初顔
華宮本家の門をアーコと一緒にくぐると1番に目に飛び込ん出来たのは、雪が降り積もる中、何千輪もの菊が咲き乱れていて北風が香りを運んでくる庭。
天音「すごいですね…。世永さんの屋敷よりも大きいです。」
凌太「本家と言うからには相応の大きさだろうとは思っていたが、予想を超えた。」
菊畑から視線を上げ、目の前の屋敷を見て瞬きを忘れてしまうほど、俺は驚いた。
小さい村を作れてしまうほどの広大な土地に、平屋で木造の日本家屋が建っていた。
俺とアーコはその佇まいに驚きながら玄関に入り、案内をされ当主の部屋の前までと通された。
「未世麗様。団員の方が新年の挨拶にいらっしゃいました。」
未世麗「ありがとうございます。どうぞ、中へ。」
案内人はその言葉を聞いてから襖を開け、俺たちだけで入るよう手で指示をする。
「「失礼致します。」」
2人で声を合わせ挨拶し、部屋に入ると一層菊の香りが強くなり、視線を上げると黒髪ロングの華奢で小さな若い女が伏せ目でお茶を入れている。
未世麗「そちらにどうぞ。」
と、お茶を入れながら俺たちに指示をする未世麗。
俺たちは言われた通り、用意されていた座布団に座りお茶を注がれる様子を見る。
未世麗「温かいうちに召し上がってください。」
天音「ありがとうございます。」
凌太「…ありがとうございます。」
俺はすぐには手をつけられず、咲さんからの指示に頭を悩ませていると、未世麗の伏せ目から木漏れ日が射し込んでいるかのようにまつ毛の間から微かに光が漏れているのに気づく。
すると、その目がゆっくりと開かれて目が合う頃にはその春陽な温かい輝きに目を奪われてしまった。
未世麗「お二人とも、今年が初めての方ですよね。」
天音「…あ、はい。」
アーコも俺と同様目を奪われていたのか、少し驚いた様子で目を見入っていた。
未世麗「普段から世永の家に行っていれば顔を見せられるのだけれど、バタバタしてしまっていて…、こちらから顔を出さずに申し訳ないです。」
と言って、頭を下げる未世麗。
凌太「…いえ。こちらこそご挨拶が遅くなりすみません。」
と、俺とアーコは自己紹介をして、咲さんから主に教わっていることを話す。
未世麗「咲さんは剣術、武術、弓術など戦いの術をよく知っている優秀な方です。2人がその術を身につけて凶妖との戦いに有利になるよう願っています。」
優しく微笑んだ後、少し暗い表情をする未世麗。
未世麗「ただ…、咲さんの全ては受け入れないでください。」
と、俺の目を見て未世麗は言ってきた。
凌太「それはどう言うことでしょうか。」
未世麗「凌太が凌太ではなくなるから、天音が天音ではなくなるからです。」
俺たちはその言葉に理解が出来ずに首を傾げていると、未世麗は俺にお茶を飲めと催促してきた。
俺は、飲むフリをして口に湯呑みをつける。
未世麗「…生きて恒久平和を願いましょうね。」
未世麗はなにか思いながら、俺の目を離さずにそう言ってきた。
その目はこの数分で見てきた中で1番の、鋭くも淡く優しい光が俺の視界を包んだ。
未世麗は咲さんに対して思うところはあるのかも知れないが、俺を命の恩人は咲さんだ。
死に際に初めて俺を生かしてくれた人。
俺の出会ってきた人たち全て、俺を殺そうとしてきたけれど咲さんだけは違った。
だから俺は死ぬまで咲さんについていこうと思う。
俺とアーコは挨拶を終えて、咲さんが寝ている部屋に戻り一緒に眠りについた。