離れたくない。
「厄災がまた起こる、と君は言うんだね?」
「はい。このままあの魔の瘴気が地上に降り注げば、その地は魔に汚染され漆黒の魔溜まりを産むでしょう。大規模な厄災、魔力災害がおきかねません。ですから……」
「もちろんそうなれば我が騎士団が対処することにはなるが。君は……」
「ええ、わたくし、この世界を守りたいのです。旦那様どうか……」
夕食が終わった後、リビングのソファーに腰掛けそう切り出したシルフィーナ。
反対される? そうも思ったけれど、でも。
夢だと思う。夢に違いない、そうは思うけれど。
あの夢の中で語りかけられた、「この世界を守れるのは今は貴女だけなんだもの。お願いよ」という白銀の妖精のあの言葉。
キュアや、ディン、アウラたちがシルフィーナの周りをふわふわと飛び回り耳元に話しかけてくれるのとはまた違った、強い意志を感じるその声。
もしも、今本当にこの世界を救えるのが自分しかいないのであれば。
魔力災害が起きればサイラス様はまた騎士団を引きつれ各地に赴くことになるのだろう。
であればそれに、少しでも寄与したい。
「アルブレヒト殿下、サラ殿下からは直々にお声がけがあったよ。今回のことは全て帝国皇家の責任だと。君のおかげで最小限の被害で済んで幸いだったと。しかし……」
サイラスは少し顔を顰め。
額に手をあて続けた。
「殿下らは君を帝国の聖女宮に引き抜きたいそうだ。君の聖女としての力は他の追随を許さないほど強いらしい。しかし」
「ありがとうございます旦那様。旦那様、サイラス様がわたくしのことを思ってくださっているのは本当に嬉しく思います。でも。今はわたくしはこの国、アルメルセデスにおこるだろう災害をまずなんとかしていきたいと思っています。流石に帝国全土は広すぎますし、きっとサラ様がおっしゃりたかった予言のお話しも、この今の魔の瘴気から引き起こされるだろう災害についてだったのだと感じますわ」
「予言?」
「夜会の折に少しだけお話ししてくださいました。内容まではわたくしが倒れてしまったためお伺いできませんでしたけれど」
「それは。殿下らが帰る前に一度ちゃんと話を伺わなければならないな。帝国行きは断ろう。いや、君を、君一人を帝国に行かせるなんて私が嫌だ。お願いだ。シルフィーナ」
サイラスがそう熱い瞳でこちらを見て。
すがるようなお顔でそうおっしゃった。
「わたくし、サイラス様のおそばを離れたくはありません」
シルフィーナもそう、瞳を潤ませそっとサイラスの手に自分の手を重ねた。




