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ブラック&ホワイト  作者: 芋太郎
第1章:虚実編
12/80

第12話:重要任務

*不定期更新です。基本13時に更新してます。

「ただいま」


 何も返ってこない。

 誰も住んでないから当たり前だ。


 このアパートは人によっては狭いと感じるかもしれないけど、私にとっては住み心地の良い良物件だ。住まわせてくれている亮吉さんにはいつも感謝している。


「......」


 無言でベッドにダイブする。


 昨日は学校を休んで作戦。今日は今日で学校があって疲れた。


 私は学校があまり好きではない。

 無口で、表情も薄いし、感情が読み取りずらく、話しかけづらいそうだ。別段イジメなどはないし、火花や美月と言った友達のような人もいる。しかも、部活は楽しい。ただ、別学年だし、クラスに友達はいないしで、楽しいと思えることも特に無い。


 友達。


 たまに、思い出すことがある。


 夕暮れ、傷だらけの2人の少女が、公園の遊具に乗って駄弁っている光景。私が初めて心を許した、友達とも言える存在。


 あの日もいつも通り、他愛の無い話をしていた。学校の宿題の話、綺麗な雲の話。何度も繰り返す話題の中、しかし私はまだ話していないことがあった。


 私は彼女を一目見た時、同じ境遇の人なのだろうと思った。

 だから、あんな話もしてしまったのだろう。


 私が虐待を受けていると言うこと。


 それを告白した時、彼女の表情は意外にも変わらなかった。いや、意外でも無いか。


 そして、その後交わした約束は今でも覚えている。


『いつでも私を頼っていいよ。私は虚の味方だから、助けてあげる!』


『だったら私も、あなたが困ったときは絶対に助ける!』


『絶対だよ?約束だよ?虚!』


『うん!約束!』


 子供ながらの可愛らしい約束だった。


 その数日後、彼女は公園に来なかった。翌日にただ1人の男の人が私を迎えに来ただけだった。


 今でも思う。

 あの子はどこへ行ってしまったのだろうと。もし、あの子が殺されてしまっていたら、私は約束を破ってしまったことになる。


 子供ながらの可愛いらしい約束だ。しかし、私にとっては今でも心の奥底に残るほど重要なもの。


 絶対に忘れられない約束だ。


(みのり)


 呼び声が彼女に届くはずもない。

 そのまま私は眠りについた。




「はーいちゅうもーく!!!」


 ホワイトがパシパシ手を叩きながら、いつのまにか用意していたホワイトボードの前に立った。


 普段はメールやなんやで依頼を回すのだが、今回は珍しく、全員アジトに集合と命令された。


 何があるかわからないらしく、皆、神妙な顔をしている。


 それもそのはずだ。先日、俺はまた命を狙われた。そんなことがあってからこの全員集合だ。何かが起こるのは間違いない。


「静粛に!」


「最初から静かだから」


 軽くツッコミを入れる。この調子なら、何も起きないかもしれない。


「はい。えー、今回皆さんにやってもらう任務はこちらです。ドドン!」


 妙に高いテンションでホワイトボードを裏返すと、何やらデカい文字でこう書かれていた。


「お偉いさん護送大作戦?」


 俺が読むと、隣に座っている裕樹先輩が「何だそれ」と言った。


「はーい、今から説明するからねー」


 そう言って、ホワイトは淡々と話し始めた。


「まず、護衛対象は元防衛大臣の、名取健太郎(なとりけんたろう)ね」


「めっちゃすごい人じゃないの」


 驚きの声を漏らす日暮。

 かく言う俺も、ていうか、俺以外全員驚いていた。訳でも無かった。俺と日暮以外は案外冷めていた。何で?


「あー、その人か。そうか...」


 裕樹先輩がなんか納得している様子だ。


「お、知ってるみたいだねぇ」


 ホワイトがにやけ面で言った。何が何だかわからないんだが?


「ま、俺たち界隈では有名人だからな」


「流石、情報屋!」


 情報屋?先輩が?


「先輩って情報屋なんですか?」


 疑問の声を漏らすと、ホワイトは「まあまあ」と言って、俺の前に手を出した。


「その話は後でね。物事には順序ってのがあるからさ。落ち着いて聞いてね!」


「あ、ああ、ごめん...」


 確かに話の腰を折りかけたな。反省反省...。


「なんかここ最近、その名取さんが誰かに着け狙われてるらしいんだ。脅迫文まで届いたって。それで、国を頼ってガードマンを用意したんだって。で、ここからが重要」


 一呼吸置く。


「ガードマンをつけても、脅迫やストーカー被害に遭って、何かがおかしいと思ったら、後ろからグッと首を締め上げられたらしい。で、振り返ったところ、なんと、犯人はガードマンだったんだって。暴れてなんとか抜け出したけど、国の用意したガードマンに殺されかけたと言う事実から、国を信用できなくなった。そして、自分を殺し得る存在が身近に居ることから、別荘に隠居することにしたんだとさ。そこで、旧友である亮吉さんに頼って私たちを紹介したんだって」


「なるほど、だから他のガードマンを使うのではなく、俺たちに頼ってきたと」


「そういうこと」


 地味に一ノ瀬亮吉さんと面識があると言うのも驚く点だが、そこはどうでもいいだろう。問題は...


「国の用意したガードマンが敵だったことが、中々きな臭いよね」


 ホワイトは神妙な顔つきで呟いた。それに続くように、これまで黙っていた虚も声を発する。


「国の内部まで手を伸ばせる組織と言ったら」


 皆が黙る。多分、頭に浮かべている単語は同じだろう。


 (クロウ)


 おおよそ、奴らが関わっていると見越して、ホワイトはこの依頼を俺たちに話したのだろう。


「ま、とにかく、依頼主さんは私たちしか頼れないって言ってるんだ。そこで、キミたちに確認をしようかと」


 そう言うと、先までとは打って変わって、ホワイトは冷たい表情を浮かべた。その瞳は俺たちを見ていたが、俺たちの心までも見透かしているような瞳だった。


「今回の任務は護衛だ。それも、単なる護衛じゃない。命を狙われている者の護送。道中で何者かに狙われる確率は高いだろうね。もしかしたら、誰か死ぬかもしれない。それでも、やるかい?」


 尚も冷めた目線が、俺たちを見つめる。


 思わずゴクリと生唾を飲んでしまうほどの、緊張感が辺りに漂っている。


 死ぬかもしれない。


 そうだな。わかってる。でも、頑張るしかない。やるしかないんだ。


「...良い目だねぇ。こりゃ、感動もんじゃよ」


 ホワイトがふざけたことにより、一気に場が弛緩した。


「さーて、準備は良いみたいだし。この任務、受けることにするね」


 あれ?

 てっきりもう既に受けてしまっているものかと...。


 え?受けてなかったの?


「あんた、受けてなかったのかよ」


 日暮がため息混じりに言った。


「うん。命かかってるから、一応聞いてから受けようかと思ってねー」


 あっけらかんとした態度で受け答えると、そのまま電話を手にして誰かと連絡をし始めた。


「依頼受けるよ!...うん...うん...はーい、了解!」


 ピッと電話を切ると、ホワイトはこちらを向いてこう言った。


「じゃ、()()()()()に向けて、作戦会議始めるよ!」


 はぁ。


 どうやら明日らしい...。














*面白いと思ったら、高評価していってくれると嬉しいです。

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