第11話:開戦
*不定期更新です。基本13時に更新してます。
俺、日暮、火花、亮吉、重蔵、他一之瀬組構成員諸々が門から出ると、ゾロゾロと武装した柄の悪い連中がやってきた。ただの武装じゃない、全員拳銃を手にしている。しかも、数も多い。30人以上はいるのではないだろうか。こんなもんに一斉に撃たれたら終わるんじゃないか?大丈夫か?
「これ、いかんやつじゃない?」
俺は恐怖に震える声を発すると、隣にいる日暮は「大丈夫、大丈夫」と言って肩を叩いた。
「あの方たちの背後には、あなたの仲間がいます。手筈通りに行けば、死ぬことはないでしょう」
火花さんは長い髪を靡かせ、淡々と言ってのけた。
その言葉には自信が込められているように感じる。それは火花さんだけでなく、俺以外を除いたここにいる全員がそう思っているだろう。誰も迷い無く、勝利を確信している。
だが、俺はまだそう思えない。だってそうだろ?こっちはせいぜい10人ちょっとだ。ただ、相手は30人以上いる。完全に人数差がある。作戦があったとしても、例え強くても、死傷者なしでうまくいくなんてのは、絵空事にしか聞こえない。
「ま、見とれ、倅」
火花さんの師匠、重蔵さんはそう言って一歩前に出た。
「儂等は強い。そしてこの戦いは倅にもいい経験になるじゃろ。よーく、見とるんじゃぞ」
振り返りニッと歯を剥けると火花さんの方を向いた。
「火花、抜け」
「はい、師匠」
その合図を皮切りに、2人の雰囲気が変わる。
金属の音を鳴らしながら、鞘から抜かれたものは、あの日見た木刀や、竹刀ではなく、紛れもなく真刀だった。
「ヤクザ風情が、俺らに勝てると思ってんのかぁ!!!」
ドスの効いた低い声とともに、正面にいる全員が銃をこちらに向ける。
「死ねやあああああ!!!」
一斉にトリガーを引く、俺、日暮、亮吉、その他構成員は路上駐車している車や、電柱の影を使って隠れる。
「これ、どうするんですか!?弾幕張られたらどうにも...」
俺と日暮は近くの車の影に隠れている。何発か俺の頬をかすめており、心底怖いのだが、隣の日暮は余裕そうだ。
「大丈夫だよ。その為に後ろに美月たちを用意してるんだから。それに...」
日暮は外を指差し、俺に見るように促した。
いや、見るのは無理ですよ。と思ったが、なんだか弾幕が薄れてきたため、ちょっとだけなら行けそうだ。
俺は勇気を出して少しだけ覗いた。
「!?」
すごい光景が広がっていた。
2人の剣士が、銃弾の雨を掻い潜りながら、バッサバッサと薙ぎ倒していたのだ。
弾幕が薄れたのも、彼らが倒していたからだった。
「やっば...」
元からない語彙力がゼロになるほどの光景に、息を呑む。
てかなんで当たってないんだよ銃弾。おかしいだろ。あの弾幕だぞ。
「な、なんで当たって...」
開いた口で無理矢理声を発すると、隣の日暮が口を開いた。
「あれね、動きが速すぎて当たんないんだよ。狙いも定まらないし、定まってなかったら当たらない。着弾地点にはもうあの人たちの見る影もなくて、訳もわからないままやられていく」
「なんだよ、それ」
強すぎる。あのお爺ちゃんも火花さんも、強いってものじゃねえ。これは強すぎる。
「才能の産物か、努力の賜物か。いるんだよねぇ、この世界ではたまに。私たちはそんな芸当、到底できないから、こうやって」
自重気味に言いながら、車の影から身を乗り出し、銃弾を数発放つ。直後「グアア」と断末魔が聞こえた。
「弾幕が薄れたタイミングを狙って撃つしかない」
「...努力の賜物って、努力すればああなれるのか?」
「どうだろ。まあ、少なくともあの2人は才能よりかは、努力したって感じだね。それも並みの努力じゃなく、想像も絶するような訓練を毎日何時間も欠かさず、ね」
「...無理だな」
戦慄に声を振るわせると、日暮は「だね」と笑いながら言った。
「ま、天才よりかは現実的だけどさ」
何か言ったように聞こえたが、小声だったこともあり、聞こえなかった。
「なんか言いました?」
「なんでもない。それより、あの2人でも十分だけど、そろそろ私たちも参戦しよっか」
見ると敵も最初にあった勢いはなく、10人くらいまでには減ってる。
「行くぞ!」
電柱の影に隠れていた亮吉さんの合図を元に、全員が反撃を開始すると、一瞬にして型がついた。
「すごいねえ火花。私たち必要ないじゃん」
「マジですごいな、火花ちゃん」
「グッジョブ」
陽気に手を振りながら、ホワイトと裕樹先輩、虚が向かってきた。
俺は抗議すべく、あいつに近づく。
「おい、聞かされて無かったんだが?」
問い詰めると、ケロッとした表情で「だって」と言い放ち
「この作戦の肝はキミでしょ?でもキミにこのこと知らせたら、ビビって辺りをキョロキョロして、返って警戒されちゃうじゃん」
と言った。
「もっともらしい理論をぶつけやがって...」
「ま、そんなこと言ってるけど、実際は学ぶところも多かったのでは?」
「...確かにそうだけど...なんか良いように言いくるめられてる気がする」
「ふふふ、ま、そうだねー」
俺たちが話していると、皆が集まってきた。
「何か言うことはないのか、美月」
亮吉さんが左腕を腰に当て、美月を見下ろした。
「あ、みんな、ありがとうねー!」
「儂も久々に楽しめたわい。ま、口ほどでも無かったがの、ほっほっほ」
重蔵さんは楽しそうに言うと、俺の方を一瞬見つめた後、手を挙げながら歩いて行った。
それに着いて行くように火花さんも歩き始める。両者とも方向は一之瀬邸だ。また修行でもするのだろう。今戦ったばっかなのに恐ろしいな。
「あ、火花、ありがとね!」
「はい」
端的に告げる。
火花さんがホワイトの前を過ぎる一瞬、何かを感じた。
ま、知らんこっちゃないが...。
「生きている奴は全員目覚め次第尋問だ。死んだやつは山に埋める。いいな!」
「「「はい!!!」」」
亮吉さんが指示し、組員は遂行するために作業に移った。亮吉さん怖いし、大変そうだ。ただ、それでも皆、文句の一つも言わずに従うものだから、やはり、人となりが出てるんだろう。相当な人格者だ。
「私たちは帰ろっか」
皆、適当に返事して歩き出す。
「本格的に命を狙われる気分はどうでしょうか、大斗くん?」
「聞く必要あるか?最悪だよ」
「でも、これで俺たちを信じられるな?」
「まあ、そうですね。信じるしかない、って感じです」
肩をすくめると、横を歩くホワイトが真剣な顔を浮かべた。
「多分、さっき襲ってきたのは黒の息がかかった奴らで間違いないと思う。ただ、強さからして構成員では無かった。構成員はもっと強いからね」
「マジかよ」
「うん。多分その辺の半グレを何かで釣ったんでしょうね。様子見か、戦力を見るためか...。いずれにせよ、奴らが本腰を入れたって考えていいね。とすれば、こちらも何かアクションを起こさないとねー」
皆、真剣な表情を浮かべる。
ホワイトは「大斗くん」と言って、俺の目を見つめた。
「覚悟は、できてる?」
覚悟、か。
その覚悟が何を示しているか、具体的にはわからない。いや、多分俺が想像しうる全てのことを指しているのだろう。
それは、戦う覚悟。それは、命を賭ける覚悟。それは、仲間を失う覚悟。
「できているか」と聞かれて正直に「はい」と即答できるタマは持ち合わせていない。
ただ
「死にたくないからな。覚悟云々は知らないが。頑張りはするさ」
「なにそれ、頼りないね」
ホワイトはクスクス笑う。
「でも、それで十分だよ」
夕陽はもう沈みかけており、街は色づき始めていた。
BARゴールデンが始まる前に帰るため、足早に帰路に着いた。
月の光も入らない暗い廃墟に、青白いモニターの光が充満している。
モニターの前には男が1人、不敵な笑みを浮かべながら映像を見ていた。
「無理かぁ。想像以上にターゲットの周りがガチガチだな。こりゃ、量より質を高めなきゃ無理っぽいなー」
男は失敗したにも関わらず、どこか楽しげな表情を浮かべ、手に持っていたチェスのコマを並べる。
「にしてもすげーなー、この2人。相手が雑魚だからって39人全員銃持ちだぜ?イカれてるよ」
男は、その狂気の孕んだ眠そうな目を画面に向けて、何度も何度も映像を巻き戻した。
「1人は知らねえけど、1人は知ってるぞ。確か、新倉重蔵だったか。鬼の剣豪、伝説の人斬り、とか異名があったよなぁ。実力も、名前にそぐわない。これは...」
男は声を上げて笑った。
男にとって楽しくて仕方がなかった。
その笑い声は誰もいない廃墟に響く。
ひとしきり笑った後、男は目を見開いた。
「新倉重蔵。こりゃ面白いことに使えそうだな!ははっ、楽しみだなぁ。全く、これは...」
上を見上げ、手を挙げる。恍惚とした表情には、今にも人を殺しそうな狂気を孕んでいた。
「楽しみだぁ...!」
ーーープロローグ(完)
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