第26話:足止め
俺は焦燥感と無力感に苛まれながらも、日暮と裕樹先輩が来るのを待っていた。
15分ほど待っていると、2人が息を切らしながら、ドアから入ってきた。
「状況は!?」
息も絶え絶えに日暮が聞く。
俺はことの顛末を全て話した。しかし、シルバーの今後の処遇については言わなかった。というより、言えなかった。
「なるほど。じゃ、私たちも探しに...」
「待て」
話を終え、急いで捜索に出ると言う時に、裕樹先輩が手を掴んできた。
「何ですか」
少しキレ気味に言ってしまったが、本人はあまり気にしていない様子だ。
「本当は今日の夜に言うつもりだったんだがな...わかったんだよ」
「何が?」
日暮はキレている。それに裕樹先輩は少し驚いて、早口に言い始めた。
「ヤサだ!やっとあいつらの拠点がわかったんだよ!場所は冨岡町にある廃ビルだ!」
そう言うと、裕樹先輩は地図アプリと写真を俺たちに見せた。
冨岡町。確か一之瀬組と同盟を組んでいる、十文字組の縄張りだと聞いた。
「と言っても、クロウの支部がここにあるわけじゃ無かった。これはクロウの傘下に加わった奴らの拠点だ。クロウの奴らは、指揮権などの上位の権限を、その集団の幹部たちに預け、構成員を送ったり半グレを使ったりして活動をサポートしている。中でもその主犯格が...」
「確かに重要だけど、今は急ぐ時間でしょ!その話は探しながらでもできるはず」
日暮が急いで外に出る準備をすると、裕樹先輩は「待て!」とまた俺たちを止めた。
「それは悪かった!本題言うから待ってろ!つまりはだな、新古町でクロウ関係の事件を起こしているのはほぼここをヤサにしている奴らだ。今回の件、クロウが関わっているなら、実はここにいる可能性が高い」
写真を指差す裕樹先輩。
ここに実が...。
「美月には既に伝えておいてある。行くぞ」
「はい!」
「ええ」
そうして俺たちの捜索は始まった。
ホワイト、虚、火花さんは学校から徒歩で。
俺、日暮、裕樹先輩はここから車で。
そして一之瀬組には引き続きその他の場所を捜索してもらうことになった。
こっちは移動手段が車だが、ホワイトたちの学校は冨岡町にあるため、恐らく俺たちよりも先に着くだろう。
拭えない不安感を胸に景色を眺めていると、急に車が停止した。
「ちっ、クソっ!」
裕樹先輩が苛立ち混じりに吐き捨てる。
「やられたわね」
日暮が見つめる先には普通の歩行者の他に、数十人ほどの柄の悪い連中がいた。
ジリジリと歩み寄ってくる。奴らの手には諸々の武器が握られており、当たり前のように拳銃もあった。
「くそっ!昼間の街中だぞ!新古町みたいに犯罪が当たり前の場所じゃ無いんだぞ!」
裕樹先輩は外に聞こえるように言ったが、本人たちはそれを聞いても何も思わないらしい。
そう、ここは新古町ではなく、冨岡町だ。冨岡町は歓楽街としての一面があるため、朝でもそこそこの人通りがある。そんなところで戦争が起きちまったら、流石にやばい。
「俺たちは朝霧大斗さえ殺せれば良いんだよ!場所も時間も関係ねえ!」
ひとりの男がそう言ったと同時に、何かを投げつけた。
あれは...。
「車から出ろおおお!!!」
裕樹先輩が叫んだと同時に、俺たちは急いで外に出る。
瞬間、俺の体に凄まじい衝撃が加わった。
激しく地面に叩きつけられ、ゴロゴロと体が転がって行く。そして、壁にぶつかったことにより止まった。
「ぐっ...あっ...」
大丈夫だ。まだ生きてる。
霞がかった視界を手に向けると、べっとりと血がついていた。
痛い。でもそんなことより、裕樹先輩と日暮が心配だ。
「あいつだ!あいつを殺れ!」
そんな声が聞こえて来た瞬間、発砲音が響いた。
あ、これ、死ん...。
「バカ!」
罵倒する声と共に、俺の体が何者かに押された。
ふと確認してみると、日暮だった。隣には裕樹先輩もいる。
「ひぐ...れ...」
「早くこっちに!」
そう言うと、手を引っ張りながら路地の方へ行った。
「戦えるか」
裕樹先輩が尋ねる。
意識も取り戻し、視界の霞が消え、よく見えるようになった。
2人の姿を見ると、2人とも満身創痍なのがわかる。とてもじゃないが、これから戦う人間の姿には見えない。
しかし、戦うんだ。
戦って実を守る。それが俺たちに残された唯一の贖罪だ。
ここで諦めてどうする。
そもそも、俺は何のためにこれまで修行してきたかと思っている?強くなってきたかと思っている?
自分のため?それもある。でも、違うだろ?
誰かを守るために強くなってきたんだ。健太郎さんの願いを叶えるべく強くなったんだ。
痛みは我慢できる!傷だらけ血塗れ上等!五体満足の時点で十分だ!
今こそ、修行の成果を出す時だろうが!
「戦えます!!!」
気合一閃、心に喝を入れるように叫ぶと、2人の顔に微笑みが浮かんだ。
「それでこそシルバーの一員だ!」
裕樹先輩はそう言うと、腰から拳銃を取り出した。俺たちも同様に武器を手に取る。
日暮は角から顔を覗かせ、外の状況を確認した。
「車は燃えてる。一般人はあらかた逃げたみたいね。お陰でわかりやすい。相手の数は15人。拳銃持ちが5人。明らかに捨て駒みたいな扱いね...」
「ああ。でもグレネードも持ってることがわかったし、何より銃撃戦になる時点でやばい。普通に人が歩いて来るもんなら終わりだ。このまま逃げるってのも出来なさそうだし、一気に型つけねえと」
2人が考えていると通りの方から「出てこいよ!」と声が聞こえた。まずい近づかれている。距離を取ろうにも、この路地は袋小路だ。
俺たちは確実に、術中に嵌っている。
しばしの沈黙を破ったのは裕樹先輩の声だった。
「これはどうだ?」から始まった作戦は、不安が残るものだった。しかし、絶対安全な方法なんて元から無い。相応の犠牲を払う覚悟を決めなきゃ、何にもできない。
俺たちはその作戦を実行することにした。
近づく足音と笑い声。野次馬の声も段々と聞こえてきた。
「俺はここだ!頼むから撃ち合いはやめてくれ!」
俺は立ち上がって、あいつらに聞こえるように言った。路地からは出ない。
すると、奴らが顔を出してきた。
5人だ。全員銃をこちらに突きつけた。ゲスな顔を浮かべている。まだ気づいていない。
「じゃあ死n」
バン!と発砲音が響き渡る。
3人だ。きっかり3人やった。
それを確認し、素早く手前のゴミ箱の後ろに移動する。その間、もう2発の発砲音が聞こえた。どちらもこちらに向けられたものではなく、相手に向けられたものだ。
見ると、きっちり残りの2人が始末されていた。
銃持ちが全員が死んだ。ここからだ。
俺たちを術中に嵌めたんだ。今度は俺たちがお前らを嵌める番だ...!




