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逃亡先は、魔女のいない国でした -でも翠の瞳の聖騎士様に溺愛されてるから大丈夫です-  作者: 伊賀海栗
心強い仲間

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第44話 魔女は王子様と雑談する


 聖女ソフィアと王太子アレッシオの到着で、ノルドの街は夜でも明るく賑わっている。多くの屋台が出たり、ダンスや小芝居を見せるステージまであるらしい。


 式典前夜祭と呼ばれるこの夜は、ノルド子爵邸に多くの貴族が集まって夜会を楽しんでいた。社交期(シーズン)と呼ばれる時期はあとひと月ほどあるものの、ノルドに近い貴族は早めに切り上げたようだ。


「なんだかんだ言って、ふたりでゆっくり話すのは初めてだね」


 アレッシオが微笑み、テネリは疑うような目で見返す。確かに二人だけで話をしたことはないが、彼がテネリを今の状況に縛りつけたと思えば警戒したくもなる。


「話すことないし」


「わぁ傷つくなぁ。ほらあれ見て、レナートはずっとマルティナ嬢から逃げているようだよ」


 微かな顎の動きだけで指し示した方角には、確かにレナートがそれとわからないようにマルティナから距離をとっている。


「ベリーニ伯爵は式典の運営で追従してるの?」


「そうだ。東側から回るのも彼の発案さ。たったひと月で二箇所目に来られて良かったけどね」


 アレッシオの言葉で、聖都を出発してからもうひと月が経過しているのだと驚く。


「マルティナ……魔女と一緒に旅するってどんな気持ち?」


「それを君が聞くのかい? 船旅はあっという間に目的地につくけど揺れがね。ソフィアの船酔いが酷くて不憫で仕方なかったし、おかげであんまり意識しないままだったよ」


 意識しなかったというのは恐らく嘘だろう。魔女だと知っている相手と四六時中一緒にいて、リラックスできるはずがない。しかもソフィアが狙われているかもしれないのに。


「魔女が怖いって言わないのは私を気遣ってくれたの? それとも痩せ我慢?」


「僕をなんだと思ってるのよ」


「クソ我が儘王子。……ねぇ、聖女がソフィアでどう思った?」


「どうって」


 口から生まれて来たのではないかと思うほど、いつも滑らかに応対するアレッシオが言葉を詰まらせた。テネリはレナートから視線を剥がして、横にいる王太子に目を向ける。


「僕とレナートは聖女が見つかるまで婚約者探しができない。それは王妃教育ができないことを表すよね。だからソフィアで安心したよ。彼女ならしっかりやってくれるだろ?」


「それだけ?」


「それ以上は本人にしか言わないよ」


「素直に好きって言いなよ……」


 片目を瞑って見せたアレッシオに、テネリは苦々しい顔になった。この手の男は苦手だ。髪の毛をもしゃもしゃにかき乱してやりたくなる。


「レナートが君を連れて戻ると連絡を寄こした時にね、僕は丁度いいと思ったんだ」


「丁度いい?」


「良い家柄のご令嬢の多くは誰とも婚約を結んでいない。なぜだかわかる? 聖女の登場で、僕らはどちらに聖王の印があったか明かすだろう?」


「印がないほうに群がるのかー」


 テネリの品の無い言い方に吹き出すように笑ったアレッシオが、目の端の涙を拭って続けた。


「誰がソフィアを陥れたのかしっかり調査したいのに、レナートが身動きとれなくなっても困るからね。君を利用させてもらった。外野が勝手に君たちのロマンスを噂してくれたから楽だったけどね」


「秘密まで明かさなくてよかったじゃん」


「あれはねぇ、誓約について第三者が知ったらどうなるかを知りたかったんだ。もしものときは――」


 意味深な笑みを浮かべて口を噤むアレッシオだが、言葉の続きは言われなくてもわかる。魔女を殺せば済む、だ。

 テネリは今度こそ不満を隠さずに顔を顰め、皿を持つ手に力を込めた。が、背後から温かいものがテネリの身体を包む。


「もしものときはなんです?」


「やぁレナート、マルティナとの追いかけっこはもう終わりかい?」


「終わりにしたいし、二度としたくないですね」


 テネリは婚約者が登場したことで、モヤモヤとした不満がぱっと霧散した。力を抜いて息をつく。


「アレッシオはレナートが来てくれたことに感謝するべきだね。そうじゃなかったら今ごろ頭からトマトソース被ってたよ」


「わぁ、怖いね。これまでの非礼のお詫びはいずれ何かの形で」


 爽やかな王太子スマイルを見せたアレッシオに頬を膨らませて見せると、レナートがこめかみにキスをして「殿下と話が」と囁いた。

 テネリは小さく首肯してその場を離れる。


 ひとりになったテネリは、話し相手はいないものかと周囲を見渡した。けれども若い男女は生涯のパートナーを見つけようと必死で、暇つぶしには付き合ってくれそうにない。


「ごきげんよう、テネリ様」


 気を取り直してソフィアを探すテネリのそばに、マルティナがやって来た。無視したい欲求を抑えて、少しだけ背の高い彼女を仰ぎ見た。


「何か?」


「わたくし、先日生まれて初めてタヌキを見ましたの。ところで貴女の侍女の怪我はもうよくなったかしら」


 テネリの背筋をぞわっと冷たいものが走る。婚約式のあった夜、彼女がウルを睨んでいたのは気のせいではなかった。ウルの傷で、あの夜のタヌキがテネリの使い魔だと気づいたのだ。テネリたちがベリーニ邸の秘密を知っている、ということも。


 正体がバレているとわかってなお、なぜレナートを追いかけ回すのか。また、それをテネリに伝えた真意は?


「あら……どこか怪我していたかしら、ご心配ありがとうございます。タヌキは可愛かったですか?」


「逃げ足がとても速くて。今度はゆっくり拝見したいものですわ」


 ウルを森の小屋に置いておいてよかった。テネリは念のため、後で小屋の無事を確認しようと決めた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 私もアレッシオの髪の毛を、もしゃもしゃにかき乱してやりたい。素直じゃないヤツめ!
[一言] 着々とレナートがうにさん作品のヒーローっぽくなってきた( ˘ω˘ )
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