第30話:勝ち筋
*不定期更新です。基本13時に更新してます。
勝てるか...?
汗が顔を伝い、鼓動が早くなるのを感じる。
目の前には金髪の女がつまらなそうな顔をして立っていた。一方俺は汗まみれだ。下には、日暮と裕樹先輩が血を流して倒れている。
この2人が命を繋いでくれた。ここで逃げたら、そんな2人を見殺しにすることだ。
勝てるか勝てないかじゃない。勝つ。
勝って生き残る。そう念じろ。
「めんどくさいから、早めに始末しちゃうねー」
気だるげな声で女はそう言うと、ナイフを強く握り、姿勢を低くした。
...来る。
そう思った頃には、女の体は目の前にあった。
「...」
「はっやっ!?」
ナイフが急所の位置に迫る。それをなんとかして避けるも、次から次へと刃が飛んでくる。
早い。対処するのがやっとで、反撃ができない...!
「ガラ空き」
そう言うと、女は俺の脚に蹴りを入れた。そして体勢が崩れる。
しまった!このままじゃ殺られる...!
「死ぬかああああ!」
追撃のナイフをなんとか避ける。そして俺は、逆に女の腕を掴んだ。
「腕を...」
そのまま腕を折ろうとした。
しかし、女は平然としている。そして拳をこちらに向けた。
何だ...?指に指輪...。
「!?」
皮一枚でかわすことができた。
「避けられるんだ。マジでだるいじゃん」
避けることはできたが、腕を離してしまった。折角作った隙が見事に崩された。
「暗器か...」
暗器。
日暮が修行中に言っていた。暗殺者は見えないところや、予想もつかないところに武器を隠し持っていることが多い。今のもそうだ。
指輪に見せかけた銃。普通、殺すほどの威力は無いが、改造しているのだろう。多分、あの威力じゃ、近距離なら十分に殺傷できる。
この調子じゃ、もっと持ってるな、これ。
「気づいたところで意味ないよね。てか、そろそろ諦めてくんない?ダルいんですけど」
「生を諦める奴がどこにいんだよ」
「実力差はわかったっしょ?だから」
「諦めろってか?んな馬鹿なことするかよ。こちとら、未練タラタラだわ。それに...ここで死んだら、また誰も助けられなくなっちまうだろ」
誰かを死なせるのは、誰だって嫌だろう。もうあれきりにしたい。
だから...!
「お前を倒す...!」
踏切が肝心だ。
屈むように姿勢を低く。体を倒して最短最速で脚を動かす。
そうすれば。
「!?」
女の顔が初めて変わった。
「俺のターンだ...!」
瞬歩。距離を一瞬で縮めることができる古武術の技だ。
完全な会得はまだできてないが、この距離なら十分だ。
懐に入ると、俺はそのまま連撃を浴びせる。
「あーもう!」
女は苛立ちの篭った声を発しながら避ける。
左右上下あらゆる方角から刃を向けるが、全て避けられる。
クソ...!早さが足りねえ...!
「...っ」
ヤバい。一瞬連撃が途切れちまった...!
女は当然その隙を見逃さない。
「死ね...!」
「うっ...」
カバーしようとナイフを突くが、それを後ろ回転によって避けられてしまった。
そしてその勢いのまま、後ろ回し蹴りが飛んでくる。
狙いは上段。集中しろ...!
「おらあああっ!!!」
バンッと大きな音が鳴って、体に衝撃が走る。
腕を使ってガードできたが、体が飛んでしまった。その隙に弾丸がこちらに飛ぶ。
「くっ!」
予想していたため、なんとか避けることができた。
しかし、銃弾は無慈悲にも数発撃ち込まれる。
「クソッタレ...!」
蛇行して避けようとするも、体に何発か直撃してしまう。
俺はあいつらとは違う。天才じゃないし、秀才でもない。銃も避けられねえし、当たらないくらい早く動けるわけじゃない。
そんな俺が、今の俺が、出来ること。
「あああああああああああ!!!!!」
ただ走る。そして走りながら狙いを澄ます。
あの女は「ついに諦めたか」と思っているだろう。1発だけで良い。その油断につけ入る一撃を。
1発2発と銃弾が体にめり込む。その度に痛みを感じる。しかし、動きは止まらない。急所はガードできている。
「なっ!?」
女が驚愕した。
だろ?バカだよな。銃弾の中走ってくる奴はいねえ。
その油断が、傲慢が、見下しが。
「ここだ...!」
この1発を当てることになる...!
「くっ!」
走りながらだったため、急所は外してしまったが、肩口に当てることができた。
そして、それは大きな隙を生む。
「ふっ...!」
ナイフを振りかざす。
女は動かない。
獲った...!
「調子に乗んなよ」
「!?」
早い。なんだ、その腕の動き。
女は内側から腕を差し込み、俺の肩を掴んだ。そして、そのまま腕をひねる。
まずい。これは折られる!
折られないように身を翻すが、そこに女の左手が出てきた。
「死んで」
はっきりとした声が聞こえた。
撃たれる。このままじゃ死ぬ...!
俺は咄嗟に避けた。しかし、激痛が走る。
「グッ!?ああああああああああああああ!!!!」
折れた。いやわかってた。
あのままじゃ死んでた。避けようにも体がロックされて避けられない。避けるには無理矢理にでも動くしかない。それが腕を自ら折る形になっても。
「はーやーくー」
「容赦しろよっ...」
そして、休む間もなく連撃が飛んでくる。しかも今度のはものが違う。
「くっそ」
ナイフが来るかと思えば、蹴りが。蹴りの次は隙を埋めるように裏拳が。そして暗器も使ってくる。トリッキーだし、さっきよりも格段に早い。
利き腕が折れて使えない今、満足に避けることもできない。何度もナイフで切り裂かれ、ここぞとばかりに暗器が飛んでくる。
完全に相手のペースだ。
戦場で心折れる、即ち死だ。集中しろ。活路はあるはずだ。
そう思いながら避けに徹するが、隙がない。
それに。
「はっ!」
「うおっ」
靴の側面に刃が埋め込まれており、それが俺の体を切り刻む。
出血が多くなってきた。体が持たねえ。
視界が白む。このままじゃ死ぬ...!
連撃が止むことはない。距離を取ろうにも、銃が飛んでくるため取れない。
その瞬間、悪寒が背筋を巡った。
「!?」
ワイヤーだ。隙を見て俺の首にかけようとしてやがった。
「さっきからおかしい。あんた、もしかして...」
「はぁ...はぁ...なんだよ」
「第六感ってやつ?あるでしょ」
顔が引き攣る。
正解だ。
日暮と戦っている時、ちょくちょく感じたのだ。ここから攻撃が来るだの、次は蹴りが飛んでくるだの。そして、一際強烈なものだと、見えてなくても何となくで感じる。
今のワイヤーがそうだったように、致死の攻撃だと、奇襲でも避けることができるのだ。流石に銃弾は無理だが。
これが無かったら、今頃死んでいる。多分あの暗器で終わりだ。
だが、何故わかった?こんなの誰にも見抜けないはずだ。
「そっかそれか。だから面倒臭いわけだ」
そう言いながら女は銃を取り出した。
咄嗟に体が横に動く。銃弾は横を飛んでいった。
「じゃあ尚更殺さなきゃじゃん」
女が凄まじい速度で再接近してきた。
「お前...何なんだよ!何の目的で俺を...!」
攻撃をかわしながら、いや、ほぼ受けながら問う。
「は?教えるわけないじゃん」
返ってきたのは嘲笑混じりのものだった。
あークソ!ヤバい。持たねえ。
使え。アレを使え...!
お前は俺を格下だと思っているだろ?現に中々死なない俺に苛立ちを募らせているはずだ。ここまで戦ってこれているのは第六感のお陰、そう思っているだろ?俺の実力はこの戦闘に介在していない、そう思っているだろ?
なら使えよ。
「...」
来た。千載一遇のチャンスだ。
女は左拳をこっちに振ってきた。
「貰った...!」
「なっ!?」
ナイフが女の腹部に刺さった。女は吐血しながら後ずさる。
だよな。俺は一撃で死に至る暗器を一番警戒している。もちろん、それは女も知っているはずだ。
だから暗器を振るだけで、注意を引くことができる。つまり、暗器をブラフに別の行動を出すことができる。
ブラフじゃない可能性は無い。指輪型の銃はリボルバーが普通だ。これまで発砲数を数えていたが、もう打ち切っている。
要は、ブラフ確定だ。
暗器をブラフにして飛んでくるのはナイフだろう。それが一番早いからな。でも早いとはいえ、暗器で注意を引く関係上、ナイフは遅れてくるのは必然だ。
わかってるんだよ。この暗器はブラフで、ナイフが本命なこと。それがわかっていれば、後出しのナイフより先に、俺の攻撃が当たる...!
にしても...。
「いったー」
まだ立ってられるのかよ...。
結構深手なはずだ。このまま戦ってたら、俺もこいつも共倒れになる。それは勘弁だ。
「やってやるよ」
俺は左手のナイフを持ち直すと、迎撃の姿勢に入った。しかし、目に映ったのは女の背中だった。
「あんたと共倒れなんか嫌だし、あたし帰るわ」
「おい!!!」
「じゃ」
あいつを逃すわけないはいかない...!
俺はナイフを手放し、銃を握り、照準を合わせる。
しかし、手が震えて合わない。おまけに地面から立ち上がれない。
なんだよチクショウ...!
「クソっ!!!」
悔しさが込み上げる。
我慢だ。とりあえず助かったんだ。今は日暮たちを何とかしないと。
しかし、時間が経っている。今から救急車を呼ぶしかないが、助かるかわからない。
頼む、日暮、裕樹先輩。生きていてくれ...!
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