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ブラック&ホワイト  作者: 芋太郎
第1章:虚実編
23/80

第23話:真実

*不定期更新です。基本13時に更新してます。

 名取実がうちに来て、二週間が過ぎた。


 報道は少なくなったが、正直なところ、帰るべき場所へ返したいところだ。


 しかしまあ、口を割らない。無理矢理にでも帰そうかとも考えたが、得体の知れない不安感によって、その選択肢は頭から消え去る。


 ここまでくると、奴らが関与しているのだろうと、薄々思い始めてきた。


 黒の連中が実を狙っている。と。


 ただ、何のためかはわかない。そもそも奴らがどんな組織かということすら、そんなにわかっていないのだ。人を殺す組織であるということは、まあわかってはいるが、何の目的をもって殺めているのかがわからない。


 だから、実がもし奴らに追われているのだとしても、その理由まではわからないのだ。知る方法がない。


 実自身から、言ってもらはないと具体的な策も練られない。


「どうしたもんかねぇ」


 ホワイトは、ため息混じりに呟いた。


 実が寝静まったころ、俺、日暮、虚、ホワイトは、作戦会議を開いていた。裕樹先輩は、忙しいため欠席だ。


「頑なに自分の情報を言わないよな」


「無理矢理にでも吐かせたほうがいいんじゃない?黒が関わってるかもしれないんだし」


 日暮が眠そうな目で言うと、ホワイトは神妙な面持ちで「そうだね」と呟いた。


「最初のうちは、そのうち言ってくれるだろうと思ってたけど、こうも長引くとなると、その選択肢を選ぶしか無くなるね。本当は、自分から言ってくれた方が良いんだけど...」


「ま、言ってくれないんじゃ仕方無いよな」


 俺の発言を皮切りに、沈黙が流れた。


 暫くした後、隣に座っていた虚が口を開いた。


「...今の実は昔と違う。昔は私みたいな子だった。もし、時間の流れでそうなったのなら、それも仕方のないこと。でも、もし何かを取り繕うために、自分を隠すために変わってしまったのなら、それが、黒の仕業なら...私は戦う。実を解放する」


 虚は俯き、少し溜めた後に覚悟を決めたように、口を開いた。


「実を守るって約束したから」


 その瞳には決意が込められていた。


 こいつはこいつなりに、実を助けたいと思っている。過去の親友なら、誰だってそうなるだろう。


 俺は...いや、俺も勿論助けたい。しかし、助けるための力が俺にはあるのか?


 そんな思いが心に重くのしかかる。


「私たちも実のことは気になるし、守りたい。明日にでも聞いてみるよ。とりあえずは答えを聞かない限り、どうにもならないからね」


 その日の話し合いは終了となった。


 そして翌朝。


 飯の匂いに釣られ、俺と実が部屋に入り、テーブルに着く。


 朝の眠気のせいか、それとも緊張のせいか、その食卓は静かなものだった。


 俺たちは今日、こいつに聞かなければいけないことがある。

 正直に答えてくれるまで、聞くつもりだ。返答次第では...色々考えなければならない。


 俺もみんなも、最悪な答えは聞きたくない。


 でも、今ここで聞かないといけない。


「実」


「んー?」


 しかし、呼んでみたは良いものの、言葉が見つからない。こうやって直接聞くという行為は、中々にメンタルを使う。


 ヘタレ野郎が...。


「話があるんだけど」


 俺が黙っていると、代わるようにホワイトが声を上げた。


「単刀直入に言うけど、実、あなた、クロウと何か因縁があったりする?それで追われているからここに隠れてる、とか」


 どストレートな質問だ。


 でも、これくらいしないとこいつは答えない。

 聞かれた本人は、妙な間を置いた後に、すぐに笑顔になった。


「くろう?聞いたことないなぁ。全然違うよー!ただ、戻りたくないだけ...」


 まだ誤魔化している。そんな感じだ。


「じゃあ何?誤魔化さないでちゃんと言ってくれないと、私たちも困っちゃうな」


 ホワイトも一歩も引かない。


「...前にも言ったと思うけど、色々面倒なんだよねー。戻ったらあれしろこれしろって、どうせ言われると思うからさー。だからここに...」


「ちゃんと言って」


 ホワイトは食い気味に言い放った。こんな顔をするなんて珍しい。怒っている様子だ。


 俺はただ、見ていることしかできなかった。


「あなたがちゃんと言ってくれれば良いの。助けてと言われれば助けるし。そもそも、私たちはクロウと敵対してるから、あなたが追われてるなら、絶対に守る。だからお願い。あなたのこと、教えて」


 目を見つめ、伝えることだけをしっかりと伝えた。


 しかし、俺たちの思いとは裏腹に、実の表情は強張る一方だった。


「わた...しは...」


 先までのテンションはそこにはなく、焦燥だけが顔に張り付いていた。やがて、観念したかのように短いため息を吐いて、覚悟を決めたかのような顔をした。


「...私は元々、孤児だった。そして拾われたんだ。クロウの傘下にある、とある組織に」


 その言葉に、俺とホワイトは息を飲んだ。


 実はそんな様子を気にもせず、堰を切ったかのように淡々と喋りを続ける。


 「そこで私は、訓練を受けてたの。辛く苦しい訓練を...。私はその生活が嫌だった。抜け出したかった。そして、ある日、事件が起きた。私が所属していた組織の施設が、数人の人物によって襲撃されたの。それが私の転機だった。私は混乱に乗じて、運良く抜け出すことができた。多分、他の人も抜け出してたと思う。そして私は...」


 実は言い詰まると、下を向いて黙った後に、もう一度こちらを向いた。


「お父さんに、名取健太郎に拾われた。幸せだった。家族がこんなにも暖かかいものだなんて、知らなかった。でも、でも...!」


 涙が瞳に浮かぶ。


「あの人たちは私をしつこく探してた...!しばらくはばれなかったけど、お父さんの知名度も相まって、見つかってしまった。そして、嫌がらせが始まった。最初のうちは嫌がらせで済む程度だったけど、段々とエスカレートして、遂にお父さんが殺されそうになった。そして、私たちは逃げることにした」


 そう言われてハッとした。


 健太郎さんは、自身の身の安全を確保したかったんじゃなかったんだ。あの人は、自分の娘を第一に考えていた。

 健太郎さんではなく、実が狙われていたから、実のことを必要以上に隠していたんだ。


 嫌がらせも、恐らく実の身柄を渡せ、さもないと...という類のものだったのだろう。


 健太郎さんはそれでも動じなかった。自分の娘のために...。


「でも、逃げきれなかった。お父さんはあの日、殺された。私の...私の、せいで...!」


 悔しさのこもった声が、朝の空間に響く。


「悔しかった。でも、何より怖かった。次は私なんじゃないかって。逃げたかったけど、逃げる場所がない。だから...あなたたちを頼った。嘘を吐いてまで、ここに住み着いた」


「なるほど...」


 そう言って、ホワイトが顎に手を当てると、実は再びこちらを見つめた。


「お願い...!私を、助けて...!お願いだから...見捨てないで...!」


 懇願する実。

 ホワイトはそんな態度を見て、逆に微笑んだ。


「最初から言ってるじゃんか。守るよ。クロウが関わってるなら、尚更ね」


「あ、ありがとうございます...!」


「なーんで敬語なんだーい?」


「あ、ありがとうっ!」


 元気に言うと、ホワイトは「よろしい」と言った。


「ちなみに、なんで狙われてるんだ?」


 俺が訊ねると、実は少し考えた後に「わからない」と言った。


「でも、殺そうとはしていないと思う。殺すつもりなら、あの日、私を攫おうとした理由がつかない」


 確かにそうだ。


 俺たちが悲鳴を聞いて駆けつけた頃、実は殺されそうになっていたのではなく、手を掴まれていただけだった。


 実の命ではなく、実そのものが目当てか...。


「ま、とりあえずはここにいてもらうしかないね。そろそろ、あの人も長い労働を終わらせて来るだろうしね」


 何のことだ?

 まあ、いいか。


 そんなことを思っていると、実が涙を浮かべながら、突然頭を下げた。


「ほ、本当にありがとう!私...これ言ったら見放されちゃうんじゃないかって、本当に心配で...!」


 それを見たホワイトは優しく微笑み、実の体を抱きしめた。


「見放さないよ。あなたを守る」


 実は嗚咽を漏らしながら、ホワイトの腕の中で泣いていた。


 そんな姿を見て、俺にも、絶対に守るという固い意思が芽生える。


 ホワイトもそうだろう。作戦を失敗して一番落ち込んでいたのはこいつだ。娘だけでも守り通すという意志があるはずだ。


 そしてそれは、2人だけじゃない。


 裕樹先輩も日暮も、そして虚も、その意思を持っているだろう。


 絶対に。


 絶対に守る。








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