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ブラック&ホワイト  作者: 芋太郎
第1章:虚実編
22/80

第22話:【SIDE.C】狂気

*不定期更新です。基本13時に更新してます。

 都内某所にある高級料理店。


 その店内に、2人の男女が来店した。2人の格好はその場にふさわしくないものだったが、誰も訝まなかった。否、彼らの姿を直視しなかった。もっと言えば、出来なかった。


 明らかな狂人のオーラ。


 その2人の仕草は至って普通であり、格好も少し汚いだけで、極端に変ではない。しかし、おかしい。


 そんな感覚が場を支配し、その場にいた客は皆、怯えていた。


 2人はある人物を見つけると、表情を一切変えずに、その人物の前の席に座った。


 その人物はヘラヘラとした表情を浮かべた、中年の男だった。


「やあ風一郎(ふういちろう)君、灑鳥(さとり)ちゃん。元気にしてたかい?まあ座って座って」


 風一郎と呼ばれた男と、灑鳥と呼ばれた女は、言われた通りに席に座った。


「おっさんこそ、脚と腹撃たれたんだろ?平気かよ」


 風一郎は心配などしていない。その言い方、表情には、嘲りが含まれていた。


 嘲笑されながらも、中年男は、笑うだけ笑って「大丈夫だよ」と言った。


「で、要件はなんだ。こっちもこっちで忙しいんだが」


「まあまあ、とりあえず食事でもしようよ」


 中年男がウェイトレスに注文をしようと手を挙げた瞬間、風一郎の右手にある拳銃が、男の腹に向けられた。


「聞こえなかったか?それとも、もう一回腹に穴空けたいか?」


「おー、怖い怖い。最近の若い子は血気盛んだこと」


 中年男はヘラヘラと笑いながら、手を下げる。


「ま、本題話しますかね」


 そう言うと、中年男は腕を組んだ。


「端的に言うと、君たちに頼み事があるんだよ」


「朝霧大斗の殺害依頼は、頼み事じゃ無かったのか?」


「頼み事さ。でも君たち、全然出来てないじゃん」


「今、手回ししてるところだ。本当ならこんな小綺麗なとこに来る余裕もねえんだよ」


「朝霧大斗の居場所は既に割れているんだろ?なら爆破でもなんでもすればいい」


「警戒心とセキュリティ、そして戦力が想定よりも上だったんだよ。準備をしないと、勝てる相手じゃねえ」


「君たちでもかい?」


 中年男が嘲笑混じりに言うと、風一郎は「チッ」と小さく舌打ちした。


「まあ、時間がかかるのはわかるよ。君に回した構成員も何人か犠牲になってるし、おじさん自身も現に戦ったりしたからね。でも、あんまりかかっても困るかな。こっちだって予定があるんだし」


「そもそも、お前らで苦戦するからって、俺たちに回したんだろうが。なら、俺たちのペースでいかせてもらう」


「そうだね。そこで、今回の依頼が役に立つってわけだ」


 そう言うと、風一郎は「ほう」と言って、中年男の目を睨んだ。


「今回の依頼は、朝霧大斗の殺害をスムーズに進めるために、ある人物を連れ戻して欲しい、というものだよ」


 その言葉を聞いて、風一郎の目つきが鋭くなった。


「連れ戻す...?俺たちと一緒だな」


「そうだね」


「名前は」


 尋ねられた瞬間、中年男の口がニヤリと曲がった。


「名取実。君たちが知ってる名前で言うなら、海堂実(かいどうみのり)だね」


 海堂実と聞いた瞬間、風一郎の口元が少し曲がった。


「あーあいつか。生きてたんだな。てか、今話題の名取実のことだったのかよ」


 気味の悪い笑い声をあげると、興味ありげな表情で「で?」と続きを促した。


「知っての通り、あの女は相当な手慣れだ。並の構成員より遥かに強いし、なんなら、君たちよりも強いかもしれない。そんなのがおじさんたちの元に着いたら、便利だとは思わないかい?」


「確かにな。で、そいつは何処にいるんだ?」


 愉快げな表情を浮かべながら、嬉々として問う風一郎に対し、中年男は難色を示していた。


「最近わかったんだけど、それが、朝霧大斗と同じ場所なんだよ」


「...おっさん、そういうのを本末転倒って言うんだ」


 先までの気味の悪い笑みは消え、興味が失せたように、普段の表情に戻った。


「はあ、とんだ茶番だったわ。行くぞ、灑鳥」


 2人が立ち上がると、中年男は慌てた様子で「ちょっと待って!」と引き留めた。


「あ?時間ねえって言ってんだろ。ぶっ殺すぞ」


「待って待って落ち着いて!あの女は行けるんだって!」


 その言葉を聞き、2人はもう一度席に座った。


「とっとと言え」


「餌があるんだよ」


「餌?」


「ああ、君たちもよーく知ってるもの」


 そう言うと、中年男は頼んでいたコーヒーを一気に飲み干した。


「あの女は、ずっと我々に追われていた。そして、ようやくセーフティエリア辿り着いた。が、彼女の心の中は、未だ『追われている』という恐怖心が蠢いている。それを逆手に取ってやるのさ」


「勿体ぶらずに言え。何を欲しているんだ」


 回答を催促すると、男の顔がニヤリと歪んだ。


「それはね」


 中年男がある言葉を呟いた後、少しの間、時が止まったかのような沈黙が続いた。


 そして、その沈黙を破ったのが風一郎の、狂気に満ちた笑い声だった。


「ハッハッハッハッハ!なるほどなぁ。そりゃ釣れるな!」


「だろ?だから出来るんだよ。彼女を操ることはね」


「ま、そうだな。でも、なんでお前らはわざわざ俺らに依頼した?やり方はわかってるはずだろ」


「そうなんだけどね。おじさんたち正規構成員はさ、こういうのに慣れてないんだよ。しかも、君たちはこの辺にアジトを作ってて地理に詳しいし、名取実の周辺戦力もわかっている。適材適所ってやつさ。君たちはこういうの得意だろ?特に風一郎君、君は」


「まあ、お前らよりは優秀だな」


「だからさ、頼むよ。言ってくれれば人員も渡すし、できる限り協力もするからさ」


 手を擦り懇願する中年男に、風一郎は鼻を鳴らすだけで、興味なさげにその場を去った。


「ちょっと!?」


 呼び止めようとする声を無視して、その場を後にする2人。

 2人はそのまま、タクシーを止め、乗り込んだ。


「めんどくせえけど、面白えことになってきたよなぁ、灑鳥」


「......」


 灑鳥は、終始微笑を浮かべているだけで、喋ろうとしない。

 その態度にため息を吐きながらも、風一郎は話を続けた。


「面白そうだから、名取実の案件もやりたいところだが、生憎と俺は、十文字組の件で忙しくてな。ま、これも戦力増強のためなんだが...」


「......」


「だから今回の件、お前に回すわ。五十嵐灑鳥(いがらしさとり)さん」


 そう言われた途端、これまで動かなかった灑鳥の口がゆっくりと動いた。


 その表情は慈愛に満ちており、まるで全てを愛する慈悲深い敬虔な信者のようであった。しかし、反面、その柔和な笑みはあまりにも不気味で、狂気に満ちていた。


「神の尊き選択とあらば、いくらでも従います...!」




*面白いと思ったら、高評価していってくれると嬉しいです。

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