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ブラック&ホワイト  作者: 芋太郎
第1章:虚実編
14/80

第14話:狙撃手の実力

*不定期更新です。基本13時に更新してます。

 GPSの信号が止まった。


 それは何かが起きた合図でもあり、私が出動する合図でもある。


「裕樹」


「わかってる」


 この高速道路の沿線にある建物の状況は把握している。後は、入れる建物の中で、どこから狙撃するかを決めるだけだ。


 もう一度GPSを確認し、付近の目ぼしい建物を確認する。


 ここだ。というより、建物の関係上、ここしかない。このビルの屋上には登れる。そして、恐らく狙撃もできる。


「ここ。早く」


「はいはい、わかりましたよ!」


 裕樹が何だか怒っているが気にしない。


「ここだろ?着いたぞ」


「グッジョブ、裕樹」


「もっと労って欲し...って行きやがった」


 聞こえてるが、無視だ。


 とにかく、早く狙撃位置について、私に任された任務を果たすのみ。


 ビルに入って、エレベーターのボタンを押す。職員ではないが、ここら辺は培われたステルススキルが役に立つ。


 屋上に到着した。


 後は持っているライフルを組み立てる。


 この作業は慣れている。最近は頻度も多い。大斗が襲われた時も、一之瀬組の前で戦った時も、組み立てた。


 今日も、いつも通りだ。


『はいはーい』


「狙撃ポジションに着いた」


『うん、絶賛拮抗中。応援求む』


「了解」


 手短に電話を済ませると、地面に寝転び、スコープを覗く。


 見ると、やはり襲撃に遭っていた。状況としては拮抗しているようだったが、誰かが立ち上がった途端、何人かが一斉に美月たちの方へ行った。


 数としては10余人程。


 狙いをすます。


 スコープの調子も良い。少し雲が多いが無風に近いし、驚くほど遮蔽物が無いため見やすい。


 これなら簡単だ。


 息を吸い、吐いてそのまま止める。そして。


「...」


「バン」と大きな音が鳴った。直後、目標の心臓が貫かれる。まだ。


「バン」今度は頭。


 この調子で何人も屠っていく。数人が戻ろうとしているがさせない。車の影に隠れていても、ここからなら丸見えだ。


 そうして撃っているうちに、あっという間に5人ほどになった。


「次は」


 照準を合わせていると、太陽が姿を現し、辺りが明るくなった。


 その瞬間、視界の端の方が微かに光った。


「!?」


 咄嗟に横に転がる。


「っ!」


 腕に痛みが走った。見ると、血が流れている。すんでのところでかわしたけど、もし反応が一歩遅れていたら死んでいた。


 もし太陽が顔を出してくれなかったら、と思うと少し寒気がする。

 それにしても、私を狙ってくるとは、相手も中々侮れない。


 狙撃された方向を見ると、狙撃手はもう居なくなっていた。


 包帯を取り出し、腕に巻いている間、少し考える。


 奴の狙撃位置からは美月たちは見えない。つまり、あくまで私を優先して始末しようとしていたということだ。そして、相手は私を殺し損ねたことも、私がこの場からでしか狙撃ができないこともわかっているだろう。となれば、私を警戒して、あのビルから狙うことはもうないはず。場所を変えるにしても、移動に時間がかかってしまえば、美月たちが倒してしまう。相手からしてもそれは避けたいはずだ。


 そう仮定して、相手が次に腰を下ろす場所はどこだ。


 優先は私。ただ、私が警戒して姿を現さなくなった時のことを考えるはずだ。私を狙えないなら、次は美月たちを狙うだろう。つまり、私を狙えて、かつ、美月たちも狙える場所。そして、あまり遠くなく、立ち入りが容易な場所といえば。


「あそこだ。あのビルから撃つはず」


 私は再度ライフルをバッグに入れながら、美月に電話をかける。


「スナイパーいるから、気を張って」


『うーん、今からでも頭抜かれる?』


「多分相手も移動中だからまだ大丈夫。でも隠れる場所はないと思って」


『悠長に移動なんて、舐めてくれるねー』


「私が狙撃手を殺る」


『了解。じゃ、私はあいつら全員で』


 電話を切る。

 美月がやってくれるなら、私が狙撃手をなんとかする必要は無いかもしれない。


 しかし、相手は相当な手慣れ。放っておくわけにはいかない。


「裕樹、出して」


「へい、どこまで」


「あのビル」


「了解」


 指差したビルへと向かう。


 距離はそこまでない。相手が辿り着く頃には、美月たちが全員屠ってるだろうけど、一応念には念を入れて、なる早だ。


「到着です、お嬢ちゃん」


「着いてきて」


「へいへい...って、え?」


 戸惑う裕樹の手を引っ張る。


 このビルの会社は今日は休みだ。


 ビルとおおよその階はわかったけど、正確な階層はわからない。とにかく、これはしらみ潰しに調べるしかない。

 そのためには、できるだけ人数が必要だ。


「ここの4階から10階までに敵の狙撃手がいる。私は7階から10階まで探す。祐樹は4階から6階まで」


 状況を理解したのだろう。裕樹はさっきまでの不満顔を止め、真面目な顔で「わかった」とはっきり言った。


 私たちはエレベーターに乗り込む。裕樹が4階で降り、私は7階で降りる。


 調べるのは、高速道路方面を見れる西側だけで十分だ。


 調べて調べて調べた。


 そして、9階の第二会議室と書かれた部屋に、奴がいた。


 静かに銃を抜き、銃口を頭に向ける。


「あの女、すげえな」


 そう言うと、奴は窓の外を指差しながら、こちらを向いた。


 気配を殺したはずだったけど、気づかれていた。それに、銃を向けられているのに、1ミリも動揺していない。


「みんなやられちゃった。狙いも定まらなかったし、ありゃ勝ち目ないね、うん」


 何故か平然とした顔で頷く。歳の頃は40代ほどに見える髭面のおじさん。一見普通の人だけど、間違いなく人を何人も殺めている。


「おじさんに勝ち目は無い。手を後ろに回して地に伏して」


 命令すると、意外と素直に従った。私は拘束するためにロープを取り出し、近づく。


「そういえばお前もすごかったよなー。まさか避けるとはね。でも、これはおじさん、運悪いよね。お天道さんが味方してくれなかったからさ。ほんと参ったよ、運も悪いし、お前もあの女も強いしさ」


「口数が多い。黙ってそのままにしてて」


 注意するも、尚も喋ろうとする。


「でもさ、あれは運が悪かっただけだよ。あの太陽さえなければお前を殺せてたでしょ?ほら、今だって」


 瞬間、奴の腕が私の腕を掴んだ。


「しまっ!?」


 右手を強く握られ、銃を離してしまった。


 そのまま引き摺り込まれる。そして、逃げられないところにナイフによる銀閃が飛ぶ。


「くっ!」


 なんとか対応して身を翻し、躱せたが、危ういところだったた。それに、まだ掴まれたままだ。


 強い力で掴んだまま、奴は立ち上がった。


「お前、おじさんに勝ち目は無いって言ったよな?今から証明して見せろよ」


 先のヘラヘラとした声の主とは思えないほど低い声。


 久しぶりに恐怖を感じる。

 でも、やられるわけにはいかない。


「わかった。じゃあ」


 掴まれた右腕とは逆の手を腰に当て、そこからもう一個の銃を取り上げる。


「させる...」


「遅い」


 一発脚に叩き込むと、奴は跪いた。


「いい早撃ちだ。でもまだまだ」


 奴は撃たれたのにも関わらず、前進してきた。そして、ナイフによる猛攻が始まる。


「おじさんのナイフ捌きに耐えられるかな?」


 余裕の笑みを浮かべながら、右に左にとナイフを振り回す。


 私は近接戦闘が得意ではない。多分、それも見抜かれてる...!それに、近接戦闘しようにも、ナイフを出す暇すらない。

 脚を撃たれてこれだけ動けるのも、常人離れしている。


 避けながら距離を離そうとするも、全く離してくれない。いや、避ける方向を読まれてるのか。


「くっ!」


 少し反応が遅れてしまった。それにより、右手が少し裂かれる。


「...はぁ...はぁ...はぁ」


 息も上がってきた。そろそろ決着をつけないと本格的に危ない。


「避けるねぇ」


 余裕そうだ。


 仕方無い。一か八か、決めるしかない。


「!?」


 姿勢が後方へ崩れる。

 すかさず奴はその隙を狙って、ナイフを突いてきた。


 ここだ。


「ふっ」


 ナイフが腹に刺さる寸前で、右脚を地面につけ、踏ん張る。そして、真半身になってナイフを躱した。余裕そうな人間はほとんど引っかかる。


「おおおっ!?」


 今頃刺さっているはずなのに刺さっていない。その事実に戸惑っているようだ。


 私は奴の右腕を掴み、体を引き寄せる。


 そしてその勢いのまま、左手の拳銃を腹に突き付け、躊躇なく撃った。さっきの仕返しだ。


「がっ...はっ...」


 血を吐き、うずくまる。


 しかし、その表情は尚も薄い笑みをたたえていた。


「へっ、やるなぁお前...ぐっ...証明してみろって煽った手前、やられるなんて...おじさんも...だっさいなぁ...」


「黙って」


 頭に銃を突きつける。


「でもま...まだ死ぬわけにはいかないので...ここでお暇させてもらうよ」


「何を」


 瞬間、また右腕を取ろうとしてきた。


 甘い。二度目は通用しない。


 素早く腕を引っ込ませ、左手からナイフを取り出す。


 しかし、それも読まれていた。


 ナイフを取り出すまでの間に、奴はもう銃をこちらに構えていたのだ。


「じゃあな」


 置き土産と言わんばかりの凶弾が、私の肩を貫く。


「っ!...あっ...!」


 痛みを堪えながら奴の方を向くと、そこには割れた窓しかなかった。


 恐らく、何らかの道具を使って飛び降りたのだろう。


 それにしても、痛い。肩を撃ち抜かれるのは流石に堪える。


「おい!虚!」


 その時、後ろから声がした。痛みで反応はできないけど、恐らく裕樹だ。


「大丈夫か!?」


「お...そいっ...」


「す、すまん!応急手当てしてすぐ戻るぞ!」


 そう言って迅速に患部を包帯で巻き、私の肩を担ぐ。


「さっき言ってた狙撃手は?」


「ごめ...逃し、た」


「そうか」


 息が浅くなってきた。


 痛みと出血で、目の前が暗くなる。


「......」


 意識が闇に飲まれる。そして、完全に途絶えた。


















*面白いと思ったら、高評価していってくれると嬉しいです。

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