女神のようで。
「さあ、到着しましたよ。疲れましたか? 中に入ったら少しロビーで休憩しましょうか?」
そう気遣って優しく声をかけてくださるジェラルド様に、シルフィーナは首を振って、
「いえ、わたくしは大丈夫ですから。お気遣いありがとうございます」
そう答える。
王宮の回廊は確かに結構な距離があったけれど、それでも昔に体を動かして一日中こまめに動いて働いていた時のことを考えると、どうってことはないはず。
それでもこの三年余りの侯爵夫人の生活でわたくしの足も随分と鈍ってしまったのねと、本当は少し疲れた足に心の中で文句を言ってみる。
「では、係員を呼んできますのでこちらで少々お待ちください」
扉を抜けると豪華な内装のロビー。その向こうに、どうやら図書館で見たのと同じ魔力紋ゲートが見える。
あちらよりもこちらの方が中に入れる資格者を制限しているとの話だったし、特に大勢の警備員を置くなどして厳重に警備をされているようには見えないのもこの魔力紋ゲートがあるからかもしれない。
ジェラルド様はそのゲートをするりと抜けると、奥に入っていった。
彼はやはり特別なのだ。
普通の貴族では到底通ることが許されないこのゲートを自由に通り抜ける資格があるなんて。
そんな感想を持って。
ロビーのソファーに腰掛け少し待つ。
それでも、こうして座ることができたのは、疲れた足を休めるのに役立った。
強がっては見たものの、やはり結構足にきていた。
「キュア、お願い」
こっそりキュアにそうお願いしてみる。
ふわんと天使・キュアの金色の粒子が周囲を舞って、疲れたふくらはぎに吸い込まれていく。
スーッと癒されていく足に。
「ありがとう、キュア」
そうお礼を言って。
(シルフィーナ、好き)
(シルフィーナ、もっとあたしたち呼んでほしいのに)
天使・キュアがふんわりとシルフィーナの周囲を飛び回り、そう囁いていく。
「ふふ。わたくしも大好きよ。かわいい妖精さんたち」
そう微笑んで。
「シルフィーナ様、それは……」
その声にはっとそちらを振り向くと、興味深そうに目を見開いたジェラルド様。
「え、っと、ジェラルド様、これは……」
周囲を飛び交っていたキュアたちは、そのジェラルドの声にスーッと消えていった。
元の高次元の泡の中に帰っていったのだなぁと、そんな彼女らを見送るシルフィーナ。
「先ほどまで貴女様の周囲には高濃度の真那が溢れているようでした。金色に輝くそれに優しく微笑まれる貴女は、まるで女神のように美しかった」
ああ。どう答えたものか。
そう逡巡する。
「やはり貴女は興味深い。さあ、アグリッパ様がお待ちです。登録を済ませて行きましょう」
そう、そのメガネの奥から覗く金色の瞳。
さっと差し出されたその手を取ったシルフィーナ。
「ええ、よろしくお願いします」
とだけ答え、立ち上がった。
 




