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作者: 羽生河四ノ

子供の頃、一時期父の生家に預けられたことがある。どうしてそのような事になったのかはわからない。とにかくそういう時期があったのである。ただ幸か不幸か、私はまだその当時物心がつくかつかないかのあやふやな頃であったから、今となってはほとんど思い出せない。


それなのにどうして急にその事を思い出したのか?簡単である。今年の夏ホラーのテーマがかくれんぼという事で、かくれんぼについて考える機会が増えたからだ。人生でこんなにかくれんぼの事を考える機会は今までなかったから。


どういうことか説明する。


子供時分から母の実家にはよく行っていたが、父の生家というのは行かなかった。行ったことがなかった。初めてだった。そもそも今住んでる家が父の生家だと思っていた。


しかしどうやら違っていたようなのである。父の母、つまり私にとっての祖母は、離婚しておりそれで某かの込み入った事情が生じていた。当然のことながら、その離婚についても私は何も知らない。今となっては祖母も死んだし、父にそれを聞くつもりもないし。


で、何がどうなったのか、どうしてそうなったのかは不明だが、とにかく私は一時父の生家に住んでいた。どれくらいの期間だったかはわからない。一か月か。あるいは半年もいただろうか。その辺のディティールは全然記憶にない。


父の、祖母の他の一族の顔も思い出せない。何せ本当に今に至るまでその事がすっぽりと記憶から抜け落ちていたのだから。それも致し方ないかなとは思う。その後の人生でも交流は一切なかったし。ただ一度だけ電話がかかってきたのは覚えている。相続がどうのこうのという内容だったのは近くで聞いててわかったけど、電話が終わっても私は何も聞かなかったし。


最初祖母がその電話に対応していた。どうやら元夫が死んだらしかった。それに伴って故人の遺言書が開封されて、そこに祖母の名前があったんだろうな。多分。最終的に私の父が電話に出て、相続の一切は破棄するという旨の事を言っていた。それで終わりだった。すべて終わり。ザッツオール。


それ以降は一切何もない。はず。まあ、現在私は実家を離れているし定かではないけど。


で、


その頃の記憶が一つだけ。ああ、だから私が父の生家に預けられていた時期にやっていた事。その時の記憶が一つだけある。


私は畳の部屋で正座をさせられていて、何度となく習字で同じ文字を書かされていた。


恋慕。


だ。


当時はネットも無かったし、携帯も無かった。だから何を書いているのかもわからなかった。読み方も知らなかった。


でも、それを何度も何度も書いていた。書かされていた。


で、毎日一定の量の恋慕という字を書くと、それをどこかにもっていく人がいた。


集めて。アンケート結果の用紙を集めてしかるべき場所にもっていく人みたいに。


その人が来ると私は終わったと、ほっとしていた。無論顔は思い出せない。着物を着ていた女性だった。とは思う。


あれが何だったのかは、わからない。


ネットで調べても何処にもそんな風習のような記録はない。出てこない。


昔の田舎の、封建的な田舎の話だから、存外何かの儀式にでも使われていたのかもしれない。何もわからないけど。


それをとりあえず、思い出した。


テーマが、かくれんぼだから。


恋慕。


子供に書かせるには難しい漢字だったなあと思う。

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