第38話:情報共有《前》
*不定期更新です。基本13時に更新してます。
長くなってしまったので、前後編に分けています。
病院までの道中、俺は先ほど言われた言葉を思い返していた。
ずっと、新倉重蔵は一之瀬組の人間だと思っていた。しかし、実際は十文字組の組員だった。
十文字組は富岡町にある、老舗の極道組織だ。そして、富岡町は暴動が起きた現場だ。極道は昔から悪の代名詞のような存在。
警察も富岡町が十文字組のシマであることは知っているはず。
となれば十文字組は、そしてそこにいる重蔵さんは...。
漠然とした不安感が脳を支配する。
「着きましたよ。帰りにまた来ますからね」
そんなことを考えていると、どうやら病院に着いたみたいだ。
「行こっか」
「おう」
俺たちが車から出ると、高橋さんは車を発進させた。
「高橋さんは来ないんだな」
「誰かと話があるからって」
何だ、用事があるのか。
俺たちは窓口まで歩き、面会の手続きを終えると、裕樹先輩のいる病室に足を運んだ。
「お邪魔するよ」
ホワイトがノックした後にドアを開けると、そこには既に3人がいた。一之瀬組の護衛は、既に撤退している感じだった。
「よぉ、久しぶりだな。いやー死にかけたぜ」
冗談めかしに、ベッドの上の裕樹先輩は言った。
「まさか、後輩に助けられるなんてね。こりゃ痴態メガネって言われてもしょうがないわ。言ったら怒るけど」
日暮は動けるようで、この病室まで歩いてきたらしい。ただ、椅子にもたれかかるように、松葉杖が置いてあった。
「早く退院して、実に会いたい」
虚はもう平気そうだ。元気そうで良かった。
しかし、そんな虚の発言を聞いて、ホワイトは一瞬暗い顔をした。
何だ...?
「みんな無事でよかったよ」
「本当に良かった...!俺、ずっと心配してたから...」
そう言うと、裕樹先輩と日暮は互いに目を合わせて笑った。
「ハッ!死なねえよ!まあ、ちょっとビビりはしたけどな...。感謝してるぞ。お前のお陰で今ここでお前らに会えてる。ありがとう」
「裕樹先輩...!」
「本当に、本当にありがとう、大斗。あそこで死んでたら、私多分悪霊として出てたよ」
「日暮...!」
感謝されるのが久しぶりからか、それとも、認められた気がしてなのか、また涙が出てきた。
「良かったね、大斗くん。さ、本題に行こうか」
ああっと、そういえばそうだった。裕樹先輩が集めた情報を話す会だった。
「ああそうだったな。まあ、ここでは話せなねえから、人がいないとこで話すか」
「動けるんですか?」
「ああ、まあな。バレたら怒られるけどな」
そうして、俺たちは人のいない屋上に辿り着いた。
「ここなら大丈夫だな。じゃ、話すぞ」
裕樹先輩は俺たちの前に立ち、話し始めた。
「あの時、一之瀬組長に言われて、時間も惜しまずすげえ調査したよ。なんせ相手はクロウだ。情報屋仲間も信用出来ねえし、情報統制もえげつない。ハッキリ言って独自調査じゃ無理だ。だから、最終兵器を使った」
「最終兵器?」
俺が問い返す。他のみんなはなんだかわかっている様子だった。
「俺の親父とお袋だ。情報料はクソ高えけど、なんとか家族割引で買えたよ。つーか、俺も手伝わされたんだがな」
裕樹先輩の親って情報屋なのか...。息子がいるシルバーには加入しないのか?と少し思ってしまう。まあ、家族のことはあまり突っ込まないでおこう。
裕樹先輩は少し悪態をついた後に続けた。
「ま、そのクソ辛い調査の果てに幾つかわかったよ。先出ししてる情報もあるが、まあわかったことは全部話す」
「頼んだよ」
「まず、前にも言ったが大斗や実を狙ってるのは、厳密に言うと、クロウじゃない。クロウから依頼を受けた組織だ。そいつらはクロウの傘下には入ってないっぽい。奴らの組織名とかはわからんから、便宜上『羽』って呼ぶことにする」
羽。
俺が戦ったあの女も、名取家を護送するときに襲撃したのも、半グレ使って俺たちを襲ったのも、俺が最初に死にかけたのも、羽の仕業って感じか。
「羽はいつ設立されたかもわからない犯罪組織だ。構成人数は20人くらいの超小規模。構成員を本部から輸入して使ったり、半グレに銃を流したり、半グレを操ったりするのが、今のところの主な活動だな。中心拠点は、実が幽閉されていたところだが、話を聞くに、フェイクをつかまされたか、拠点は元々捨てる気だったらしいな。で、今は多分どっかに移り住んでる。俺は寝てたからそれがどこかはわからない」
「捨てる気だった?」
虚が疑問を投げかける。
「ああ。お前は知らないかもしれないが、俺たちが実を救出しに行ったとき、違和感を感じた。実の救出を阻止しようとしているのではなく、ただただ、妨害、時間稼ぎをしようとしている感じがあったんだよ。現に実の身柄も、戦いに勝ったらすぐ諦めたらしいしな。実を死ぬほど追い続けたやつらにしては、少しおかしくないか?まるで、俺たちが拠点に来て、実を解放すること自体が、1つの作戦のようにな。普通拠点バラさねえし、来ないようにするだろ?だから、元から捨てる気だったか、関係ない建物をフェイクとして使ったかって話だ」
確かにな。
で、そのついでに俺を殺そうとしたと...。あわよくばの精神だったのだろうが、相当危なかったぞ。
「んでまあ、さっき言った通り、俺たちがあいつらの拠点に入り、実を救出するまでが、羽の作戦だとしたら...」
ドヤ顔で含みのあるセリフを言ったが、いまいちピンと来ない。ホワイト以外はそんな感じだ。
逆に、何でこいつわかってそうな顔してんだ?今の説明で含みの部分を読解出来るとこあったか...?
「すまんすまん、話の順序をついミスったわ。先に羽の構成員について話せば、わかるかもな」
「本当にわかるの?あんた昔から頭は無駄に回るくせに、話は下手よね。逆に珍しいわ」
日暮がツッコむと、裕樹先輩は「うるさい」と言って、話を続けた。
「わかっている羽の構成員は5人。まあ、詳しくはわからんかったけど、とにかくどれも主戦力級の奴らだ」
そうして、5人の説明をし始めた。
1人目は、ジョン・リード。36歳。元アメリカ軍の男であり、相当な実力者。筋骨隆々で、銃の腕もさることながら、近接戦闘も一級品だそうだ。あと、この中で一番素性が割れている。
2人目は、岸辺美波。18歳。元々は家出少女だが、羽に拾われたらしい。見た目は金髪のギャルっぽい女と聞いた。それ以外は不祥。
多分、こいつは俺と戦ったやつだ。こいつは暗器を駆使して戦う、近接戦闘に特化した女だ。
そして、3人目の説明を聞いたとき、俺の背中に悪寒が走った。
「3人目は、間宮良吾。43歳。間宮は、羽ではなくクロウの構成員だが、今はハブ役兼戦力として羽に顔を出してる。こいつは元々ベルフィールド傭兵団に所属していた男だ。腕の立つスナイパーとして各地の戦場を駆け巡っていたが、ある時、クロウに引き抜かれた。護送作戦と、実救出作戦で虚が戦った相手だな」
「なんかいっつも邪魔するめんどくさいやつ。死んだと思うけど...」
虚が珍しく辟易とした表情を浮かべた。
「傭兵団時代は『アンデッド』と異名が付いてたくらいにはしぶといらしい」
「...お願いだから安らかに眠っててほしい」
虚にそう思わせる程の実力者か。中々強いな...。現に、怪我も負わせてるしな。
いや、それはどうでも良い。どうでも良くないが、こっちのが大事だ。こいつ、サンドラさんが追ってた奴じゃん...。虚と戦ってたやつだったのかよ。知らねえよ...。
言うべきか?いや、話の腰を折るのも嫌だし、帰ったら密かにサンドラさんに報告しよう。ブン殴られるのはマジで勘弁だ。
「んで、こっからが重要だ。リーダーの野上風一郎。そして、サブリーダーの五十嵐灑鳥。こいつらは調査当初、名前すらわからなかったが、とある組織の一員に、羽の拠点付近の監視カメラに写ってるやつと似た人物がいることが判明してな。それがビンゴだったお陰で、ようやく素性が割れた」
とある組織...?
「野上も五十嵐も元々は、クロウ傘下の、暗殺者養成組織『ハデス』の訓練生だった。訓練生時代から優秀だったそうだ。しかしある日、数人からの襲撃を受けハデスは壊滅。生き残った人物が離散した。その離散した生き残りの内の2人がこいつらだ。その後どうなったかはわからないが、今はこうやって俺たちと敵対している」
そういう経緯があったのか。リーダー各2人が元暗殺者であり、中でも優秀だったとなれば、相当な実力を持っているだろう。
しかし、そんな強そうな組織を壊滅させた襲撃者って、何者だ...?
まあいいや。今は聞くところではない。
「ま、色々あって意外に調査は早く進んだんだが、まあ、それはどうでもいい」
裕樹先輩は、少し間を置いたのちに、神妙な面持ちで口を開いた。
「問題は、そのハデスの訓練生の中に、海堂実という人物がいたんだ。そいつも襲撃時に脱走している。そしてその後、名取健太郎に拾われたこともわかっている」
皆の表情が固まる。
「それって、つまり」
俺は、うまく回らない口で何とか問う。
そんなまさか。あり得ていい話か...?だって、それって...。
「名取実は元々ハデスの訓練生で、羽のリーダー格の奴らと接点があるってことだ」




