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エチュード 〜即興劇はお好きですか  作者: バッド
2章 王国騒乱なのですよ
39/52

39話 王都を散策するのですよ

 王都『ブラックダイヤモンド』は、なるほど百万都市なだけはあった。アキはメイたちと散策に出ることにしたが、港湾都市アクアマリンよりも人口も土地も遥かに上をいっていると感心する。


 道路完全に石畳だし、多くの馬車が大通りを走っている。道路脇には屋台が所狭しと軒を並べて、怪しげなアクセサリーから、一見高価そうな絵画やらが売っている。市場は区画ごとに存在し、小麦粉や米を始め、果物なども大量に売っているし、その種類も豊富だ。残念ながら味噌や醤油は売っていない。あれは作るのが大変だし、発酵させてもチーズとかならば口にできるかもしれないが、醤油や味噌は見かけが悪い。初めて醤油や味噌を口にした人は勇者だよな、ほんと。


「いらっしゃい、いらっしゃい〜。今日もぎたての林檎だよ〜。甘いよ、蜜がたっぷりだよ〜」

「混ぜ物なし! うちの小麦粉は安心安全だよ〜」

「一週間寝かせて食べ頃の熟成肉はいかが〜」


 やはり一番活気があるのは野菜や肉などを取り扱う市場らしく、通路は人がいっぱいで歩くのにも苦労する程だ。


「あーれー、助けてなのです〜」


「勝手に消えないでくれよ」


 早くも人混みに消えていきそうなメイを掴んで、肩車しておく。肩車されたメイは楽しそうにアキの頭をちっこい手でペチペチと叩いてくるので少しうざい。


「凄い活気だな」


「たしかに。こんな活気のある光景はなかなか見られない」

 

 ニアのセリフに頷いて、熱気が溢れんばかりの光景を少し眩しそうに眺めてしまう。何もしなくとも、この場所にいるだけで、元気が出そうな光景だ。祭りでもないのに、心がウキウキと沸き立つので、これがお上りさんということなのだろう。


 ちなみにトオルはおいてきた。あの娘は寝たら起きないんだよな。頬をつついても起きなかったからベッドに置いてきた。殺気をぶつけると起きるかもとニアが言ってきたが、やめておいた。


 市場チェックをしていく。どのような物が高価か、需要があるものはなんなのか。商人をやるのにも、ある程度真面目にやらないと、アンダーカバーにならないからな。


「やはり、胡椒を始めとする香辛料に砂糖か?」


 立ち並ぶ屋台には砂糖や香辛料は姿がない。しっかりとした店にはあるようなので、やはりある程度は高価だと言うことだろう。


「あの………商人様?」


「あぁ、アキで良い。なんだね?」


 ちょこちょことついてきているエメラが私へと声をかけてくる。エメラたちも王都が見たいだろうと、数人連れてきたのだ。さすがに小さい子供は無理なのでおいてきた。お世話を頼むと侍女たちに一人金貨一枚ずつ渡したので、今ごろは張り切って世話を焼いているだろう。


「王都でアキ様はなにか商売をするんですか?」


 新品の服に新品の靴が慣れないのだろうか。モジモジとしながら尋ねてくるので、顎に手を当てながら答えてあげる。


「そのとおりだ。私は南大陸から来てね。なにか売れる物がないかを調べているのだよ」


 途中で親切な女衒に貰った金もあるけど、凄い速さでなくなっているしな。ちゃんと稼ぎたいところなのだ。


 この世界、その魔導科学はかなりの進歩をしていると言わざるを得ない。港で見た魔導船はかなりの力を持っていた。赤潮スライムにはやられたものの、本来は普通の魔物では手も足も出ない船だ。


 その技術を鑑みると、知識チートは無理そうなので、確実に儲かる仕事を商売にしたいのである。


「良い考えがあれば言ってくれ。なに、実現不可能そうでも良い。とりあえずはアイデアを出すということが重要なんだ」


 私の言葉にエメラたちはコクリと頷き、真剣な表情で屋台に売っているものを見つめ始める。正直期待はできないので、素直に観光を楽しんで貰って良いのだが、まぁ、子供たちも恩を返したいと思っているのだろうから、そのままにしておくか。


「ラム酒なのです」


「ラム酒?」


 メイが私の肩で足をパタパタさせながら提案してきたので、少し驚く。まともそうな提案だ。


「この世界、ラム酒がないのです。港で遊んでいた時に気づいたのですよ」


 遊んでいたのではなく、飲み歩いていたのではと、一瞬考えるがどうでもいいか。


「なるほど……ラム酒か」


 ラム酒はサトウキビの廃蜜とか何とかを元にしていると聞いたことがある。即ち、サトウキビがなければ作れない。砂糖では作れないウィスキーだ。


「他のお酒と違う所は、お菓子に使えるところなのです。ラムレーズンやケーキの香り付け、あたちは大好きなのですよ。商売にとても良い物なのです」


「たしかにナイスなアイデアだ。消費する物というのも良い。どんどん売れるからな。だが高価な物となる。平民地区で売れると思うかね?」


「砂糖も合わせて売るのですよ。品質の悪い砂糖やラム酒、ラムレーズン入りのケーキなどを売って、お金を稼ぐのです」


「なるほど、考えたな。そして、時折金持ちに高品質のラム酒を渡せば良いわけだ。あぁ、貴族街なら、もっと高品質の物を売れるのに、とな」


 きっと口利きをしてやろうという商人が出てくるはず。詐欺でなければ、貴族に覚えめでたくなろうと考える商人が。俺からは手数料と恩を売り、貴族とは人脈を作れるから、頭の回る商人なら動くに違いない。


「なかなか頭がいいぞ、メイ」


 私が褒めると、足をパタパタと振って、メイはご機嫌で得意げに胸を張る。


「今、カリブで独裁者をしているお友達が教えてくれたのです。劇団でラム酒を買ってくれと。いつもお世話になっている人だから購入するのです」


「次元間貿易なのか。というか、そいつちゃっかりしてるなぁ」


 劇団で仕入れる先に使ってくれということか。と言う事は視聴者だな。視聴者には大事にしないとな。


「オーケーだ。安く売ってくれと頼んでくれ。それに合わせた劇を考えるから」


「これも一応劇団が作れたからなのです。広告料なしにする代わりに、格安で色々と手配してくれるのですよ。あたちが契約書にサインしておくです」

 

 どこからか取り出した羊皮紙に素早くサインをするメイ。


「待て待て待て、サイン?」


「現物を格安で手に入れてくれるスポンサーなのです」


 契約書を取り上げると「かりぶせかいのどくさいしゃにして、めいのきぐるみなかま」と書いてある。名前はない。現物を格安で手に入れる代わりに、しんゆーからは今後広告料を取らないことと書いてあった。


 これグルだろ。絶対にメイはグルだろ。カリブ海じゃなくて、カリブ世界と書いてあるんだが?


「まぁ、広告料なんかいつ取れるようになるかわからないです。今はこれで良いと思うのです。これで相場に関係なく固定費で品物は買えるのですよ」


「……まぁ、良いか。元々、劇に使う品物は謎の取引先から手に入れてたしな」


 先のことを考えても、仕方ない。とりあえずは物を格安で手に入ることを喜ぼう。


 そうなると、ラム酒などを扱う劇か。大量に買い入れる必要があるからな。さて、どうしよう?


「そうだな、エメラ。皆で少し商売をしてみないかね?」


「えっと、はい! 頑張ります! でも文字読めないですし、数もその……」


「そこはメイがフォローするから大丈夫だ。安心してくれたまえ」


 ニコリと人の良さそうな笑みを浮かべて、エメラたちへとお願いする。エメラたちは断ることなどできないし、恩返ししなくちゃと健気に頷く。


 そうして、数十分後……。


「ラムレーズン。ラムレーズンはいりませんか〜」


 エメラたちは、可愛らしい花柄のエプロンを着て、屋台の前でくるくると回転していた。創作ダンスをしている感じだ。しかもただくるくると回転しているだけなのだが、散策に来た子供たち全員で回転しているため、何事かと足を止める人が多く、屋台にしてはとても目立っていたりする。


「ここは〜、ラムレーズン片手に〜、成り上がる〜子供たちのお話〜なのです〜」


 エメラたちが回転している前に、今日は普通の可愛らしいワンピースを着たメイがぴょんぴょんと飛び跳ねながら現れる。手にはバスケットを持ち、幼女はくりくりした瞳で周りを見渡して、ちっこい手を掲げる。


「ラムレーズン〜。12個入りで、銅貨いちまーい。今日だけのサービース〜」


 本日はミュージカルな劇である。とりあえず、幼女が可愛らしい微笑みで間延びした歌を歌えば良いだろと、ミュージカルを冒涜するアキ。バックダンサーは回転していれば良いよねと、世のミュージカルに喧嘩を売っていた。


 まぁ、今回はラム酒や砂糖を劇で使うんでという理由で買い込むための劇だ。収支は考えていない。


 だが、それでも銅貨一枚という言葉に惹かれたお客はいた。ラムレーズンが独特のアルコールと甘い香りをさせているのも理由の一つだ。


「嬢ちゃん、ラムレーズンってのは食べ物なのかい?」


「そうなのです〜ららら〜」


 男が興味を持って声をかけると、その周りをぴょんぴょんと飛び跳ねながら、メイは歌う。幼女なので、怒られることはなく、男は銅貨を取り出す。


「一個くれ」


「はいなのです〜」


 銅貨を受け取り、メイは紙袋を手渡す。


「ありがと〜」

「ありがと〜」

「ありがと〜」


 子供たちも男の周りでくるくると回転して礼を言う。正直ウザい。


 だが、素朴なこの世界の平民には楽しいようで、ヘヘッと照れて鼻をこすり、嬉しそうに袋を開けて一つ口に入れる。もぐもぐと咀嚼して、クワッと男は目を見開いて、大きく叫ぶ。


「なんだこれ! 酒の味がするぞ! しかも飲んだことのない味だ、うめえ! それに甘い!」


 袋に手を突っ込むと、男は猛然と食べ始める。あっという間に食べ終えると、再びメイへと駆け寄り、銅貨を差し出した。


「こんな美味えのは初めてだ! あと2袋くれ」


「毎度なのです〜」


 メイが手渡すと、今度は一粒一粒味わいながら食べ始める。辺りにはアルコールの匂いが漂い、男が美味そうに食べている光景となった。


「おい、美味いみたいだぞ?」


「買ってみようかしら? ねぇ、1袋ちょうだい?」


 銅貨一枚という安さに釣られて、不味くても良いかと、人々は買っていく。すぐに食べるが、その顔が美味しさで驚きへと変わる。


 ラムレーズンは他の甘味と違い、独特の味がある。単に甘いだけではない。ラム酒の香りづけがして、レーズンの甘みと渾然としており、甘味が苦手な人も美味しいと思うのだ。特に平民にとっては、甘味は貴重なので、飛ぶように売れるのであった。


『ミュージカル:ラムレーズンダンス』

『売り上げ決算:プラス1万GP』

『人件費:メイ:合計金額マイナス1万GP』

『素材費:干し葡萄10トン、ラム酒10トン、砂糖10トン:マイナス5万GP』

『幼女への賄賂:プラス5万GP』

『純利益:0GP※100GP以下は手数料として、ニアが徴収させてもらいます』


 結果は想定どおり。水増し請求した酒類は大切に使わせてもらいます。次は店を手に入れるか………誰かがアクションを起こすのを待つか。どうするとしようか、迷うところだ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点]  着ぐるみ仲間ね?  段ボール仲間じゃないんですよね?
[一言] >きぐるみなかま まさかこういう人脈がw 一体どうやってなかまになったのかw >ラムレーズンダンス 以後ラムレーズン売りはこのダンスをするお決まりになりそうですねw それにしてもこの決済書…
[良い点] ラムレーズンが食べたくなってきたのですよ
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