第31話:神の選択
*不定期更新です。基本13時に更新してます。
皆は上手くやっているだろうか。実は無事だろうか。
そんな思いが足取りを重くする。
最上階に着くと、一、二階の混雑具合とは一変して何もない空間が広がっていた。
しかし、その殺風景の空間の中に、いた。
「実!」
「美月...」
実は椅子に縛り付けられ、身動きが封じられていた。目立った外傷はないが、弱っている。今すぐにでも助けに行きたいところだが、それは出来なさそうだ。
「随分と激しくやっていたそうですが、大丈夫ですか?」
桃色の長い髪をした女が、実の隣に立っていた。
女は絶えず微笑を浮かべているが、心底不気味としかいえない。目が笑っていない。
「あなたは強いんですね。あなたの仲間も実力者だと聞きますよ?ああ、良いですね。神に愛されているんですねぇ」
神?何を言っているのかわからない。不思議な女だ。
「それより、実を解放してくれるかな?」
「私と戦って、力づくで解放すれば良いじゃないですか」
そう言って、女は腰から長い刃物を取り出した。
相当使い古されたロングナイフだ。
どうやらすぐに解放してくれるわけでは無いらしい。
「わかった。容赦はしないよ」
「はい。全ては神の選択のままに」
「...さっきから、何言ってるの?勝つか負けるかは実力次第でしょ」
女はその言葉を受けて、ただ笑った。
「いいえ違いますよ。確かに実力は関係します。あなたの方が強ければあなたが勝つし、その逆もまた然りです。ですが、必ずしもそうとは限りません。どうしようもない事態に巻き込まれれば、実力なんてものは関係なくなります。結局結末はどうなるかわからないんですよ。ここで1つ問います。その、結末をねじ伏せるほどの、どうしようもない事態を引き起こしているのは一体誰でしょうか?」
女は尚も笑い続けている。
「神ですよ!戦いの結果は神が選択するもの!あなたとの戦いも、私が実さんを拐ったのも、そう、全ての出来事の結果は神が選択するのです...!」
「...キミは狂ってるね」
「狂ってませんよ?むしろ、私からしたらあなたたちが狂ってます。このどうしようもない世界は全て神の掌の上。今からそれをお教えしますね?」
女はナイフを前に構え、私を見つめた。その顔はまだ微笑みを浮かべていたが、明らかな敵意が潜んでいた。
「私の名前は、五十嵐灑鳥。覚えていってくださいね?白井美月さん」
瞬間、五十嵐と名乗る女は、凄まじい速度で踏み込んできた。
「神がどっちにつくか、決めましょう!!!」
大きな横振りが飛んできた。
早い。それに普段のナイフよりリーチが長くて避けづらい
。おまけに私は近接用のナイフを持っていない。
これは骨が折れそうだ。
「さあ、死んでください...!」
さらに加速する。避ける事は出来るが、このまま近距離を保たれるのは少しまずい。距離を取らねば。
「逃がしませんよ」
「めんどくさいなぁ!」
距離を取ろうにもべったりと張り付かれている。
この五十嵐という女、戦闘慣れしている。
「何で実を追い回すの?」
「さあ、何ででしょう」
「大斗くんは?」
「お答えできませんね」
問答はほぼ意味ない。間違いなくこの人はクロウでもランクが高いだろう。高ランクの者には末端と違って情報が渡されているはずだ。実のことも、ひいては大斗くんのことも色々知ってそうだが...。
私はナイフを避けながら、2発発砲する。
五十嵐は避けるために攻撃を止めた。その隙に距離を取る。
「あら、距離が取られてしまいましたね」
この人は絶対に情報を吐かない。この人に勝つ事はできるが、勝った先に得られるものはない。死への恐怖も、いや、何事への恐怖感が欠如している狂人だ。そんな人が情報を吐くとは思えない。
ならば、ここは手取り早く仕留めに行く...!
「死んで」
数発の弾丸を撃つ。
しかし、五十嵐はそれを全てかわした。
というより、動きが読みづらくて当てられない。しかも、徐々に近づいてきている。
そして、ある程度近づいてきたところで、五十嵐は腰から何かを持って、こちらに飛ばしてきた。
「くっ...!」
投げナイフだ。投げナイフは一直線に私の喉を狙って飛んできた。
瞬時にカバンを盾にする。しかし、その間は銃を撃つことができない。
「弾の切れ目が勝負の分け目ですよ!」
「!?」
後ろに回り込まれていた。
ロングナイフが寸前を横切る。
少しヒヤッとした。
しかし、避けることはできたが、近づかれてしまった。また振り出しだ。
「このままじゃ、ジリ貧ですよ」
相手は結構余裕そうだ。こっちは避けるのが手一杯なんだけど。
でも、お陰様で癖が読めてきた。
「ふっ...!」
右から左への水平切りが来た。
わかってる。次は左から右への水平切りだ。
...当たり。じゃあ次は袈裟斬りかな?
これも当たり。
さあ、次だ。
「はあっ!」
やはり突きが来た。
私はそれを読んで、一気に姿勢を低くし、避ける。そして、その状態で足を掛けた。
五十嵐の姿勢が崩れる瞬間に、銃口を上げ、顎に1発銃弾を放つ。
しかし、五十嵐は顔をずらすことでそれを避けた。
そして、そのまま倒れるのではなく、なんと前宙して私の背中を超えた。
「終わりです」
「...」
五十嵐は振り返りざまにナイフを勢いよく振りかぶった。
しかし、それが当たる事はない。それも読んでいる。
私は姿勢を低くしたまま振り返り、ナイフを避ける。そして振りかぶった腕を力強く引っ張る。
「なっ」
体が揺れ、こちらに引き寄せられる。
「...!」
そしてその瞬間、五十嵐の額に銃床を力強く叩きつけた。
「っ...!」
五十嵐の体が大きく後退する。そこで間髪入れずに銃弾を叩き込む。
しかし、五十嵐はそれを避けた。
撃たれることを瞬時に読まれたか。撃たれること自体を読んで仕舞えば、あの程度の実力者なら避けてしまう。
ただ。
「よく、その惨状で避けれたね」
額を強く叩かれたことにより、顔面に血が降りてきている。
あの衝撃なら脳震盪になっているはずだ。それでも避けたとなると、話は変わってくる。もしかしたら、私が思っているより強敵かもしれない。後頭部を狙えばよかったか。
いや、違う。確かに強敵ではあるが、戦える理由はそこだけじゃ無い。
「ふふ、私はその程度じゃ倒せませんよ」
血塗れになりながらも尚、微笑を絶やす事はない。痛いはずだ。気持ち悪いはずだ。しかし、笑っている。
そうだった。彼女は死を恐れていないんだ。痛みが怖く無いんだ。だから、こうまでして戦っていられる。
ある意味、1番の強敵かもしれない。
「まあ、私としては神の選択を待ちたいのですが、生憎、人数不利になってしまったので、今日は引くことにします」
そう言って五十嵐は私の後ろを指差した。
そこには、折れた木刀を持った火花が立っていた。
「みづ...ホワイト!」
名前で呼びそうになりながらも、火花は私の元へ駆け寄った。
「フラワー」
「あの方が、大将ですね?」
呼び方よ。
「ふふふ、良いですね、大将って呼ばれるのも。まあ、次遭った時にでも決着をつけましょうか。どちらに神が着くか、楽しみにしてますね」
五十嵐はそう言うと、ポケットからボタンのような物を取り出した。
しまった、気づかなかった。何だあれは。
「それでは」
私が発砲する前に、五十嵐はボタンを押した。瞬間、辺りに煙が立ち込める。
「待ちなさい...!」
私が追おうとすると、隣の火花が私の腕を引っ張った。
「煙幕の中無闇に進むのは危険です。それに、本命は実さんの救助でしょう?」
言われて我に帰った。
そうだ、実。実は...!
「実...!」
「美月っ!」
居た。煙の向こうに微かに見える。
駆け寄ると、実は空元気な笑みを浮かべた。
「ごめんなさい」
「今は謝らなくて良いよ。ただ、後でたっぷり事情を聞くからね」
私がそう言うと、実は「わかった」と言った。
「さ、帰ろう」
実を何とか救出することができた。火花も無事だった。
ただ、他の皆が心配だ。虚の援護射撃も無かったし、あれ以来、裕樹たちからも連絡が無い。
「大斗くん...」
無事だろうか。
無事でいて欲しい。大斗くんに死んでもらっては、これからの作戦に支障が出る。それに...。
大斗くんの顔が浮かぶ。
仲間を失いたく無い。大斗くんを失いたく無い。
そんな思いが心を支配した。
ダメだ。悲観的になるな。全員生きている。大斗くんも裕樹も日暮も虚も高橋さんも平気なはずだ。そう思え。
しかし、私はこの時知らなかった。
1番心配すべき人物は、実だということを。
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