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ブラック&ホワイト  作者: 芋太郎
第1章:虚実編
37/80

第37話:予兆

*不定期更新です。基本13時に更新してます。

 また翌日。


 これまた俺は火花さんと手合わせをしていた。しかし、実の姿は無かった。


「ハッ!」


「うわっ」


 また一本取られてしまった。


「昨日よりは確実に実力が上がっています」


「俺もそんな気がしてます」


「成長速度が速いですね。これならすぐにでも私から一本取れるようになりますよ」


「ハハ、そうかな」


 そうかな、と言ったものの、百歩譲っても無理だろう。まだまだ歴然とした差を感じてしまう。


「少し休憩しましょうか」


「ちょっとトイレ行ってくる」


 ずっと稽古しっぱなしだから尿意がな...。

 つーか、なんで実は来てないんだよ。セコくないか?


 まあ、なんか事情でもあるんかね。


「ふぅ」


 トイレを終わらせ、稽古場まで戻ろうと長い廊下を歩いているとき、ふと、ホワイトの声が聞こえた。


 あいつ来てたのか...。


 何となく気になって、声のする方へ歩くと、亮吉さんの声も聞こえてきた。


 てことは、亮吉さんの自室か。


 少しだけ。少しだけ盗み聞きを...。


 部屋の前に立つ門番の目線が届かない位置で、耳を澄ませる。


「どうしてですか?私の父はクロウを追って来たんです。私も父の思いを継ぎたい。絶対に、もう失敗しないから...!もう一度、シルバーを!」


 その言葉を聞いた瞬間、俺の心に後悔が積もった。やはり、盗み聞きなんてするもんじゃないな。


「ダメだ」


「どうして!?シルバーのみんなも、クロウを打倒するために頑張ってくれる。協力してくれる。みんな、クロウに苦しめられた人たちなんです!シルバーだけじゃない。この世には、クロウの被害者がいっぱいいる。みすみす見逃せないでしょ...!」


「クロウの件は私たちが継ぐ」


「どうして頑なに私たちにやらせようとしないんですか!」


「お前らが子供だからだ。子供を危険な目に遭わせる大人がどこにいる」


「私の気持ちは生半可なものじゃない...!危険なのはとうに知ってる!だから誰にも負けないくらいに強くなった...!みんなの身に危険が生じるようなら、私1人だけでもやる」


 その声は、普段のホワイトが出す声とはかけ離れた、感情的なものだった。


 思わず息を呑んでしまう。


「何故、お前はそこまでクロウを追いたがる。何故、父の役目を継ぎたがる。お前はただの女子高校生だ。ただ、普通の生活を望めば良い」


「わかってるでしょ...?」


 ホワイトの声が震えた。


「私の母はクロウに殺された。だから父は復讐のために、クロウを追ってた。私が父の役目を継ぎたがってるのは、私も母を殺したクロウが許せないから。そして、無関係な人を苦しめるクロウが許せないから。大斗くんも実も、巻き込まれるような人じゃない。だから、私がこの手で」


 こいつ、そんな過去が...。


「それなら、私たちがケリをつければ良いだけだ。お前が出る幕などない。下らない復讐心のために命を賭すな」


 その瞬間、廊下に響くほどの怒声が聞こえた。


「下らなくないッ!!!母を殺された怒りは、未だに胸で燻り続けてる。そんな憎悪を、下らないの一言で済ませられない。何としてでも、私の手で奴らを...」


 その後の言葉を、ホワイトは言わなかった。


 言わなかったことに、少し安心した。言いたい言葉は大体想像できるが、言ってしまったらいけない言葉だったろう。この状態のホワイトがその言葉を言えば、ホワイトがホワイトじゃなくなる気がしたのだ。


 とにかく、こんなホワイトは初めてだ。


「あなたの許可が無くても、一之瀬組の協力が無くても、私は私の役割を全うする。それは、ちゃんとシルバーのみんなにも話す。着いてこないなら、無理強いはしない。最悪、私1人でもやり遂げる」


 言い終えると同時に、出口に向かって歩く音が聞こえた。


 マズい。この位置だと廊下を歩くときにバレる。急いで戻らねえと。


 稽古場に戻るために、立ち上がると同時に歩き出す。


 そして、歩き出す瞬間、出て行くホワイトを呼び止める亮吉さんの声が聞こえた。


 思わず立ち止まって、聞いてしまったが、やはり後悔した。


「お前の父、白井充は誉められた人間じゃない。お前が目指しているのは、ただの悪人だ。幻想を追い続けるな」


 盗み聞きはダメだ。


 本当に、聞かなきゃ良かった。そう思った。




「ただいま戻りました」


 俺が敬礼と同時に稽古場に入ると、少し不機嫌な火花さんが「遅い」と言った。


「早速稽古を...」


 なんだ?


 火花さんは発言を中断して、俺の目を見た。


「今日は終わりみたいですね」


 そう言うと同時に、俺の背後を指差す。


 振り返るとそこには、嬉々として手を振っているホワイトがいた。


「ヤッホーみんな!元気にしてたかい?」


「ほっほっほ、元気じゃの」


 重蔵さんは愉快に笑いながら、自らの髭と頬の傷を撫でた。


 元気、か。


 あれを聞いてしまっては、素直にそう思えない。作り笑いって感じがするが...。


「用があるのでしょう?その様子だと、しばらく時間がかかりそうな用事でしょうが」


「お、流石火花。流石だねー」


 流石を2回言うところはやはり、流石と言わざるをえない...。


 くだらない。


「今日は、めでたい報告があるんだよ」


 腰を屈めて、上目遣いで俺に言ってきた。


「勿体ぶらずに言えよ」


「裕樹と日暮が目を覚ましたよ。あと、虚も回復が早くて、もうちょっとで退院出来るかもって」


 その報告を聞いた瞬間、何故か脚に力が入らなくなり、その場で膝立ちしてしまった。


 そして、目から水がとめどなく溢れてきた。


「あ、あれ」


 そんな俺の様子を、みんなはどんな顔で見ていただろうか。


 とにかく、安心した。心に積もった灰が、ようやく消え去った。


 良かった!本当に良かった...!本当に...。


「よがっだぁ」


「ちょっと、気持ち悪いよ」


 ホワイトは苦笑いを浮かべながら、ハンカチを渡した。


 俺はそれを受け取って、涙を拭う。


「そして、今から病院に行きます!」


「ああ、お祝いしねえとな」


「ノンノンノン」


 ホワイトは指を3回揺らした。


「あの騒動の前、裕樹と会う機会少なかったよね?実は、血眼になって情報をかき集めてたらしいんだ。そこで集めた情報を、今から聞きに行く」


 ああ、なるほど。


 興が冷めたみたいな気分に一瞬なりかけたが、よく考えれば、それも凄いことだ。


「てことで、今から病院へGO。高橋さんが車出してくれるから、それに乗ってくよん」


「わかった」


 稽古場を出ていく。


 すると、重蔵さんがおもむろにホワイトに耳打ちをした。


 何だ...?


 そして次に、俺の肩を叩いた。


「達者でな」


「はい...?」


 本当に何だ...?


「じゃあ、乗ってくださいね」


 そんなことは露知らず、高橋さんは車のドアを開けた。


 俺たちは乗り込む。


「さっき、何話してたんだ?」


 俺はホワイトに耳打ちすると、当の本人は「んー?」と言った後に「まあ、病院でその話もすると思うよ」と言った。


 病院でするなら、まあ良いか...。


「いや、本当に目を覚ましてくれて良かったです。皆さんもご無事で、本当に...!」


 高橋さん。そういえば、ホワイトたちに武器を渡してくれたんだったな。その後、特に誰とも戦わず、そのまま実がいた廃ビルの前で待機していたらしい。


「高橋さんこそ、無事で良かったです」


 そう言うと、高橋さんは「いえいえ」と言った。


「それにしても、大変なことになりましたね。富岡町での暴動。連日ニュースになってますよ。大丈夫ですかねぇ、()()さん」


 意外な人物の名前が上がった。何故...?


「何で重蔵さん?」


 俺がそう言うと、隣のホワイトが「言ってなかったっけ」と言った後に、こう続けた。


「重蔵さんは、十文字組の人だよ」


 え。




 その部屋には、2人の老爺がいた。


 1人は頬に深い傷がある、白髭を蓄えた男。もう1人は、右腕を損失した、覇気のある男。


「新倉、大丈夫なのか」


 一ノ瀬亮吉が問うと、新倉重蔵は自嘲気味に「ハッ」と笑った。


「大丈夫なわけあるか」


「富岡町での暴動。大部分の利権を持ってるお前ら十文字組にとっては、痛手だな」


「痛手も痛手じゃよ。お陰様でお上さんに目を付けられちまった。お前らがやったんじゃねえかってな。自由も効かねえシノギも出来ねえ。終わりかね...」


「このやり方、十中八九クロウの仕業だろうな」


「ふざけた真似しおって...」


 重蔵は緑茶を啜ると、ゴトンと机に置いた。


「とうとう十文字組も終わりが見えてきた。儂もその覚悟は決めておる。ただ、一ノ瀬、お前の組が心配だ」


「...」


「一之瀬組と十文字組は同盟を結んでおる。その同盟で、富岡町の利権の一部も、お前たちに譲渡してる。一部だったから、直接的な被害は少なかったかもしれぬがな...。次の標的は、一之瀬組かもしれぬぞ」


「わかってる。私たちは私たちで対処する。お前はお前の心配をしろ。なんなら、協力もする。利権の一部を渡す代わりに、シノギの手伝いと、抗争の手伝いが同盟の条件だったはずだ。これはクロウとの抗争だ。手伝えることがあれば、言え」


 そう言うと、重蔵の表情が一瞬暗くなった。それは、前日に大斗に見せた表情と同じだった。


「安心せい。儂らは儂らで対処する。そっちは自分のことだけを考えておればいい」


「そもそも、お前は組長じゃないだろ。勝手に決めるな」


「組長みたいなものじゃよ。ま、摂関政治って奴かの。儂が指示出して、組長がそれに従う。ただ、責任を負うのは儂の方じゃがな」


 緑茶を飲み干すと、重蔵は立ち上がった。


「そんなわけで、儂はしばらくここに来れないからの、若い奴らの世話は頼んだぞ。親バカ」


「誰が親バカだ」


 亮吉の反論を「ほっほっほ」と愉快そうに流すと、襖まで歩いた。


「新倉」


 亮吉が呼び止めると、重蔵は振り返らずに、襖に手をかけたまま止まった。


「死ぬなよ」


 言葉を受けた重蔵は、そのまま襖を開けて出て行った。


「お前もな」


 その言葉だけを残して。











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