第13話:任務開始
*不定期更新です。基本13時に更新してます。
翌朝。
俺たちは依頼主と会うため、一ノ瀬組へと向かっていった。
門の前まで行くと、そこにはスーツを着た1人の男。と、もう1人、残暑の中、とても暑そうな格好をした人が立っていた。
フードとマスクのせいで顔はよく見えないが、体格からしておそらく女の人だ。しかも、若い。
「依頼主の名取健太郎さんですね?えと、そちらの方は」
ホワイトが笑顔を向けながら問うと、名取さんは「はい」と言った後に、後ろのもう1人を見つめた。
「こいつは私の娘です。あなた達を信用していないわけではありませんが、念には念を入れて、顔を隠したいのです...。私のせいでこの子を巻き込むわけにもいかないので...」
「あー、なるほどわかりました!いいですよ、命のためですからねー」
朗らかに流す。結構あっさりとオッケーを出していたが、普通にいいのか?それ。と思わなくもない。まあ、リーダーが決めたことだし、異存はないんだけどさ。
「依頼を承りました、ホワイトです。ここに居るのが、右からルーク、サブ、ホーク、チキンです。本名ではありませんけど、任務中はこの名前で行きますので、ご了承くださいね」
そっか、コードネームなんて概念あったな。これまでは敵が黒の構成員じゃ無かったし、そもそも名前を呼ぶようなことも無かったから忘れてたわ。
「はい、わかりました」
名取さんは覇気のない顔で了承した。
聞く限り、命を狙われて結構経っている。色んな嫌がらせを受けてきただろうし、一度殺されかけてもいる。そりゃこんだけやつれるわな...。
「じゃ、作戦通り行くよ。運転よろしく、サブ」
「へいへーい」
サブこと日暮が運転席に乗り込むと、助手席にホワイト、後部座席に俺と依頼主の2人が乗った。
俺たちと虚、裕樹先輩は別行動だ。
「安全運転頼むよ!」
ホワイトがサムズアップすると、隣の日暮は「なんで私が」とかブツクサ文句を言っていた。
「じゃ、お2人はバックアップよろしく」
「任せとけ...いでででで」
快い返事をしたものの、虚が髪を引っ張って台無しだ。カッコつかないっすね、先輩。
「そっちも頼んだ」
虚はそう言って助手席に座る。
「運転係、行くよ」
「わかったわかった」
裕樹先輩はただの運転係らしい。ドンマイ。
「作戦行ってみよー!」
ホワイトは大きな声を上げて作戦開始の合図を出した。
それぞれの車が進んでいく。
俺は流れる景色と共に作戦を思い返すことにした。
今日のゴールは、某県の山奥にある別荘だ。そこまで護衛をするというのが、俺たちの役割となっている。
目的地に辿り着くのに、当然車を使うわけだが、これまでの被害から、移動中に狙われるリスクが高い。
戦闘になった時のために、虚たちはGPSを使って、俺たちの車と並行する様に下道を通る。
それは虚の本業がスナイパーだからだ。昨日聞いたが、虚はスナイパーらしい。スナイパーはスナイプするために、安全な高台に着かなきゃならない。そのため、俺たちと一緒にいると、本領を発揮できないのだ。ただ、虚は運転できないから、裕樹先輩に運転させてもらっているというわけ。
これで全部だ。よくよく考えたら、作戦という作戦ではない気がする。結局その時はその時で、臨機応変に対応しろってのが結論だ。
そうこう考えている内に、高速道路に乗った。高速道路内は無人だ。それもそのはず、一之瀬組の方々が色々頑張って、高速道路、及び、虚たちが通る下道を通行止めにしたのだから。
もはや無茶苦茶だ。権力が強すぎるというか、規模がデカすぎる。
まあ、そのお陰で車がいないため、どさくさに紛れて暗殺とか、渋滞とかは無いんだが...。
そんなことを思いながら、走らせていると、ホワイトのスマホに着信が入った。
「はい」
すると、焦ったような男の声が車内に響いた。
『バリケードを無理やり突破された!後ろから2台だ!2台そっちに向かってる!』
「わかった。なんとかする」
『お、俺たちも追いかけた方がいいか?』
「要らないよ。これ以上一之瀬組のみんなに迷惑かけるわけにいかないしね。じゃ」
そう言って電話を切る。
どうやら追いかけられているらしい。
車内に緊張が走る。
その瞬間、後ろの方から「チューン」と音が聞こえた。
この音は聞いたことある。これは、銃弾が地面に当たって跳ねた時の音だ。
てことは...。
バックミラーを見る。
すると、100メートル程後ろに黒塗りの車が2台いた。間違いなく追われてる。
「サブ、スピードアップ」
ホワイトがしきりに前後を確認しながら指示を出すと、日暮は「アイサー!」とヤケクソ目に返事をした。
「だ、大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃないかもね」
距離が縮んで来てる。
日暮はアクセル全開だ。これは単純に性能差で負けてるっぽい。
...まずくね?
距離が縮み、更なる緊張感が車内を包む中、またもや着信音が鳴り響いた。
「はい」
『た、大変だ!!!』
声からして別の人だが、明らかに焦りようが半端ない。なんだ?
『1台!バリケードを突破しやがった!後ろじゃねえ!前だ!逆走してそっち行ってる!!!』
その瞬間、目の前に同じ車線で、すごい速度で突っ込んでくる車の姿が映った。
「サブ、前!!!」
ホワイトが叫ぶ。
「ちょおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
サブが叫ぶ。
やばいやばいやばいやばい。死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。
避けようとしたのだろう。車内に横向きのGが加わり、阿鼻叫喚の地獄絵図が広がった。
車は暫く回転を続け、その後に止まった。
衝突はしていないが、この車はもう動きそうもない。それに
「出てこい」
3台の車が停車し、数発の銃弾が窓ガラスを割った。
追っかけてきた奴らは車線を変えて、避けたらしい。ナイスプレーだ!って褒めてる場合ではない!
俺たちは焦りながら車の影に隠れる。5人隠れるには狭すぎるけど、仕方ない。
「もう逃げられんぞ。さっさと出てこ」
撃った。日暮が割れた窓ガラス越しに、近づいてきたやつの頭を撃ち抜いた。
速い。流石師匠だ。
間髪容れずに、ホワイトも数発銃弾を放つと、たちまち奴らも警戒体制に入り、車の影に隠れた。
ここんとここんなんばっか。
「こ、これも作戦のうちなんですよね」
心配そうに言う名取さんに、ホワイトは微笑みながら「安心してください」と言った。
「こうならないに越したことは無いですが、こうなることも織り込み済みです。そのためにあの子を用意してるんですから」
その時、また電話が鳴った。
「はいはーい」
『狙撃ポジションに着いた』
「うん、絶賛拮抗中。応援求む」
『了解』
ピッと電話を切る。
声の主は虚だろう。そして、虚が狙撃ポジションに着いた、と言うことは。
「相手は少数だ!押し切れ!」
向こう側の誰かがそう言って立ち上がった。そして、他の者も立ち上がり、こちらに向かって来る。
が、音もなく倒れた。
立ち向かった者が、1人、また1人と血を吐き倒れる。
「お、おい、もど」
戻ろうとした者も倒れる。
「凄えな」
俺は思わず感嘆の声を漏らしてしまった。
これが何でも屋シルバーの名狙撃手の実力...!
その薄く開かれた冷たくも鋭い目は、確実に獲物の急所を狙って逃さない。
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