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ブラック&ホワイト  作者: 芋太郎
第0章:プロローグ
10/80

第10話:やることは変わらない筈だった

*不定期更新です。基本13時に更新してます。

 私の家庭環境は劣悪だった。


 母が私を産んで早くに病死し、それを皮切りに、父は私に虐待するようになった。毎日毎日、殴られ蹴られの生活が続いた。そうやって育ってきた私は、学校でも馴染むことはできず、どころか、アザや傷が多く、それが原因でいじめられていた。先生も誰も、そんな私を助けなかった。


 ただ、私にも友達と言える人がいた。いつも公園にいたその子は、私と同じくらいの年齢の、赤みがかった髪の

女の子で、私と同じように、毎日傷だらけで、私と同じように、陰気な子だった。毎日学校の帰りは、その子と遅くまで公園で喋っていた。私は、学校のことも家庭のことも全て話したけど、今思えば、彼女は自身の話を全くしなかった。そんな会話を楽しみに日々を過ごしていた。しかし、ある日を境に彼女は来なくなった。


 そして、あの子が来なくなった日の翌日、私が公園にいた時、ある男の人と出会った。名前は白井充(しらいみつる)。今のシルバーの前身を作った人だった。彼は不思議な人で、私の事情を知っていた。そして、彼は私を親から引き剥がした。当時9歳の私は、彼を親として新たな人生を生きることになった。その後、私は彼の元で色んな教育を受けた。普通の学校教育だけでなく、人の殺し方や、戦い方も学んだ。美月も裕樹も、同じような教育を受けてた。そして、ある日、充さんは死んだ。と言うより、殺された。恐らく、彼が追っていた組織による犯行だったと思う。そして、彼の死をきっかけにして、シルバーは消えた。


「...これが私の人生。まともに生きられなかった私は、この組織に入ることしか考えることができなかった。でも、後悔はしてない。多分、それは他のみんなも同じ」


「なるほどな...。てことは、今のシルバーは別なのか」


「充さんが亡くなってシルバー自体が無くなった後は、充さんの娘の美月が何でも屋シルバーを作った。それが今」


「そうか...。そんな過去があったんだな。この組織も...虚も」


「うん。でも、この組織に入ってる人は一様にして、そう言う境遇の人が多い。後から入った日暮もそうだし、大斗もそうでしょ」


 言われて思い返す。


 確かに両親はいないが、虚ほどの辛い人生だったわけではない。

 俺は他のメンバーを少し舐めていたのかもしれない。みんな、苦労してここにいるんだな。


 天井を仰ぐ。いつもより少し暗く、高く感じた。


 ま、事情を知っても俺にできることは、ただこの組織で頑張っていくことだけだ。

 と言っても、警備や見回り、たまに喧嘩の仲裁とかそういう任務をやって、任務がない日は家でゴロゴロするか、日暮と手合わせをするくらいしか、今のところはない。


 そう、何を知ったところで、やることは変わらないのだ。


 今まではそうだった...。


 ある日の朝。

 俺と日暮は、ホワイトから指示を受け、一之瀬組に出向くことになった。


「なんなんですかね、話って」


「なんだろね。でもま、全員で行かないってことは、そんなに大したことじゃないんじゃない?」


 日暮は笑って答えた。

 日暮らしい楽観的な考えだ。


 ただ、何か嫌な予感がする。誰かに命を狙われているような...。


 直感に従い、周囲を見るが誰もいない。

 俺の行動に何かを感じたのか、隣を歩く日暮はそっと口を耳に近づけた。


「やっぱ感じる?」


「なんとなく」


「ここはスルーね。変にキョロキョロすると気づかれちゃうから、いつも通りで」


「わかった」


 やっぱり居るのか...。

 あの日以来、特に危険を感じることはなかったが、今回はあの日と同じくらい嫌な予感がぷんぷんする。外出時を狙われていたか...!


「どうぞこちらに」


 恐怖と緊張の中、平常を保つのに必死で辺りが見えていなかったが、いつのまにか一ノ瀬組に着いていた。


「やっと解放されたぁ」


「まだ気は抜けないよ。外にいるんだから」


「そうだよな」


 もう一度襷を締める。


 そうして組長のいる部屋まで移動していると、見覚えのある姿が見えた。


「お、火花ちゃん。久しぶりだね」


「お久しぶりです、倉敷さん。朝霧さんは3日ぶりくらいですね」


「そうだな。火花さんは今日も修行?」


「まあそれもありますが...聞いてないんですか?」


聞いてないって何?

多分それらしきものは聞かされてないと思うよ?


俺の態度に察したのか「はぁ」とため息を吐くと、火花さんは歩き始めた。


「とりあえず、ついてきてください」


「はぁ」


そうやってついていくと、組長である一之瀬亮吉さんの部屋の前まできた。


「失礼します、お爺さま」


 火花さんが襖を開け、俺たちは順に入る。


 そこには一之瀬亮吉さんと、見知らぬお爺さんが立っていた。

 歳は亮吉さんと同じくらいだ。


 長い白髭を蓄えたお爺さんは、俺たちを、と言うより、俺を見るなり近づいてきた。


 眼帯を付け、顔面傷だらけのお爺さんが接近する絵面は、めちゃめちゃ怖い。

 そして近づいたかと思うと、俺の腕を触ったり、背中を押したりなど、めちゃめちゃ物色してきた。俺が女だったらセクハラものだぞ...。


 ひとしきり触り終えると「ふむ」と言って俺の肩に両手を乗せた。


「弱いな、(せがれ)


「...はぁ」


 いきなりそんなこと言われたら、そんな返事しか出ない。


「ま、安心せい!儂の弟子が倅を守ってくれるからの!ほっほっほ!今のままじゃ死あるのみじゃからの!ほっほっほ!」


「...師匠、少し黙っていてください」


 火花はそう言うと、師匠と呼んだ人を下がらせた後に、俺の方を向いて頭を下げた。


「私の師が申し訳ありません。この人の名は新倉重蔵(にいくらじゅうぞう)。こう見えても剣術の達人であり、私の師匠です」


 そう言われてハッとした。この人あれだ。初めて一之瀬組に行った時、火花さんと打ち合ってた人だ。


 ...と、自己紹介自己紹介。


「あ、どうも、朝霧大斗です」


 挨拶をすると、ふと頭にさっきの言葉がよぎった。


「あの、今のままじゃ死あるのみって...」


 疑問を発すると、日暮が「そのことだけど」と割って入ってきた。


「今、ちょうど奴らは釣れているところですよ」


 奴ら?釣れている?何のことだ?


「あの、どう言う...」


 更なる疑問を発すると、日暮は俺の肩に手を置いてサムズアップした。


「すまないね、我が弟子。あんたを使って釣った」


「はい?」


 まだ容量を得ないんだが...?


「最近、新古町で銃を持った謎の集団の目撃情報が多くてね。しかも、そいつら、中々足が掴めないから、試しにあなたの存在を使って誘い込んだの。そしたらビンゴだったね」


 どこか愉快そうに言う日暮。


「あの、それってつまり...」


「あなたは今、狙われている。そして、私たちはそいつらをブチのめす。そのために、今日ここまで来たんだから」


「へ?」


「その不審者が(クロウ)の仲間だと仮定して、そいつらを誘い込むために、美月、虚、裕樹と別れて大斗を外に出し、一之瀬組で正面から、別れた美月たちは、私たちに気を取られている隙に背後から殺るっていう作戦」


「聞かされてないんだけど?」


 本当に聞かされていないんだけど!?

 ていうか、道中の会話、全部演技だったってこと!?俺の命で釣ったのかよこの組織...!


 心の中でテンパっていると、後ろの襖が開いて、スーツを着たいかにもな人が、片膝をついた。


「外に怪しいものが複数名。車や、電柱の影などに潜んでいます」


「そうか...そろそろ連絡が来るはずだ」


「ほっほっほ、楽しみじゃのう...大斗、と言ったか?」


「はい?」


 問われてなんとか返事をすると、重蔵さんは俺の肩をまた叩いた。


「今のままじゃ死ぬとはこう言うことじゃ。ま、死んでも関係ないがの!ほっほっほ!」


「し、死にたく無いんですけど...」


「なら」


 振り返り、俺の顔を見る。

 片目の無いその顔は笑っていたが、異様なまでに迫力があった。


「殺し合いの場で学ぶしかあるまいな?」


 そう言い残して、部屋から出ていった。

 その時、日暮のスマホが鳴った。日暮はすぐにとり、会話を始める。


「うん...うん、わかった。そっちは任せる。死ぬなよ」


 電話を切る間際、聞き馴染みのある声で「死なねーわ!」と言う声が聞こえた。


「みんな」


 日暮は皆の方を向く。


「始めよう」


 何を知ってもやることは変わらない、そう思っていた時期が俺にもありました。


 そうして訳もわからないまま、はじめての命のやりとりが始まってしまった...。






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