第36話:能力と呼べるように
*不定期更新です。基本13時に更新してます。
「オラアアアアア!」
姿勢を低く保ち、火花さんの懐まで駆ける。
最初の攻撃が肝心だ。
ここで上手くやらないと勝てる気がしねぇ。
「良い踏み込みです。瞬歩の要領ですね」
もう十分近づいているというのに、火花さんは全く動じない。
ここだ。
ここからなら、リーチの長い竹刀より、短いナイフの方が小回りが効くため有利なはずだ。
貰った...!
「ですが、まだ遅い」
「なっ!?」
早い!?一瞬で距離を取られた!?
くそ!この距離は相手有利だ。至近距離を保て。着いていかねえとやられる...!
しかし、必死に着いて行こうとするが、追いつける気がしない。早すぎる。
「まず、相手の意表を突きなさい」
火花さんはそう言うと、いきなり後ろに下がるのをやめ、こちらに向かってきた。
「うおっ」
いきなりすぎて反応できねえ...!
何とか反応してナイフでガードしようとするも、遅かった。
火花さんの竹刀は、既にこちらの首を捉えていた。
「一本、です」
得意げに微笑んで竹刀を下ろす。
ヤバい。力の差がありすぎる。
「大斗さんは焦りすぎですね。これじゃ、さっきみたいに相手の思う壺です。視野を広く持ち、相手の行動を観察する。そして、そこからどう動くか、最善の策を一瞬で出して、攻撃に転じる。それができてないと、強敵相手には歯が立ちません」
そう言うと、火花さんは再び竹刀を持ち上げ、定位置に戻って行った。
「武器の強みはわかっているようですが、それを活かそうとするあまり、追いつけない相手に無策で突っ込んでしまっています。それじゃただの無謀です。いいですか?もう一度言いますが、視野を広く持ってください。格上じゃない限り、勝ち筋が見えてくるはずです」
「なるほど」
確かに、猪突猛進感があるのは否めない。視野を広く持つ。直感頼りの俺には、確かに必要な技能かもしれない。
火花さんは構の姿勢に入る。
そして、また雰囲気が一変した。
「今度は私から攻めます。上手く攻撃をかわしてください」
瞬間、消えた。
マジで一瞬だった。一瞬にして目の前に転移してきた。実際にはしてないんだろうが、転移したんじゃないかと思わせるほどの早さだ。
「マジかよ!?」
「ハァァァ...!」
凄まじい速度の斬撃が襲い掛かる。
何とか防ぐことはできたが、次から次へと高威力の斬撃が疾風の如く襲いかかってくる。
とてもじゃないけど抑えきれねえ!ていうかヤバい。次どっちから来るかわからねえ...!
「ハッ!!!」
上だ...!
何とか防げた。しかし、急所はギリギリ防げているが、他の部位は守りきれていない。実際にこれが刀だったら、多分死んでる。
火花さんの猛攻は続く。
視野を広く持て...!
「!?」
き、消えた...?
今の、今の一瞬で?
その瞬間、背後から強烈な気配を感じ取った。
後ろだ。
「フッ...!」
「そこだあああ!!!」
バチンという音が稽古場に響き渡る。
上手くいった!しかも、火花さんは少し驚いているようで隙が見える。
なら、ここで攻める...!
「今度こそ...!」
ここからなら最短で溝落ちに刺せる。
「あれ」
しかし、寸前のところまで行った途端、溝落ちが消えた。溝落ちが消えるわけない。
火花さんが、また消えたのだ。
「...」
そして、気づいたときにはもう遅かった。
火花さんの体は俺の左にあり、竹刀がまた首元に添えられていた。
「か」
勝てねえ。
そして、すげえ疲れた。
心臓の鼓動がこれまでにないくらい早く鳴り、呼吸が過呼吸並みに荒くなる。
「上からの攻撃も、背後からも攻撃も防いだ...。なるほど、噂通りですね」
火花さんは顔色を変えずに言った。
「な、何が、です、か」
一方俺は、青ざめた顔で、息も絶え絶えに問う。
「直感、あるいは第六感。日暮さんから事前に聞いていました。大斗さんには能力と言って良いほどの、鋭く正確な直感があると」
「能力、なのか」
「まあ、そうですね。能力に近い、と言った方が正しいですね。いずれにせよ、才能ですよ」
「才能かぁ。ちょっと嬉しいな。でも、日暮からはそういうの何も言われなかったな。むしろ、才能とまではいかないって」
「驕らせないために言わなかっのでしょう。実際は感じていたはずですよ」
火花さんはそう言うと、俺の様子を見て付け足すように「少し休憩にしましょう」と言った。
しばらく動けそうにもないし、助かる。
「あなたの第六感はとても鋭く正確性も高いです。それほどのものは、ほぼ能力と言っても差し支えはありません。では何故、能力に近い、と表現したのか」
火花さんはタオルを俺に渡すと、続きを話し始めた。
「まず、第六感というものは何か、根本的なものを説明します。経験を通した持論なのですが、第六感は確実に実在し、それは非科学的なものではないと思っています。相手の動き、表情、目線、癖、筋肉の変化、湿度の変化、風向きの変化。そういった情報を脳が感じ取って『第六感』というものが生まれてると推測しています。科学的に証明できるような根拠があって、第六感は生まれていると」
表情や癖、か。俺の脳は、それを知らぬうちに感じているというころか。
「根拠があるんです。証明ができるんです。それはつまり、人間の理に適っており、理論上可能であることを示している。そう、第六感というものは、実は誰でも使うことができるのですよ。実際に、あなたほどではありませんが、師匠も私も、第六感として、気配や殺気を感じる時があります。そんな誰でも使えるものを能力と呼ぶのは、少し違うと思ったのが理由の1つです」
「な、なるほど」
うん、使える人もいるんだね。ちょーっと残念かな...?いや、結構残念かな...。
でも、俺ほどじゃないって言ってたしな、まだ自信持って良いでしょ。
「2つ目は第六感の使い勝手です。先程、あなたの第六感は鋭く、正確性も高いと言いました。確かに、あなたのような第六感は普通の人なら持ち合わせていないです。例えば、先の背後からの一撃ですが、私や師匠があなたの立場にいたなら、避けられなかったでしょう。あなたが避けられたのは、その鋭い第六感があったからだと言えます」
俺の表情が笑顔になる。しかし、火花さんが「しかし」と付け足したところで、また真顔に戻った。
「あなたの第六感は博打みたいなものです。頻度が曖昧で、その力を頼るに足りません。いつ発動するかが運次第なものは使い勝手が悪いです。そんなものを能力と言って良いのかと思ったのです」
「な、なるほど」
「ですが、強力なのは変わりません。現に、急所への攻撃を防ぐことができている時点で、中々なものです。問題は発動頻度です。要は、その発動頻度を高めることができれば、能力と言えるでしょう。極論を言ってしまえば、格上相手に、無傷で勝利できるかもしれませんからね」
発動頻度を上げる?どうやって...。
「どうやって頻度を上げるか、と問われれば。まず、練度を上げる、ですかね。戦いの中で経験値を積めば、自ずと頻度も上がるかと。後もう1つ。それは、視野を広く持つ、です」
「あ」
さっき習ったやつだ。
「私の持論が正しければ、些細な変化等の『情報』が脳に行って、その情報を素材にして第六感というものが生まれています。視野を広く持つということは、単純に、情報を拾う範囲を広げるということ。より多くの情報を拾うことができるということです。それはつまり、第六感の頻度を上げることに繋がると思いませんか?」
「た、確かに...」
確かにそうだ。もちろん、火花さんの持論であり、確実にそう、とまでは言えないかもしれない。しかし、もし正しいのであれば、視野を広く持つことができれば、随分と強力なものになりそうだ。試す価値は十分にある。
「ではそれを踏まえて、再戦しましょうか」
「はい!師匠!」
そして、再開した。
しかし、その日は死ぬほどシゴかれただけで、一本も取れなかったのであった...。デジャブ...?
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