖、か。私の体に染みついた癖を把握して、攻撃や回避、そして接近に使っているのか。先程、武器も取らずにただ攻撃を受けていたのは、その癖を読むため。
なら、1つ手がある。
「ハアアアアアア!!!」
勢いよく、そして素早く振り切る。
それをソリスは冷静に避けた。
そして距離が開いたため、再び詰めにくる。
...ここだ。
「何ッ!?」
私の脚がソリスの脚にかかる。
案の定いきなり現れたが、現れる場所が読めてしまえば、どうってことはない。
バランスが崩れたところを、刀で追撃する。
「クッソ!!!」
どうにかして刀を避けようとしているが、流石にその姿勢からは無理だ。
そして、刀が肩口から左腕を大きく裂いた。
「グアアアアアアアアア!!!」
慟哭が響く。
「何故!完璧だった...はずだ...!!!」
「癖を読んでいたのでしょうが。癖を読んでいることを読まれているとは、気づかなかったそうですね」
血振をした後に、トドメを刺すべく近づく。
「癖を読んだ位じゃ勝てません。私が一番私の癖を、弱点を知っています。私は昔から不器用で、生まれつき体が少し右に偏っていますので、いつも初動は右に動いてしまう。攻撃も右から、そして重心も右にずれるので、構えた刀も少し右にズレてしまうんです。故に右側に死角が生じて、いきなり現れるようなことが起きる。そして、左からの攻撃に反応しづらいというのもありますね。あと、集中力が高すぎるので、1つに集中し過ぎてしまう節もあります。お陰で銃弾を切れるほどにまで成長しましたが、あなたみたいに逆に利用されてしまう時が時々ありますね」
ツラツラと喋った後に、首に刀を当てる。
「私が一番私を熟知しています。舐めないでください」
じゃないと、師匠も美月も越えられない。
介錯のために大きく刀を振り下ろす。
その瞬間、ソリスが微かに笑った。
「まだ、終わりませんよ」
そう言って、私の顔に血を飛ばした。
「っ!?」
見えない。しかし、ここで止まればやられる...!
「ハアアアアアアア!!!」
「おっと」
避けられた。
見えない。何処にいる。
静寂が辺りを包む。近づいてきているか、遠くで様子を見ているか、それとも逃げたか、出血で死んだか。
それすらもわからない。
冷静になれ。
そっと息を吸い、そして吐く。
考えるな。集中しろ。
風の音、炎の音、自分の鼓動、刀が動く金属音、遠くで鳴るサイレンの音、その雑音を踏み分けた先。
右斜め30度程後ろから、地を擦る音と、乱れた吐息。近づいてきている。
3。
2。
1。
.........ここだ。
刀を振り切る。
「...」
「ガッ......」
見えないが、恐らく手応えから、首だ。首を切った。
「大斗さんほどではありませんが、気配は感じ取れますので。では、安らかに」
落ちた首にそう告げると、私は叔父様の元へ駆け寄った。
「こっちだ。火花」
見当違いの方向へ走ったようだった。私は直ぐに声のする方へ方向転換した。
「座れ。水で洗い流す」
「ありがとうございます」
座って顔を上げると、水が降ってきた。
「私たちのためによくやった火花。お前の師匠も喜ぶ」
その言葉に呼応するように、他の組員たちも私のことをたたえた。
「当然のことをしたまでです。皆様を守ることができて、良かった」
目の周りの血が流されて、視界を取り戻すことができた。
目を開けるとそこには、脚から血を流す叔父様の姿があった。
「大丈夫ですか?」
「ああ、私は問題ない。直ぐに救急車も来るだろうしな。それよりお前は」
「私も問題あり...」
瞬間、視界が揺らいだ。
なん...だ...?
「ま...せ...」
「まずい!針に毒を仕込んでいたか...!耐えろ火花!」
叔父様の心配する声が聞こえる。他の組員たちも私を呼びかけている。
その声がドンドン遠くなる。
そして、何も聞こえなくなった。
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