その血を。
赤かった髪が、だんだんと金色に染まって。
これは魔法? 髪の色を変えていたのかそれとも他人からの認識を変えていたのかシルフィーナには区別がつかなかったけれど、それでも一瞬で変わるのではなく少し時間をおいて、ジェラルドだったウイリアムス様の髪が豪奢な金髪へと変化した。
こちらを見つめ、シルフィーナの白銀の髪をさっとひとふさ手に取って。
ウイリアムス殿下の口元が、口角がニッと持ち上がる。
なぜかそんな彼が怖くて怖くて、何も言えずただただ固まってしまっていたシルフィーナ。
それでも勇気を振り絞って。
「わたくしは、スタンフォード侯爵夫人です。サイラス様の妻です……」
と、そう口にする。
それが王族に対して不敬に当たるのかどうなのかなど、もう考えることもできなかった。
女神の血を手に入れたかった。その言葉の意味は正直よくわからなかったけれど。
隣に座り距離が近くなりすぎている殿下に、拒否を伝えなければと。
それだけを考えて。
「そのへんでやめておけ、ウイリアムスよ」
「ああ、そうですね叔父さん。少々行きすぎてしまいましたか」
ウイリアムスはそう言うと、少しだけ座り直しシルフィーナとの距離を開ける。
「君の髪は手触りが良くて、ついつい触ってしまった。許してほしい」
そう彼女の瞳を覗き込み。
「それに、これ以上触ると本当に嫌われてしまいそうだ」
と申し訳なさそうな顔を向ける。
「サイラス殿にも悪いしね?」
最後には悪戯な笑みを添え、そうウインクしてみせるウイリアムス。
(もう、この方はどこまで本気かわからないわ)
翻弄され目を白黒させていたシルフィーナのほおも、少し緩んで。
(ああでもわたくしがここに来た目的を……)
何だか色々ありすぎて忘れかけていた目的。
魔法についての学びのために訪れたはずのこの魔道士の塔。
衝撃が大きすぎ、言葉にできないでいたけれど。
このまま帰ったらいったい何のために訪れたのかわからなくなってしまう。
「あの、殿下? わたくしがここに訪れた理由は伝わっておりましたでしょうか?」
勇気を出してそう聞いてみる。
もし上手く伝わっていないようだったら、最初からちゃんとおはなししなくては、と。
「ああ、そうだね。君の学びの為だったよね。それならちゃんと考えてあるよ」
「そうだな。シルフィーナ嬢にはまず魔法学の初歩から学ばせてほしいというのがスタンフォード侯爵家からの依頼だったか」
嬢ではないです! 心の中ではそう唱えるものの、口に出すこともできず。
「はい。よろしくお願いします」
と、そう返事をする。
では、と。
さっと白い顎ひげを撫でたアグリッパ。おもむろに奥の部屋に向かって声をかけた。
「タビィよ、ちょっと来なさい」
 




