知恵
司令以外の凶妖を狩り続けて1週間近く経っただろうか。
アーコはモヤはまだ見えないらしいが、凶妖の息遣いや足音が聞こえるようになった。
俺はあの日よりもモヤを鮮明に見れるようになり、そのモヤがなだれ込む中心を真っ二つに切ると凶妖がもがくことなく人形のように死ぬことがわかった。
俺は首を切り落とされても体が動くのが気持ち悪くそこを狙って斬るが、咲さんはモヤは見えていないのか全てその中心を外して凶妖を狩っていく。
それでも夜の数時間、見つけて狩った数は咲さんが1番多く、疲れ知らず。
その体力はどうやったら備わるのか聞くけれど、いつもの鍛錬をしていればいいと流されてしまう。
その代わりにアーコに内緒で凶妖の心音、泥と獣の匂いを嗅ぎ分け方を丁寧に教えてもらったので文句は言えない。
咲さんはその2つを使っていたからこそ、俺たちより数を狩れていたんだろうと1人納得していると凶妖狩りを終えた朝、風呂上がりの俺をアーコは待ち伏せして質問責めをしてくる。
天音「どうしたら2人みたいにたくさん狩れるんですか?」
俺は部屋に戻りながらアーコに答える。
凌太「アーコより集中力と持久力があるからだ。」
天音「どうしたら近づけますか?」
凌太「いつもの鍛錬を自分なりに追い込めばいい。」
天音「いつも追い込んでますよ!」
凌太「じゃあ回数がまだ足りてないってことだ。」
天音「そんなの早く来たもん勝ちじゃないですか!?」
凌太「咲さんは5年以上前から、俺は半年以上前からいるんだから当たり前だろ。」
天音「じゃあずっと近づけないじゃないですか…。」
天音は唇を尖らせながらしょぼくれる。
凌太「アーコが成長して来た時間、俺らも強くなる。だから一生超えさせない。」
天音「…絶対超えますよ。」
凌太「超えられたら俺が荷物係やってやるよ。」
天音「言いましたね!絶対…」
「朝から痴話喧嘩かー?」
足音もせずに腹方の眩がやってきた。
今日は腰に着物を巻きつけて全裸ではない様子。
天音「眩さん、おはようございます!」
眩「2人は今風呂上がりか?」
天音「はい!今から寝るところです。」
眩「ちゃんと夜に寝ろ。日に当たらないと死ぬぞ。」
天音「死ぬんですか!?」
眩「人は太陽で生かされてるんだ。ちゃんと日光に浴びて生を感じろ。」
天音「そうだったんですね…。縁側で寝ることにします。」
眩「おう。風邪引くなよ。」
眩は俺たちの頭を撫でて世永の部屋に向かった。
凌太「本当に縁側で寝るのか?」
天音「眩さんみたいに大きくなりたいんで!」
凌太「日光浴びたくらいじゃならないだろ。」
天音「植物はなりますよ?」
凌太「俺たちは人間だろ?」
天音「人でもそうなんですよ。」
天音は俺の部屋に入り、暖められた部屋の襖を全開にして整えられていた布団を畳み持ち上げる。
凌太「は?何してるんだ。」
天音「え?縁側で寝ますよね?」
凌太「俺は寝ねぇよ。」
天音「今日は一緒に寝ましょう!」
天音は俺の隙間を通り抜け、駆け足で自分の部屋の目の前にある縁側に持って行き俺の布団を敷き始める。
凌太「体でかくなる前に凍死するぞ。」
天音「日が当たるんでそんなことはありませんし、今年も暖冬です!」
せっかく風呂で温めた体を冬の空気が冷やしていく。
けれど、朝日の陽気で少しだけ暖めてくれる。
凌太「今日だけな。」
天音「一緒に大きくなりましょう!」
そう言って数秒後、天音はこんなに日差しが射してる中でも眠りについた。
俺は太陽光の眩しさと冷えでなかなか眠りにつけないでいると、まぶたの上にとても冷たい手が置かれ日差しが遮られる。
凌太「…咲さん?」
咲「なんでこんな所で寝てるの?」
凌太「眩の入れ知恵をアーコが鵜呑みにしました。」
咲「…困るわね。起きたら喉が潰れるわ。」
凌太「…ですよね。」
咲「口、開けて。」
凌太「…?はい。」
俺は言われた通り、口を開けると数秒後少しとろみのある冷たい液体が口の中に入ってきた。
咲「これを飲めば風邪引かないわ。」
俺はその液体を飲み込み、お礼を言う。
凌太「アーコにも…」
咲「凌太に風邪を引かそうとしたから罰よ。」
咲さんは少し低くなった声で不機嫌そうに言った。
咲「一緒に寝ましょう。」
咲さんはアーコが布団の上にかけていた毛布を取り上げて、俺の横で寝そべる。
咲「おやすみなさい。」
凌太「…おやすみなさい。」
咲さんは俺の目を日差し避けしながら一緒に眠りについた。