第14話:狙撃手の実力
*不定期更新です。基本13時に更新してます。
GPSの信号が止まった。
それは何かが起きた合図でもあり、私が出動する合図でもある。
「裕樹」
「わかってる」
この高速道路の沿線にある建物の状況は把握している。後は、入れる建物の中で、どこから狙撃するかを決めるだけだ。
もう一度GPSを確認し、付近の目ぼしい建物を確認する。
ここだ。というより、建物の関係上、ここしかない。このビルの屋上には登れる。そして、恐らく狙撃もできる。
「ここ。早く」
「はいはい、わかりましたよ!」
裕樹が何だか怒っているが気にしない。
「ここだろ?着いたぞ」
「グッジョブ、裕樹」
「もっと労って欲し...って行きやがった」
聞こえてるが、無視だ。
とにかく、早く狙撃位置について、私に任された任務を果たすのみ。
ビルに入って、エレベーターのボタンを押す。職員ではないが、ここら辺は培われたステルススキルが役に立つ。
屋上に到着した。
後は持っているライフルを組み立てる。
この作業は慣れている。最近は頻度も多い。大斗が襲われた時も、一之瀬組の前で戦った時も、組み立てた。
今日も、いつも通りだ。
『はいはーい』
「狙撃ポジションに着いた」
『うん、絶賛拮抗中。応援求む』
「了解」
手短に電話を済ませると、地面に寝転び、スコープを覗く。
見ると、やはり襲撃に遭っていた。状況としては拮抗しているようだったが、誰かが立ち上がった途端、何人かが一斉に美月たちの方へ行った。
数としては10余人程。
狙いをすます。
スコープの調子も良い。少し雲が多いが無風に近いし、驚くほど遮蔽物が無いため見やすい。
これなら簡単だ。
息を吸い、吐いてそのまま止める。そして。
「...」
「バン」と大きな音が鳴った。直後、目標の心臓が貫かれる。まだ。
「バン」今度は頭。
この調子で何人も屠っていく。数人が戻ろうとしているがさせない。車の影に隠れていても、ここからなら丸見えだ。
そうして撃っているうちに、あっという間に5人ほどになった。
「次は」
照準を合わせていると、太陽が姿を現し、辺りが明るくなった。
その瞬間、視界の端の方が微かに光った。
「!?」
咄嗟に横に転がる。
「っ!」
腕に痛みが走った。見ると、血が流れている。すんでのところでかわしたけど、もし反応が一歩遅れていたら死んでいた。
もし太陽が顔を出してくれなかったら、と思うと少し寒気がする。
それにしても、私を狙ってくるとは、相手も中々侮れない。
狙撃された方向を見ると、狙撃手はもう居なくなっていた。
包帯を取り出し、腕に巻いている間、少し考える。
奴の狙撃位置からは美月たちは見えない。つまり、あくまで私を優先して始末しようとしていたということだ。そして、相手は私を殺し損ねたことも、私がこの場からでしか狙撃ができないこともわかっているだろう。となれば、私を警戒して、あのビルから狙うことはもうないはず。場所を変えるにしても、移動に時間がかかってしまえば、美月たちが倒してしまう。相手からしてもそれは避けたいはずだ。
そう仮定して、相手が次に腰を下ろす場所はどこだ。
優先は私。ただ、私が警戒して姿を現さなくなった時のことを考えるはずだ。私を狙えないなら、次は美月たちを狙うだろう。つまり、私を狙えて、かつ、美月たちも狙える場所。そして、あまり遠くなく、立ち入りが容易な場所といえば。
「あそこだ。あのビルから撃つはず」
私は再度ライフルをバッグに入れながら、美月に電話をかける。
「スナイパーいるから、気を張って」
『うーん、今からでも頭抜かれる?』
「多分相手も移動中だからまだ大丈夫。でも隠れる場所はないと思って」
『悠長に移動なんて、舐めてくれるねー』
「私が狙撃手を殺る」
『了解。じゃ、私はあいつら全員で』
電話を切る。
美月がやってくれるなら、私が狙撃手をなんとかする必要は無いかもしれない。
しかし、相手は相当な手慣れ。放っておくわけにはいかない。
「裕樹、出して」
「へい、どこまで」
「あのビル」
「了解」
指差したビルへと向かう。
距離はそこまでない。相手が辿り着く頃には、美月たちが全員屠ってるだろうけど、一応念には念を入れて、なる早だ。
「到着です、お嬢ちゃん」
「着いてきて」
「へいへい...って、え?」
戸惑う裕樹の手を引っ張る。
このビルの会社は今日は休みだ。
ビルとおおよその階はわかったけど、正確な階層はわからない。とにかく、これはしらみ潰しに調べるしかない。
そのためには、できるだけ人数が必要だ。
「ここの4階から10階までに敵の狙撃手がいる。私は7階から10階まで探す。祐樹は4階から6階まで」
状況を理解したのだろう。裕樹はさっきまでの不満顔を止め、真面目な顔で「わかった」とはっきり言った。
私たちはエレベーターに乗り込む。裕樹が4階で降り、私は7階で降りる。
調べるのは、高速道路方面を見れる西側だけで十分だ。
調べて調べて調べた。
そして、9階の第二会議室と書かれた部屋に、奴がいた。
静かに銃を抜き、銃口を頭に向ける。
「あの女、すげえな」
そう言うと、奴は窓の外を指差しながら、こちらを向いた。
気配を殺したはずだったけど、気づかれていた。それに、銃を向けられているのに、1ミリも動揺していない。
「みんなやられちゃった。狙いも定まらなかったし、ありゃ勝ち目ないね、うん」
何故か平然とした顔で頷く。歳の頃は40代ほどに見える髭面のおじさん。一見普通の人だけど、間違いなく人を何人も殺めている。
「おじさんに勝ち目は無い。手を後ろに回して地に伏して」
命令すると、意外と素直に従った。私は拘束するためにロープを取り出し、近づく。
「そういえばお前もすごかったよなー。まさか避けるとはね。でも、これはおじさん、運悪いよね。お天道さんが味方してくれなかったからさ。ほんと参ったよ、運も悪いし、お前もあの女も強いしさ」
「口数が多い。黙ってそのままにしてて」
注意するも、尚も喋ろうとする。
「でもさ、あれは運が悪かっただけだよ。あの太陽さえなければお前を殺せてたでしょ?ほら、今だって」
瞬間、奴の腕が私の腕を掴んだ。
「しまっ!?」
右手を強く握られ、銃を離してしまった。
そのまま引き摺り込まれる。そして、逃げられないところにナイフによる銀閃が飛ぶ。
「くっ!」
なんとか対応して身を翻し、躱せたが、危ういところだったた。それに、まだ掴まれたままだ。
強い力で掴んだまま、奴は立ち上がった。
「お前、おじさんに勝ち目は無いって言ったよな?今から証明して見せろよ」
先のヘラヘラとした声の主とは思えないほど低い声。
久しぶりに恐怖を感じる。
でも、やられるわけにはいかない。
「わかった。じゃあ」
掴まれた右腕とは逆の手を腰に当て、そこからもう一個の銃を取り上げる。
「させる...」
「遅い」
一発脚に叩き込むと、奴は跪いた。
「いい早撃ちだ。でもまだまだ」
奴は撃たれたのにも関わらず、前進してきた。そして、ナイフによる猛攻が始まる。
「おじさんのナイフ捌きに耐えられるかな?」
余裕の笑みを浮かべながら、右に左にとナイフを振り回す。
私は近接戦闘が得意ではない。多分、それも見抜かれてる...!それに、近接戦闘しようにも、ナイフを出す暇すらない。
脚を撃たれてこれだけ動けるのも、常人離れしている。
避けながら距離を離そうとするも、全く離してくれない。いや、避ける方向を読まれてるのか。
「くっ!」
少し反応が遅れてしまった。それにより、右手が少し裂かれる。
「...はぁ...はぁ...はぁ」
息も上がってきた。そろそろ決着をつけないと本格的に危ない。
「避けるねぇ」
余裕そうだ。
仕方無い。一か八か、決めるしかない。
「!?」
姿勢が後方へ崩れる。
すかさず奴はその隙を狙って、ナイフを突いてきた。
ここだ。
「ふっ」
ナイフが腹に刺さる寸前で、右脚を地面につけ、踏ん張る。そして、真半身になってナイフを躱した。余裕そうな人間はほとんど引っかかる。
「おおおっ!?」
今頃刺さっているはずなのに刺さっていない。その事実に戸惑っているようだ。
私は奴の右腕を掴み、体を引き寄せる。
そしてその勢いのまま、左手の拳銃を腹に突き付け、躊躇なく撃った。さっきの仕返しだ。
「がっ...はっ...」
血を吐き、うずくまる。
しかし、その表情は尚も薄い笑みをたたえていた。
「へっ、やるなぁお前...ぐっ...証明してみろって煽った手前、やられるなんて...おじさんも...だっさいなぁ...」
「黙って」
頭に銃を突きつける。
「でもま...まだ死ぬわけにはいかないので...ここでお暇させてもらうよ」
「何を」
瞬間、また右腕を取ろうとしてきた。
甘い。二度目は通用しない。
素早く腕を引っ込ませ、左手からナイフを取り出す。
しかし、それも読まれていた。
ナイフを取り出すまでの間に、奴はもう銃をこちらに構えていたのだ。
「じゃあな」
置き土産と言わんばかりの凶弾が、私の肩を貫く。
「っ!...あっ...!」
痛みを堪えながら奴の方を向くと、そこには割れた窓しかなかった。
恐らく、何らかの道具を使って飛び降りたのだろう。
それにしても、痛い。肩を撃ち抜かれるのは流石に堪える。
「おい!虚!」
その時、後ろから声がした。痛みで反応はできないけど、恐らく裕樹だ。
「大丈夫か!?」
「お...そいっ...」
「す、すまん!応急手当てしてすぐ戻るぞ!」
そう言って迅速に患部を包帯で巻き、私の肩を担ぐ。
「さっき言ってた狙撃手は?」
「ごめ...逃し、た」
「そうか」
息が浅くなってきた。
痛みと出血で、目の前が暗くなる。
「......」
意識が闇に飲まれる。そして、完全に途絶えた。
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