第29話:助けるために
*不定期更新です。基本13時に更新してます。
火花と美月と別れた後、私はあのビルを全体的に見ることができる建物を探していた。
幸い、美月の言っていた通り、ここら一帯は廃墟が多く、目当ての建物を見つけるのに苦労しなかった。
「ここなら...!」
焦る気持ちを抑えながらも廃墟に足を踏み入れる。
その廃墟はとても暗かった。天気も曇り空で、後に雨が降るらしいので、当たり前といえば当たり前だが、少し怖い。
いや、怖いなんて思ってる暇は無い。
私の狙撃が実の命運を左右するかもしれない。もしかしたらもう既に...。
「大丈夫...大丈夫...」
胸に手を当て、自分に言い聞かせる。
きっと平気なはずだ。
そう思いたいだけ。でも、こう思わなければ、おかしくなってしまいそうだ。
大丈夫。美月たちがなんとかしてくれる。そのために、私も力にならないと。
「...よし」
顔を上げ、階段を登って行く。
実が囚われているであろう廃墟は3階建てだ。侵入者から遠ざけるために、こういうのは1番上の階にいる可能性が高い。
位置的に1番上の3階は、この廃墟なら見えるだろう。しかし、実際のところは上に登ってみないと、見えるかどうかはわからない。
窓が塞がれていたり、物が置かれていたり、とにかく色々な要因があって、見えないことがあるのだ。
下からだと、あの建物の全体的な構造がわからなかった。とりあえず、狙撃できないにせよわかっておきたい。
ここの廃墟に入ったのは、それも理由の1つだ。
もちろん、そのまま狙撃できれば良いんだけど...。
「ここからなら」
廃墟の3階に辿り着いた。
ターゲットの廃墟がある、西の方向を見る。すると、割れた窓ガラスの先に誰かが見えた。
「あれは...!」
いた。実だ。
実は椅子に縛り付けられているが、見たところは外傷もなく、命に別状は無さそうだ。
一安心だ。しかし、実の隣に立っている女が気になる。
何、あの人。1人?ここからだと1人しか見えないだけ?
「何...?」
私は腹ばいになるために、散らばったガラス片を一箇所にまとめると、狙撃の態勢に移り、スコープ越しに見てみた。
「...」
女は笑っていた。厳密に言うと、微笑をたたえていた。
その顔は、現状を楽しんでいるような顔というより、慈愛に満ちた、どこか母性を感じるやさしい顔だった。
しかし、その母性はこの場に似合わない。はっきり言って不気味だ。
さらに、あの瞳。笑っているのに笑っていない。というより、何も見ていない気がする。何か、別のものを見ているような。
「いや」
頭を振って考え直す。
今考えるのはあの人のことではない。
実を助ける。今度こそ失敗しないように。約束を守るために。
あの女は敵だろう。なら、殺すまで。
「...さようなら」
トリガーに指をかけ、弾こうとした。
その時だった。
「っ!」
小さな「カツン」という音が聞こえた時には、体が既に動いていた。
瞬間、2発の銃弾が真っ直ぐに飛んできた。1発は私狙いで、避けることができた。しかし、もう1発が狙撃銃に当たってしまった。
「くっ...!」
もう撃てない。狙撃銃の状態を確認した後、直ぐに撃たれた方向を見つめた。
誰かがいる。
暗く見ずらいが、見える。廊下の先、階段の方に1人。素性は見えないが、男だろう。
「鋭いなぁ。また奇襲失敗だ。おじさん、隠密は得意なんだけどねぇ」
男の声が廃墟に響く。
私は声のする方向をジッと睨んだ。
この男。あのとき逃した...。
まずい。高橋さんが用意してたのは、あくまで狙撃銃だけだ。拳銃もナイフも持ってない。
「音が聞こえた。私にバレる程度なら、隠密が得意とは言えない」
「おっと、言ってくれるね。おじさんは本当に隠密は得意なんだ。多分、お前の感覚が鋭すぎるんだと思うよ。天性の才能ってやつかな」
そう言うと、男は壁の影から少し前に出た。
私には拳銃がない。狙撃銃も使えなくなってしまった。今仕掛けないと、不利になってしまう...!
「...!」
私は素早く走り出す。
そして、奴の銃口がこちらを向く前に懐をとった。
「お、やっぱり早いね。でも」
男の口角が上がった。
「!?」
異変に気づいた時には遅かった。
突然、視界が真っ白になり、見えなくなった。
そして訳もわからないまま、みぞおちを蹴り上げられる。
「かっ...」
体は大きく弓形に飛び、床に叩きつけられた。
そしてしばらく転んだ後に、止まった。
「くっ...うぅ...」
立ちあがろうとするが、体が動かない。
息をするだけで胸に痛みが走る。
眩む視界の中、男がゆっくりとこちらに近づいてきているのがわかった。
そしてもう1つ、あるものが近くにあることも。
「お前は人一倍感覚が鋭いみたいだね。このライト、まあまあショボいんだけど、お前には十分効力があったな。ま、曇ってくれてよかったよ。前回は天気に嫌われてたから、お天道さんの罪も、これで帳消しだね」
笑い声を上げながら徐々に徐々に近づく。
顔は良く見えないが、きっと愉快そうな顔をしているのだろう。
「あ...う...」
近づく男から離れるために、体を起こそうとするが、中々動かない。
そしてとうとう、すぐ側まで近づかれてしまった。
「...」
痛みを堪えながら体を起こそうとする。
「そこで待ってなよ」
そう言って、男は私の背中を踏み潰した。
「ぐっ...ああああ!!!」
叫びが喉の奥から湧き出る。
今にも飛びそうな意識をつなぎながら呼吸をするが、上手くいかない。
痛い痛い痛い。
途切れ途切れの浅い呼吸をしながら、私は顔を上げた。
「おっと、苦しそうだね。ま、そうだな。ここで突然の自己紹介、といこうか」
男はそんなことを言いながら、私を踏む足に更に体重をかけた。
「おじさんの名前は間宮良吾。元々ある傭兵団に所属していてね。抜けたんだけどね?一応強いのよ、おじさんは。ま、お前の名前は知らないけど、服装を見るに、学生だよな?お前も強いけどさ、制服着て学校に行ってる時に、武器を持ってるわけ無いよな?なら、今はおじさんの方が強いよな?それはお前ならわかるはずだ」
「...な...にが......言いたい...!」
「おっと、怖い顔しないでほしいね。まあ簡単に言うと、今のお前に勝ち目はないってことだよ」
そう言うと、間宮と名乗る男はこちらに拳銃を向けた。
「やっぱ、あの子は頭良いね。思い通りに進んで嬉しいよ」
「ぐっ...」
トリガーに指をかける。
その時、私はあるものを手にしていた。チャンスはこれしかない。
「死ね」
「...!」
銃が放たれる前に、手に取っていたものを脚に突き刺した。
「くっ!?」
間宮はたまらず脚を退ける。さらに、それによってバランスを崩し、あらぬ方向に銃を撃った。
私は力を振り絞って立ち上がる。
「ガラス片か...やってくれたね」
間宮は再度、こちらに銃口を向けた。
「...」
私は再びガラス片を握り、そしてそれを投げた。
「そんなの当たらないよ」
間宮はそう言って横に避ける。
が。
「何ッ!?」
私は既に目の前からいなくなっていた。懐にいたのだ。
今のは避けさせるため、もっと言えば、銃を撃たせないための行動だ。
私は体が小さいし、素早い。
間宮との距離も近い今なら、負傷中でも、その時間さえ稼げれば死角に入ることができる...!
「はあああ!」
「グアッ...!」
鋭く尖ったガラス片を間宮の腹に突き立てる。
鋭角に刺さったそれは、間宮の動きを鈍らせるのには十分だった。
「クソっ!!!」
間宮が怒りに任せてナイフを大きく振るう。
早くて避けられない。しかし、それでも鈍っている。
感情任せの大振りはチャンスだ...!
「ふっ...!」
私は通学鞄を前に出す。そしてそれにナイフが突き刺さった。ナイフは防げたが、衝撃は防げない。そのまま体は後ろに飛ぶ。
「死ね...!」
男は直ぐにナイフを抜き、無防備な私に刃を向けた。
...ここだ。
私は鞄の中身を間宮の顔に撒いた。
瞬間、間宮が苦悶の声を上げる。
「グアアアアアアアアアアア!!!痛エエエエエ!!!」
間宮は目を擦りながら、うずくまる。
「目には目を」
私は悶絶する間宮の方へ近づくと、手放していたナイフを手に取り、首に当てた。
「な...にを...したあああ!!!」
「細かく砕けたガラスを、あらかじめ鞄に入れておいた」
「クソッ!クソッ!痛え!見えねえ!」
種明かしをしたが、聞いているかは不明だ。
私の限界も近い。とりあえず、とどめを...。
「はっ?」
そんな声が出てしまった。
間宮がいきなり立ち上がり、窓の方へと走っていったのだ。
そして。
「あああああああ!!!」
叫びながら落ちていった。
ここは3階だ。しかも下はコンクリート。苦痛に耐えかねて飛び降りたのなら、受身は取れないだろうし、ほぼほぼ死んでると思う。
しかし、確認はしておかないといけない。
一歩一歩窓に近づく。
近づくにつれ、段々と意識が薄れていった。
「また...」
あの男と戦うとこうなるのか。
私は実を助けたいだけなのに...!ごめん実。
「ごめ...ん...」
そのままその場で倒れてしまった。
私は、また。実...。
「みの.........り......」
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