第35話:向上心
*不定期更新です。基本13時に更新してます。
翌朝。
「おーはよーーー!!!」
「グアッ!?」
何者かが腹にダイブを決めたせいで、俺の目覚めは最悪なものになってしまった。
誰かと思い、眠気まなこを擦りながら腹部に目を動かすと、そこには奴がいた。
「実」
「やあ!なんだか久しぶりな気がするねぇ」
「まったくだ」
実際にはそんな経っていないが、まああの事件以来会っては無いのは確かだ。
「そういえば、虚と日暮と先輩の容態は聞いてるか?」
問うと、実は顎に指をあて、考えるそぶりをした。
「私もまだ聞いてないよ。多分変わってないんじゃないかな」
「そうか...」
虚は俺が入院しているときに目を覚ましたと報告があった。ただ、それ以来なんの連絡も無かった。それで心配だったから聞いたのだが、こいつにも連絡は来てないらしい。
虚はしばらく入院。裕樹先輩と日暮はまだ目を覚していない。ということか。
日が経つにつれて、恐怖感が増す。
「行こうよ。今日は火花ちゃんと稽古でしょ?」
「あ、ああ、そういえばそうだったな」
暗いことを考えるな朝霧大斗。払拭しろ...!
俺たちは稽古場となる道場まで歩いて行った。
「お邪魔します」
「お邪魔しまーす!」
中に入ると、袴を着た火花さんと、その師匠の重蔵さんが立っていた。
「ほっほっほ、来たか」
「お久しぶりです、朝霧大斗さん、名取実さん」
実はシルバーの拠点にいたとき、何度か火花さんと会っている。
俺たちは適当に挨拶を済ませると、重蔵さんが奥から古びた道着を持ってきた。
「その格好じゃ動きづらいじゃろ。ほれ、これに着替えてみぃ」
そう言って、重蔵さんは俺たちに道着を渡した。
しかし、着方などわかるはずもないし、そもそも男女混合で着替えるのは気が引ける。
「実さんは私と向こうで着替えましょう」
火花さんはそう言って、実を連れて奥の部屋へ入って行った。
俺と重蔵さんが稽古場に残る。
「ほれ、今から着せてやるから、一発で覚えるんじゃぞ。まず脱げ」
言われた通りに脱ぐと、重蔵さんは道着を着せ始めた。
「ちぃっとは筋肉ついたな。あの日からえらく強くなってそうじゃ」
「お陰様です」
「儂は何もしとらんよ。強くなったのは、倅の実力と向上心の賜物じゃ」
「まあそれもあるかもですけど、重蔵さんが言ってくれた言楽のお陰でもあるんですよ」
そう言うと、重蔵さんは「何も言っとらんぞ」と首を傾げた。
「『今のままじゃ死ぬ。殺し合いの場で学べ』と言ってくれたんですよ。その後、本物の鉄火場ってのにビビっちゃって、そこで本物の死っていうを感じたんです。このままだったら重蔵さんの言う通り、死ぬのかって。当然、死にたくないので、まあまあ頑張りましたよ。と言っても、俺なんか全然ですけどね」
そう、全然だ。
まだまだ上がいる。あの時だって、金髪女が素直に帰ってくれたから助かったものの、あの後戦ってたら確実に死んでいた。
俺はまだまだだ。全然強くない。このままじゃ、自分も他人も守れない。
「だから、強くなりたいです」
「...そうか」
重蔵さんは、何故か一瞬悲しそうな顔を浮かべたが、その後珍しく真剣な顔を俺に向けた。
「倅みたいな若者が、これから重要になってくる。一之瀬組と十文字組のこと、頼んだぞ」
「え?それってどう言う」
不審な言葉に問いを返すが、重蔵さんの「ほれ、出来たぞ」という声にかき消されてしまった。
何だったんだ、今の。
「何呆けてるんじゃ?ちゃんと着方は覚えたか?」
「あ、ああいえ、すみませんまだ...」
「馬鹿者。一度で覚えろと言ったじゃろ。話に夢中になって目的を疎かにするでない!」
腰を叩かれる。
「こっちは終わったぞ!」
重蔵さんが奥の部屋に呼びかけると、奥から胴着姿の実と袴の火花さんが出てきた。
「準備は良いですね。では、これから稽古を始めます。私は大斗さんを教えます。師匠は実さんを教えてあげてください。私たちは前半分を使わせていただきますね」
そう言うと、俺と火花さんは前に出た。
「さて、稽古内容ですが、私たちは実践形式の試合を行いたいと思います。私が竹刀。貴方はナイフです。1本でも2本でも、好きな本数を使ってくれても構いません」
「私たちは?俺と実でやること違うのか」
「実さんは素人ですから、試合は行いません。あくまで基礎訓練や、基本的な護身術を教えます。私は教えが下手なので、それは師匠にやってもらいますが」
なるほど。教え下手そうだよな。解釈一致だ。
「わかった。じゃあどうやって勝ち負け決めるんだ?」
「急所となる場所に武器を当てる、もしくは寸止めをする。それか、どちらかが負けを認めれば、一方は勝ちとなります。審判がいないので当たった当たってないは、公正な自己判断でお願いします」
「はい」
「では」
ルールを言い終えると、火花さんは俺に2対の木製ナイフを渡して、距離を取った。
受け取った武器を見る。
刃は付いていないが、ずっしり重い。当たったら痛そうだが、火花さんもそれは承知の上だろう。
そもそも、当てられないと思っているかもしれない。俺も思ってる。
「準備ができたら、いつでもかかって来て下さい」
先手はこちらに渡すってわけか。
にしても。
「半端ねえな」
冷や汗を拭い、小声でつぶやく。
火花さんとは何度か会ったことはあるが、普通の真面目な女子高生っていう印象しか無かった。まあ、強いっていうのは知っているんだが。
知っていただけだった。
正面に立ち、竹刀を構えている。それだけで圧迫されるような威圧感がある。俺に対して臨戦態勢をとっているだけなのに、それだけで気圧されそうだ。
しかし、ここで止まってちゃ強くはなれない。
全ては自分のため、実のため、ひいてはシルバーのみんなのため。
俺は強くならなくちゃいけないんだ...!
「オラアアアアアア!」
意を決して、俺は火花さん目掛けて突っ込んだ。
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