展望ダイニングレストラン。
「朝食のご用意が出来ました」
そう知らせにきたメイドに促されるまま、サイラスと共についていく。
どうやら泊まった部屋は迎賓館最上階のゲストルームの一室で、向かう先はこの最上階の最奥にある展望ダイニングルームとのこと。
(こちらの施設のメイドさんなのかしら?)
目の前をゆく女性はそれでも、この国ではあまり見ない服装をしていた。
侍女やメイドといえば黒や紺が基調のロングスカートに、基本白のエプロンというのがよく見かけるスタイルで。
目の前のメイドのように丈の短いワンピースで、タイツを履いているとはいえここまで脚が見える姿はめずらしい。
不思議そうな顔をしていると隣のサイラスがシルフィーナの耳元に顔を近づけて。
「私はこちらの従業員のお仕着せを見たことがあるけれど、彼女のような服装ではなかったな。たぶん帝国から連れてきた者なのではないかな」
そう囁いた。
はわわわ、と。
顔が真っ赤になるのを感じながら。
旦那様にはわたくしの心の声が聞こえてしまうのかしら? と、そんなふうに訝しんで、恥ずかしさが込み上げてくる。
「ふふ。君はなんでも顔に出るからね。かわいい私の聖女」
そう追い討ちをかけるサイラス。
「旦那様、お願いですそれ以上はやめて……」
恥ずかしくて恥ずかしくて。
これ以上は脚がもたなくなりそうで。
立っていられなくなる。
それでもなんとか旦那様の腕にしがみついてそのままメイドの彼女のあとをついていく。
熱が上がったのかと思うほど身体の芯から熱い。
そんなふうに感じながら、ぎりぎりで脚を動かして。
たどり着いたそこは窓から外の風景が一望できる、そんな場所だった。
魔道士の塔の最上階から見たような広範囲が見渡せるわけではなかったけれど、それでも白が基調なこの聖都の美しい街並みが見渡せて、心も晴れやかになる。
朝の食事を摂るのにはうってつけの絶景レストラン。そんな雰囲気のダイニングルームだった。
入るなり「いらっしゃいませ」と声がかかる。
パリッとした執事服に身を包む男性、スタンダードな侍女服に身を包んだ女性が数人控えていて、その奥の席に皇女殿下が座るテーブルがあった。
「お招きいただきありがとうございます」
「昨夜はご迷惑をおかけし申し訳ありませんでした」
そう礼をとって挨拶をすると。
「こちらこそごめんなさいね。いきなりあんなお話をしてしまったから」
笑みを崩さず、それでも少し心配そうな瞳でそう声をかけてくださる皇女殿下に。
「倒れてしまったわたくしのためにお部屋まで手配してくださったと聞きました。本当に感謝してもしきれません」
何かもっとちゃんとお礼がしたい、そうは思うものの何をしたら良いのかもわからずで。
「ふふ。もしよろしかったらわたくしとお友達になってくださらない? 聖緑祭が終わるまではこちらに滞在する予定ですから、その間にもう少し色々とお話ができる機会があれば嬉しいわ」
そう、こちらを見て微笑む殿下。
きっと、自分の心の色が見えたからそうおっしゃってくださったのだろうと。
そんなふうに理解をして。
「わたくしでよければ喜んで」
そう、シルフィーナも笑顔で返した。
♢ ♢ ♢
「ほんと、朝の清々しい空と綺麗な街並みを眺めながらのお食事は美味しいわ。お兄様もお部屋で食べるだなんて言ってないでこちらに来られたらよかったのに」
そう、コロコロと鈴のなるような声で笑みをこぼしながら話すサラ皇女。
「皇太子殿下はお部屋で?」
「そうなの。ああそれでもコーネリアス様とご一緒に頂くとはおっしゃってたわ。仲がいいのよね。わたくしはあの方は苦手なのですけど」
サラ皇女が他人の心がわかるという話は、サイラスには話せなかった。
(やはりそれだけはわたくしから話していいものではないから)
と、そう思う。
それにしても、サラ様にも苦手な人がいるのだな。
そんなふうに思うと、途端に彼女も普通の人のように見えてくる。
神様のような存在。
そんな神聖な存在に見えていたけれど、少し距離が近く感じられた。
 




