表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エチュード 〜即興劇はお好きですか  作者: バッド
2幕 薬屋繁盛記なのです
11/52

11話 草の秘密を調べるのですよ

ミコトの名前をメイに変更しました。詳しくは活動報告で。

 ドーソンが強盗から身を挺してリーフを護ろうとした美談から丸1日経過した。即ち強盗から2日後である。


 朝の光が閉じている木窓の隙間から差し込み、アキのいる部屋を照らしていた。外からはリーフの店が強盗に遭い、それを旅の行商人が撃退したとのおばちゃん連中のお喋りが聞こえてくる。まだ1日しか経過していないのに、おばちゃんネットワーク恐るべしである。


 起床したアキは酒毒草を手に、難しい表情を浮かべていた。さっぱりわからない。この草が何なわけ?


 恐らくは恐ろしい陰謀がかかわっていると思うのだ。そうであって欲しい。ファンタジー、ファンタジーよ、仕事をしてくれとおっさんは願っていた。


「わからないな。この草がなんの役に立つ? どこの陰謀に辿り着くのだ?」


 腕組みをして壁にもたれかかり考えるが、少しもわからない。ヒントがあればと、酒毒草を抱え込んでいる者が誰かを魔本の情報収集で調べてみると簡単に判明した。


 ラルグスと言う商人の倉庫に大量に保管されていた。だが、それ以上はわからない。酒毒草を売って儲けを出す方法があるのだろうか?


 ギィとベッドの木枠が軋み、シーツの下に置いてある藁が飛び出てくる。平民の一般的なベッドだ。木枠に藁を詰めて、シーツを敷いて寝るのである。チクチクして痛い。あと、シラミが怖い。


 アキは未だにリーフの家に泊まっていた。強盗が現れるなんてと、リーフがシクシク泣いて怖がるので、仕方なく宿泊しているのである。


 泣いて怖がるのでとは言うが、衛兵たちの前で泣いて怖がった。体をガタガタ震わせて、顔を蒼白にして今にも倒れそうなか弱い姿を見せたのだ。劇団に誘っても良いレベルの演技力を見せてくれた。オーディションがあれば、合格間違いなしだろう。


 家では段々ボディタッチが増えてきて、子供の頃は〜とか話し始めたので、そろそろ出立しないといけないだろう。


 しかしながら、まだリーフにはやってもらうことがあったので、アキは渋々宿泊している。フーガンも金貨200枚を集めるために、東奔西走しているようだし。


 分割払いでも良いのに、一括払いで支払わないといけないとの強迫観念をなぜか持っているらしい。私はニコニコと笑顔で無理はしないようにと伝えたのに、フーガンは無理はしていないと顔を真っ青に変えて金策に励んでいるらしい。


 責任感の強い爺さんである。なにか大きな仕事が近日中に入るかもしれないと言っていた。意味がわからない。大きな仕事は通常予定されているものじゃないのか?


 今は亡くなった両親の寝室を使わせてもらっている。まだリーフは機を窺っているようで動きはない。たぶんジャッカルが前世で間違いないと思っている。


「とても苦いのです。甘いポーションを食べたいのです。ポーションくださいなのです」


 興味津々でハツカネズミが酒毒草を齧って、苦さにのたうち回っているが、ハツカネズミなので放置で良いだろう。


「わかんねぇなぁ。単純に販売しているだけだろ? 陰謀なんてないっつーの」


 ニアは私が酒毒草とにらめっこをしているのを見ることに飽きたらしく諦めるように言ってくる。だがその言葉は聞けないな。


「量が多すぎる。こんな物を取り扱ってどうするんだ? この商人は木材屋だぞ?」


 『情報収集』にて記載されている酒毒草を保管している倉庫の持ち主は木材商人だ。なぜに木材商人が酒毒草を扱っているかさっぱりわからない。


 はぁ〜、と深くため息を吐くと、周りを注意深く見渡す。リーフは井戸に水汲みに行っている。おばちゃんネットワークに新たなるキマイラ情報を流しに行っているに違いない。即ち、今は誰にも見られる心配はない。


『変身』


 呟くと恐ろしき地獄の悪魔へと姿を変える。地獄の悪魔で間違いない。地獄でこの肉体を設定したのだから間違いない。


 この身体の頭脳はハイクオリティ錬金術4級だ。人類の中ではトップクラスの知識を持っている。元の姿でその知識を閲覧できれば良いが、検索し、閲覧できるのはこの身体のみ。


 1度閲覧できれば記憶は共有できるので元に戻っても問題ないが、閲覧するには必ず変身しなければならなかった。


「ほえー。朝日に輝いて天使みたいなのです」


「テンプレの姿にしたんだな、ギャハハハ」


 メイがハツカネズミの尻尾を器用に振って感心して、ニアがゲラゲラとおかしそうに笑う。


「ほっとけ。テンプレというのはな、1番人気があるからテンプレなんだ。悪魔はこの姿が1番人気なんだよ」


 鈴を鳴らすような声で返答すると、研磨されたルビーのように煌めく紅い瞳で酒毒草をジッと見つめる。すると、この草から推測できるものをアキはすぐにいくつか思いついた。


「ニア、『情報収集』だ。検索をして見る」


 細っこい人差し指をポチポチと押下して、望みの物をアキは見つめて、薄い桜色の唇を微笑みに変える。


「素晴らしい。簡単にわかったぞ。『変身解除』」


 元のおっさんに戻り、アキはニヤリと狡猾なる笑みへと口元を変える。


「さっきと比べると、とっても残念な笑いなのです」


「ほっとけ。あれは劇団に必要だと思ったから手に入れたのだ。今はメイとニアがいるから問題はない」


 残念そうに言ってくるメイに、フンと片眉をあげて、アキはつまらなそうに鼻を鳴らす。


「そうだな。俺たちに主演映画は任せろよ! で、なにがわかったんだ?」


 ニアの問いに、腕組みをしてアキは答える。意外や意外。面白い使い道があったのだ。


「酒毒草はある物と合わせて調合すると、面白い物ができる。国のご禁制の薬だ」


「あん? ご禁制? なんだよ、中毒症状も副作用も綺麗さっぱりに魔法の力で癒せるこの世界でご禁制の薬?」


「たしかにそのとおりだ。しかも耐性がつくから、どんどん効かなくなるのが、この世界のルールだ」


 だから阿片を始めとして、地球で猛威を奮った悪魔の薬は売れない。深刻な中毒になる前に耐性がつくし、その前に治癒できるからな、ならば薬は治癒のためだけに使うのか?


 否だ。


 この世界の薬は魔法的な力も内包している。魔法的なアルコール度数があるぐらいだ。物理学では説明できないもう一つの力、魔術学があるのである。


 そして錬金術もある。科学反応では無く、魔法反応という名の、なんでもない草を掛け合わせることにより新たなる効果を発揮する薬を製作することが可能なのだ。


「その名前は『精霊酒毒薬』」


 薄っすらと笑みを浮かべて、アキは少し得意げに告げる。


「なんだよそれ? 精霊を漬けた酒か?」


 ハブ酒みたいなんもんかと、ニアが魔本をバタバタと羽ばたかせて尋ねてくるが、かぶりを振って否定する。たしかにそんな酒あるけどな。錬金術の知識の中にあったけど、今回は違う。


「この薬は精霊を酔わすことができるんだ。精霊の酔っ払い製造薬だな」


「精霊が酔った勢いで、契約とかをするつもりなのです?」


 ハツカネズミが首を可愛らしく傾げるので、違うとアキは否定する。


「元はそれが目的で製造されたらしいが、失敗したようだ。精霊との契約は精密にして緻密なもの。お互いにマナを正確に操らないと、契約は不可能らしい。だから、これは精霊を酔わすだけだ。半日ほどな」


 酔っ払いと契約するとか、昔の錬金術師はアホなことを考えたものである。失敗するのは目に見えていたと思うんだが、事実失敗したらしい。


 だが、別の使い方を錬金術師たちは発見してしまった。それは極めて厄介で、とても危険なものだった。


「わかったですよ。もしかして、『狂った精霊』と同じ状態になるのですね」


 『狂った精霊』とは、環境が激変して、その地では生きていけなくなり、狂ってしまった精霊の総称だ。ステータスは倍以上となり、生命あるものに、見境なしで攻撃してくる。魔力の籠もった武器か、魔術でしか傷もつけられないので、極めて危険な化け物となる。


「そのとおりだ、メイ。頭の回転が早いな。この薬は『狂った精霊』と同じ状態に精霊を変化させることができる。精霊はどこにでもいるからな。敵の城にこの薬を放り投げれば大混乱となる。精霊は半日もすれば元に戻るから、その地が精霊力の乱れで不毛地帯になることもない」


「け〜っ! 人間ってのは本当に救いようがねぇな。で、どうしてご禁制になったんだ? 戦略物資として、これだけ強力なアイテムもないだろ」


 魔本ニアが牙の生えた舌をベロベロと振って、人間の所業に呆れを見せる。だが、それならばなぜ戦略物資ではなく、禁忌の薬になっているか疑問を持った。


「答えは簡単だ。上級精霊の怒りを買った。そこらじゅうの精霊を酔わせてめちゃくちゃな環境に変えたらしいからな。………まぁ、お伽噺なんだが」


 不毛地帯にはならなくても、風、土、水に植物の精霊と、様々な精霊が酔っ払いになったおかげで、環境がめちゃくちゃになったらしい。歩くごとに雪が降り積もり、豪雨が降ったかと思うと、乾いた荒れ地に変わる。精霊たちが正気に戻り、元の環境に戻すために、かなりの労苦が必要となり、その地の主、上級精霊が怒り狂い、薬を持っていた人々を皆殺しにして、その国を滅ぼした。


 ということになっている。ファンタジーな夢溢れるお伽噺だ。実際は酔っ払いは暴れるだけではなく、歌ったり踊ったりと宴会を始めることが多かったので、苦労の割にはいまいちな効果しかなかったそうな。


 錬金術師4級の知識がそれを教えてくれた。酔っ払いを量産するだけ……やはりファンタジーはなかった。それでもお伽噺のようになる可能性はある。そのためにご禁制品となっていた。


「だが、攻撃性の高い『狂った精霊』よりも遥かに扱いやすい。木材商人がそんな物をいったい何に使うと思う?」


 アキはこの情報を得てピンと来た。


「はいはーい! わかりましたです。港に流すのですね?」


 チュウチュウとハツカネズミが手を挙げて、自分の推測を口にする。ハツカネズミほどに小さいとキグルミには見えないので、メイはハツカネズミが似合っていると思う。


「宴会を精霊たちがしても、水の精霊なら、それだけで海面が荒れる。もしかして停泊している船を破壊することかぁ?」


「多分そうだと私は考える。だが帆船を破壊して、港湾を使えなくすれば、自分で自分の首を絞めるだけだ。その危険を侵して、精霊たちを暴れさせようとすると……」


「とすると?」


 顎に手をあてて、真剣な表情でアキは自身の推測を口にする。恐ろしい計画が動いているのだ。ファンタジー的な。


「港湾を潰す邪教徒か他国の陰謀だな」


 30万人以上の人口を持つ港湾都市『アクアマリン』。きっと港湾が使えなくなれば、大混乱が発生する。何という恐ろしい計画なのだ。勇者や英雄の出番だな。


「本当のところは?」


「少しばかり船を破壊して、木材を高く売りつけるつもりだ。毎年1回は不自然に多くの船が船舶ドッグで修復をしている。精霊たちが暴れる時期があるんだと」


 つまらなそうな表情へと変えて、アキはがっかりしたとため息を吐く。


「なんとまぁ……しょぼいな」


 さすがにそれは予想できなかったのか、ニアも呆れた声を出す。気持ちはわかる。私も同じ気持ちだ。


「暴れた精霊を騎士団が勇敢に倒すのも恒例らしい。これは騎士団も組んでいるな」


 『情報収集』は歴史も確認できる。毎年精霊が暴れる時期があるんだとか。で、木材は飛ぶように売れて、騎士団たちはその力を見せて、領民に喜ばれる。なにしろ、酔っ払いを相手にするだけだ。見栄えの良い魔法や魔技を使って適当に追い払えば良い楽ちんな戦闘となる。船大工たちも修復特需に忙しくなる。フーガンが大きな仕事が近日中に入るかもしれないと言っていたな、たしか。


 時期はだいたいでしかわからないし、小破程度なので、船も精霊に壊されたら運が悪かったということになるらしい。大港湾都市なので、その程度で停泊をしなくなる帆船はない模様。


 このからくりを騎士団は勿論大商人の何人かは知っているはずだ。そして、このからくりを知ってしまった者も。


『ウッド夫妻:魔物の森にてラルグスの傭兵に殺される』


 この情報。初めてリーフを見て、その履歴を確認した時はなんで殺されたのかと不思議に思ったが……。見てはいけないものを見たらしい。


「ラルグス……あの真っ黒な商人か」


 指をトントンとたたいて思い出す。たしか女戦士の時に出会った奴だ。あの時は見逃したが、縁は続いていたらしい。


「長編ストーリーを試してみるか」


 面白くない稼ぎ方だ。つまらない稼ぎ方だ。


 これは稼げる人間も多くいるだろうが、その裏で苦しむ人々もいる。なけなしの金で揃えた行商人の荷物が海に沈み、船を守るために精霊に手を出した傭兵が死ぬ。


 傭兵に命の危険は覚悟、商売に損害はあるのは当たり前だが、一般人を殺しもしているとなると、たちが悪い。


「悪徳の街ねぇ……」


 閻魔大王がこの街の近くに私を転生させた理由がわかる気がする。


「見習い劇作家としてできることをするか」


 まだまだ劇団団長の級は低いし、敵は資金もあり、兵士も抱え込んでいて強大だ。なら、私は小さな興業をしていくかな。


 小さいことから、コツコツとな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ちゃっかり包囲網を設置するリーフw 一方でこのアクアマリンの裏事情が明かされる…… さてアキは本当にハントから逃れるのか?泥沼に嵌りそうだがw
[良い点]  大きな陰謀を感じたらマッチポンプで商人と騎士団が癒着していたショボい案件、【検索】はチートだけど裏が見えすぎると世知辛いっすな。 [気になる点]  闇沢アキの悪魔モードはどんな姿格好なん…
[一言] 悪魔って明けの明星系のビジュアル系堕天使悪魔なの? 山羊系で周りでサバトしてる系の悪魔悪魔してる悪魔だと思ってた
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ