第23話:真実
*不定期更新です。基本13時に更新してます。
名取実がうちに来て、二週間が過ぎた。
報道は少なくなったが、正直なところ、帰るべき場所へ返したいところだ。
しかしまあ、口を割らない。無理矢理にでも帰そうかとも考えたが、得体の知れない不安感によって、その選択肢は頭から消え去る。
ここまでくると、奴らが関与しているのだろうと、薄々思い始めてきた。
黒の連中が実を狙っている。と。
ただ、何のためかはわかない。そもそも奴らがどんな組織かということすら、そんなにわかっていないのだ。人を殺す組織であるということは、まあわかってはいるが、何の目的をもって殺めているのかがわからない。
だから、実がもし奴らに追われているのだとしても、その理由まではわからないのだ。知る方法がない。
実自身から、言ってもらはないと具体的な策も練られない。
「どうしたもんかねぇ」
ホワイトは、ため息混じりに呟いた。
実が寝静まったころ、俺、日暮、虚、ホワイトは、作戦会議を開いていた。裕樹先輩は、忙しいため欠席だ。
「頑なに自分の情報を言わないよな」
「無理矢理にでも吐かせたほうがいいんじゃない?黒が関わってるかもしれないんだし」
日暮が眠そうな目で言うと、ホワイトは神妙な面持ちで「そうだね」と呟いた。
「最初のうちは、そのうち言ってくれるだろうと思ってたけど、こうも長引くとなると、その選択肢を選ぶしか無くなるね。本当は、自分から言ってくれた方が良いんだけど...」
「ま、言ってくれないんじゃ仕方無いよな」
俺の発言を皮切りに、沈黙が流れた。
暫くした後、隣に座っていた虚が口を開いた。
「...今の実は昔と違う。昔は私みたいな子だった。もし、時間の流れでそうなったのなら、それも仕方のないこと。でも、もし何かを取り繕うために、自分を隠すために変わってしまったのなら、それが、黒の仕業なら...私は戦う。実を解放する」
虚は俯き、少し溜めた後に覚悟を決めたように、口を開いた。
「実を守るって約束したから」
その瞳には決意が込められていた。
こいつはこいつなりに、実を助けたいと思っている。過去の親友なら、誰だってそうなるだろう。
俺は...いや、俺も勿論助けたい。しかし、助けるための力が俺にはあるのか?
そんな思いが心に重くのしかかる。
「私たちも実のことは気になるし、守りたい。明日にでも聞いてみるよ。とりあえずは答えを聞かない限り、どうにもならないからね」
その日の話し合いは終了となった。
そして翌朝。
飯の匂いに釣られ、俺と実が部屋に入り、テーブルに着く。
朝の眠気のせいか、それとも緊張のせいか、その食卓は静かなものだった。
俺たちは今日、こいつに聞かなければいけないことがある。
正直に答えてくれるまで、聞くつもりだ。返答次第では...色々考えなければならない。
俺もみんなも、最悪な答えは聞きたくない。
でも、今ここで聞かないといけない。
「実」
「んー?」
しかし、呼んでみたは良いものの、言葉が見つからない。こうやって直接聞くという行為は、中々にメンタルを使う。
ヘタレ野郎が...。
「話があるんだけど」
俺が黙っていると、代わるようにホワイトが声を上げた。
「単刀直入に言うけど、実、あなた、クロウと何か因縁があったりする?それで追われているからここに隠れてる、とか」
どストレートな質問だ。
でも、これくらいしないとこいつは答えない。
聞かれた本人は、妙な間を置いた後に、すぐに笑顔になった。
「くろう?聞いたことないなぁ。全然違うよー!ただ、戻りたくないだけ...」
まだ誤魔化している。そんな感じだ。
「じゃあ何?誤魔化さないでちゃんと言ってくれないと、私たちも困っちゃうな」
ホワイトも一歩も引かない。
「...前にも言ったと思うけど、色々面倒なんだよねー。戻ったらあれしろこれしろって、どうせ言われると思うからさー。だからここに...」
「ちゃんと言って」
ホワイトは食い気味に言い放った。こんな顔をするなんて珍しい。怒っている様子だ。
俺はただ、見ていることしかできなかった。
「あなたがちゃんと言ってくれれば良いの。助けてと言われれば助けるし。そもそも、私たちはクロウと敵対してるから、あなたが追われてるなら、絶対に守る。だからお願い。あなたのこと、教えて」
目を見つめ、伝えることだけをしっかりと伝えた。
しかし、俺たちの思いとは裏腹に、実の表情は強張る一方だった。
「わた...しは...」
先までのテンションはそこにはなく、焦燥だけが顔に張り付いていた。やがて、観念したかのように短いため息を吐いて、覚悟を決めたかのような顔をした。
「...私は元々、孤児だった。そして拾われたんだ。クロウの傘下にある、とある組織に」
その言葉に、俺とホワイトは息を飲んだ。
実はそんな様子を気にもせず、堰を切ったかのように淡々と喋りを続ける。
「そこで私は、訓練を受けてたの。辛く苦しい訓練を...。私はその生活が嫌だった。抜け出したかった。そして、ある日、事件が起きた。私が所属していた組織の施設が、数人の人物によって襲撃されたの。それが私の転機だった。私は混乱に乗じて、運良く抜け出すことができた。多分、他の人も抜け出してたと思う。そして私は...」
実は言い詰まると、下を向いて黙った後に、もう一度こちらを向いた。
「お父さんに、名取健太郎に拾われた。幸せだった。家族がこんなにも暖かかいものだなんて、知らなかった。でも、でも...!」
涙が瞳に浮かぶ。
「あの人たちは私をしつこく探してた...!しばらくはばれなかったけど、お父さんの知名度も相まって、見つかってしまった。そして、嫌がらせが始まった。最初のうちは嫌がらせで済む程度だったけど、段々とエスカレートして、遂にお父さんが殺されそうになった。そして、私たちは逃げることにした」
そう言われてハッとした。
健太郎さんは、自身の身の安全を確保したかったんじゃなかったんだ。あの人は、自分の娘を第一に考えていた。
健太郎さんではなく、実が狙われていたから、実のことを必要以上に隠していたんだ。
嫌がらせも、恐らく実の身柄を渡せ、さもないと...という類のものだったのだろう。
健太郎さんはそれでも動じなかった。自分の娘のために...。
「でも、逃げきれなかった。お父さんはあの日、殺された。私の...私の、せいで...!」
悔しさのこもった声が、朝の空間に響く。
「悔しかった。でも、何より怖かった。次は私なんじゃないかって。逃げたかったけど、逃げる場所がない。だから...あなたたちを頼った。嘘を吐いてまで、ここに住み着いた」
「なるほど...」
そう言って、ホワイトが顎に手を当てると、実は再びこちらを見つめた。
「お願い...!私を、助けて...!お願いだから...見捨てないで...!」
懇願する実。
ホワイトはそんな態度を見て、逆に微笑んだ。
「最初から言ってるじゃんか。守るよ。クロウが関わってるなら、尚更ね」
「あ、ありがとうございます...!」
「なーんで敬語なんだーい?」
「あ、ありがとうっ!」
元気に言うと、ホワイトは「よろしい」と言った。
「ちなみに、なんで狙われてるんだ?」
俺が訊ねると、実は少し考えた後に「わからない」と言った。
「でも、殺そうとはしていないと思う。殺すつもりなら、あの日、私を攫おうとした理由がつかない」
確かにそうだ。
俺たちが悲鳴を聞いて駆けつけた頃、実は殺されそうになっていたのではなく、手を掴まれていただけだった。
実の命ではなく、実そのものが目当てか...。
「ま、とりあえずはここにいてもらうしかないね。そろそろ、あの人も長い労働を終わらせて来るだろうしね」
何のことだ?
まあ、いいか。
そんなことを思っていると、実が涙を浮かべながら、突然頭を下げた。
「ほ、本当にありがとう!私...これ言ったら見放されちゃうんじゃないかって、本当に心配で...!」
それを見たホワイトは優しく微笑み、実の体を抱きしめた。
「見放さないよ。あなたを守る」
実は嗚咽を漏らしながら、ホワイトの腕の中で泣いていた。
そんな姿を見て、俺にも、絶対に守るという固い意思が芽生える。
ホワイトもそうだろう。作戦を失敗して一番落ち込んでいたのはこいつだ。娘だけでも守り通すという意志があるはずだ。
そしてそれは、2人だけじゃない。
裕樹先輩も日暮も、そして虚も、その意思を持っているだろう。
絶対に。
絶対に守る。
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