第21話:BARゴールデン《後》
*不定期更新です。基本13時に更新してます。
「とりあえず、これを被って下さい」
そう言って高橋さんは実に仮面を渡した。
「これ可愛いねぇ」
その仮面には上部に猫耳がつけられており、まあなんていうか、ハロウィンとかの仮装に使うやつだった。どうやらお気に召したようだが、このバーの雰囲気に合うのかは、知らん。
そんなことより、俺はこの人に聞きたいことがある。
「あの、失礼ですが、客は来るんですか?」
失礼を承知で尋ねると、高橋さんは柔和な笑みを浮かべた。
「来ますよ。街はさびれてますがね、一応ここは隠れた名店として親しまれてるんですよ。一般客のみならず、一ノ瀬組の人や、有名人まで来ますよ。ただまあ、最近は物騒な事件が多いですからね。客足が遠のいているのは、事実です。しかし、稼げてはいますよ。地下施設を維持するくらいにはね」
途中まで「ほー、すげえな」程度に思っていたが、最後の一文で度肝を抜かれて、思わずむせてしまった。
「え?地下施設ってあれですよね?あのだたっ広い」
「そうですよ。あそこだけでなく、あなたたちの居住スペースもです。ま、一ノ瀬組の親方にも払ってもらってますがね」
「ど、どうしてそこまで...」
「そろそろ仕事、しましょうか」
聞こうとしたが、誤魔化されてしまった。なんか謎が多いよな、この施設といいシルバーの存在といい、この人といい...。わかる時は来るのか?
「仕事っていうのは?」
「あなたたちは...そうですね、大斗さんはグラス洗いを、実さんはボトルをそこのタオルで拭いていただけませんか?」
「わかりました」
「はいはーい!」
返事をして、各々仕事に取り掛かる。
俺はバイトで皿洗い経験者だ。活かすべき時が来たか。
仕事に手をつけてから30分、最初の客が来た。1人は派手な女、1人はチャラい男。カップルだ。
「ここ、おしゃれだねー。あ、見て見て!猫耳!可愛いー!」
「はは、そうだろ?行きつけなんだよ!ワイン2つ」
金髪の男が頼むと高、橋さんは「かしこまりました」と言って、ワインボトルを取り出し、グラスに注いだ。
玄関で靴を履くような、日常的とも思える自然な動作と、それに伴う威厳。一気に、冷たくも暖かいような、そんな不思議な空間になった。
2人のカップルも、その雰囲気に飲まれたかのように静まり返る。
すごい。魔法でも使ったのではないかと思わせるほどだ。
結局このカップルは、最初の調子がどこかへ飛んで行ったかのように、静かに酒を楽しんで静かに帰っていった。
その後、4、5人程客が来たが、皆、静かに飲んで、静かに去っていった。
その客の中には、常連が2人ほどおり、途中で俺たちの存在を茶化したりしたが、不思議と悪い気はしなかった。なんていうか、常連の人は、皆、雰囲気が優しい人ばっかだ。
そして、夜も更けそろそろ切り上げようというときに、3人組の客が入ってきた。
どれも柄の悪い連中だ。何か嫌な予感がする...。
「何でもいいから酒出せ」
男の1人が粗暴な態度で注文するも、高橋さんは顔色を何一つ変えずに「かしこまりました」と言って、酒を選び、シェイカーに入れた。
「おい、ここに朝霧大斗がいることはわかってんだぞ。早く出せ」
もう1人の男が吐いたその言葉に俺は戦慄した。
「狙われてるの?大斗」
実が呟く。
おい、どうしてくれんだ。
「高橋さん。どうするんですか」
小声で尋ねるも、高橋さんは何も言わずに、ただ3人を見つめていた。
「知りませんね」
「とぼけんじゃねえよ!てゆーか、そこの男だろうが!そいつを捕らえるか殺せば、こっちは金が手にはいんだよ!」
そう言うと、なんと、スキンヘッド男は懐から銃を取り出した。男を皮切りに、他のやつも銃を取り出す。
「ちょちょちょっと、これはまずいですって!」
そう言って、俺は実の頭を押さえてカウンターの陰に隠れた。
が、高橋さんは微動だにしない。
「それを私たちに向けるということがどういうことか、わかってますか?」
「そっちこそ、俺ら3人が何持ってるか分かってんのか?コラ」
「ここはお酒を嗜む場所。銃火器を発砲したいなら、外国へ行ってください」
「あ?舐めてんのか?前は許してやったけど、今回は本気だぞ?」
「こちらも本心で言っております。もう一度言います、ここはお酒を嗜むb」
バン!と大きな音が店内に響き渡った。
「もういい。じゃあ死ねや」
「そうですか、なら」
男たちが一斉にトリガーを弾く。だが、そこにはもう高橋さんはいなかった。
「!?」
瞬間、真ん中にいた男の下に、高橋さんの影が映る。
速い...!俺でも見えなかった。この動きは...。
ホワイト、あいつと同じだ。
「甘いですね。素人の銃など私には当たりませんよ」
「ガハッ!」
下から突き上げるように、掌底を顎にぶちかました。瞬間吹き飛ぶスキンヘッド。
「てめえ!」
「よくも!」
2人が銃を向けるも、今度は気絶したスキンヘッドを盾にした。
すると、2人が動揺する。その隙をついて高橋さんは一気に距離を詰めた。
「仲間は撃てないようですね」
高橋さんは、流れるように、右に立っていたやつの脚を刈り、銃を取り上げ、拳を顎にぶち込んだ。
「くっそがああああ!」
もう1人が引き金を引こうとする。
「遅い」
しかし、高橋さんは先程取り上げた銃を発砲し、なんと相手の銃だけを吹き飛ばした。
銃だけで体にダメージがないとはいえ、圧倒的戦力差の前になすすべもなく、尻餅をつく。
「仲間意識はあるようですね。腐ってもあの人の下にいるだけはある。ただ、まだ心が未熟なようだ。あの人は、天宮阿修羅さんは、金などではこんなことはしませんよ?」
そう言って、怯えて尻餅をついた男に近寄る。
天宮阿修羅?知らない名前だ。ただ、そいつが上のやつということはわかる。
いや、今はそんなことはどうでもいい。
「さ、あなたたちにこんなことをさせた人は誰ですか?」
「し、知らねえ!」
「んー?」
「ほ、本当に知らねえんだ!そ、そいつは顔も隠してたし、名前も教えなかった!そ、そもそも、金をもらう条件が、正体を隠すことと朝霧大斗を捕らえるか殺すことだったんだ!知る由もねえ!」
焦りながら、半ば叫ぶように言い放った。
その様子を、やはり顔色ひとつ変えずに、見下す高橋さん。
「あなたたちもそうですか」
そう言うと、容赦ない前蹴りを顔面に当て、男は気絶した。
「ふぅ、疲れましたな。今日はここまでにしましょう」
高橋さんは平然と片づけの作業に取り掛かった。
「あ、あの、大丈夫でしたか?」
「強いんだねー!カッコいいなー!」
俺は心配して声をかけたが、こいつは興奮している。なんでだよ。
「ははは、いつものことですから。あなたが来てから、1週間に1日の頻度で来るんですよ。その度にやり返してるんですけどねぇ。学ばないんですかねぇ。それとも何かあるのか...」
1週間に1日の頻度でこんなことが起きんのかよ!それをやり返しているのをすごいと思うが、反面、そんなことを知らなかった自分が恥ずかしい。
何より、自分のせいでそんなことになっているのが申し訳なさすぎる。
「お、俺のせいで...すみません」
「いえいえ、良いんですよ。そもそも、そういうことを承知の上で、美月さんたちに協力してるんですからね」
俺は何も言えなかった。
高橋さんは、そんな俺を優しい目で見つめた後「にしても」と声を漏らした。
「毎回毎回情報を吐かせてるんですけど、同じことしか言わないんですよ。裏を返せば同じ人物が裏で糸を引いていると言うことになりますね。まあ、このことは今はわかりませんが、別でわかったことがあります」
「なになに?」
いつの間にか実が目をきらめかせていた。
しまったな。こいつに全部聞かれてるの忘れてたわ。まあ、あんなことが起きたんならどの道逃れられんだろうし、いいか。
「あの方たちにとって大斗さんは必ず殺す必要は無いということです。恐らく、殺しても殺さなくてもいい。しかし、殺した方が何かしら都合がいいか手っ取り早いため、先日の銃撃などを起こしたのかもしれません。あるいは、他に何か理由があるか」
確かにそうだ。さっきの奴らは「捕らえるか殺すか」と言っていた。恐らく、一之瀬組の前で銃撃戦を起こした時も、俺が初めて襲われた時も、同じ指令が降っていたはずだ。でもなんで俺のことを殺そうとしてるんだ?何が目的なんだ?
「まあ、このことは美月さんたちも亮吉さんも知っています。真相を明かすためには、裏で糸を引いているであろう人物に直接聞くしかありませんね」
そう言うと高橋さんは、グラスを全て並べて、こちらを向いた。
「さ、閉店です。本日はお手伝い、ありがとうございました。これはほんのお礼です」
高橋さんのポケットから一万円が飛び出てきた。それも2札。それぞれ俺と実に渡す。
「うわー!ありがとう!私もすっごい楽しかったよ!中でも、あの銃で撃つところ!あれ凄かったな!」
「はは、そこですか...」
テンションの高い実に、苦笑いを浮かべる高橋さん。
俺も色々お礼を言わないとな。今日のことだけでなく、知らないところで俺たちの拠点を守ってたんだもんな...。
「あ、ありがとうございました。これからも、よろしくお願いします」
「そうですね。私が生きている限り、安心に暮らせるように努めます。こちらこそ、よろしくお願いします」
そう言うと、俺たちは別れを告げ、階段を降りて行く。
「すごかったね!高橋さん!」
「ああ、そうだな」
強いおじいちゃんが多すぎる。マジで何者なんだあの人。
「ねえ、大斗」
「なんd」
言い終える前に、実は俺のシャツを掴んだ。
その手は震えており、よく見ると脚も震えていた。
その様子に俺は少し驚いたが、同時に安堵の微笑も出た。
「お前、ビビってんな?」
「ちょ、ちょっとね、怖かった」
あの鉄火場が終わって、テンションが高いままだったから、正直俺はこいつのことが怖かったのだが、ちゃんとビビっていたようだ。いや、ビビることができたようだ。
そのことに俺は安堵していた。
しかし、俺はまだ知らなかった。
彼女が怯えていたのは、もっと他に理由があったということに...。
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