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ブラック&ホワイト  作者: 芋太郎
第1章:虚実編
31/80

第31話:神の選択

*不定期更新です。基本13時に更新してます。

 皆は上手くやっているだろうか。実は無事だろうか。


 そんな思いが足取りを重くする。


 最上階に着くと、一、二階の混雑具合とは一変して何もない空間が広がっていた。


 しかし、その殺風景の空間の中に、いた。


「実!」


「美月...」


 実は椅子に縛り付けられ、身動きが封じられていた。目立った外傷はないが、弱っている。今すぐにでも助けに行きたいところだが、それは出来なさそうだ。


「随分と激しくやっていたそうですが、大丈夫ですか?」


 桃色の長い髪をした女が、実の隣に立っていた。


 女は絶えず微笑を浮かべているが、心底不気味としかいえない。目が笑っていない。


「あなたは強いんですね。あなたの仲間も実力者だと聞きますよ?ああ、良いですね。神に愛されているんですねぇ」


 神?何を言っているのかわからない。不思議な女だ。


「それより、実を解放してくれるかな?」


「私と戦って、力づくで解放すれば良いじゃないですか」


 そう言って、女は腰から長い刃物を取り出した。

 相当使い古されたロングナイフだ。


 どうやらすぐに解放してくれるわけでは無いらしい。


「わかった。容赦はしないよ」


「はい。全ては神の選択のままに」


「...さっきから、何言ってるの?勝つか負けるかは実力次第でしょ」


 女はその言葉を受けて、ただ笑った。


「いいえ違いますよ。確かに実力は関係します。あなたの方が強ければあなたが勝つし、その逆もまた然りです。ですが、必ずしもそうとは限りません。どうしようもない事態に巻き込まれれば、実力なんてものは関係なくなります。結局結末はどうなるかわからないんですよ。ここで1つ問います。その、結末をねじ伏せるほどの、どうしようもない事態を引き起こしているのは一体誰でしょうか?」


 女は尚も笑い続けている。


「神ですよ!戦いの結果は神が選択するもの!あなたとの戦いも、私が実さんを拐ったのも、そう、全ての出来事の結果は神が選択するのです...!」


「...キミは狂ってるね」


「狂ってませんよ?むしろ、私からしたらあなたたちが狂ってます。このどうしようもない世界は全て神の掌の上。今からそれをお教えしますね?」


 女はナイフを前に構え、私を見つめた。その顔はまだ微笑みを浮かべていたが、明らかな敵意が潜んでいた。


「私の名前は、五十嵐灑鳥(いがらしさとり)。覚えていってくださいね?白井美月さん」


 瞬間、五十嵐と名乗る女は、凄まじい速度で踏み込んできた。


「神がどっちにつくか、決めましょう!!!」


 大きな横振りが飛んできた。


 早い。それに普段のナイフよりリーチが長くて避けづらい

。おまけに私は近接用のナイフを持っていない。


 これは骨が折れそうだ。


「さあ、死んでください...!」


 さらに加速する。避ける事は出来るが、このまま近距離を保たれるのは少しまずい。距離を取らねば。


「逃がしませんよ」


「めんどくさいなぁ!」


 距離を取ろうにもべったりと張り付かれている。


 この五十嵐という女、戦闘慣れしている。


「何で実を追い回すの?」


「さあ、何ででしょう」


「大斗くんは?」


「お答えできませんね」


 問答はほぼ意味ない。間違いなくこの人はクロウでもランクが高いだろう。高ランクの者には末端と違って情報が渡されているはずだ。実のことも、ひいては大斗くんのことも色々知ってそうだが...。


 私はナイフを避けながら、2発発砲する。


 五十嵐は避けるために攻撃を止めた。その隙に距離を取る。


「あら、距離が取られてしまいましたね」


 この人は絶対に情報を吐かない。この人に勝つ事はできるが、勝った先に得られるものはない。死への恐怖も、いや、何事への恐怖感が欠如している狂人だ。そんな人が情報を吐くとは思えない。


 ならば、ここは手取り早く仕留めに行く...!


「死んで」


 数発の弾丸を撃つ。

 しかし、五十嵐はそれを全てかわした。


 というより、動きが読みづらくて当てられない。しかも、徐々に近づいてきている。


 そして、ある程度近づいてきたところで、五十嵐は腰から何かを持って、こちらに飛ばしてきた。


「くっ...!」


 投げナイフだ。投げナイフは一直線に私の喉を狙って飛んできた。


 瞬時にカバンを盾にする。しかし、その間は銃を撃つことができない。


「弾の切れ目が勝負の分け目ですよ!」


「!?」


 後ろに回り込まれていた。


 ロングナイフが寸前を横切る。


 少しヒヤッとした。

 しかし、避けることはできたが、近づかれてしまった。また振り出しだ。


「このままじゃ、ジリ貧ですよ」


 相手は結構余裕そうだ。こっちは避けるのが手一杯なんだけど。


 でも、お陰様で癖が読めてきた。


「ふっ...!」


 右から左への水平切りが来た。

 わかってる。次は左から右への水平切りだ。

 ...当たり。じゃあ次は袈裟斬りかな?

 これも当たり。


 さあ、次だ。


「はあっ!」


 やはり突きが来た。


 私はそれを読んで、一気に姿勢を低くし、避ける。そして、その状態で足を掛けた。


 五十嵐の姿勢が崩れる瞬間に、銃口を上げ、顎に1発銃弾を放つ。


 しかし、五十嵐は顔をずらすことでそれを避けた。


 そして、そのまま倒れるのではなく、なんと前宙して私の背中を超えた。


「終わりです」


「...」


 五十嵐は振り返りざまにナイフを勢いよく振りかぶった。


 しかし、それが当たる事はない。それも読んでいる。


 私は姿勢を低くしたまま振り返り、ナイフを避ける。そして振りかぶった腕を力強く引っ張る。


「なっ」


 体が揺れ、こちらに引き寄せられる。


「...!」


 そしてその瞬間、五十嵐の額に銃床を力強く叩きつけた。


「っ...!」


 五十嵐の体が大きく後退する。そこで間髪入れずに銃弾を叩き込む。


 しかし、五十嵐はそれを避けた。


 撃たれることを瞬時に読まれたか。撃たれること自体を読んで仕舞えば、あの程度の実力者なら避けてしまう。


 ただ。


「よく、その惨状で避けれたね」


 額を強く叩かれたことにより、顔面に血が降りてきている。


 あの衝撃なら脳震盪になっているはずだ。それでも避けたとなると、話は変わってくる。もしかしたら、私が思っているより強敵かもしれない。後頭部を狙えばよかったか。


 いや、違う。確かに強敵ではあるが、戦える理由はそこだけじゃ無い。


「ふふ、私はその程度じゃ倒せませんよ」


 血塗れになりながらも尚、微笑を絶やす事はない。痛いはずだ。気持ち悪いはずだ。しかし、笑っている。


 そうだった。彼女は死を恐れていないんだ。痛みが怖く無いんだ。だから、こうまでして戦っていられる。


 ある意味、1番の強敵かもしれない。


「まあ、私としては神の選択を待ちたいのですが、生憎、人数不利になってしまったので、今日は引くことにします」


 そう言って五十嵐は私の後ろを指差した。


 そこには、折れた木刀を持った火花が立っていた。


「みづ...ホワイト!」


 名前で呼びそうになりながらも、火花は私の元へ駆け寄った。


「フラワー」


「あの方が、大将ですね?」


 呼び方よ。


「ふふふ、良いですね、大将って呼ばれるのも。まあ、次遭った時にでも決着をつけましょうか。どちらに神が着くか、楽しみにしてますね」


 五十嵐はそう言うと、ポケットからボタンのような物を取り出した。


 しまった、気づかなかった。何だあれは。


「それでは」


 私が発砲する前に、五十嵐はボタンを押した。瞬間、辺りに煙が立ち込める。


「待ちなさい...!」


 私が追おうとすると、隣の火花が私の腕を引っ張った。


「煙幕の中無闇に進むのは危険です。それに、本命は実さんの救助でしょう?」


 言われて我に帰った。


 そうだ、実。実は...!


「実...!」


「美月っ!」


 居た。煙の向こうに微かに見える。


 駆け寄ると、実は空元気な笑みを浮かべた。


「ごめんなさい」


「今は謝らなくて良いよ。ただ、後でたっぷり事情を聞くからね」


 私がそう言うと、実は「わかった」と言った。


「さ、帰ろう」


 実を何とか救出することができた。火花も無事だった。


 ただ、他の皆が心配だ。虚の援護射撃も無かったし、あれ以来、裕樹たちからも連絡が無い。


「大斗くん...」


 無事だろうか。


 無事でいて欲しい。大斗くんに死んでもらっては、これからの作戦に支障が出る。それに...。


 大斗くんの顔が浮かぶ。


 仲間を失いたく無い。大斗くんを失いたく無い。


 そんな思いが心を支配した。


 ダメだ。悲観的になるな。全員生きている。大斗くんも裕樹も日暮も虚も高橋さんも平気なはずだ。そう思え。


 しかし、私はこの時知らなかった。


 1番心配すべき人物は、実だということを。

*面白いと思ったら、高評価していってくれると嬉しいです。

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