第42話:嘘
「ただで死ぬわけねえだろ...!かかってこい!!!全員返り討ちにしてやる!!!」
4人の構成員と俺が対立している。
銃を撃たれたら一たまりもない。ここは一気に距離を詰める...!狙いは真ん中の男だ!
そう決めた瞬間、俺は前傾姿勢をとり、狙いの相手との距離を一気に詰めた。
「...」
しかし、相手は驚きもせずに俺のナイフを冷静に対処する。
「かかってこい」と息巻いたものの。
「グッ...!」
普通にキツイ。
数は1人奇襲で減らしたが、まだ4人もいる。4人と言っても、前まで戦ってきた半グレたちとは格が違う...!
連携も取れてるし、戦闘慣れしている。恐らく俺よりも場数を踏んでる奴らだ。1人1人の戦闘力も高い。
「クソッ」
中々ナイフが当たらない。かといって、当たるまで1人に固執していると、死角からもう1人が突っ込んでくる。
汗が頬を伝う。疲れてきた。
しかし、道幅が広いし、相手の統率も取れているため、距離を取ってはダメだ。銃で撃ち抜かれる。取るなら遮蔽の裏だろう。
いや、それもダメだ。実に弾が当たっちまう。
やはり、近距離を保ち続けるしかねえ...!
クソッ!焦るな!落ち着け!
「フンッ」
「ぬお!?」
構成員の男のナイフが頬を掠めた。
「ヤバッ」
後ろから、ナイフが飛んでくる。それもなんとか避けたが、今度は銃口がこっちを向いていた。
「ちょ、っと!」
それもなんとか避けた。今のところ、第六感のお陰で助かっている。こんだけ高頻度で発動しているのは、修行の成果か、はたまた当たれば即死の攻撃が多いから、いつもよりも体が危機を感じ取っているのか...。多分、後者だろう。
つーか、ヤバい。これは死ぬ。
多対一は1人ずつやるのが基本だが、分断なんてできない。休憩する場所もなければ、下がるための遮蔽もない。体力も持たなければ、脚の傷もバカになっていない。
体力の限界が、命の終わりだ。
「...」
どうする?
今は、避けるのに手一杯だ。なんなら、もう避けることすらままならない。深い傷を、腹や腕に負っている。そもそも、脚に銃弾を受けている時点で、全部を避けるなんて無理な話だったのだ。
焦るな。焦れば死ぬ。
そうだ。
視野を広くしろ。火花さんに言われた通りにやるんだ。
多対一なんて、尚更視野を広くして戦うもんだろ。何やってたんだ俺!何を学んだんだ...!
視野を広く、状況判断を的確に。そして、直感を研ぎ澄ませ...!
極限まで、集中しろ...!!!
「!?」
何だ?頭が冷静だ。さっきまでの焦燥感は何処に行った?脳内がとてもスッキリしている。真っ白、ではなく、スッキリだ。脳には多量の情報が流れてきているのに、全く渋滞していない。全てを綺麗に、そして正確に演算している。
そしてそれによって、次はどう動けば良いのかが、瞬時にわかる。
狙いは、あいつだ。
1人がナイフを頭目掛けて振った。
それを、低姿勢で避ける。
その隙を突いて、もう1人が俺に膝蹴りを当てようとした。
それを、クルリと回転して避ける。
残るは狙いのこいつのみ。
俺は一瞬で懐を取った。
「なっ!?」
2人の連携の取れた猛攻を潜り抜け、3人目のターゲットの目の前まで迫ると、そいつの顔には焦りが滲み出ていた。
「...」
鈍角にナイフが突き刺さる。
そいつは何も言わずに、血だけを吐いて倒れた。
見える。ゾーンってやつか。
お陰で、最初に吹き飛ばした奴が、銃をひっそりと構えているのも見えた。
俺は転かした奴の手を引っ張ると同時に、体の後ろに持っていった。
「何...!?」
すると、吹っ飛んだ奴が放った銃弾が、もう1人に当たった。
さあ、後は3人だ。
まず、吹き飛んだ奴はこれ以上動かれると厄介なため、早急に銃殺する。
残り2人。
しかしどうにも、2人は冷静に見える。これだけ殺したのにも関わらず、焦っていない。
他の奴も、やられるとわかった瞬間は流石に焦っていたが、現状に対しては一切焦りを感じていなかった。
余裕があるのか。なら、その余裕はどこから生まれているのか。
...いや、今は考えない方がいいだろう。目の前の2人に集中だ。
視野を広く。
そうして、再び突っ込もうとした瞬間。
「っ!?」
脚に激痛が走った。
クソッ!アドレナリンが切れたか...!
「死ね」
2人は銃を構える。
俺からの攻撃は間に合わない。ただ、構えている状態の今なら、なんとかギリギリ避けられる。
「グゥッッッ!!!」
しかし、俺は避けなかった。いや、避けられなかった。
銃弾は2発、肩と左腿に当たった。
「や...ばいな...」
大量の血が滴る。
何故、避けなかったか。
弾道に実がいたのだ。避けたら実に直撃していた。
こいつらは、俺が実を守る人間だということを見越していた。
「油断出来んからな。こっから撃って殺す」
「頑張った方だ。楽になれ」
2人が銃口をこちらに向けた。
まだ、なんとか動ける。ただ、戦うのは無理だ。
俺たちの使命は生き残ること。実も俺も、両方生きて帰らないとダメだ。あいつらの作戦どおりになってしまう。
ここで戦えば、俺は死ぬし、実も失血死するだろう。
最善の手は逃げることだ。
動くことができるなら、根性見せろ!持ってくれ!俺の体!
「ウオラアアアアアアアアアアア!!!」
走って、実の体を再び抱く。
銃弾が2発飛んできた。
1発は掠めたが、2発目は脇腹に当たった。
「...!」
転けそうになるが、ここで転べば死ぬ。
俺は痛みを堪えながら、シルバーに向かって走った。
「もう...少しだ...実...」
銃弾がまた飛んできた。
なんとかそれは当たらずに済んだ。ただ、もう限界だ。
距離的に、後1発でも撃たれれば、終わる。
視野を広く保て...!あと、もう少しだ...!
「!?」
その時、強烈な違和感を覚えた。
直感だ。何かがおかしい。何だ?
あ。
わかった。
実だ。相当な量の出血をして、随分と時間が経っているのに。
呼吸が安定してい...。
「ガハッ...」
喀血と吐血がとめどなく口から溢れる。
下を見ると、腹のど真ん中に、深々とナイフが突き刺さっていた。
危険信号が脳から送られ、体がそれに反応するよりも先に、やられてしまった。
もう、ダメだ。
意識が朦朧とし始め、地面に倒れてしまった。
「どう...して...」
俺を見下ろす影に言う。
「みの...り.........」
目の前が真っ暗になった。
ああ、やられちまったか。もう、流石に生きられねえかな、これ。
「ごめんなさい、大斗...ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい...!」
最後にそんな声が聞こえた気がした。
「遅いですよ、コードネーム、フィクタ」
「もっと早くに殺せましたよね。そのせいで3人死んでしまいましたよ」
2人の男が実に近づいた。
実は血塗れだが、平然とその場に立っている。
「...ごめん。確実に殺せるときを狙いたくて」
そんなことを言って、誤魔化しているが、手は震えたままだ。
1人の男はその様子を見て、鼻で笑った。
「やっぱりあなたは嘘吐きですね。それはそうと、朝霧大斗は生命力が高いので、まだ死んでないかもしれないです。なので、とどめを刺してください」
「わた...しが...?」
「はい、あなたの仕事ですので。まあ、恩人を裏切って殺すのは辛いでしょうが、組織に再び入るためには、これまでの逃亡を帳消しにするほどの信頼が必要です。これはその信用を得るための作業ですよ」
男はそう言うと、銃を実に渡した。
実の手が震える。目には涙が浮かんでいた。
「ごめんなさい......ごめんなさい...ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい...!!!」
号泣しながら引き金に指をかける。
「......ごめんなさい、大斗」
銃声が閑散とした路地に響いた。2発分の、銃声が。
銃弾は、2発とも2人の男の頭を正確に貫き、絶命させる。
「だ、誰!?」
撃たれた方向は、暗く狭い路地裏。そこから、足音が近づいてくる。
実は銃を構え、息を深く吐いた。
「死んで...!」
引き金を引く。
その瞬間、足音が一気に迫る。そして銃弾は、迫ってきた何者かによって、あらぬ方向に放たれてしまった。
その女は、左手で実の右手にある銃を掴み、右手で実の喉首にナイフを突き立てていた。
月明かりが路地を照らすと、その人物の正体が明らかになった。
2人は驚きもせず、ただ互いに悲しい顔を浮かべ、睨みつけていただけだった。
そして、同時に口が開いた。その声は、深い悲しみと静かな怒りが混ざった声だった。
「虚...!」
「実...!」




