カッサンドラ。
「シルフィーナ。少しの間一人にするけれど大丈夫かい?」
「ええ。旦那様。わたくしはここでお食事でも頂きながら待っていますわ」
(騎士団のお仕事関係の方かしら?)
そんな感じの男性に誘われて席を外すサイラス。
群がってきていた人も居なくなり、壁に用意された椅子に腰掛け美味しい食事に舌鼓をうっていた所だった。
王族の方々や公爵家の方々にもあいさつに赴くべきかしらと思いつつ、それでも旦那様はそこまでそういった社交のおつきあいに興味がない様子にもみえる。
ならば、と。
自分も開き直って壁の花でいよう。
そう思うと少し心も軽くなる。
もともとこういう社交の場はあまり得意ではないから。
立派な侯爵夫人でいなければなんていう重圧がなければ、こうして壁の花でいることの方が性に合っている、そう思って。
あああそこのテーブルに今美味しそうなハムが追加されました。
そちらにはケーキ、でしょうか? 遠目でみてもわかるくらいな可愛らしいデコレーション。
と、そんなふうに、色々と目移りがして。
これだけのお食事も、今日の人の多さではあっという間に少なくなりますね。
そう見えて少し安心する。
お食事が余って捨てられてしまうようなことがあると悲しい。
そんな感覚は今でもシルフィーナの中にずっと残っていたから。
ここから離れ、あのデザートをとってくるべきかしら?
それとも。
そろそろやめておいた方がいいかしら?
あまり食べすぎると夜寝る時に苦しくなる。
それも困りますし……。
と、座ったまま少し躊躇って。
やっぱりあと一つだけ、頂いてきましょうか。
そう決めて席を立とうとした時だった。
「ねえ、白い予言と黒い予言、あなたはどちらをお聞きになりたいかしら?」
そう、声をかけられた。
♢ ♢ ♢
はっとその声の方を向くと、そこにはシルクのような艶やかな金の髪が美しい、年若い御令嬢が佇んで。
こちらを覗き見るように小首をかしげる。
「貴女の真那、素晴らしいわ。わたくし、貴女ほどの力を持った女性を見るのは初めてです」
そうコケティッシュな笑みをこちらに向けるその彼女。
(もしかして、先ほど帝国の皇太子殿下と共にご入場された皇女様?)
先ほどは遠目に眺めていただけだったのでよくわからなかったけれど、今までにお会いしたことがないこの御令嬢。
それでも、周囲に煌めく高貴なオーラ。
ギアたちが彼女の周りに集まって、うっすらと光を帯びている。
きっとそれはギアが見えないものにも感じることができるほどだろう。
「皇女殿下でございますか? ご挨拶が遅れて申し訳ありません。わたくし、スタンフォード侯爵が夫人、シルフィーナと申します。お見知り置きくださいますよう」
立ち上がり膝を少し曲げそう礼をする。
「シルフィーナ様ね。わたくしはサラ・カッサンドラと申しますわ。サラと呼んでくださると嬉しいわ」
そう気さくに手を差し伸べてくれる彼女に。
シルフィーナはなんとはなしに、親近感を覚えていた。
 




