第40話:始まりは突然に
*不定期更新です。基本13時に更新してます。
「では、またお会いしましょう」
高橋さんが少しやつれた顔をしながら、車に乗って去っていった。
「なんか、疲れてたな」
「そうだねー」
話があると言っていたが、それで疲れたのか。
美月と共に屋敷の中に入る。
こいつは今日ここで泊まるらしい。3日後に作戦となれば、まあここにいてもらったほうが良いだろう。
それより、さっきのことだ。
俺の考えが正しいなら、こいつはいつから実のことが怪しいと思っていたのだろうか。重蔵さんに言われていた時からか、はたまた、救出後か。救出前は無いだろう。それがわかっているなら、実のことをもっと警戒していたはずだ。
何にせよ、こいつのこと、少し侮っていたのかもしれない。底知れないものを感じる。
「3日後頑張ってね。あ、あと、ちゃんと実の動向は逐一チェックしないとね。でもまあ、一之瀬組の誰かが見張っててはくれてるけどねー」
「そ、そうか」
用意周到だな、マジで。
「何か疲れたなー。お腹も空いた...し...」
「?」
ホワイトの動きが止まった。
何があったんだ?と思い、ホワイトの前方を覗くと、俺の動きも止まった。
「美月か、久しいな」
目の前にいたのは、サンドラさんだった。
サンドラさんは名前を呼ぶと、俺たちの方に近寄ってきた。
や、やばい。あの情報言わないと死ぬ...!
「あ、あの、サンドラさん!」
前に出ると、サンドラさんは「何だ」と言って、見下した。
「ま、間宮良吾のことですが、内のメンバーの、虚ってやつと2度交戦してました!えーっと、虚との戦闘時に3階から飛び降りたと言っていましたが、生死は確認できていません。奴は、クロウから依頼を受けた組織に顔を出しています!もし生きているなら、そいつらを辿れば見つけられるかと...」
必死に説明するも、俺を見下す冷徹な瞳は依然変わらない。
「あの騒動があったんだ。死体があれば報道されるだろうが、あいつが死んだなんてニュースは一度も無い。それに、あのバカがそんなんで死ぬとは思えない。その組織の情報を言え。すぐにでもぶち壊す」
「は、はい!」
俺が言おうとすると、ホワイトは震える声で「大斗くん」と呼んだ。
「ここで言ったらダメだよ。実に聞かれてるかも」
「た、確かに」
「この人は信用できるから、作戦時の戦力になってもらおう。でもまさか、いるとは思ってなかったよ」
ホワイトがめちゃくちゃビビってる。
珍しいけど、こんなん誰でもビビるわ。
つーか、こいつはサンドラさんのこと知ってんのか...?
「師匠、話は別室でしましょう。聞かれたらまずいので」
「し、師匠!?サンドラさんが!?」
「私だけじゃないよ。日暮も虚も裕樹も、みんなサンドラさんから色々教わってる」
マジかよ...。知らないことだらけだわ。
「何でも良い。場所を変えるならさっさと行くぞ」
俺たちはサンドラさんを連れて、家の前に出た。
「では、話します」
「待て」
ホワイトが話そうとすると、サンドラさんは静止させた。
すると、ホワイトは覚悟を決めたような顔を浮かべて俺の方を見た。
「大斗くん、目を瞑ってもらえるかな。あと、これから起きることに突っ込まないでね。大斗くんが痛い目に遭うから」
「は?どういうことだよ」
「良いから」
謎に語気を強めて言い放つホワイト。
俺はそれを渋々承諾すると、目を瞑った。
なんだってんだよ、マジで。
「美月」
「はい」
声しか聞こえないが、剣呑な雰囲気っていうのは伝わる。
「お前、これまで色々ヘマをやらかしたそうじゃないか。終いには依頼者も殺した、と」
「...はい」
「それについては、一之瀬のジジィとは話がついたそうだが、あたしとの話はまだついていないな。ま、話すつもりはないが...」
「わかっています」
「だろうな。お前とはシルバーを再結成するときに約束したからな。もし失敗したら...」
その瞬間、バシンという大きな音が鳴った。
それには思わず俺も、目を開けてしまった。
開けた視界の先には、暗い顔で地面に尻餅をついたホワイトの姿があった。
頬が腫れている。
「ちょ、ちょっと、それは流石に」
「大斗くん...!」
「だって、お前...!」
「良いの。約束したのは本当だし。私も私なりのケジメをつけないといけない」
その言葉に、何も言い返せなかった。
「ガキ、やり過ぎだと思ったか?」
サンドラさんが俺の頭をがっちりと掴んで睨みつけた。
「失敗を繰り返し、結果依頼者が死んで、そのケジメにビンタ一発食らわせて、それに対してやり過ぎだと思ったのか?」
「それはっ」
「甘いことを吐かすな。人間誰しも失敗をするし、その失敗を繰り返すもんだ。だがな、裏で生きる奴らの失敗ってのはは、誰かの死を意味するんだ。それを繰り返すようなバカが存在して良いわけないだろ?失敗して死んで、また失敗して死んで、そんなのただの死神だ。でも、人間ってのは失敗を繰り返す生き物だから、どうしてもやっちまうことがある。なら、どうすれば良いか」
顔が近づく。
「単純なもんでな、失敗に痛みを加えれば良いんだよ。そうすりゃ失敗して人が死ぬことが無くなる。だって痛いのは嫌だろ?」
「...」
「本来なら、お前にもやってやりたいところだが、残念ながらその約束をしたのは美月だけだ。許してやる」
そう言うと、サンドラさんは俺の頭から手を離し、顔も離した。
言いたいことはわかるし、もっともだろう。でも、俺はこの人が苦手だ。一番苦手かもしれない。怖いし。
「さあ、話せ。今、あたしは機嫌が悪いんだ」
「話します」
腫れた頬を押さえながら、ホワイトは立ち上がった。
大丈夫かよ...。
痛みを抑えながらも、ホワイトは全てを話した。
「なるほど、ガキにしては良い作戦だ。そうだな...。ガキの作戦に乗るのは癪だが、乗ってやる。お前の護衛も1つの目的だし、バカの間宮がその組織にいるなら、やる価値はあるだろうからな」
「あ、ありがとうございます」
ホワイトが頭を下げた。
この人、怖いし苦手だけど、物分かり良いし、意外と協力してくれるんだな...。
この人が参加するってことは、連れてきた屈強な傭兵も参加するということだろう。正直、頼もしい。
「で、もし実がスパイだったらどうするんだ」
「捕らえます」
そう言うと、サンドラさんは強い眼光でホワイトを睨みつけた。
ホワイトはそれでも、目を背けることはなかった。
「フン、それを言えるうちはまだ安心だな」
意外な言葉だった。
てっきり、仇なすものは殺せと言うかと思ったが...。
「護衛対象の内1人を殺すわけにはいかないしな。ま、痛めつけてはやるが」
サンドラさんは拳を鳴らして、タバコに火をつけた。
「高橋にも伝えておく。私はこれからバカ2号を探しに行く。おい、行くぞ...!」
そう言うと、背後から傭兵が出てきた。何処にいたんだよ...。
てか、高橋さんと知り合いなのか。と考えると、高橋さんが話してた相手って...。
そりゃ、疲れるわな...。
まあともあれ、これで戦力が増えた。ありがたいことだ。
3日後の作戦、気を引き締めねえとな。
その日の夜。全員が寝静まった頃。
一之瀬邸の前の門番が全員音もなく倒れた。
代わりにそこに立っていたのは、どこかの制服を着た若い男女と、大柄の男。そして、不気味な微笑みを浮かべる女だった。
「いやあ、夜の戦闘とかひっさしぶりだわー!米軍にいた頃を思い出すなあ!ハッハッハ」
「黙ってください。聞かれたらどうするんですか」
「それはそれで良いんじゃない?ソリス君が硬すぎなんだよ」
「あなたはもっと緊張感を持ってください、ジョン」
「ヘイヘーイ」
「フフ、賑やかで良いですね。でも少し静かにした方が良いですよ」
女がそう言うと、メガネをかけた男、ソリスが頭を下げ「申し訳ありませんでした」と謝った。
「いいんですよ。さ、行きましょうか」
12人の人間が、一気に音もなく屋敷の敷地に入る。
そして、ある程度踏み行ったところで、何かを構えた。
「この辺でいいでしょう。皆さん、ピンを抜いてください」
女が指示し、一斉にピンを抜き、投げつける。
その瞬間、大きな爆発が起き、屋敷が一気に燃えた。
燃える屋敷の炎は延焼を続け、瞬く間に広がっていった。
その景色を見て、ジョンと呼ばれた男は、ただただ笑った。
「さあ!久しぶりの戦争だあああ!」
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