怖かった。
アグリッパに呼ばれて出てきたのは先ほどの猫型オート・マタ。
テトテトと可愛く歩くそれはソファーのすぐ近くまで来て。
「お呼びでしょうかご主人様」
とそう可愛くカーテシーをする。
「ああタビィ。お前はこれからしばらくここにいるシルフィーナ嬢の家庭教師を務めなさい。いいね?」
「はいわかりましたご主人様。よろしくお願いしますお嬢様」
こちらをむいて小首をかしげるタビィ。
(え? え? かわいいですけど、可愛らしいですけど、家庭教師って……)
困惑してばかりのシルフィーナ。その様子を見てふふっと笑うウイリアムス。
「ごめんねシルフィーナ。君を驚かせてばかりで申し訳ないとは思うけれど、このタビィはとても優秀なオート・マタだから。きっと君も満足すると思うよ」
「サイラスにも伝えるといい。しばらくこのタビィをスタンフォード侯爵家に貸し出すと」
「君も、ここに毎日通うのは大変でしょう? 叔父さんの方もそれは望まないみたいでね」
ああなるほどと、納得するシルフィーナ。
確かに。
魔法の基礎を学ぶ為だけにここに通うのもあまりうれしくはない。
そもそもシルフィーナ自身はそんな大仰なことは望んでは居なかった。ただ自分の力をきちんと知る必要があるとは思っていたし、学べなかった事を学べるのは嬉しい事だとそう感じていただけで。
「タビィは優秀だ。貸出の家庭教師など通常であればいくら金を積まれても出しはしないが、シルフィーナ嬢の為なら惜しくはない」
「ありがとうございますアグリッパ様ウイリアムス殿下」
そう笑顔を向ける。
本当はここに来るのは怖かった。
自分のことを研究材料としてしか見ていない、そう旦那様に言われたのもあったけれど、何よりも自分のこの力の真実を明らかにすることについても恐怖心が拭えなかった。
それでも。
このお二人の目を見ていたら。
そんな恐怖がどこかに行ってしまったようで。
もしかしたら、あの時の父の眼が。
子供の頃の厄災の時の、あのシルフィーナを見て恐怖に染まった父の瞳が。
それが怖かった、のだと。そう思い至って。
まるで人ならざるものを見るようなあの恐怖に染まった瞳。
それを自分自身に向けられる事。
きっとそれが怖かったのだ。
だけど。
熱っぽくシルフィーナを見つめるウイリアムス殿下。
興味深げに、それでもどことなく優しさをのぞかせた瞳でこちらを見るアグリッパ様。
そのお二人の瞳が、幼少の頃からのトラウマを拭い去ってくれた。
そんな気もして。
女神の血。
コレット家のそれも女性に繋がるその血筋に何か秘密があるのだろうという事も。
話の流れから理解はした。
もしかしたら今ここで尋ねればもっと詳しく教えて頂けるのかもと、そうも思ったけれど。
それでも。
今はまだ。
もう少しだけ知らずにいたい。そう感じていた。




