帝国。
「帝国の皇太子? 殿下でございますか?」
「ああ。今年の聖緑祭に合わせてご訪問くださるそうだよ。アルブレヒト殿下はガレリア辺境伯とも縁戚でね。こちらの貴族院にも留学されていたこともある。辺境伯の御子息、コーネリアス・フラウレム・ガレリア殿とも懇意にしていらっしゃったと聞いたな」
夕食の席でそう笑顔でおっしゃった旦那様に、シルフィーナは少々驚いて。
初めてきく帝国の皇太子。
未だ貴族の会話について行くのも大変なシルフィーナにとって、こうしたサイラスとの会話は心が躍るような気分にさせてくれるものだった。
自分の無学さを最近やっと自覚できるようになった。
通常であれば、そういった常識的な知識でさえ貴族院で自然に学ぶのだろう。
周りの貴族との会話であっても、シルフィーナが知らない単語をさも当たり前のように出し会話する彼らに、それが何の意味なのかとか聞き返すことなどできなかった彼女。
魔道士の塔に貸し出された猫型オート・マタのタビイによって現在いろんな事柄を学ぶにつれ、そう言った自身の無知を自覚するようになり。
そして、知ることの楽しさもまた、感じ始めていた。
世界の歴史。
神様の逸話。
地理に風俗、そして、そのほかありとあらゆる事柄を。
学ぶことに喜びを感じていたのだった。
「北は、まだ雪が残っておりますよね? 皇太子殿下の一行はどうやってその雪道を渡ってきたのでしょう?」
目を輝かせそう尋ねるシルフィーナを見つめ。
優しい笑みをこぼすサイラス。
「そうだな。通常であれば、帝国からの特使、帝国聖女宮よりの特使は海路を使い来訪される。サウザンド港より入港し、陸路を北上されるのが常だろう」
「では、なぜ?」
「アルブレヒト・アウレリアス=アマテラス帝国皇太子殿下は、ガレリア辺境伯と縁戚であると言ったろう? 皇太子の生母であるアマリリア様は帝国にあるローゼンシュタイン大公国の公女でね。妹君フラウレム様の方がガレリア辺境伯に嫁いでいらっしゃったんだよ。その縁で、アルブレヒト殿下は昨年の秋にはガリアを抜けマグネシア高地を横切りガレリアの地に到着されたそうだ。この冬はガレリアの領都ハッシュブルクでお過ごしになったそうだよ」
「では、アルブレヒト殿下とコーネリアス様は御従兄弟でいらっしゃるのですか?」
「そうだね。今年は聖緑祭の前に、アルブレヒト殿下の歓待で大規模な夜会が催されるから。君もその準備に取り掛かってくれると嬉しいな」
そう、破顔する旦那様に。
そうか。そんな大規模な夜会が行われるのか、と。
緊張しつつも、ゆったりと微笑み返して。




