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ブラック&ホワイト  作者: 芋太郎
第0章:プロローグ
3/80

第3話:何でも屋シルバー《後》

*不定期更新です。基本13時に更新してます。

 銃弾は腿を貫通。

 動脈は避けてくれたみたいだが、結局1週間は入院することになった。


 そして、今日が退院日だ。


「大斗くーん、迎えに来たよ」


「おう、サンキュな。白井さん」


 ここ1週間、この人は毎日見舞いに来ていた。

 美少女が見舞いに来てくれることはとてもありがたいことだが、なんか余計に疲れる気はする。


「もー、白井さんじゃなくて美月ちゃんかホワイトって呼んでよ」


「あーごめんごめん、ホワイト」


「そっちで呼ぶんだね」


「めんどくさいな、お前」


 ホワイトとは、いわゆるコードネームのことだ。構成員全員にコードネームがあるらしい。もっぱら決めてるのはこの人なんだが。てか、まだ入ってもない人にコードネーム教えてるのヤバいな。


「さ、行こっか」


 ホワイトは立ち上がり、廊下に出ていく。それに続いて、俺も立ち上がる。


「芦田さん、本当にありがとうございました」


 そう言って、深く頭を下げると芦田さんは少し微笑む。


「いえいえ、仕事ですので。あ、しばらくは安静にしてください。また傷が開いちゃうかもなので」


「はい、それでは」


 互いに軽く手を振る。


「また来てくださいねー!」


「それ、病院の人が言うセリフではないですよ」


 小声で呟くと、先行しているホワイトの元へ駆け寄った。


「あっついよ、今日も」


「夏だしな」


 不毛な会話をしながら、地上へつながる階段を登る。

 太陽は燦々と輝き、蒸し蒸しとした熱気が辺りに立ち込めている。久しぶりの暑さだ。


「あっつ」


 思わず声が出る。


「でしょ?で、楽しみ?」


 汗を流し、ニヤニヤしながら問う。


 何故この流れでその問いが出るんだ。

 てか、表情を見てもらえればわかるだろ。

 俺は「不安でしかない」と言って再び前を向いた。


 っと、聞きたいことあるんだった。


「てか、入るって言っても、何も聞かされてないんだけど」


「それは基地についてから教えるって」


「絶対事前に言った方がいいでしょ」


 このやりとりを一週間で5回くらいやった。全部こんな感じではぐらかされてる。正直、教えてほしい。


「わかってないなぁ。それだからモテないんだよ、大斗くん」


「なっ、か、関係ないじゃんか。てか人のモテ事情をなんで」


「あ、着いたよ」


 俺の反論を軽くあしらうかの如く、何の躊躇いもなしにそう言った。


 あれ、ていうかここなんか見覚えが。


「ここ?」


「ここ」


 そこにはBARゴールデンと書かれた看板があった。


 ホワイトは躊躇せず「ささ、入ろ」と言って階段を降りていく。


 先の病院から徒歩5分という近さも驚きだが、場所自体が驚きだ。


「ちょっと、ここって」


 俺が引き止めると、ホワイトは迷惑そうな顔をして振り返った。


「キミが襲撃された場所だよ。良いから入って」


 こともなげに言うと、BARのドアを開く。


「良いから入ってって...ていうかここBARじゃん」


 ブツブツと独り言を喋りながら階段を下り、おしゃれなドアを開けると、冷気とともに、これまたおしゃれな空間が目に入ってきた。


 薄暗い照明が辺りをほんのりと照らしている。そして、正面にはカウンターがあり、バーテンが立つ場所には様々な酒が陳列されている。


 皆が想像している、ザ・BARだ。


「おお」


「おしゃれでしょ。でもここじゃないんだな」


 得意げな表情で言った後、カウンターの奥にある従業員用の扉の電子ロックに手をかける。


「よっよっよっよっよよいのよっと」


 ポチポチ押すと「ピー」と電子音が鳴った後「ガチャリ」と鍵が開く音がした。


「この先だよー。後で解錠コードも教えるね」


「すっげぇ」


 ロマンだロマン。これはロマンだろ。


「行くよ」


 ホワイトはそんな俺を見て、呆れたような顔を浮かべ、階段を下っていく。俺もそれに続くように階段を降りる。


 階段内は蛍光灯が脇にあるだけの質素な作りだ。


 そして、階段を降り終えると、また電子ロックがあり、また解錠コードを入力する。


 かなり本格的だ。コードもBARとここの二重構造になってあり、複雑で長そうだし、本当にどこかの秘密組織に加入したみたいだ。


 実際そうなのかな?


 そんなことを思っていると、ホワイトは「よし」と言って振り返った。


「開けるよ」


「おう」


 ホワイトがドアの取手に手をかけた瞬間、緊張感が体を巡った。


 あー、緊張する。

 これまでの会話から察するに、この人以外にもメンバーがいるはずだ。どんな人なんだろう。ま、まさか出会って早々ヤキ入れられるとか無いよね?


 ...無いよね?


「おーーぷん!」


 勢いよく扉が開かれ、中が露わになる。


 内壁はコンクリート壁であり、ある程度高い天井には等間隔に吊り下げ照明が並んでいる。


 下を見ると、ホワイトボードやソファにロングテーブル、テレビ、ラジオ、冷蔵庫など、生活感に溢れている。


 ここだけでも十分に広いが、いくつかドアがあるため、まだ他の場所がありそうだ。


 てか、内装を気にしてる場合ではない。ソファに誰かいる。

 長い茶髪を後ろで結んでいる。所謂ポニーテールってやつだ。


 ポニテさんはソファーに座りながら「美月、おかえり」と言った。

 ホワイトは声の主に駆け寄る。


「お見舞い?」


「うん。日暮、みんなは?」


「裕樹は情報収集、虚は部活で高校。あなたも虚を見習って、高校生活エンジョイしたら?」


「えー、私部活入ってないし。そもそも夏休みだし」


「彼氏できないぞ?」


「うるさいわい」


「あのー」


 俺は気まずそうな顔をしながらゆっくりと近づく。

 すると、それに気づいたホワイトが「あっ」と言った後に俺の肩を強く叩いた。


「うおっ、ちょっと」


 反動で前のめりになりながら何とかバランスをとり、顔を上げる。

 すると、眼前にはジャージを着てメガネをかけた女性が座っていた。


 俺が「どうも」と気まずそうにすると、その女性の顔が急激に赤くなり、顔を塞ぐように、手を前に突き出した。


「み、見ないでっ!」


 俺は困った顔をする。

 実際困っている。ただ自己紹介がしたいだけなのに、こうも恥ずかしがられると、こっちまで恥ずかしくなる。


 そんな状況を見かねたのか、ホワイトは呆れた表情を浮かべ、ポニテさんの肩に手を置いた。


「この痴態メガネが倉敷日暮くらしきひぐれね。コードネームはサブリーダー的ポジションだからサブ。最年長だよっ!」


「さ、最年長言うな!まだ21だから!ピチピチの大学生だから!」


「大学行ってないじゃん」


「行ってないけど...!」


 そう言うと、倉敷さんは顔を手で覆った。

 ホワイトは構わず紹介を続ける。


「で、こっちの冴えない男が朝霧大斗。コードネームは...」


「決まってないよな。あと、冴えないってなんだ冴えないって」


「うーん」


 無視、ですか。


「ルーク、で」


「え?」


 疑問を投げかけると、ホワイトはケロッとした顔で続ける。


「新人だからルーキーにしようか迷ったんだけど、ルーキーだとほら、安直かなって。しかも、傍受された時に『あいつ初心者だぞ』ってなっちゃうからさ」


「いや、そうじゃなくて。え?こんなすぐ決めるものなの?」


 動揺のコメントを言うと、いつのまにか着替えていた倉敷さんが「それね」と言った。


「この子直球で即決なのよ。ネーミングセンスが、ね」


「えー、こういうのが逆にいいのに。アルファ、ベータとかなんか嫌だし」


「そ、そうか」


「てことで、ルークね」


 決まったらしい。

 別に不服申し立てしたいわけではないが...なんか微妙だよな。それに...いや、いいや、なんか疲れたわ。


 心の中で諦めをつけると、倉敷さんが近づいてきた。


「私のことは『日暮』で良いよ。あなたも『大斗』でいい?」


 にこやかに微笑む。


 名前呼び...。初めてするし初めてされるぞ。なんか恥ずかしい。


「は、はい、良いですよ」


「歳も離れてなさそうだし、敬語じゃなくていいよ、大斗」


「俺は20だから、そうだな。これからよろしく、日暮」


「よろしくね、大斗」


 そう言って握手をすると、ホワイトが頬を膨らませて寄ってきた。


「私はホワイト呼びなのに、日暮は呼び捨てなんだね」


「だってお前『ちゃん』ってつけるじゃん。それは恥ずかしいわ」


「はぁ、これだから。これだからチェリーなんだよ」


 その言葉を聞いた瞬間、一気に顔が赤くなる。


「な、なんで知ってんだよ!!!」


 ホワイトはケラケラと笑い、逃げていく。


 まったく。

 ま、日暮も良い人そうだし、今のところは大丈夫かな。

 あとはさっき出た、裕樹って人と虚って人か。

 どんな人なんだろうな。


 俺は新たな不安と、少しばかりの期待を胸に、天井を見上げた。
















*面白いと思ったら、高評価していってくれると嬉しいです。

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