ふた月。
はっと目を開けた時。
そこには全く見知らぬ天井が見えて。
それでも、目に映る調度品や天井のシャンデリア、そして壁や梁のそこそこにある彫刻。
それら全てがこの部屋の上品な佇まいを醸し出しているように思えた。
「大丈夫かい? シルフィーナ」
そう優しく声をかけてくれたのはサイラスで。
視界に、こちらを覗き込む彼が見えた時。
一瞬、不甲斐なさと申し訳なさで、顔を隠してしまいたい衝動に駆られ。
「申し訳ありません旦那さま、わたくし、また倒れてしまったのですね……」
そう言葉を紡ぐのが精一杯で。
自責に駆られ涙が溢れて。
顔の横に、一筋流れていった。
泣いちゃ、いけない。
これ以上旦那さまを困らせてはいけない。
そう思い涙を拭おうとした時。
ふわっと覆いかぶさるサイラスの顔。
その、夜の闇のような髪が頬に触れる。
まなじりに触れる温かい彼の唇に、シルフィーナの鼓動は高鳴って。
「旦那さま……」
そう吐息を漏らす。
「君が謝ることなんて、何もないんだよ。無事でよかった。シルフィーナ」
低音だけれど決して篭っているわけではない、耳元で響くように透き通るそんな囁き声が、シルフィーナの耳元をくすぐるように聞こえてきて。
涙目のまま、サイラスの首元に抱きついてしまう。
それを拒否するでなく、そのまま優しく抱き起こしてくれる彼に。
(わたくしは、この人が旦那さまで、本当に幸せです……)
そう、心の底から感じていた。
♢ ♢ ♢
「この、お部屋は?」
抱き起こされて改めて部屋を眺め。
見覚えのないその景色。
「話の途中で急に倒れた君を心配された皇女殿下が用意してくださったのだよ。迎賓館の上階の貴賓室の一室だ」
「皇女、殿下が?」
「ああ。後で改めてお礼に伺おう」
ああ、やっぱり自分は周囲に迷惑をかけてしまったのだ、と、シュンと俯くシルフィーナ。
それでもふっと顔をあげ。
「夜会は、どうなったのでしょう?」
そう、自分が倒れてから一体どれくらい経ったのだろう?
夜会は終わったのかしら?
そう思って。
夜会が終わっているのであれば、皇女殿下に御礼とご挨拶をして帰らなければ。
「もう夜も更けた。空にはふた月が天空に並んで昇っている頃あいだ」
サイラスは、さっと窓際に立つとそこにかかるビロードのカーテンを捲ってみせる。
そこから降り注ぐ月の光、月のマナ。
天空にかかる大きな二つの月。
それは一つでも心が洗われるような力を感じさせてくれる。けれど。
年に数回、こうして二つそろって天空に揃う時。
地上に降り注ぐ真那は最高潮に溢れ。
それは主に、ギアたちを通じてシルフィーナの心を満たしていった。
「今夜はもう遅い。このままこの部屋に泊まるようにしよう。皇女殿下からは明日の朝食を誘われているのだけれど構わないかい?」
「はい、旦那さま」
今夜がふた月でよかった。
きっと、ふた月だったから余計に心が不安定になっていたのだろうとも思うけれど。
それでも、ふた月だったからこそこうして倒れてしまって消耗している心の中の真那も満たされるのだから。
そんなふうに感じながら。
シルフィーナはサイラスと共にベッドに横になって。




