表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エチュード 〜即興劇はお好きですか  作者: バッド
2章 王国騒乱なのですよ
46/52

46話 暗躍する眼魔ゲイザーなのです

 部屋の空気は一気に冷たく恐怖の空気へと変わった。なぜならば部屋へと入ってきたムンバルの部下は異常な姿であったからだ。


 いや、異常という言葉では表せられない。もはや人間には思えなかった。


 ポイナンは脚を震わせて後ろへと後退る。男の目から、肌色でぼつぼつだらけの蚯蚓のような化け物が這い出てきており、不気味に蠢いていたからだ。


「マだ、お帰リニハ早いノデハ」


 同じ言葉を繰り返す男の口から、ズルリと新たに蚯蚓のような生き物が這い出てくる。その先端は4つに割れて、びっしりとピンク色の口内に生えている短い牙を見せつける。


「な、な、なにが」


 皆は言葉を失い言葉を失う中で、男は力が抜けたのか、そのままドサリと床に倒れ込んだ。その後ろにフードを深くかぶったローブ姿の者が現れる。


「ふむふむ。素晴らしい。これだけ邪悪なる贄がいるとは。人間の王都は邪悪なる贄を育てる良い巣だな」


 ガラスを引っ掻いたような耳障りな声でローブの男は静かに言う。


「お前っ! お前がこんなことを、し、したのかい!」


 ポイナンは恐怖を打ち消すように怒鳴ろうとして、尻窄みになり黙り込む。目の前のフードを被った男の顔がちらりと見えたからだ。肌色の顔といえば普通に聞こえるだろうが、実際は違う。いや、肌色は肌色だが、その顔には口も鼻もなく、無数の目玉が張り付いていたからだ。


 人間ではないと、ゾッとする。背筋が凍りつき、身体が震える。今の台詞からもわかるが、この男は人間ではない。魔物だ。しかも人語を解する魔物だ。


 信じられない。ポイナンだって知っている。御伽話で聞いている。人語を操る魔物は危険な存在。英雄たちが倒すべき人類の敵だと。


「マダオカオカオカ」


 蚯蚓に喰われただろう男がゾンビのように手を伸ばしてくる。もはや死んでいることは明らかで、動くこともできないはずなのに。死者は顔から蚯蚓を生やしてヨロヨロと向かってくる。


 死をも赦されぬ哀れな男へと、恐怖を覚えながらもポイナンはスラム街のボスに相応しく、心を強く持ち生存本能を活性化させて、手にはめた指輪を迫る男へと向ける。


『雹』


 指輪が淡くマナの光を輝かせて、幾つもの雹の礫を生み出す。キラキラと光る氷の礫は男へと命中する。ガガッと音が響き、体に穴を空けられてよろめき倒れる化け物と化した男。


「はっ。たいしたことはなかったね。そんなに強くはっ!」


 後ろへと下がり、倒したことに安堵するポイナンだが、ぼとりぼとりと顔から落ちた蚯蚓がうねうねと床を這って向かってくる。


「寄生してやがるんだ。後ろへと下がれ!」


 ヘンシデンも嵌めた指輪を使うことにした。ここで惜しむと死ぬことになると本能が告げていた。


風刃ウィンドカッター


 風の刃がマナにより物質化し、敵を刈る鎌となり飛んでいく。ヘンシデンが好む風の魔道具だ。その特性は見えにくいこと、そして周りへと被害が出ないことだ。炎は火傷など追加効果があるが、家屋内で使用すれば火事になってしまう。


 圧縮された風は見えにくいが、たしかに発動し床を這う蚯蚓へと命中する。ザクザクと音をたてて蚯蚓は切り裂かれて、毒々しい紫の血を撒き散らしのたうち回り死んでいった。


「よくやったぞ、てめえら!」


 ムンバルは2本の片手斧を左右の手に持つと、跳ねるように飛び出して悠然とした態度で立っているローブの男に斬りかかる。


 身体からマナを汲み出して闘気へと変えると斧へと注ぎ込み武技を発動させた。


『クロスアックス!』


 紅いオーラを空中に残し、ムンバルの斧は十字にクロスした軌道でローブの男へと襲いかかる。ざくりとその身体を切り裂いて、残心となり会心の一撃だと嘲笑う。手応えはあった。かなりのダメージを与えたはずだ。


 しかし………。聞こえてきた声にギクリと身体を震わす。


「ふむ。スラム街とはいえ……なるほどボスはそこそこ強いのか」


 平然とローブの男が口を開いたからだ。改心の一撃であったはずと、慌てて相手を見て、切り裂いたローブから覗く肌を見て、瞠目した。


 そこには無数の目があった。目だけがあった。肉にびっしりと目玉が付いていたのだ。たしかに切り裂いた部分の目玉は潰れてはいるが、他の目玉はギョロギョロと目を動かして、ムンバルを見つめてくる。


「ひ、ひいっ! 何だこいつ、死にやがれ!」


 あまりの不気味さに顔を引きつらせて、恐怖に襲われるが、恐怖を押し潰し、すぐに気を取り直してムンバルは斧を振るおうと手を振り上げる。たしかにダメージは入っているのだ。たしかに不気味極まる化け物だが攻撃を続いていれば倒せるはずだ。


 ………だが、そこでピタリと身体は停止した。身体は痺れて、もはや動くことも叶わない。


「あ、あ、あ?」


 なにが起こったのかムンバルは理解できなかった。なにかが起こったらしいが。


麻痺眼パラライズアイ

麻痺眼パラライズアイ

麻痺眼パラライズアイ

麻痺眼パラライズアイ

麻痺眼パラライズアイ


「ふ、ふ、ふ。4回も抵抗レジストするとはなかなか意思が強かったようだな。しかし、ダイス目は常に成功判定を出せるわけはない」


「ななにが」


 なんとか声を絞り出すムンバル。対してローブの男はバサリとローブを脱ぐ。


「ひいっ!」

「なんだありゃ」

「化け物だ!」


 ローブの下は全て眼であった。肉の体にびっしりと瞼のない瞳が張り付いていた。


「フハハハ。我こそは太古より生まれいでし魔神、眼魔ゲイザー」


 哄笑しながら手を振って、仁王立ちし周りへとガラスを引っ掻くような声音で告げる。


「我が千眼に抵抗できる者はおらぬ」


 眼魔ゲイザー。その無数の瞳は一つずつが状態異常を引き出す魔眼だ。一度睨まれれば逃れることはできない化け物であった。


「さて、では貴様も贄としようか」


 異形の手をムンバルに向けると、パクリと手が口へと変わりゾロリと生えた無数の牙を覗かせる。


「ひいっ。や、やめ」


 なんとか逃げようと、嫌だと涙目となるムンバルだが、その顔をゆっくりと口と化した手が呑み込むとゴキリゴキリと嫌な音を立てる。ビクビクと身体を震わすムンバルであったが、咀嚼音が終わるとズルリと倒れ込んだ。床に倒れ伏すムンバルの首から上は存在せず、血がどくどくと床に広がっていく。


「うわぁぁ! お前ら、こいつを殺せ! 殺すんだ! さもないと俺ら、が」


 ヘンシデンは狂乱し絶叫して護衛たちへと指示を出そうとした。ここで殺さなければ自分たちが殺される。なぜスラム街の住人が誰にも気づかれずに死んでいったのか理解したのだ。こんな化け物が徘徊していたのだ。


 なんとかここから逃れて、恥も外聞もなく騎士の駐屯所に向かいこのことを告げないと駄目だとヘンシデンは考えた。


 だが、その叫びは無駄であった。遅かった。判断するタイミングはムンバルが攻撃する前であったのだ。


麻痺眼パラライズアイ

麻痺眼パラライズアイ

麻痺眼パラライズアイ

麻痺眼パラライズアイ

麻痺眼パラライズアイ

麻痺眼パラライズアイ

麻痺眼パラライズアイ

麻痺眼パラライズアイ

麻痺眼パラライズアイ

麻痺眼パラライズアイ


 身体に宿る魔眼が一斉に光った。ポイナンがヘンシデンが護衛たちがその魔眼を受ける。何度も身体が明滅し、そして身体が麻痺した。ピクリとも動けなくなり、僅かに口からよだれを流しながらうめき声だけが漏れる。


「あ、あ」


 ヘンシデンの手には取って置きの『火球ファイアボール』も『雷光ライトニング』も嵌められている。『下位治癒レッサーヒール』も『下位解毒』だって嵌められているのだ。


 しかし今はまともに声も出せない。これらの魔道具は使用する際の意思と起動キーとなる言葉が必要だ。言葉を紡げない今、大金をはたいて買い集めた魔道具もただのガラクタと化していた。


 皆が麻痺したことを確認し、満足そうに眼魔ゲイザーは重々しく頷くと、躊躇うことなく次々とそのワームのような口と化していた手で人間の頭を飲み込んで行く。


「あ、が」


 ポイナンが喰われて、護衛たちがバキバキと咀嚼されていく。順々に殺されていく姿に絶望しながら、心の片隅でヘンシデンは考える。


 たしか港町『アクアマリン』でも太古の化け物が現れたと聞いている。その時は眉唾物だと考えていた。嘘くさい。なにか政治的な物事があり誤魔化しているのだろうと。


 どこの御伽話だと鼻で嘲笑ったものだ。太古の怪物を復活させる魔物? そんなものが暗躍するのは子供たちの頭の中か、新たな歌を考える吟遊詩人だけだと。


 だが今は笑えなかった。あれは真実だったのだ。わかる。理解できる。悟った。


 なにかが起こっている。御伽話のように魔神が現れて人の世を壊そうとしているのだ。


 悪人であるヘンシデンでも、これは看過できないことだ理解し、誰かにこのことを、伝えねばと、死ぬ間際に正義感が生まれる。きっとこの王都は悲惨なことになる。阿鼻叫喚の地獄へと変わることだろう。


 だが、今となってはその正義感は全て無意味であった。隣に立つ護衛が喰われて死体へと変わり、自分にワームが近づいてくる。


 ここで英雄が助けに来るのが英雄譚のパターンだが、誰も助けに来る様子はない。当然だ、悪人を助けに来る正義の味方などどこにもいないのだから。


 そうして、視界が暗闇へと変わり


 ヘンシデンはその命を散らしたのであった。


 この事件はスラム街で発生したこともあり誰にも知られることはなかった。なにか抗争があったのだろうとは言われているが真相は不明であり、殺人以上の罪を犯した者たちは軒並み行方不明となったことで、スラム街は急激に治安を回復させたのである。


 直後に人の良さそうな商人が空き家を買い占めて拠点としたこともある。彼はお人好しで困窮するスラム街の人々に惜しげもなく金を使い、仕事を作り出したのだから。


 偶然というにはタイミングが良すぎるが、腕に自信のあるスラム街の住人のほとんどが行方不明となっていることもあり、疑問を口にする者は出なかった。


 ただ、その拠点では、16連射は手が釣ったのですよと幼女が苦しんでいたが、意味がわからなかったので放置された。


『暗躍する眼魔ゲイザー』

『売り上げ決算:プラス500万GP』

『人件費:メイ:合計金額マイナス10000GP』

『幼女への投げ銭:プラス5万GP』

『悪人退治:名声プラス5200』

『純利益:504万GP※100GP以下は手数料として、ニアが徴収させてもらいます』


『名声値2万到達。レベルアップ!』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >その無数の瞳は一つずつが状態異常を引き出す魔眼だ 当たりが出るまで振ればいいとw >16連射 手動かい!w
[気になる点] >>ガラスを引っ掻いたような耳障りの悪い声でローブの男は静かに言う。 耳障り、『障り』という言葉自体が悪い意味の言葉なので →ガラスを引っ掻いたような耳障りな声でローブの男は静かに言…
[良い点]  再走開始!再び動き出すインクルージョン世界に感謝を♪\(^◇^)/ [気になる点]  (・Д・)しかしてその芸風をパーペキに忘失していたため次々と屠られる登場人物たちの描写にSAN値チェ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ