第24話:虚の約束、実の想い
*不定期更新です。基本13時に更新してます。
お昼の時間になって、私と火花と美月は屋上で昼食を摂っていた。
「...今わかってるのはこんな感じかな」
そこで美月は、今朝知った事実を私たちに言った。
実が元々はクロウ傘下の組織に所属していたこと。その因縁か、未だに追われていること。そして、追手から隠れるために私たちを利用していたこと。
もちろん、私は全て知らなかった。
実が組織に入っていた頃、私と実は既に知り合っていた。
それなのに、言わなかったんだ。隠していたんだ。
辛かったはずだ。助けて欲しかっただろう。本当は幼い私にだって縋りたかったのではないか。でも、そうしなかった。
何故か?わかっている。
私が、私の身上を話したからだ。あの子は優しいから、自分よりも私を優先したんだ。だから言わなかった。心配をかけさせたくなかったのだろう。
それだけじゃない。私に対してあの約束を結んだのも...多分私を優先したからだ。
『いつでも私を頼っていいよ。私は虚の味方だから、助けてあげる!』
本当に助けが必要だったのは彼女の方だったのに。
「虚」
「はっ」
呼び声に驚いてしまった。
「言っておくけど、あなたのせいじゃないからね?仮にあの時虚が知ったとしても、結局こうなることは変わらなかったと思うし。いや、絶対変わってないね」
「美月さんの言う通りです。過去に囚われるのではなく、未来を考えた方が建設的ですよ」
「もー!火花は堅っ苦しいんだよ!」
「持論を言ったまでです」
「うはー、相変わらずだぁ...」
いつものやりとりだ。元気づけようとしてくれているのだろう。
でも、今は前向きに考えられない。
この2人を見ていると逆に、あの時もっと良くできたのではないか、という思いが頭を巡ってしまい、後ろ向きな考えになる。
「虚!」
「...何?」
「今そんなこと考えてどうするの?今は今。虚には虚のやるべきことがあるはずだよ」
そう言われて考える。
私がやるべきこと。
『だったら私も、あなたが困ったときは絶対に助ける!』
『絶対だよ?約束だよ?虚!』
『うん!約束!』
「...約束」
思わず声が出た。
ずっと頭の中にあった言葉だったはずなのに、何故か抜け落ちていた。
そうだ。私は約束をしたんだ。
一方通行ではない。私も実に約束した。
昔の私が残した、唯一のバトンだ。
「約束、だから。実を守ってみせる」
そう言うと、美月が笑顔を見せた。
「その意気だよ虚。で、今日も家に寄るかい?」
「当たり前」
「よっしゃ!じゃあ火花さんも来なさいな!」
「私は鍛錬が...」
「いいからいいから!」
そんなくだらないやりとりをしていると、お昼休み終了を知らせるチャイムが鳴った。
そして、放課後。今日は部活をサボって家に直行だ。
「おー、おかえり」
「あ、美月たち帰ったんだ」
大斗はいつも通りダラダラしていると思ったけど、そんなことはなかった。
日暮と一緒にいる。見たところ、2人で特訓でもしていたのだろう。
あの話を聞いてから、やる気を出しているのがわかる。実を思っているのは私だけじゃない。みんなそうなのだろう。
その後、皆で夕食を囲んだ。
「そういえば、裕樹先輩って何してるんだ?」
大斗が質問すると、美月が口を開いた。
「情報収集だよ。亮吉さんにキツく言われて、本気出してるんでしょ」
「そんなにあいつらのアジトって見つからないのか?結構派手目に動いてるでしょ」
「そう思うかい?結構慎重だよ。現に大斗くんは今のところ全然襲われてないし、ゴールデンに来てるのも金で釣られた半グレだからね。構成員が全然出てこないから、居場所がつかめないんだよ」
「なるほどな...」
大斗が再び夕飯に手をつけ始めると、実が横から割って入った。
「あの、大斗を狙ってるのって、クロウなんだよね」
「もう隠す必要もないだろうから言うけど、そうだよ」
その言葉を聞いて実は「やっぱりそうだったんだ」と小声で呟いた。
私はその表情が気になってしまった。
夕飯が終わり、火花と日暮が帰る準備を始めた。
「じゃ、帰るね。実、くれぐれも怪しい人には近寄らないように...」
「アイサー!」
実が元気よく返事をすると、日暮は「ふふ」と笑って帰っていった。
それに続く形で火花も歩き始めた。が、ふと何かを思い出したかのように立ち止まり、振り返った。
「大斗さん、今度私と手合わせして貰えないでしょうか」
突拍子の無い提案に困惑する大斗。
「え?俺と?」
「はい。お祖父様が手合わせをしてやれと言っていたので」
「あ、あー、はい。前向きに検討を...」
「では、1週間後。一之瀬組の道場で待っています」
「あ、けん、けんと、検討って...」
引き止めようとするも、火花はそのまま帰ってしまった。美月は哀れな大斗の肩を、ポンと叩いて「ドンマイ」と言い、励ました。
「虚は?」
「今日は泊まってもいい?」
「良いよ」
そう言うと、奥の部屋に戻っていった。
今日は実と一緒にいたい気分だ。
どうにも、実のことが心配でならない。
そして夜、私と実は同じ部屋で、布団を隣り合わせにして寝ていた。
この距離感が落ち着く。
まるで昔に戻ったかのようだ。
「...ごめんね、虚。隠してて」
暗く静かな空間に、その声はやけに響いた。
「謝らないで良いよ。実にも色々あるんだもんね」
「でも、隠してたのは事実。危ないことなのに、言わなかったのは、謝るべきことだと思う。本当にごめんなさい」
その声は震えていた。
今どんな顔をしているのだろうか。気になるが、隣り合うのに確認する気にはなれなかった。
なら、せめて言葉をかけるべきだ。
「良いんだよ。私だって、もっとあなたに踏み込めばよかった。そしたら、実がこんなに追い込まれることは無かったかもしれない」
「そんなことないよ。虚に責任は全くない。言わなかったのは私なんだから...」
「それを言うなら、実にも責任はないよ」
そう言うと実は「え?」と声を漏らした。
「理由なく隠していたなら、確かに悪いことかもしれない。でも、実にも実なりの事情があって隠してたんでしょ?なら、悪いことなんかじゃない。責任も無い。一番悪いのは、実をこうさせた奴らなんだから」
「優しいね...」
しばらくの沈黙が流れる。寝てしまっただろうか。いや、きっと起きているだろう。
しかし、どう頑張っても沈黙の間、実が何を考えているか、私にはわからない。
どれだけ自分を責めていたとしても、知る術もないのだ。
もどかしい。そんな時間が流れた。
「虚だけじゃない。みんなそうだよ。優しすぎるんだよ。私のために、こうも動いてくれるとは思わなかった.........だから、これ以上迷惑はかけたくないな。助けてって言った分際で何言ってるんだって話だけど」
「実...」
「大斗はクロウから追われてるんでしょ?実は、バーで働いた時に薄々気づいてたんだ。誰に追われているかは言ってなかったけど、クロウだってのはすぐにわかった。その時、怖かった。私をどれだけ縛り付けるんだって。ここにまで来ないでくれって。狙いは大斗だけど、直に、いや、もう既にかもしれない。私がここにいることに気づくと思う。その時奴らは私を狙う」
「そうなったら私が、みんなが守る」
そう言うと、実は少し間を置いてから「ありがとうね」と言った。
「本当はこれ以上迷惑はかけたくないんだけどね」
自嘲気味の笑いと共に言われたその言葉は、心の奥に不吉な塊を置いていった。
それがこの子の本性だ。人を想い、自分を隠す。そして自分が犠牲になる。
きっと、私たちにお願いした時も、そう思っていたのだろう。そして、今でもそう思っている。
なら一層、私たちは実を守らないといけない。
これ以上、傷つけさせないために。そして、追い込まないために。
夜の闇が包む中、私は静かに決意を固めた。
あの約束を。
「守るよ」
返事はない。
今度こそ寝たのだろうか。
隣り合うのに確認する気にはなれなかった。
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