第3話:何でも屋シルバー《後》
*不定期更新です。基本13時に更新してます。
銃弾は腿を貫通。
動脈は避けてくれたみたいだが、結局1週間は入院することになった。
そして、今日が退院日だ。
「大斗くーん、迎えに来たよ」
「おう、サンキュな。白井さん」
ここ1週間、この人は毎日見舞いに来ていた。
美少女が見舞いに来てくれることはとてもありがたいことだが、なんか余計に疲れる気はする。
「もー、白井さんじゃなくて美月ちゃんかホワイトって呼んでよ」
「あーごめんごめん、ホワイト」
「そっちで呼ぶんだね」
「めんどくさいな、お前」
ホワイトとは、いわゆるコードネームのことだ。構成員全員にコードネームがあるらしい。もっぱら決めてるのはこの人なんだが。てか、まだ入ってもない人にコードネーム教えてるのヤバいな。
「さ、行こっか」
ホワイトは立ち上がり、廊下に出ていく。それに続いて、俺も立ち上がる。
「芦田さん、本当にありがとうございました」
そう言って、深く頭を下げると芦田さんは少し微笑む。
「いえいえ、仕事ですので。あ、しばらくは安静にしてください。また傷が開いちゃうかもなので」
「はい、それでは」
互いに軽く手を振る。
「また来てくださいねー!」
「それ、病院の人が言うセリフではないですよ」
小声で呟くと、先行しているホワイトの元へ駆け寄った。
「あっついよ、今日も」
「夏だしな」
不毛な会話をしながら、地上へつながる階段を登る。
太陽は燦々と輝き、蒸し蒸しとした熱気が辺りに立ち込めている。久しぶりの暑さだ。
「あっつ」
思わず声が出る。
「でしょ?で、楽しみ?」
汗を流し、ニヤニヤしながら問う。
何故この流れでその問いが出るんだ。
てか、表情を見てもらえればわかるだろ。
俺は「不安でしかない」と言って再び前を向いた。
っと、聞きたいことあるんだった。
「てか、入るって言っても、何も聞かされてないんだけど」
「それは基地についてから教えるって」
「絶対事前に言った方がいいでしょ」
このやりとりを一週間で5回くらいやった。全部こんな感じではぐらかされてる。正直、教えてほしい。
「わかってないなぁ。それだからモテないんだよ、大斗くん」
「なっ、か、関係ないじゃんか。てか人のモテ事情をなんで」
「あ、着いたよ」
俺の反論を軽くあしらうかの如く、何の躊躇いもなしにそう言った。
あれ、ていうかここなんか見覚えが。
「ここ?」
「ここ」
そこにはBARゴールデンと書かれた看板があった。
ホワイトは躊躇せず「ささ、入ろ」と言って階段を降りていく。
先の病院から徒歩5分という近さも驚きだが、場所自体が驚きだ。
「ちょっと、ここって」
俺が引き止めると、ホワイトは迷惑そうな顔をして振り返った。
「キミが襲撃された場所だよ。良いから入って」
こともなげに言うと、BARのドアを開く。
「良いから入ってって...ていうかここBARじゃん」
ブツブツと独り言を喋りながら階段を下り、おしゃれなドアを開けると、冷気とともに、これまたおしゃれな空間が目に入ってきた。
薄暗い照明が辺りをほんのりと照らしている。そして、正面にはカウンターがあり、バーテンが立つ場所には様々な酒が陳列されている。
皆が想像している、ザ・BARだ。
「おお」
「おしゃれでしょ。でもここじゃないんだな」
得意げな表情で言った後、カウンターの奥にある従業員用の扉の電子ロックに手をかける。
「よっよっよっよっよよいのよっと」
ポチポチ押すと「ピー」と電子音が鳴った後「ガチャリ」と鍵が開く音がした。
「この先だよー。後で解錠コードも教えるね」
「すっげぇ」
ロマンだロマン。これはロマンだろ。
「行くよ」
ホワイトはそんな俺を見て、呆れたような顔を浮かべ、階段を下っていく。俺もそれに続くように階段を降りる。
階段内は蛍光灯が脇にあるだけの質素な作りだ。
そして、階段を降り終えると、また電子ロックがあり、また解錠コードを入力する。
かなり本格的だ。コードもBARとここの二重構造になってあり、複雑で長そうだし、本当にどこかの秘密組織に加入したみたいだ。
実際そうなのかな?
そんなことを思っていると、ホワイトは「よし」と言って振り返った。
「開けるよ」
「おう」
ホワイトがドアの取手に手をかけた瞬間、緊張感が体を巡った。
あー、緊張する。
これまでの会話から察するに、この人以外にもメンバーがいるはずだ。どんな人なんだろう。ま、まさか出会って早々ヤキ入れられるとか無いよね?
...無いよね?
「おーーぷん!」
勢いよく扉が開かれ、中が露わになる。
内壁はコンクリート壁であり、ある程度高い天井には等間隔に吊り下げ照明が並んでいる。
下を見ると、ホワイトボードやソファにロングテーブル、テレビ、ラジオ、冷蔵庫など、生活感に溢れている。
ここだけでも十分に広いが、いくつかドアがあるため、まだ他の場所がありそうだ。
てか、内装を気にしてる場合ではない。ソファに誰かいる。
長い茶髪を後ろで結んでいる。所謂ポニーテールってやつだ。
ポニテさんはソファーに座りながら「美月、おかえり」と言った。
ホワイトは声の主に駆け寄る。
「お見舞い?」
「うん。日暮、みんなは?」
「裕樹は情報収集、虚は部活で高校。あなたも虚を見習って、高校生活エンジョイしたら?」
「えー、私部活入ってないし。そもそも夏休みだし」
「彼氏できないぞ?」
「うるさいわい」
「あのー」
俺は気まずそうな顔をしながらゆっくりと近づく。
すると、それに気づいたホワイトが「あっ」と言った後に俺の肩を強く叩いた。
「うおっ、ちょっと」
反動で前のめりになりながら何とかバランスをとり、顔を上げる。
すると、眼前にはジャージを着てメガネをかけた女性が座っていた。
俺が「どうも」と気まずそうにすると、その女性の顔が急激に赤くなり、顔を塞ぐように、手を前に突き出した。
「み、見ないでっ!」
俺は困った顔をする。
実際困っている。ただ自己紹介がしたいだけなのに、こうも恥ずかしがられると、こっちまで恥ずかしくなる。
そんな状況を見かねたのか、ホワイトは呆れた表情を浮かべ、ポニテさんの肩に手を置いた。
「この痴態メガネが倉敷日暮ね。コードネームはサブリーダー的ポジションだからサブ。最年長だよっ!」
「さ、最年長言うな!まだ21だから!ピチピチの大学生だから!」
「大学行ってないじゃん」
「行ってないけど...!」
そう言うと、倉敷さんは顔を手で覆った。
ホワイトは構わず紹介を続ける。
「で、こっちの冴えない男が朝霧大斗。コードネームは...」
「決まってないよな。あと、冴えないってなんだ冴えないって」
「うーん」
無視、ですか。
「ルーク、で」
「え?」
疑問を投げかけると、ホワイトはケロッとした顔で続ける。
「新人だからルーキーにしようか迷ったんだけど、ルーキーだとほら、安直かなって。しかも、傍受された時に『あいつ初心者だぞ』ってなっちゃうからさ」
「いや、そうじゃなくて。え?こんなすぐ決めるものなの?」
動揺のコメントを言うと、いつのまにか着替えていた倉敷さんが「それね」と言った。
「この子直球で即決なのよ。ネーミングセンスが、ね」
「えー、こういうのが逆にいいのに。アルファ、ベータとかなんか嫌だし」
「そ、そうか」
「てことで、ルークね」
決まったらしい。
別に不服申し立てしたいわけではないが...なんか微妙だよな。それに...いや、いいや、なんか疲れたわ。
心の中で諦めをつけると、倉敷さんが近づいてきた。
「私のことは『日暮』で良いよ。あなたも『大斗』でいい?」
にこやかに微笑む。
名前呼び...。初めてするし初めてされるぞ。なんか恥ずかしい。
「は、はい、良いですよ」
「歳も離れてなさそうだし、敬語じゃなくていいよ、大斗」
「俺は20だから、そうだな。これからよろしく、日暮」
「よろしくね、大斗」
そう言って握手をすると、ホワイトが頬を膨らませて寄ってきた。
「私はホワイト呼びなのに、日暮は呼び捨てなんだね」
「だってお前『ちゃん』ってつけるじゃん。それは恥ずかしいわ」
「はぁ、これだから。これだからチェリーなんだよ」
その言葉を聞いた瞬間、一気に顔が赤くなる。
「な、なんで知ってんだよ!!!」
ホワイトはケラケラと笑い、逃げていく。
まったく。
ま、日暮も良い人そうだし、今のところは大丈夫かな。
あとはさっき出た、裕樹って人と虚って人か。
どんな人なんだろうな。
俺は新たな不安と、少しばかりの期待を胸に、天井を見上げた。
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