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ブラック&ホワイト  作者: 芋太郎
第1章:虚実編
29/80

第29話:助けるために

*不定期更新です。基本13時に更新してます。

 火花と美月と別れた後、私はあのビルを全体的に見ることができる建物を探していた。


 幸い、美月の言っていた通り、ここら一帯は廃墟が多く、目当ての建物を見つけるのに苦労しなかった。


「ここなら...!」


 焦る気持ちを抑えながらも廃墟に足を踏み入れる。


 その廃墟はとても暗かった。天気も曇り空で、後に雨が降るらしいので、当たり前といえば当たり前だが、少し怖い。


 いや、怖いなんて思ってる暇は無い。


 私の狙撃が実の命運を左右するかもしれない。もしかしたらもう既に...。


「大丈夫...大丈夫...」


 胸に手を当て、自分に言い聞かせる。


 きっと平気なはずだ。


 そう思いたいだけ。でも、こう思わなければ、おかしくなってしまいそうだ。


 大丈夫。美月たちがなんとかしてくれる。そのために、私も力にならないと。


「...よし」


 顔を上げ、階段を登って行く。


 実が囚われているであろう廃墟は3階建てだ。侵入者から遠ざけるために、こういうのは1番上の階にいる可能性が高い。


 位置的に1番上の3階は、この廃墟なら見えるだろう。しかし、実際のところは上に登ってみないと、見えるかどうかはわからない。


 窓が塞がれていたり、物が置かれていたり、とにかく色々な要因があって、見えないことがあるのだ。


 下からだと、あの建物の全体的な構造がわからなかった。とりあえず、狙撃できないにせよわかっておきたい。


 ここの廃墟に入ったのは、それも理由の1つだ。


 もちろん、そのまま狙撃できれば良いんだけど...。


「ここからなら」


 廃墟の3階に辿り着いた。


 ターゲットの廃墟がある、西の方向を見る。すると、割れた窓ガラスの先に誰かが見えた。


「あれは...!」


 いた。実だ。

 実は椅子に縛り付けられているが、見たところは外傷もなく、命に別状は無さそうだ。


 一安心だ。しかし、実の隣に立っている女が気になる。


 何、あの人。1人?ここからだと1人しか見えないだけ?


「何...?」


 私は腹ばいになるために、散らばったガラス片を一箇所にまとめると、狙撃の態勢に移り、スコープ越しに見てみた。


「...」


 女は笑っていた。厳密に言うと、微笑をたたえていた。


 その顔は、現状を楽しんでいるような顔というより、慈愛に満ちた、どこか母性を感じるやさしい顔だった。


 しかし、その母性はこの場に似合わない。はっきり言って不気味だ。


 さらに、あの瞳。笑っているのに笑っていない。というより、何も見ていない気がする。何か、別のものを見ているような。


「いや」


 頭を振って考え直す。


 今考えるのはあの人のことではない。


 実を助ける。今度こそ失敗しないように。約束を守るために。


 あの女は敵だろう。なら、殺すまで。


「...さようなら」


 トリガーに指をかけ、弾こうとした。


 その時だった。


「っ!」


 小さな「カツン」という音が聞こえた時には、体が既に動いていた。


 瞬間、2発の銃弾が真っ直ぐに飛んできた。1発は私狙いで、避けることができた。しかし、もう1発が狙撃銃に当たってしまった。


「くっ...!」


 もう撃てない。狙撃銃の状態を確認した後、直ぐに撃たれた方向を見つめた。


 誰かがいる。


 暗く見ずらいが、見える。廊下の先、階段の方に1人。素性は見えないが、男だろう。


「鋭いなぁ。また奇襲失敗だ。おじさん、隠密は得意なんだけどねぇ」


 男の声が廃墟に響く。

 私は声のする方向をジッと睨んだ。


 この男。あのとき逃した...。


 まずい。高橋さんが用意してたのは、あくまで狙撃銃だけだ。拳銃もナイフも持ってない。


「音が聞こえた。私にバレる程度なら、隠密が得意とは言えない」


「おっと、言ってくれるね。おじさんは本当に隠密は得意なんだ。多分、お前の感覚が鋭すぎるんだと思うよ。天性の才能ってやつかな」


 そう言うと、男は壁の影から少し前に出た。


 私には拳銃がない。狙撃銃も使えなくなってしまった。今仕掛けないと、不利になってしまう...!


「...!」


 私は素早く走り出す。


 そして、奴の銃口がこちらを向く前に懐をとった。


「お、やっぱり早いね。でも」


 男の口角が上がった。


「!?」


 異変に気づいた時には遅かった。


 突然、視界が真っ白になり、見えなくなった。

 そして訳もわからないまま、みぞおちを蹴り上げられる。


「かっ...」


 体は大きく弓形に飛び、床に叩きつけられた。

 そしてしばらく転んだ後に、止まった。


「くっ...うぅ...」


 立ちあがろうとするが、体が動かない。

 息をするだけで胸に痛みが走る。


 眩む視界の中、男がゆっくりとこちらに近づいてきているのがわかった。


 そしてもう1つ、あるものが近くにあることも。


「お前は人一倍感覚が鋭いみたいだね。このライト、まあまあショボいんだけど、お前には十分効力があったな。ま、曇ってくれてよかったよ。前回は天気に嫌われてたから、お天道さんの罪も、これで帳消しだね」


 笑い声を上げながら徐々に徐々に近づく。

 顔は良く見えないが、きっと愉快そうな顔をしているのだろう。


「あ...う...」


 近づく男から離れるために、体を起こそうとするが、中々動かない。


 そしてとうとう、すぐ側まで近づかれてしまった。


「...」


 痛みを堪えながら体を起こそうとする。


「そこで待ってなよ」


 そう言って、男は私の背中を踏み潰した。


「ぐっ...ああああ!!!」


 叫びが喉の奥から湧き出る。


 今にも飛びそうな意識をつなぎながら呼吸をするが、上手くいかない。


 痛い痛い痛い。


 途切れ途切れの浅い呼吸をしながら、私は顔を上げた。


「おっと、苦しそうだね。ま、そうだな。ここで突然の自己紹介、といこうか」


 男はそんなことを言いながら、私を踏む足に更に体重をかけた。


「おじさんの名前は間宮良吾まみやりょうご。元々ある傭兵団に所属していてね。抜けたんだけどね?一応強いのよ、おじさんは。ま、お前の名前は知らないけど、服装を見るに、学生だよな?お前も強いけどさ、制服着て学校に行ってる時に、武器を持ってるわけ無いよな?なら、今はおじさんの方が強いよな?それはお前ならわかるはずだ」


「...な...にが......言いたい...!」


「おっと、怖い顔しないでほしいね。まあ簡単に言うと、今のお前に勝ち目はないってことだよ」


 そう言うと、間宮と名乗る男はこちらに拳銃を向けた。


「やっぱ、()()()は頭良いね。思い通りに進んで嬉しいよ」


「ぐっ...」


 トリガーに指をかける。


 その時、私はあるものを手にしていた。チャンスはこれしかない。


「死ね」


「...!」


 銃が放たれる前に、手に取っていたものを脚に突き刺した。


「くっ!?」


 間宮はたまらず脚を退ける。さらに、それによってバランスを崩し、あらぬ方向に銃を撃った。


 私は力を振り絞って立ち上がる。


「ガラス片か...やってくれたね」


 間宮は再度、こちらに銃口を向けた。


「...」


 私は再びガラス片を握り、そしてそれを投げた。


「そんなの当たらないよ」


 間宮はそう言って横に避ける。


 が。


「何ッ!?」


 私は既に目の前からいなくなっていた。懐にいたのだ。


 今のは避けさせるため、もっと言えば、銃を撃たせないための行動だ。


 私は体が小さいし、素早い。


 間宮との距離も近い今なら、負傷中でも、その時間さえ稼げれば死角に入ることができる...!


「はあああ!」


「グアッ...!」


 鋭く尖ったガラス片を間宮の腹に突き立てる。


 鋭角に刺さったそれは、間宮の動きを鈍らせるのには十分だった。


「クソっ!!!」


 間宮が怒りに任せてナイフを大きく振るう。


 早くて避けられない。しかし、それでも鈍っている。


 感情任せの大振りはチャンスだ...!


「ふっ...!」


 私は通学鞄を前に出す。そしてそれにナイフが突き刺さった。ナイフは防げたが、衝撃は防げない。そのまま体は後ろに飛ぶ。


「死ね...!」


 男は直ぐにナイフを抜き、無防備な私に刃を向けた。


 ...ここだ。


 私は鞄の中身を間宮の顔に撒いた。


 瞬間、間宮が苦悶の声を上げる。


「グアアアアアアアアアアア!!!痛エエエエエ!!!」


 間宮は目を擦りながら、うずくまる。


「目には目を」


 私は悶絶する間宮の方へ近づくと、手放していたナイフを手に取り、首に当てた。


「な...にを...したあああ!!!」


「細かく砕けたガラスを、あらかじめ鞄に入れておいた」


「クソッ!クソッ!痛え!見えねえ!」


 種明かしをしたが、聞いているかは不明だ。


 私の限界も近い。とりあえず、とどめを...。


「はっ?」


 そんな声が出てしまった。


 間宮がいきなり立ち上がり、窓の方へと走っていったのだ。


 そして。


「あああああああ!!!」


 叫びながら落ちていった。


 ここは3階だ。しかも下はコンクリート。苦痛に耐えかねて飛び降りたのなら、受身は取れないだろうし、ほぼほぼ死んでると思う。


 しかし、確認はしておかないといけない。


 一歩一歩窓に近づく。

 近づくにつれ、段々と意識が薄れていった。


「また...」


 あの男と戦うとこうなるのか。


 私は実を助けたいだけなのに...!ごめん実。


「ごめ...ん...」


 そのままその場で倒れてしまった。


 私は、また。実...。


「みの.........り......」





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