第2話:何でも屋シルバー《前》
*不定期更新です。基本13時に更新してます。
「私たちの組織に入ってくれない?」
言い終わった後、彼女は可愛らしい笑みを浮かべた。
「......」
「......」
沈黙が続く。
彼女の顔も段々と崩れて...無い。笑みだ、怖いくらい。
「返事は?」
決まってる。
「普通に断ります。ではここらで...」
再び立ち去る。
ヤバい人すぎる。
絶対関わっちゃいけないやつだ。二つ返事で「是非!」とか言ったら最悪死ぬやつだろ。
そろーっと少しだけ後ろを振り向くと、追いかけられていないことがわかった。
諦めてくれたならいいけど。
しばらく警戒しながら歩いていると、不意に後ろから大きな声が聞こえてきた。
「大斗くーん!脚痛くないー?」
声の発生源はあのjkだ。
脚痛くない?なんだそりゃ。
「痛いわけ...って」
途端に立っていられなくなるほどの激痛が腿を襲う。
なんだこれ痛すぎる。痛い痛い痛い痛い痛いたいたいたいたいたいって!!!
正直、悲鳴すら出ない。
「いっ!?あっ!?」
代わりに変な声が途切れ途切れに出る。
「さっ、きのっ、じゅうだっ」
「ふふふ、つっかまえたー」
妙にテンションの高い声と共に、ゆっくりと屈むjk。
逃げたい、けど、これは。
無理なやつだ。
「大丈夫?」
そう言って、悶絶しながら腿を抑える俺を、彼女は覗き込む。
「きゅ、救急車」
「そうだね」
彼女は鞄から包帯を取り出し、慣れた手つきで俺の脚に巻いていく。巻き終わったと思えば、俺のことを負ぶった。
「な、にを」
「病院行くんだよ」
「きゅ、きゅうきゅう...しゃ」
意識が遠のく。
嘘...だろ...?
完全に闇に包まれた。
「いってらっしゃい、大斗」
「行ってきます、お母さん!」
ドアを開けると、夏の熱気と蝉の声が玄関に蔓延する。
「大斗、気をつけろよ」
「わかってるよ、お父さん!お父さんこそ、そのペンダント無くさないようにね!」
「はは、そうだな」
「じゃあ、行ってくるね!」
父さんはいつも銀色のペンダントをしていた。
あの日も、最期まで持っていたらしい。
遺品を渡された時、そう言われた。
放火。
父さんと母さんは俺が友達と遊びに行っているときに、何者かによって家を放火され、そのまま...。
父さん、母さん、どうして...。
一体誰が。
瞬間、辺りを光が包む。
「あ...れ...」
目を開ける。
見知らぬ天井だ。リアルでこんなこと起きるとは思わなかった。
「お、目を覚ましましたね」
誰かが柔らかい笑みを浮かべている。
目の前にはあの黒髪jkではなく、デカい乳の...じゃなく、ショートな銀髪が特徴の白衣を着たお姉さんだ。なんかエロ...。
いや、そんなこと言ってる場合ではない。
「あの、ここって...それに、どちら様ですか?」
「ここは病院です。あと私の名前は芦田結花です。しばらく意識を失っていたのですが...無事で良かったです。銃弾がもうちょっと右にズレてたら、危なかったですよ」
「はぁ、ありがとうございます。にしては、その...」
辺りを見渡す。
設備が心許ない気がするし、どこか生臭い。
俺の不安げな顔を見た芦田さんは、にっこりと微笑んだ。
「あー、ここは闇病院ですよ。裏社会の救命施設です」
「なんだってこんなところに」
「私もわかりませんが、まぁここに運んできたってことは、何かあるんでしょう」
「あ、そういえばあの人は」
見回すがそれらしい人物はいない。
「美月はコンビニに行ってますよ。もうすぐ帰ってくると思います」
美月?あいつの名前か。
心の中で首を傾げていると、勘づいたかのように芦田さんは口を開いた。
「あの子は白井美月。変な子だけど、良い子ですよ......変な子だけど」
「ハハハ、そうですか」
良い子、ねぇ。今のところ変な子でしかないんですが。現に芦田さんも変な子強調してるし...。
そんなことを思っていると、廊下の方からスキップのような軽快な足音が聞こえてきた。
人が怪我して入院してんのにスキップかよ、不謹慎だな。
「結花ー!大斗くん起きたー?」
大声が廊下に響く。
「噂したら来ましたね」
「来てほしくなかったんだけど」
「お?その声は」
苦言が聞こえたのか、先ほどのステップが駆け足に変わって近づいてきた。
「起きたね、大斗くん」
白井さんだったか。彼女は右手にコンビニ袋を持っていた。
「は、はい、おかげさまで助かりました。で、その、何でここに?」
「それはね、大斗くんの命が狙われてるからだよ。普通の病院だと暗殺されちゃうんだよ」
「あー、そういう理由が。なるほどねぇ」
こりゃまいったな。
「納得した?じゃあ組織に」
するか。
「するか!!!なんだそれ、バカバカしい。もっとまともな設定をだな」
反論すると白井さん、いや、白井は人差し指を顎に当て、考えるポーズをとった。
「キミ、さっき殺されかけたこと覚えてないの?」
「それは...」
言い淀むと、彼女は顎に当てた人差し指を、中空に立てた。
「大斗くんを殺そうとした組織は、私たちが狙ってた組織なんだ。組織名はCROWで、私たちは〝黒〟って呼んでる。何年も何年も追い続けている宿敵でね、そんな奴らの動きが怪しいって気づいて、周辺を探ってみたら、キミが中心に浮かび上がったんだ。で、私たちはキミの周辺を隈なくチェックしてた」
「俺が狙われる理由が無いだろ。少なくとも俺自身は身に覚えがない」
「理由はわからない。でもここ数週間、ヤツらにずっとキミは監視されてたよ。気づかなかったかもしれないけどね」
そう話すと、彼女は珍しく真面目な顔をした。
「キミは何故だか命を狙われている。そして、私たちはあの組織を狙っている。だから私たちの元へ来てほしい」
「......俺が入れば命は安全。そして、俺がいれば、その組織が狙って近づいて来るから好都合ってことか」
考える。
重要なのは信用に足るか、だ。
嘘、と一括りにしたら死ぬかもしれない。本当かはわからない。が、嘘ならおかしいことはある。
俺が助かったのはこいつが来たからだ。でも、あんな都合よく来るか?こいつは俺の周りをチェックしていたと言った。それが本当なら、あのタイミングで俺を助けた理由がつく。
ただ、あまりにも突拍子が無さすぎる。
「すまないが、ことわ...」
言葉が詰まる。
...嫌な予感がする。
あの日以来、嫌な予感がするものに興味を持ち、欲望に抗えずに痛い目にあってきた。
だが、今回のは違う。
何かが全力で言うなと言っている。
「......」
「どした?」
俺は小さくため息を吐くと、顔を上げた。
「お前を信じる。入るよ、お前の組織に」
そう言うと、彼女はどこか安心した様な顔を浮かべて微笑んだ。
「それは良かった」
「ただし、俺が騙されたと思ったら、すぐ抜けるからな」
彼女は俺の発言を聞いた途端、わざと「ニヒヒ」と気味の悪い笑い声を上げた。
「抜けられたら、ね」
「お前...!」
「ははは!」
声を上げて笑う彼女を尻目に、芦田さんは立ち上がった。
「事情は知りませんけど、なんか良かったですね。でも、3日は入院してもらいますよ」
芦田さんが釘を刺すと、子供のような仕草で「えー」と言った。
「ま、いいや。改めまして朝霧大斗くん。キミを我が組織、何でも屋シルバーの一員として、歓迎するよ」
「お、おう」
「これからよろしくね!」
そう言って足速に立ち去っていった。
何でも屋シルバー、か。
さて、これからどうなるのやら...。
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