第32話:憶測
*不定期更新です。基本13時に更新してます。
真っ暗な空間に俺が立っている。その先には光に包まれた記憶が広がっていた。
また夢か。
光溢れる空間に近寄る。
そこには1人の若い女性がいた。あの人は知っている。
実家が燃えた後、ある時までお世話になった孤児院の、職員だ。
村本美雪。
彼女の名前だ。俺のことをやけに気にかけていた。俺ですら知らない俺のことを知っている人だ。
美雪さんは、幼い俺の目の高さに合わせるようにしゃがんで、頭を撫でて微笑んだ。
「そのペンダントは無くさずに持っておいてね?それは大斗くんのお父さんが残した大事な大事な宝物だから」
俺はその銀色に光るペンダントを開いた。そこには亡くなった2人と俺の姿が写った写真があった。
「うん、わかった。絶対に無くさない!」
「良い子だね」
美雪さんは俺のことをいつも見ていてくれた。いつも俺の味方でいてくれた。いつも俺の知らないことを教えてくれた。
俺にとって、母さん父さんに次ぐ、3人目の家族だった。
そして、俺のせいで被害を被った3人目の被害者でもある。
それは、俺が16歳の時だった。俺はいつも通り孤児院で暮らしていた。それなのに...。
「み、深雪さ...」
「早く逃げて...!」
燃え盛る炎の中、1人の男と美雪さんは相対していた。
「その男の命が我らの望みだ。そいつを殺させろ」
男はナイフを持って、俺に近づいて来た。
「大斗君逃げて!!!」
その声を聞いた俺はは駆け出した。怖くてたまらなかった。両親を殺した炎も、自分が死ぬのも、誰かが死ぬのを見るのも、怖かった。
でも、同時に助けたかった。だからあのとき、少し立ち止まって振り返ったんだと思う。
「あの子はあなたたちに渡さない...!あの子は、大斗君は普通の子供なの!」
美雪さんは右手に何かを持っていた。それは齢16の中途半端な脳でも理解できるほどの、あまりにもシンプルでわかりやすい形をしていた。
美雪さんはソレを男に向けた。
「どんな力を持っていても、あの子は普通の子供なの...!」
「愚かな」
そこから先は怖くて見れなかった。ただただ逃げて、疲れた頃には夜が来ていた。俺はそれからあてもなく歩いた。あの後どうなったかは知らない。それに関するニュースも新聞も、話さえもしないようにしていた。俺はそれから、歩いて、学校辞めて、政府から色々援助を受けて、制度を利用して大学に入って、そして出会った。
白井美月、倉敷日暮、天海虚、安藤裕樹。
シルバーの皆と過ごしていくうちに、俺はみんなのことを家族のような関係だと思うようになっていた。
しかし、俺にとって家族と言える人間は全員死んできた。
だから、俺は怖くて仕方がなかった。
目の前で、日暮と裕樹先輩が歩いている。何かを喋っているようだが聞こえない。
「日暮!先輩!待ってください!」
もう行かないでくれ。俺から何も奪らないでくれ。
「みんな!!!」
勢いよく飛び起きる。もう一度ベッドに倒れ込むと、見知った天井があった。
またこれか。それにしても嫌な夢だった。
「あら、目が覚めましたか」
声が聞こえた方を見ると、白衣を着た女性が椅子に座っていた。芦田さんだ。
「あの、俺は...っ」
痛った!全身がいてぇ!
「あーまだ動かないで安静にしていてください。えと、大斗さんは、2日くらい寝てましたよ」
「そうですか...」
「何発か撃たれてますし、切り傷や骨折などの怪我はありますが、不思議と急所は全て外していました。なので、普通なら大きい病院で入院レベルなんですが、安全を考慮して、こっちに移ってもらったんです。集中治療の必要はないですしね」
そういうの出来るんだな。まあ、生きていてよかった。
しかし、俺は俺以外の心配をするべきだ。
「あの、他のみんなは...」
問うと、芦田さんは暗い顔をした。
怖い。聞きたくない。もう失いたくはない。
「まず、実さんについては、無事確保されました。火花さんと美月のお陰だそうです。お2人も軽傷はありますが、無事です。その場に駆けつけた高橋さんも無事です」
それを聞いて一安心した。だが、俺にはまだ仲間がいる。
芦田さんはもう一度口を開いた。今度は少し躊躇うように。
「虚は肺に肋骨が少し刺さっていましたが、大事には至っていません。ただ、まだ目が覚めていませんし、しばらく入院が必要です。恐らく一ヶ月以上はかかると思います」
虚。あいつが一番実のことを救いたかったはずだ。生きていてよかった。本当に。
「次に...」
芦田さんが言い淀む。
「次に、裕樹と日暮のお二人ですが、今は、その、危ない状態です」
「危ない...」
「はい。救急隊員が駆けつけた時には、既に出血量が多くショック死寸前でした。何とか一命は取り留めたものの、無事生き返ることができるかどうかは、2人の生命力次第です。生き残ったとしても、後遺症が残る可能性があります」
「そう、ですか...」
後悔が心に積もる。
あの時、もっと早く裕樹先輩に忠告していたら。もっと早く止めることができたら。もっと早くあの女と決着をつけることができたら。
あの2人は俺の隣で眠っていたかもしれない。
「クソっ...!」
言い知れない怒りが滲み出る。
「これからのことを少しお話しします」
そう言うと、芦田さんは俺が眠っていた時のことと、俺たちのこの先についてを話し始めた。
夜。
俺は眠れなかった。痛みもあるが、それ以前の問題がある。メンバーの心配もある。それに加えて、先の話のことも心に圧を加えていた。
一ノ瀬組組長、一ノ瀬亮吉の命によって「何でも屋シルバー」の行動が制限された。制限内容は「暗殺やクロウの調査、及びそれに準ずる裏社会とクロウに関わる依頼の受諾やその行動を無期限の禁止とする。例外として、一之瀬組、十文字組との関わりは良しとする」というものだった。
要は俺たちは何も出来なくなったということだ。
さらにそれによって俺と実の住所が変わった。一之瀬組の屋敷が俺と実の住む場所になったのだ。
これまで通り、美月の学費も虚の学費も払われるし、俺たちのことも守ってくれる。入院している虚たちも守ってくれるそうだ。そして、クロウの調査は一之瀬組が引き継ぐらしい。俺たちは調査も依頼も受けず、ただ、一之瀬組にお世話になるだけ。危険もなく、楽になる。
元より、依頼の大半は一之瀬組による、この町の警護だった。たまに何か他の場所から依頼があっても、一之瀬組の斡旋によるものだったし、ほとんどに一ノ瀬組が関わっていた。
日々の依頼もそうだし、車を手配したのも、高速を通行止めにしたのも、実探しで尽力したのも、一之瀬組だ。
俺たちは、半ば保護者同伴の元、依頼をこなしていた。
まさに優遇といったところ。
だが、これを聞いたホワイトはどう思っただろう。
悔しかったと思う。
俺は彼女の気持ちがわからなくもない。全部おんぶに抱っこっていうのは気持ち良くないし、いつまでも甘えているのは成長に良くないと思う。
ただ、それ以外で一ノ瀬組を頼らない理由はあるだろうか。やってくれるならやって欲しい。それが俺の考えでもある。
こんだけ協力してくれるなら、俺たちが危険を冒さず、手を汚さずにいれるなら、それで良いじゃないか。そう思う。
ただ、それをあいつは許さない。何故だ?プライド?それもあるだろう。頼りたくないと以前は言っていた。それは立派なプライドだ。だが、理由があればプライドだけとは言えない。
何故、頑なに一ノ瀬組を頼ろうとしないのか。
もし、あいつが何かに囚われているなら、具体的に言うと、誰かを模倣しているなら。
その人は1人で何でもこなしていたから、その人は誰も頼らなかったから、だから頼らない。頼りたくない。自己満足だったとしても、あの人に少しでも近づきたい。
そのような考えを有していたなら。
ずっと考えていた。何故、何でも屋シルバーはクロウを追いかけているのか。
虚は以前、何でも屋シルバーの前に、その前身となるシルバーという組織があったと言っていた。
美月の父、リーダーの充が死んでそれは無くなり、娘の美月がもう一度立ち上げたと言っていた。その時「何でも屋」が付いたにせよ「シルバー」の部分は変えなかった。それは、父である白井充のやっていたことを継いでいたからだろう。
その充がやっていたことが、まさにクロウの調査だったのではないだろうか。だから、あいつは今でもクロウを調査している。
そう考えれば、あいつが何故一ノ瀬組を頼らないか見えて来る。
あいつは父に憧れ、父になろうとしている。
現に亮吉さんはあの時、電話越しで『あいつは父親に追いつこうと必死』と言っていた。
ただ、一之瀬組に頼らないということが、父に追いつくことかは、勿論憶測でしかない。前組織がクロウを追っかけていたことも聞いてみないとわからないし、それを継いでいるかかもからない。
しかし、それが間違っているという証拠もない。
本気で、白井充に追いつこうとしているなら、そのために白井充の真似をしているなら、俺は彼女を止めないといけない。
常々思っていた。白井充という人間は何者か。
容姿も声も実力も実績も、何もかもわからない。わかるのは前組織のリーダーであり、ホワイトの父であるということだけ。
しかし、1つだけ。たった1つだけわかることがある。
幼いホワイトを、虚を、こっちの道に誘い込んだ白井充は、良い人間では決してない。
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