第27話:2人の意思と1人の決意
*不定期更新です。基本13時に更新してます。
作戦その1が決まった。
銃持ちが全員一気にやられたことで、奴らは焦りを見せ
始めた。
「おい!グレネード!」
誰かがそう言った。
そして撃たれないように角からグレネードを投げ込む。
普通なら焦るだろう。
しかし、俺たちは焦らない。何故なら、これも作戦通りだからだ。
投げ込まれたグレネードは1個。裕樹先輩が隠れている室外機の裏に落ちた。
1つで十分に殺せるだろう、とたかを括っているのだ。
それが命取りであると知らずに。
「裕樹先輩!」
「わかってるよ!」
俺が大きな声で呼ぶと、裕樹先輩は返事をして、グレネードを掴む。
そして
「返却だ...!」
そのまま投げ返した。
奴らは銃火器を持っているが、ズブの素人だ。
銃や手榴弾を使った戦い方なんてものを知っているはずがない。しかし、半端な知識だけを持ち合わせている。
だから、こうなるのだ。
「は?何で...」
そんな声が聞こえた。
奴らからしたら俺らはもう爆発に巻き込まれて死んでいるはずだった。
しかし、投げ込んだグレネードは自分達の目の前に浮かんでいるのだ。
そして、さらに投げ返すこともできず、それが爆発する。
とてつもない爆発音と共に、手榴弾の破片が吹き飛び、角の向こうから、数人の断末魔と野次馬の叫び声が聞こえた。
グレネードはピンを抜いてから爆発までに猶予がある。軍隊などはそれを考慮して使うそうだが、こいつらはその性質を知らずに使っていたのだ。
作戦その2が決まった。
あとは掃討するだけだ。
「行こう」
日暮が合図を出すと同時に、俺たちは路地裏から通りに出た。
「うっ」
酷い有様だ。爆傷と手榴弾の破片でボロボロになった死体や、炎上中の車まで吹き飛んで燃えている人間など、とにかく地獄絵図だ。吐き気を催してしまうが、ここは我慢。
「残りはあの6人だ!」
裕樹先輩が指差す方角に、言われた通り6人が立っていた。しかし、茫然自失といった様子で、明らかに戦意が無い。これは楽になりそうだ。
そうして走り出そうとした瞬間だ。
「ん?」
何かが聞こえる。久しぶりに聴いたその音は、聴きたくなかった音でもあった。
サイレンだ。
パトカーや救急車、消防車のサイレンが聴こえる。
「こりゃまずいな」
裕樹先輩はそう言うと、背中を向けて走った。
日暮は何も言わずに走って逃げている。
それに継いて行く形で俺もその場を立ち去った。
「これ、ヤバくないですか?」
「やられた。多分、これがあいつらの作戦だ。そもそも俺たちに中途半端な装備の半グレを送ったのは、時間稼ぎのためだったんだ。人目のつきやすい通りで起こさせたのも、警察を使って時間を稼ぐため。元よりお前を殺す気なんて無かったんだよ」
苦い表情をして走る裕樹先輩。
富岡町に入り、目的地はすぐそこというところで、俺たちは引き返している。
もどかしさと苛立ちが心に積もる。前を走る2人もきっとそんな気持ちなのだろう。
「とにかく!今は一刻も早く美月たちと合流して、実を救出しないといけない。そのためにここからどうするか、それを考えないと」
そう言う日暮の顔には、明らかに焦りが滲み出ていた。
日暮の言う通りだ。
そうだ。今は考えろ。
「1番の近道だった雷神通りは行けなくなった。警察も来てるから捜査のためにあちこち巡回するだろうし、野次馬の数も増えていく。遠回りするにも、時間がかかればかかるほど、難しくなっていくね」
日暮は焦りながらも、冷静に思考していた。
「どっちみち、俺たちの外見がバレてないことを祈るしかねえな。雷神通りの次に近い道を突っ切るぞ」
裕樹先輩は走る速度を上げ、先頭に立った。
先輩はチキンと言われているが、その実は頼りになるし、頭も良いみたいだ。恐らく、第二のルートも既に考えついているだろう。
「次、右だ!」
そう言って裕樹先輩が右に曲がろうとする。
その瞬間、とてつもないほどの寒気が俺の体を襲った。
何だ?ただの道のはずだ。この道が正しいはずだ。
なのに何だ?怖い。この角を曲がってはいけない。そんな予感がする。
しかし、無情にも裕樹先輩の足は前に進んでいく。
ダメだ。この先は、曲がっちゃいけない...!
「止まってください!裕樹せんp」
呼び止めようとした。もっと早く言えることができればよかった。
「グハッ...」
血を吐き倒れる先輩の姿を見て、日暮は跳び退いた。
しかし、俺は動揺して動けなかった。
嘘だろ?何でだ。どうしてこうなる。
「あれ、なんでわかっちゃったの?ま、いいや。死んで」
立ちすくむだけの俺に、凶刃が襲い掛かる。
「大斗!」
日暮が俺の体を押した。
瞬時に俺の体は地面に転がる。
「ひ...ぐれ...」
血を流していた。
横腹をナイフで1突きされ、今にも倒れそうになりながら、相手の腕を掴んでいた。
そして、俺の方へ振り返った。
「は...早く...逃げ......て」
日暮は吐血しながら確かにそう言った。
そんな姿を見て、俺はまだ動けずにいる。
「はーい、抜くよー」
金髪の女だ。そいつは日暮が必死に掴んでいた腕をいとも簡単に引き剥がすと、勢いよく腹からナイフを引き抜いた。瞬間、日暮が激しく吐血する。
「いか...せない...!」
「邪魔なんですけど」
重体を追いながらも、引き止めようと縋り付く日暮を、その女は無慈悲に蹴り飛ばした。
日暮は地面に叩きつけられ、力無く倒れる。立ち上がる素振りも見せない。
ああ。
終わりだ。
「...」
近づくその女を見て、死を悟った。
女は俺にナイフを突きつける。
「はーめんど。ほら、ちゃんと立って」
そう言って、俺の胸ぐらを掴むと強引に立ち上がらせた。
しかし、力が出ずにすぐへたり込んでしまう。
「だる。戦う気がないならさっさと殺されろっての。ほらはーやーくー」
ああ。
このまま殺されるんだな。日暮も裕樹先輩も助けられずに、このまま...。
「マジだるいんですけど。早く立てっての。首切れないじゃん」
みんな、ごめん。
父さん、母さん、今度こそそっちに...。
「はああ、もういいし。うまく切れなくて苦しんで死んでも知らないからね」
ナイフが首に当たる感触がして、目を瞑った。
その時、か細い声で誰かが何かを言っているのがわかった。
裕樹先輩だ。
まだ意識があるのか、何かを言っている。そして、右手には銃が握られていた。
それを聞いた瞬間、俺の心が動いた。
先輩は「逃げろ」と言っていた。
徐々に死んでいく感覚の中で、なおも俺の生を願っているのだ。
「逃げろ!!!」
精一杯の叫びが辺りに響くと同時に、裕樹先輩はトリガーを引いた。
「そういうのいいから」
「!?」
しかし、この女には通用しなかった。
背後から、意識外から攻撃したはずなのに、読まれていたのだ。
裕樹先輩の右手は強く踏みつけられ、発砲が防がれてしまった。そしてとうとう先輩は意識を失ってしまう。
目の前には女。その背後には倒れた裕樹先輩と日暮。
絶望的だ。諦めろ。もう死を受け入れろ。
「ハハ...」
さっきまではそう考えていた。
「じゃ、死んでねー」
女は振り返り、ナイフを再び手に取った。
先輩の銃弾は、虚しくも放たれることはなかった。
しかし、その行動は、俺の考えを改めさせてくれた。
「!?」
女が咄嗟に下がる。
俺の気配に気づいたのかもしれない。
「やってくれたな」
俺は立ち上がって、女の方を向いた。
日暮は俺を庇ってくれた。裕樹先輩は俺のために時間を稼いでくれた。
どれも自分を犠牲にしてまで、だ。
2人が俺のことを思って、その身を呈してまで助けてくれたんだ。
今度は俺が、2人を守るために戦う番だろ。
「ウケる。急に戦う気になってんの」
「笑ってられるのも今のうちだ」
さっき言ったはずだ。
俺は、誰かを守るために強くなったんだ。
ここで挫けてどうする。
今だ。今出し切れ。
この戦いで、本当の本気を出すんだ。
ナイフを手に取り、構える。
「俺の実力を見せてやる...!」
今度こそ、修行の成果を出し切る時だ。
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