あとしまつ。
緑の葉が芽吹き街路の樹々も生い茂るこの季節。
本当であったら聖緑祭で空にうちあげられたマナが大気に溶け、それが雨と共に地上に降る事で国中に聖なる力が満ち溢れ。そしてそれによってこの秋の収穫を約束する、そんな日であるべきだった。
しかし。
空には暗雲が広がって、まだ正午にもならないというのにもうすでに日が暮れてしまったかのように薄暗い。
雨でも降っていればそういう天気かと納得するのだろうけれど、そんな雨の匂いもいまのところはする様子もなく、ただただ薄暗い陰気な雰囲気で満ち溢れていた。
迎賓館へと赴く馬車の中、シルフィーナは目の前で腕を組み考え事に耽るサイラスをのぞき見て。
(旦那様、サイラス様はわたくしを一人帝国に送るのは嫌だとおっしゃってくださった……)
それが嬉しくって、思い出すたびに頬が熱くなる。
あんなことがあった翌日だというのに、アルブレヒト皇太子もサラ皇女ももう帰国の準備を始めているという。
事件は確かにあれで終わったわけではない。
上空に打ち上がったあの巨大な魔の瘴気が、今後どういう動きをするのかはまだはっきりとしないのだ。
魔力災害がこのアルメルセデス一国で収まるのか、帝国全土に広がってしまうのかも見極めないといけないのだろう。
そのためには帝国魔導庁の魔道士や研究者、聖女宮の聖女らや、サラような大預言者が叡智を結集し研究に当たらなければならない、というのがこの早急な帰国に対するアルブレヒト皇太子による正式発表ではあった。
聖緑祭においての事態収拾も全て皇太子とサラ皇女の指揮のもと行われ、今回のことは前回の厄災の折に残された種によって引き起こされた魔力災害として異例の速さで国内に周知された。
コーネリアスは蟄居幽閉処分とされる予定だけれど、ガレリア辺境伯には直接の咎めはないもよう。
それら全ては帝国皇太子アルブレヒトの進言をそのまま受け、アルメルセデス王国オクタヴィアヌス王の名のもとに下知されたのだった。
迎賓館の馬車回しに着くとそこにはもうすでにサラ皇女直属のメイド部隊の面々がサイラスとシルフィーナを待ち構えていた。
「スタンフォード侯爵閣下、シルフィーナ様、お待ちしておりました」
中央の、いつぞやサラ皇女の元に案内をしてくれた女性がそう礼をする。
「皇太子殿下ではなく皇女殿下の方にごあいさつしたほうがいいのかな?」
サイラスがそう、声をかけると。
「ええ。皇太子殿下は只今王宮に出向いております。貴方方へのご説明はサラ殿下からなさいます。さあ、こちらへ」




