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エチュード 〜即興劇はお好きですか  作者: バッド
2章 王国騒乱なのですよ
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52話 封印は解かれるのですよ

 サイクロプスは体力があり、その巨体から繰り出される豪腕からなる棍棒の一撃は間合いも広く近づくことも難しい。


「ウォォォ!」


 本来のサイクロプスと違い、多少小柄だ。背丈は5メートル程であるが、体躯以外はその性能を引き継いでいるようで、手に持つ棍棒を振るうと、暴風が巻き起こり、エルフの少女の髪はバタバタとたなびく。


「はぁぁぁっ!」


 オーガよりも怪力を誇るサイクロプスとの接近戦は危険だ。しかし、その動きは先程のメデューサよりは鈍重であり、巨体がデメリットになると判断して、シスターが小剣を仕舞い、チャクラムを装備し直すと、体を回転させて、その遠心力を力に投擲した。


闘気輪オーラチャクラム


 チャクラムに闘気オーラを乗せて、武技を放つ。通常の投擲よりも遥かに威力のあるチャクラムは、サイクロプスの棍棒を潜り抜けて、この毛皮で覆われた肉体に刺さる。高回転するチャクラムはそのまま肉を切り裂き、鮮血を撒き散らす。


「グォォ」


 だが、サイクロプスは痛みをまるで感じないかのように棍棒を振り上げてシスターへと迫ってくる。ドスドスと木床をその踏み込みで砕きながら、恐るべき1つ目の魔物がシスターを殺さんとギロリと一つ目で睨みながら肉薄してきた。その巨体に威圧されてシスターは怯んでしまうが


『6級魔術 雷剣サンダーブレード


 サイクロプスの横合いから、3メートルはある雷の大剣が飛んできて、その巨体の脇腹に突き刺さった。


「むぅぅ」


 紫電がサイクロプスの体を奔り、高熱により焼けただれる。その威力にサイクロプスは膝をつき、うめき声をあげた。耐久力の高いサイクロプスを一撃で膝をつかせるその威力にシスターは感心してしまう。


「今のうちに離れてください」


 本を片手に魔術を発動させたエルフの少女がシスターたちへと告げる。


「アイラシスター。『女神衣』を使用しなさい!」

 

 ブロン神父がシスターへと真剣な表情で指示を出す。悪魔を前に出し惜しみをしている余裕はない。悪魔を倒すのはルーシズ教のシスターとして当たり前のことだからだ。この教会のシスターのトップとしてシスターも女神衣はもちろん使えた。ブロン神父は先程の『女神衣付与』でマナが尽きたのだろう。使えないようである。


 しかし、アイラと呼ばれたシスターは言葉を濁す。


「で、できないのです。……その金貨は金庫に仕舞ってまして……」


 良いお婿さんを探すのに持参金は必須。高けれは高い程、その家での立場も高くなるし、アイラは頑張って貯めていた。もう私も22歳。あらあらまだ結婚できないのと、同期にからかわれ始めるのはまだ良い方。最近は良い人紹介しましょうかと可哀相な目で見られ始めているので、必ず良い婿を探して見返してやると、ケチケチで貯めていたのである。


 王都での結婚適齢期は田舎よりは遅いがそれでも20歳まで。焦っていたアイラは金貨以上は落としたりすられたりしないように金庫にしっかりと仕舞っていた。


「アホですか! 神父、シスターは必ず金貨を1枚以上持ち歩く規則でしょうが!」


「まさか悪魔が現れるなんて思わなかったんです!」


 金貨であれば、何でも良いわけではない。ちゃんと女神様に捧げますよと自身が聖別した金貨でなければ、触媒とはならない。そして、その金貨ももちろん金庫の中だ。


 強盗レベルなら『女神衣』を使うまでもなく退治できる。魔物退治ならちゃんと金貨を準備するので、このような悪魔との突発的戦闘が発生するなんて想定外であったアイラである。


「もはやチャクラムで少女の支援をするしかありません」


「ぬうっ、私は遠距離武器を持っていないのです。神聖魔法で支援をします」


 膝をついたサイクロプスが再び立ち上がるのを見て、二人はエルフの少女に頼ることに決めた。エルフの少女はその言葉にコクリと頷き、魔術を発動する。


『7級魔術 魔機兵召喚サモンマキナウォーリア


 聞いたことのない魔術をエルフの少女が使うと、床に魔法陣が描かれて、銀色の全身鎧を着込んだ騎士がその姿を現す。手にはバスタードソードとカイトシールドを持っている。人間ではない。関節部分が歯車でできており、ヘルムのスリットからは赤い幽鬼のような光が覗いていた。


「失伝魔術……」

 

 魔術は使えなくとも、ブロン神父たちは対抗できるようにと一通りその種類は学んでいる。なので、彼女が使った魔術が見たことも聞いたこともない魔術だとわかって、ゴクリと息を呑む。


「サイクロプスを撃破せよ!」


 声高に美しい調べの声でエルフの少女が命令すると、ギィギィと金属の軋み音をたてて、猛然とサイクロプスへと魔機兵は攻撃を繰り出す。バスタードソードを振るい、その胴体を傷つけると、サイクロプスの反撃の棍棒をカイトシールドで受け止める。


 力では負けているようで、身体が浮いて吹き飛ばされそうになるが、片足を地につけて支点とし、クルリと回転して勢いを殺すと再び攻撃を開始する。その様子は熟練の戦士であった。


 その激しい戦闘を見て支援のために、アイラシスターはサイクロプスへチャクラムを投擲し、ブロン神父は残るマナでプロテクションを魔機兵へとかける。見習いシスターが祝福を使い、エルフの少女が炎の矢を繰り出す。


 サイクロプスは一気に劣勢に陥り動きを鈍くするが、それでも膨大な体力を持ってして、倒れることはなく戦闘が続く。


 しかしその戦闘はゲイザーにとって望むことであった。サイクロプスが時間を稼いでいる間に女神像へと拳を叩きつけて、破壊してしまう。


魔法破壊眼マジックディストラクション


 そうして、台座に付与されていた罠魔術を解除すると、両手を振り上げて叩きつける。ビシリとヒビが入り、もう一撃とゲイザーが攻撃すると砕け散った。


「あ、あの中身はサキュバスであるはず……」


 高位の悪魔が狙う封印されしものは、だがしかしサキュバスだとブロン神父は祈りを込めて見つめる。台座が破棄されると、その下に隠されていた魔法陣が姿を現す。すぐに魔法陣は焼けるように端から消えていき、何者かが現れた。


 しかして、現れたものを見て、ブロン神父たちは安堵する。姿を現したのはコウモリの羽根を生やす、豊満な男好きのする艶かしい体の女性。妖艶なる蠱惑的な笑みを浮かべる美女であるサキュバスであった。


 人を誘惑せんとする胸元が大きく開き、スカートに大きくスリットが入っている女悪魔は誘うような笑みを浮かべた。


「あらん、私を封印から解いたのは、あ、な、た?」


 目玉の化け物たる魔神を前にしても、同じく悪魔であるサキュバスは怖じ気づくこともなく、平然とゲイザーへと問いかけるが


「貴様はいらぬ」


 その胴体を躊躇なくゲイザーはワームの腕で突き刺す。驚きで目を見張るサキュバスがサラサラと灰になっていった。


 そうしてゲイザーが突き刺した腕を引き抜くと、その手にはサークレットがあった。金の台座に血のように赤い大粒のルビーがまるで目のように3つ備えられており、禍々しい闇の瘴気を放っている。


「くくくくく。これこそバロール様の封印されし魔道具。かつての人間は愚かなことにこの魔道具を触媒として高位のサキュバスを召喚したようだが、その危険性に気づいて封印した。しかし、今、ついに、我は手に入れたのだ!」


 ジャラリとサークレットがゲイザーの手の中で禍々しく輝き、楽しげに哄笑をする。


「そういうことであったか!」


 ブロン神父はそのからくりに気づき、青褪めてしまう。どうしてサキュバスを退治せずに封印したのかだけが疑問であったのだ。神聖魔法を使えなくとも、魔術でサキュバスは充分倒せるはずだったのだから。


 再利用しようとしていたんだろうと、勝手に想像していたが、当時の神父は魔道具の危険性に気づき、わざと封印したのに違いない。教会の醜聞となるから、サキュバスを封印から解くものなどいないと考えたのだろう。


 うまいことを当時の神父は考えたものだ。神聖魔法が使えなくなって苦肉の策であったのだろうが、以降の神父たちは完全に騙されてしまった。


「くっ! そうはさせません!」


 なんとかゲイザーを止めようとするエルフの少女だが、未だにサイクロプスが暴れており近づけないために、悔しそうに唇を噛む。


「ふふふ、バロール様が封印から解かれる日を待つが良い、女神の使徒よ。では、さら」


 ばと、ゲイザーが言おうとした時であった。ヒュンと鞭が飛んでくると、サークレットが弾かれて宙を舞う。


 そして暗がりから、黒い服装に目元まで覆面をかぶった者たちが現れると、一人が飛翔して、宙のサークレットを掴む。


「ええぇっ!」

「ええぇっ!」


 ゲイザーが驚き、少女も同じく驚く。


「お、おのれっ! 何者だ!」


「……これは貰い受ける」


 ボソリと呟くと覆面の者たちは出口へと走り出す。


「待ちなさい! 死刑レベルの悪人がなぜそれを!」


 エルフの少女が押し止めようとするが、もちろん覆面の者たちは止まることなく、一斉にドアへと向かう。


「逃すかっ!」


 ゲイザーがその身体に赤きオーラを纏わせるとワームの腕を突き出す。


『怪腕乱牙』


 腕であるワームのすり鉢状の口が開くと捻るように回転しながら、鞭のように飛んでいく。覆面の者たちは回避に移ろうとするが、高速でピストンし、残像を薄っすらと残すほどの連打を受けて、体を喰いちぎられてしまう。


「ゴハッ」

「ギャ」

「グフ」


 併せて覆面の人数は5人ほどいたが、ドリルに触れたかのように肉体は削られて、血を撒き散らし肉片を地に落とし倒れていった。


 それぞれ、その動きから戦闘に慣れた鍛えられた者たちだと思われたが、抵抗すら許さずに、ゲイザーは倒していく。


 だが、ゲイザーの攻撃も全員を倒すには至らなかった。最後の一人が辛うじて扉を潜り抜けて逃げてしまった。


「おのれ、逃すかっ」


 激昂してワームの腕を引き戻すと、ゲイザーは穴の空いた天井へと腕を伸ばす。そうして一気に天井まで引き上がると、外へと去っていくのであった。


「くっ。逃しません!」


 エルフの少女も同様に駆けていった。


 残るは覆面の者たちの死体と、ボロボロになった教会のみ。


「大変なことになった! 早く本神殿へと報告に行かないと!」


 傷ついた身体で、ブロン神父はなにかこの王都で大変なことが起きていると確信し、本神殿へと向かうことを決意するのであった。


 この王都にて、神話レベルの悪意ある事柄が起きそうだと手を強く握りしめながら。


『解かれし封印』

『売り上げ決算:プラス1200万GP』

『人件費:ワーム30体、メデューサ3体、サイクロプス、メイ:合計金額マイナス270万GP』

『幼女への投げ銭:プラス5万GP』

『悪人退治:名声プラス800』

『純利益:935万GP※100GP以下は手数料として、ニアが徴収させてもらいます』

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 久しぶりに開いてみたけど相変わらずここでエタっているところ [一言] この作品好きなんだけど残念です
[気になる点] サキュバス干からびてなかったのか。 [一言] 触媒かー、てっきり男がサキュバスに貢いだ物かと。
[一言] >これこそバロール様の封印されし魔道具 な、なんだってー!?(棒) >覆面の者 おっと、これはアクシデントかな?w
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